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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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双華乱舞2 ~剣~

「スカッド・アナザーも特性はほぼ同じ。私自身はLCCには懐疑的なのですが、今のところカラドボルグしかありません」

「ふむふむ」

ところで、LCCってなんだったっけ?

……まぁいい。

今度は賢崎さんも居ることだし、一気に……!

「という訳で、ソードウエポンを呼んでください」

「へ?」

「彼女なら間違いなく勝てます」

「そ、そりゃそうだろうけど……。カラドボルグなら、俺も使えるぞ?」

と。

賢崎さんが、視線と顎でスカッド・アナザーの方向を指し示す。

「あの攻撃を掻い潜って、カラドボルグを当てることができますか?」

「ぐ……」

痛いとこ突かれた!

というか、ついさっき、致命的な醜態をさらしたばかりだった!


「い、いや、でも。今回は、賢崎さんも居るし!」

「残念ですが、私がサポートする澄空さんより、ソードウエポン一人の方が確実です」

「あぅ」

ぐ……ぐぅの音も出ない。


ムチャクチャ情けないが、仕方ない。

このまま長引いて来場者に被害が出るくらいなら、俺のプライドなんて、ワンちゃんに喰わせるほどの価値もない!


携帯を取り出し、麗華さんをコール。

3コール目で、麗華さんが出てくれた。


『もしもし、悠斗君?』

「も、もしもし、麗華さん? ごめん、いきなり! 実は、今、大変なことになってて!」

『ごめん、悠斗君。ちょっとだけ待って』

「へ?」

いきなり通話が途切れる。

そして。

その……。

シャキーン、としか表現しようのない効果音が、携帯電話と反対の耳の両方から聞こえる。


そして、背後から轟音。


「な、なんだ?」

振り返った俺の眼に、中ほどで斜めに両断された街灯が見える。

その切り口はあまりに鮮やかで。

まるで、カラドボルグの次元断層に斬り裂かれたかのような……。


「悠斗様、今の斬撃、スカッド・アナザーの方から飛んで来ましたよ?」

春香さんがぽかんとした様子で言う。

知らない人なら、スカッド・アナザーの新たなBMP能力だと考えるだろうけど……。


「「「「………………」」」」

しばらく無言になる、俺達四人。


たぶん、もう3分は経っている。

なのに、スカッド・アナザーの直線攻撃は来ない。

というか、さきほどまで感じていた強烈な違和感が、潮が引くように消えていく。


まさかと思うんだが……。


俺と賢崎さんの眼が合う。

賢崎さんは、珍しくぽかんとした表情をしながらも、頷いた。


……やっぱり、そうなのか?


と、携帯電話から、再び声が聞こえる。


『ごめん、悠斗君。ちょっと幻影獣が暴れてたから退治したの。それで、そっちでも何かあった?』

「…………えーと」

あったのは、あったんだけど……。


どうも、あなたが倒してしまったっぽい。


いや、しかし、ちょっと待て!


そもそも、スカッド・アナザー自体が、メリーゴーランドとお化け屋敷の向こう側で、俺からすら視認できない状態なのに。

麗華さんは、一体どこから?


『悠斗君、どうしたの? 何かあった? 大丈夫? 怪我してない?』

「あ……ああ」

怪我はしてないんだけど……。

色々聞きたい(※本当に貴方は人間ですかとか)のだが、あまりの展開に、俺の脳はすでに置いて行かれた状態だった。


と。

賢崎さんが、俺から携帯電話を奪う。


「横からすみません、ソードウエポン。藍華です。突然ですが、今、どこにいますか?」

『……』

「そこからは、スカッド・アナザー……さっきの幻影獣まで300メートルはあると思うんですが。というか、そのさらに300メートル先の私達の所まで斬撃が届いたんですが、一体何をやったんですか?」

