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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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精霊使いと宣戦布告

遊園地というところは、何も乗らずにぶらぶらするだけでも結構楽しい。

缶コーヒー片手に、一人で園内を適当にぶらぶらして。

人気のない場所によさげなベンチが見つかったので、腰掛けて一休み。


せっかくのグループ交際だが、こういう一人の時間も悪くない。


「ふぅ……」

ベンチに座ったまま、ググーと伸びをする俺。

しかし、出発する時には一人だったのに……。

「まさか、こんな大人数になるとはなぁ」

と思う。

男7、女6、だからなぁ。

グループ交際というより、もはやツアーである。

ただ……。

「全員が、BMP関係なんだよなぁ……」

呟く。

俺がBMPハンターだからこその関係性。

そうでなくなれば、消えてなくなる友人関係。

「…………」


こんなことを考えるのは……。

「BMPハンターになるって、決心してないからだろうなぁ……」

もう世間も、さっきのメンバーも、俺をBMPハンターだと思ってるんだろうけど。

正直、俺自身に、まだその自覚が乏しかった。

麗華さんと出会ってから今まで、あまりにも大きな事件が立て続けに起こって、ドタバタして。

選択の余地もないくらいに忙しかったから……。

「とはいえ…………」

今さら、辞めるなんてことが現実的でないことくらい分かってる。


「けど……」


このまま流されるだけでいいんだろうか?


「もしもし」

「……決心かぁ」

流されるままか、もう少し自発的にBMPハンターを目指すのか。

三村なら、『巻き込まれ系主人公がいつかは通る道だよ、はっはっは』とか言いそうだけど。

「おーいw」

「……」

まぁ、確かに巻き込まれ系だとは思うけど。

ドラマほど劇的でなくても、どこかで決心はしないといけないんじゃないだろうか?

「こらー♪」

「……」

それとも、決めなくてもいいのか?

辞めるって選択肢はない訳だし、このまま流されるようにBMPハンター続けてもいいのか?

別に手を抜くつもりはないし。

「無視されると、私、萌える体質なんですけど?」

「……」

不安もあるし、正直、死ぬのは怖いけど。

他に選択肢がないなら。

「あ、これ、あれですねw 『だーれだ』とか『ムニュ』とかして欲しいっていう、フリですねw」

「……」

そう。

確か、今日途中で寄ったデパートのスーツ売り場でも、『たとえ第3希望でも、定年まで勤めれば、それが君の天職だ!』とかいう、希望があるんだかないんだか分からないPOPがあったし!

とりあえずは、麗華さんに付いて行くことを目標に……。

「だーれだ!!」

「!!」

突然、顔が塞がれる。

眼じゃない、顔だ。

顔全体が柔らかい何かに挟みこまれて、息が苦しい!

「ほら、悠斗様。美巨乳ですよw 誰か分かりません?」

「!!!!」

わ、分かる!

たぶん、分かるから、離れて!

「ん? 難しいですか? じゃあヒント。天竜院透子ではありません」

そんなんヒントでもなんでもないし!

口が開かないだけだし!

というか、まじで息が苦しい!!


…………っつ!!


「ぶはぁっ!」

「あんw」

なんとかソレを引き剥がす俺。

「は……はぁ」

し……信じられん。

胸の谷間で窒息なんて、今まで俺、ネタだと思ってた……。

「し……式さん?」

「違いますよ?」

と言う式さん。

「美巨乳の春香、とお呼びください。『式』では、雪風と区別が付きませんからw」

「は……はい」

返事をする俺。

確かに、美少年の雪風君も一緒に居た。

相変わらず喋ってはくれないが、『こういう姉ですみません』という感じの少し困ったような優しい笑顔は、見ているだけで癒されそうだ。


……に比べて。


「どうしました、悠斗様?」

という美巨……春香さんから感じられる、相変わらずの違和感。

顔を見るまで気配すら感じなかったことがなおさら不気味だ。


「すみませんね、悠斗様。お休みの邪魔をするのもどうかと思ったんですが、言い忘れたことがあったもので」

「言い忘れ……ですか?」

「はい。車の中でも気になってたんですが、悠斗様、『武田』や『上杉』の名前を聞いてもあまり顔色変えなかったので、ひょっとして、あまり賢崎のことに詳しくないのかと」

「は……はい。それは、確かに」

ふざけた雰囲気の消えた春香さんに対して、俺も畏まる。

……まぁ、さっきまでのが『ふざけた雰囲気』だったのかどうかさえ分からないような人だが。


「『武田・上杉・鈴木』は、賢崎でも名家中の名家です。彼女らの誰と結婚しても、悠斗様は賢崎の中枢近い場所に組み込まれることになるかと」

「…………」

やっぱり、そうなのか。

BMP能力値はともかく、俺に政治力なんか期待されても、本気で困るんだが……。


と。

「心配いりませんよ、悠斗様♪ 一高さんみたいな人も居るんです。中枢に行こうが、名家に逆玉しようが、別に何も考えなくていいんですよー」

いきなり、『ふにゃっ』となる春香さん。

ほんとに、会話のテンションがつかみにくい。

「悠斗様にお伝えしたいのはですねぇ。『式』についてです」

「式って。春香さんのご実家ですか?」

「はいー。悠斗様にも分かりやすく言うとですね。『式』は、裏の名家です」

「裏の……」

ドラマなんかだと良く聞く設定だけど。

現実だと……。

「影響力はかなりのものですけどね。決して表には出てきません。私自身はまだ犯罪行為を犯したことはありませんが……。本来、悠斗様が結婚するような相手ではないんですよw」

「…………っ!」

『w』とかいう話じゃない。

ただものではないと思ってたけど。

この人の違和感が、そんな事情によるものだとしたら……。


悪いことをし……。


「でですね悠斗様!」

「は、はいー!」

びっくりした!

