双華乱舞2 ~剣~
「スカッド・アナザーも特性はほぼ同じ。私自身はLCCには懐疑的なのですが、今のところカラドボルグしかありません」
「ふむふむ」
ところで、LCCってなんだったっけ?
……まぁいい。
今度は賢崎さんも居ることだし、一気に……!
「という訳で、ソードウエポンを呼んでください」
「へ?」
「彼女なら間違いなく勝てます」
「そ、そりゃそうだろうけど……。カラドボルグなら、俺も使えるぞ?」
と。
賢崎さんが、視線と顎でスカッド・アナザーの方向を指し示す。
「あの攻撃を掻い潜って、カラドボルグを当てることができますか?」
「ぐ……」
痛いとこ突かれた!
というか、ついさっき、致命的な醜態をさらしたばかりだった!
「い、いや、でも。今回は、賢崎さんも居るし!」
「残念ですが、私がサポートする澄空さんより、ソードウエポン一人の方が確実です」
「あぅ」
ぐ……ぐぅの音も出ない。
ムチャクチャ情けないが、仕方ない。
このまま長引いて来場者に被害が出るくらいなら、俺のプライドなんて、ワンちゃんに喰わせるほどの価値もない!
携帯を取り出し、麗華さんをコール。
3コール目で、麗華さんが出てくれた。
『もしもし、悠斗君?』
「も、もしもし、麗華さん? ごめん、いきなり! 実は、今、大変なことになってて!」
『ごめん、悠斗君。ちょっとだけ待って』
「へ?」
いきなり通話が途切れる。
そして。
その……。
シャキーン、としか表現しようのない効果音が、携帯電話と反対の耳の両方から聞こえる。
そして、背後から轟音。
「な、なんだ?」
振り返った俺の眼に、中ほどで斜めに両断された街灯が見える。
その切り口はあまりに鮮やかで。
まるで、カラドボルグの次元断層に斬り裂かれたかのような……。
「悠斗様、今の斬撃、スカッド・アナザーの方から飛んで来ましたよ?」
春香さんがぽかんとした様子で言う。
知らない人なら、スカッド・アナザーの新たなBMP能力だと考えるだろうけど……。
「「「「………………」」」」
しばらく無言になる、俺達四人。
たぶん、もう3分は経っている。
なのに、スカッド・アナザーの直線攻撃は来ない。
というか、さきほどまで感じていた強烈な違和感が、潮が引くように消えていく。
まさかと思うんだが……。
俺と賢崎さんの眼が合う。
賢崎さんは、珍しくぽかんとした表情をしながらも、頷いた。
……やっぱり、そうなのか?
と、携帯電話から、再び声が聞こえる。
『ごめん、悠斗君。ちょっと幻影獣が暴れてたから退治したの。それで、そっちでも何かあった?』
「…………えーと」
あったのは、あったんだけど……。
どうも、あなたが倒してしまったっぽい。
いや、しかし、ちょっと待て!
そもそも、スカッド・アナザー自体が、メリーゴーランドとお化け屋敷の向こう側で、俺からすら視認できない状態なのに。
麗華さんは、一体どこから?
『悠斗君、どうしたの? 何かあった? 大丈夫? 怪我してない?』
「あ……ああ」
怪我はしてないんだけど……。
色々聞きたい(※本当に貴方は人間ですかとか)のだが、あまりの展開に、俺の脳はすでに置いて行かれた状態だった。
と。
賢崎さんが、俺から携帯電話を奪う。
「横からすみません、ソードウエポン。藍華です。突然ですが、今、どこにいますか?」
『……』
「そこからは、スカッド・アナザー……さっきの幻影獣まで300メートルはあると思うんですが。というか、そのさらに300メートル先の私達の所まで斬撃が届いたんですが、一体何をやったんですか?」
『……』
「え? カラドボルグの応用? 攻撃範囲を絞って、精度と射程を上げる? 難しい技術ではなく、ちょっとしたコツでできる? 確か、澄空さんが編み出したと思う?」
と、そこまで言って、携帯電話の通話口を塞いだ賢崎さんがこっちを向き。
【編み出しましたか?】
とブロックサインをしてくる。
俺は。
【編み出してないし、現在進行形でできないし、これから先もそんな超技、できる予定はありません】
と、ジェスチャーで返す。
【まぁ、そうでしょうね】
と頷く賢崎さん。
「分かりました、ソードウエポン。あなたのデタラメ具合は良くわかったので、エリカさんと一緒にこちらに集まってください。どうやら、非常事態です」
◇◆
5分ほどして。
麗華さんはもちろん、7男6女全員が、俺が居るところに集まって来た。
もちろん、遊園地は大騒ぎである。
