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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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双華乱舞 ~拳~

「あ、あ……」

危なかった……。


防御不可能の直線攻撃……なのか?

防御力だけでなく、攻撃力までBランククラス……。いや、それ以上?


「ゆ、悠斗様……。ありがとう……ございます」

「……(コクコク)」

どういたしまして。

でも、あんまりのんびりしている暇もない。


立ち上がって、見る。

ヤツの直線攻撃は春香さんの炎壁だけでなく、遊園地の敷地と施設を直線状に貫いている。

形状はおそらく、半径1メートルほどの円状。

イメージ的には、無色のレーザー砲攻撃といったところか。

射程は長い。

恐らく遊園地の端まで貫通されてるだろう。


遠くから悲鳴が聞こえてくる。


あまりのんびりもしてられない。


劣化複写イレギュラーコピー幻想剣イリュージョンソード:断層剣カラドボルグ」


ほとんど直感だが。

ヤツにはたぶんほとんどの攻撃が通じない。

けど、スカッドを倒したカラドボルグなら……。


《良い読みだ悠斗》

ども。


声なき声に賞賛されたような気になりながら、カラドボルグを振るう。


が。

「ぐ……」


ひょいっと。

横薙ぎの次元断層を、軽やかな動きで飛び越える鉄仮面。


「く」

ガルアの時と同じだ。

俺のカラドボルグは、小回りの利く相手には当たらない。


あの時と同じ超絶連携をするか、麗華さんを呼んでくるかしないと……。


と。


鉄仮面がこちらを向く。

総毛立つような違和感と共に。

ヤツが空気を吸い込むような仕草をする。

防御不能の直線攻撃が来る!


「悠斗様!」

「春香さん! 雪風君! なんとかかわしてください!! カウンターで仕留めます!」

「分かりました! お役に立てなくてすみません、悠斗様!」

という春香さんの言葉を背後に聞きながら(※雪風君もコクコクしているだろう)、俺はカラドボルグを構え直す。


大丈夫。

直線攻撃直後を狙えば当てられるかもしれないし、外したら、ガルアの時のコンボを狙えばいい。

ウルトラCランクとはいえ、あの鉄仮面が、スカッドやガルアより強い訳がない。

分の悪い闘いじゃない。


カラドボルグ召喚中なので、防御や回避にBMP能力が使えないのは問題だが。

きちんとタイミングを合わせれば、さっきみたいに身体能力だけでもヤツの攻撃をかわせる!


ヤツの空気を吸い込むような予備動作が終わる。

直線攻撃の始動が始まる。


タイミングを合わせて。

合わせて。

合わせて。

合わせて。

合わ……。

…………。

……もし合わせそこなったら?


防御にBMP能力が使えない以上。

生身のままの鈍重な動きと、裸同然のゼロ装甲で……。


俺、死ぬのか?


「悠斗様!」

「しま……!」

ほんの一瞬、足がすくむ。

あまりにも致命的な一瞬。

合わさなければならないタイミングが致命的にずれ。

頭が真っ白になる。


鉄仮面の口が大きく開き、闇色をたたえた口の中身が見える。


身体が動かない。

スカッドやガルアと闘った時の動きが嘘みたいだ。

俺ってこんなに……。


「澄空さん!」

と。


視界の端に影が映る。

影はあっという間に鉄仮面に肉薄し、右のアッパーカットで頭をかち上げる。

反動で、鉄仮面の口から発せられる直線攻撃が天を貫く。


あ、あれって……。


「賢崎さん……?」

呟く俺。


賢崎さんは、向き直る鉄仮面に、左フック。

怯んだところに右ストレート。

瞬きする間も与えず、右のハイキック。


「す、凄ぇ……」

接近戦最強が嘘でないのが分かる。

芸術的なまでに隙のない連続攻撃。

一撃ごとに大地が震えるかのような衝撃音を発する、とんでもない打撃。

なにより、あの距離では、ほぼ全ての遠距離攻撃は意味を成さない。


掴みかかってくる鉄仮面の右腕を無造作に払いのけ。

背中まで貫通せんばかりの、賢崎さんのボディブロー。

竜巻のような左の回し蹴りが鉄仮面の頭を弾き飛ばし。

右のサイドキックが、轟音とともにヤツの腹にめり込む。


誰だ、いずれ俺とあの人が闘う運命にある、なんて言ったのは?