いきなり春香さんの美巨……春香さんが近づいてきてびっくりした!

「と言う訳で、私は正妻には向きませんが、2号さんとしてなら、かなりのものですw」

「2、2号って……」

1号すらできないかもしれない草食系の俺に、何を!?


「私は……脱がなくても凄いんですよ?」

と、春香さんが胸ポケットから、右手でトランプカードを取り出す。

「ハートの……エース?」

「いえまぁ、実はカードは関係ないんですけど」

じゃあ使うなよ。


……という言葉さえ出て来なかった。


右手から超爆裂(エキサフレア)


右手に掲げたカードが一瞬で燃え上がる。

のみならず、天を衝くかのように、勢いよく火柱が噴出する。


怪しい魔力を感じさせる麗華さんの炎剣の炎とは少し違う。

純粋な炎そのものを感じさせる火柱。


『精霊使い』という言葉が、ふと脳裏に浮かんだ。


「私のBMPは、もちろん公にはできませんが、165。お嬢様を除けば、賢崎でも随一の値です」

「ひゃ……」

165!?

そんな超高BMPを管理局に登録してない!?

お、俺、この話聞いて、ほんとに良かったんだろうか?


「という訳で、悠斗様と私の子供なら、凄いBMP能力値を持っている可能性が高いということですw」

「い、いや、『w』じゃなくて! 車の中でも聞いたけど、本当にそれでいいんですか?」

「いえ、正直、どっちでもいいんです」

いきなり声から起伏が消える。

「へ?」

「ただ……」

表情も消え。

「た……ただ?」

「あなたには、少しだけ興味がありますね」

と。

右手に炎を掲げたまま、春香さんは言った。


なぜか、その言葉にだけは、違和感を感じない。


「春香さ……」

「あ。待ってくださいな、悠斗様」

話しかけようとした俺が、春香さんに左手で封じられる(※右手火柱だからね)。

なんか、耳がぴくんと動いたような気もしたけど。

「私にも予想外の悠斗様の不思議パワーにより、今から、私の心が丸裸にされそうなところだったのですが……」

「…………えーと」

そんなパワーはないですが。

と、呑気なことを考えたのもつかの間。

春香さんの眼に強烈な光が宿る。


「邪魔者です」


一閃。

振り切った右手から、猛烈な炎弾が発射される。

炎弾といっても、人間の体ほどもある大きさの巨大な炎の玉。

傍から見ていると、火炎放射に近い。


それが。

俺の目の前で爆発的な推進力で加速し。

10メートルくらい先にいた、人影に当たる!


……って!


「は、春香さん!!」

「大丈夫ですよ。私も、もうしばらく法を犯すつもりはありませんからw」

もうしばらくってあんた……。

「!」

いや!

「あれは……」


燃え盛る炎の中から、ボロボロの黒いマントを羽織った人影が姿を現す。

その異様な風体以上に、あれだけの炎の中、マントが少しも焦げていないのがおかしい。


そして、全身から感じる、春香さんに感じていたようなものとは違う、本物の違和感。

ここに居てはいけないものの証。


「幻影獣……!!」

右手から超爆裂(エキサフレア)を喰らって無傷とは……。つくづく化け物に好かれますね、悠斗様?」

嬉しかないです。


大きさは人間大。

だが、どう見ても普通のCランク幻影獣には思えないプレッシャー。

それが立ち止まり。

頭を覆うフードが、剥がされる。

その下から現れたのは、鉄仮面。


「スカッド!?」

見覚えがある。

大きさこそ違うが、あの黒いマントといい、マントの切れ目から覗く腐食した何かといい、鉄仮面といい。

俺が6月に新月学園校庭で初めて倒したBランク幻影獣、『スカッド』にそっくりだ!


だとしたら、あいつのBMP能力は……。


奴は、大きく息を吸い込むような仕草をする。

「やば……」

思わず声が漏れる。


と。


右手から超爆裂(エキサフレア)

春香さんが右腕を振る。

直後に、眼前に強固な炎の壁が現れる。

「悠斗様、私の後ろに。雪風は適当に」

「は、はい!」

「…………(こくこく)」

『適当に』と言われて素直に頷く雪風君の従順さに感心している場合でもなく。

俺は、春香さんの後ろに回る。

奴の攻撃は怖いけど、ここなら安心……。


「って、違うだろ!!」


自分で突っ込む。

安心、じゃない。

俺も一緒に、障壁を張らないでどうする!!


劣化複写イレギュラーコピー:右手から……」

《だめだ悠斗! 防ぐな! かわせ!》

「!」

頭に響く声。

明瞭な言葉には聞こえないが、本能的にBMP能力の発動を止める。


「春香さん! 雪風君!」

「きゃ……。な、何!」

「…………!!」

雪風君の襟首を掴んだまま、春香さんの胴にタックルをする。

そのまま、奴が居る方向と直角になるように、全力で跳ぶ。


直後。


奴の攻撃が、強固な炎壁を、事も無げに貫いた。

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