『……』

「え? カラドボルグの応用? 攻撃範囲を絞って、精度と射程を上げる? 難しい技術ではなく、ちょっとしたコツでできる? 確か、澄空さんが編み出したと思う?」

と、そこまで言って、携帯電話の通話口を塞いだ賢崎さんがこっちを向き。


【編み出しましたか?】

とブロックサインをしてくる。

俺は。

【編み出してないし、現在進行形でできないし、これから先もそんな超技、できる予定はありません】

と、ジェスチャーで返す。

【まぁ、そうでしょうね】

と頷く賢崎さん。


「分かりました、ソードウエポン。あなたのデタラメ具合は良くわかったので、エリカさんと一緒にこちらに集まってください。どうやら、非常事態です」


◇◆


5分ほどして。

麗華さんはもちろん、7男6女全員が、俺が居るところに集まって来た。


もちろん、遊園地は大騒ぎである。


「一体、何があったんだ、澄空?」

「幻影獣だ。それも、かなり特殊な……。とりあえず麗華さんが倒してくれたんだけど」

三村の問いに答える俺。


「まだ、終わった感じはしないか?」

「ああ」

峰の問いに答える通り。

あの幻影獣は、あからさまにおかしかった。

単発の襲撃とはとても思えない。


……と賢崎さんが言っていた。


「ナックルウエポン。何か分かるの?」

「ええ。それも、かなり良くない未来が」

と、賢崎さんが麗華さんに答えると。


園内のスピーカーが鳴り出した。


『御来場の皆さま。落ちついてお聞き下さい。さきほど、当遊園地は、幻影獣の襲撃を受けました』


「園内アナウンスか……」

一高さんが呟く。


『非常に強力な攻撃手段を持つ幻影獣でしたが、御安心ください。すでに消滅が確認されました』


落ちついた女性の声のアナウンス。

少なくとも差し迫った脅威はないことが分かり、園内にほっとした空気が流れる。


『建築物は破壊されましたが、人的被害はありませんでした。BMPハンターの方が幻影獣を迅速に排除してくださったおかげです。任務ではなく、たまたま居合わせた方のようですが、本当にありがとうございました』


アナウンスに対して、園内から歓声が上がる。

賢崎さん曰く、まだ完全に危機は去っていないらしいが、とりあえず麗華さんが褒められていると、俺も嬉しい。



『ま、どうせ。みんな死ぬんだけどね』



え?

…………。

「え?」


『さっきのは、ただの宣戦布告。……ま、あんまりあっさりやられたんで、軽く引いたけど』


「な?」

なんだ?


『という訳で、これからゲームを始めるわ』


声は、さっきまでのアナウンスのお姉さんのまま。

ただ。

ふざけているようにも、錯乱しているようにも聞こえない。


『フィールドは、この地方全体。人間側のプレーヤーは、貴方達すべて』


なにより、電波越しにさえ感じられる、この違和感!

「幻影獣……!」

幻夜さんが唸る。


『四聖獣レオからの挑戦状よ』


「レ……レオ!?」

レオって、まさか……!?


と。

轟音が響く。


「な……なになに!?」

「お……おい!」

「嘘……!」

「なんだよ、これ……!」

騒然となる園内。


遊園地のド真ん中に……。

まるで巨大な無色のレーザー砲に抉られたかのような傷跡が出現する。

いや、遊園地だけじゃない。

そのずっと先、山を抉り、町を抉り、平地を抉り。

海の方から、一直線に破壊の跡が伸びてきている。


『知ってるわよね。今年の六月に首都にお邪魔させていただいた、貴方がた人間が名づけるところのBランク幻影獣・スカッド。それと同型の幻影獣を100体ほど、この地方の海岸線に配置したわ』


「ひゃ……!」

「す……スカッドが100体!?」

紬さんと時子さんが悲鳴を上げる。


『まぁ、基本的には、この地方の封鎖用だから安心して。時々、撃って来るけど』


「ときどき……?」

「撃って来るのか……?」

三村と峰が、呆然と呟く。


『幻影獣側のプレーヤーは、さっきの小型版のスカッド。こっちもだいたい100体。ま、この地方の主要都市全体にばらまいたから、運が良ければ出くわすこともないでしょ』


「さっきノガ100体……?」

「まさか、ここまで……」

エリカも、賢崎さんですら、呆気にとられている。


『終了条件は、今から24時間経過すること。終了時刻が来れば、絶対に撤退することを約束するわ。それまで頑張って生き延びてちょうだい』


「24時間……?」

もちろん敵戦力から考えて、長すぎる蹂躙の時間ではあるが。

何のために時間制限なんか付ける?

一体、あいつら、何がしたいんだ!?


『生き延びるってことは素敵よ。でも、どうしてもそんなに待てないってせっかちな人は、第37支局でふんぞり返っているレオを倒してちょうだい。それが人間側の勝利条件』


「ぐ……」

これか!

これだけ遠回りなことをしておいて、結局、それが目的なのか!?

いや、しかし、そもそも、第37支局って……。


『もちろんとっくに落ちてるわよ』


「!」

俺の心を読み取ったかのようなアナウンスに、一瞬、心臓が止まりそうになる。


『幻影獣側の勝利条件は内緒。ま、たとえ満たしたところで、貴方達がこれ以上悪くなることはないから安心なさいな』


「く……」

すでに最悪、とでも言いたいのか?


『じゃ、ゲーム開始! みんな頑張れー!』


と、最後に叫んだかと思うと。

ドサッとスピーカーの向こうで誰かが倒れる音がし。


それきり、放送は途切れた。

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