3秒ともたないっての。


と。

「出ますよ悠斗様。……お嬢様のギロチンサマソが」

「へ?」

いつの間にか背後に来ていた春香さんが、メチャクチャ物騒な技名を口にする。


まるでそれを聞いたかのように賢崎さんの左のローキックが炸裂し。

膝が落ちた鉄仮面に対して。


美しい弧を描くサマーソルトキックが、鉄仮面を空高く打ち上げた。


「うわぁ」

つい先ほどまで死の危機にあったことも忘れ、ぽかんとした声を挙げる俺。

鉄仮面は、最高到達点地上20メートルくらいの綺麗な放物線を描き、向こうの方に落下した。

2・300メートルは飛んだだろうか?

「ほんとに……何なんだ、あの人?」

デタラメチートは麗華さんで慣れてたつもりだが、やっぱりこれはもう、ぽかんとするしかあるまいて。


「悠斗様こそ、何なんでしょうかぁ?」

ぐるりん、という感じで首だけを俺の前に持って来る春香さん。

「は、はい?」

「私が完全に見誤った幻影獣の攻撃特性を瞬時に見抜き、自分の身も顧みず私と雪風を庇ってくれて、正攻法で好感度をバンバン上げたかと思えば……」

「……(コクコク)」

いや雪風君。そこでコクコクはおかしい。

「まさか、素人みたいに、あのタイミングで足をすくませるなんて」

「う……」

痛いところをつかれた。

確かに、さっきのはまずかった。

下手をすれば、俺だけじゃなくて春香さん達まで危険にさらしてたからな……。


「すみませ……」

「気まぐれな『風』でもない、優しい『地』でもない」

「え?」

俺の謝罪を遮って、春香さんが妙なセリフを言う。

「『光』か、それとも『無』? ほんとに食欲をそそりますね、悠斗様w」

せめて、そそるのは、興味くらいにして欲しい。


なんて呑気なことが考えられるのも……。


「大丈夫ですか、澄空さん?」

と、さきほどまでの乱舞が嘘のように穏やかに近づいてくる賢崎さんのおかげだ。

「大丈夫。ありがとう。賢崎さんには、助けられてばっかりで……」

「いえ、まだ助かっていません」

「へ?」

オープンフィンガーグローブに包まれた手に掴まれ、ぐいっと引っ張られる。

「このくらいですか……。春香と雪風は動かないようにしてください」

「はい」

「……(コクコク)」

「へ?」

な、なんなんだ?

俺の場所を移動させて、春香さん達には動かないようにって。


と。


眼前に無色の閃光。

「な!?」

さきほどど全く同じように、俺が居た場所が直線状に抉られる。

「なな……」

いや、俺が居た場所だけじゃない。

その先のメリーゴーランドは、支柱をぶち抜かれ崩れ落ちているし。

その先に見えるお化け屋敷も、たぶん貫通されている。

この方向は……!


「残念ですが、ほとんどダメージを与えられませんでした」

攻撃が来た方向を見ながら、賢崎さんが呟く。


賢崎さんの……ナックルウエポンの攻撃は、ただの打撃ではない。

ウエポンクラスの中でも最高ランクの干渉攻撃倍率によって撃ち出される『真なるBMPハンター』の攻撃。

それをあれだけ叩きこんでたのに……。


「ふむ、あちらも少し頑張りすぎたようですね。次のチャージまで最短でも三分ほどかかりそうです」

「え?」

そんなことまで分かるのか?

って、いやそれより!


「なんで、アイツはあんなに堅いんだ?」

「ええ、それなんですが。澄空さんは、スカッドを覚えてますか?」

「え。そりゃもちろん覚えているけど」

生まれて初めて倒した幻影獣だし。

「もう気が付いたと思いますが、さっきの幻影獣は、スカッドに特性が非常に良く似ています。スカッド・アナザーといったところでしょうか?」

「アナザースカッドじゃなくて?」

「そっちの名前はすでに登録されてまして……」

幻影獣の名前も、登録は早い者勝ちなのか?

いや、そんなことはどうでもいいけど。


「澄空さんが早い段階で倒してくれたので、皆さんの印象に残っていないようですが、スカッドは、本当は、物凄く厄介な幻影獣だったんです」

「そうなのか?」

「ほぼ全ての属性に耐性のある全身を覆う障壁に、ほとんどの防御特性の通じない直線攻撃。いえ、この言い方は少し不足ですね。スカッドの攻撃は、結局誰も止められなったはずです」

「た……確かに」

「障壁も同様。カラドボルグ以外に有効なダメージを与えられた攻撃は皆無でした。澄空さんがいなければ、もっと大変なことになっていたはずです」

「そうだったのか……」

あの時は……色々な意味で、本当に運が良かったんだな。

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