「一体、何があったんだ、澄空?」
「幻影獣だ。それも、かなり特殊な……。とりあえず麗華さんが倒してくれたんだけど」
三村の問いに答える俺。
「まだ、終わった感じはしないか?」
「ああ」
峰の問いに答える通り。
あの幻影獣は、あからさまにおかしかった。
単発の襲撃とはとても思えない。
……と賢崎さんが言っていた。
「ナックルウエポン。何か分かるの?」
「ええ。それも、かなり良くない未来が」
と、賢崎さんが麗華さんに答えると。
園内のスピーカーが鳴り出した。
『御来場の皆さま。落ちついてお聞き下さい。さきほど、当遊園地は、幻影獣の襲撃を受けました』
「園内アナウンスか……」
一高さんが呟く。
『非常に強力な攻撃手段を持つ幻影獣でしたが、御安心ください。すでに消滅が確認されました』
落ちついた女性の声のアナウンス。
少なくとも差し迫った脅威はないことが分かり、園内にほっとした空気が流れる。
『建築物は破壊されましたが、人的被害はありませんでした。BMPハンターの方が幻影獣を迅速に排除してくださったおかげです。任務ではなく、たまたま居合わせた方のようですが、本当にありがとうございました』
アナウンスに対して、園内から歓声が上がる。
賢崎さん曰く、まだ完全に危機は去っていないらしいが、とりあえず麗華さんが褒められていると、俺も嬉しい。
『ま、どうせ。みんな死ぬんだけどね』
え?
…………。
「え?」
『さっきのは、ただの宣戦布告。……ま、あんまりあっさりやられたんで、軽く引いたけど』
「な?」
なんだ?
『という訳で、これからゲームを始めるわ』
声は、さっきまでのアナウンスのお姉さんのまま。
ただ。
ふざけているようにも、錯乱しているようにも聞こえない。
『フィールドは、この地方全体。人間側のプレーヤーは、貴方達すべて』
なにより、電波越しにさえ感じられる、この違和感!
「幻影獣……!」
幻夜さんが唸る。
『四聖獣レオからの挑戦状よ』
「レ……レオ!?」
レオって、まさか……!?
と。
轟音が響く。
「な……なになに!?」
「お……おい!」
「嘘……!」
「なんだよ、これ……!」
騒然となる園内。
遊園地のド真ん中に……。
まるで巨大な無色のレーザー砲に抉られたかのような傷跡が出現する。
いや、遊園地だけじゃない。
そのずっと先、山を抉り、町を抉り、平地を抉り。
海の方から、一直線に破壊の跡が伸びてきている。
『知ってるわよね。今年の六月に首都にお邪魔させていただいた、貴方がた人間が名づけるところのBランク幻影獣・スカッド。それと同型の幻影獣を100体ほど、この地方の海岸線に配置したわ』
「ひゃ……!」
「す……スカッドが100体!?」
紬さんと時子さんが悲鳴を上げる。
『まぁ、基本的には、この地方の封鎖用だから安心して。時々、撃って来るけど』
「ときどき……?」
「撃って来るのか……?」
三村と峰が、呆然と呟く。
『幻影獣側のプレーヤーは、さっきの小型版のスカッド。こっちもだいたい100体。ま、この地方の主要都市全体にばらまいたから、運が良ければ出くわすこともないでしょ』
「さっきノガ100体……?」
「まさか、ここまで……」
エリカも、賢崎さんですら、呆気にとられている。
『終了条件は、今から24時間経過すること。終了時刻が来れば、絶対に撤退することを約束するわ。それまで頑張って生き延びてちょうだい』
「24時間……?」
もちろん敵戦力から考えて、長すぎる蹂躙の時間ではあるが。
何のために時間制限なんか付ける?
一体、あいつら、何がしたいんだ!?
『生き延びるってことは素敵よ。でも、どうしてもそんなに待てないってせっかちな人は、第37支局でふんぞり返っているレオを倒してちょうだい。それが人間側の勝利条件』
「ぐ……」
これか!
これだけ遠回りなことをしておいて、結局、それが目的なのか!?
いや、しかし、そもそも、第37支局って……。
『もちろんとっくに落ちてるわよ』
「!」
俺の心を読み取ったかのようなアナウンスに、一瞬、心臓が止まりそうになる。
『幻影獣側の勝利条件は内緒。ま、たとえ満たしたところで、貴方達がこれ以上悪くなることはないから安心なさいな』
「く……」
すでに最悪、とでも言いたいのか?
『じゃ、ゲーム開始! みんな頑張れー!』
と、最後に叫んだかと思うと。
ドサッとスピーカーの向こうで誰かが倒れる音がし。
それきり、放送は途切れた。