思い出探しと結婚活動3 ~第3者評価~
~3号車:運転手・武田一高~
「なぁ。後ろのイケメンの兄ちゃん、大丈夫なのか?」
運転席に座る武田一高が助手席の峰に話しかける。
「まぁ、たぶん……。良く分からないんですけど、あいつ最近、澄空がモテると情緒不安定になるみたいで」
「ははは! 何言ってんだ、兄ちゃん! あんだけ男前なら、後ろの兄ちゃんこそ、モテモテだろう!」
実に気持ちの良い一高の笑い声に、三村の顔がますます暗くなる。
「ですよねぇ。宗一君がモテれば、もっと話が早かったんですけどねぇ」
「ぐっ」
後部座席左に座る小野の容赦ない追撃が、三村の胸をさらに抉る。
「……そうなんだ。それも最近、こたえてる……」
いきなり、三村が語りだす。
「『三村君ってほんと顔だけだねぇ』とか『あの外見で澄空君の腰ぎんちゃくまでしてモテないとかどんだけ?』とか『やっぱり、悠斗様のお手つきなのかな♪』とか、『どうせ澄空君チームの三枚目担当なんだから、もっと残念な容姿に生まれれば良かったのにねー』とか……。良く分からない理由で、最近俺の『新月ちょっとイケてるイケメンランキング』が急降下中なんだ……」
「そんなものマメにチェックしてたんだ……」
「毎週更新なんだよ」
小野のセリフに大真面目に答える三村。
「俺はずっと普通にしているのに……。なんで、ここまで割を食うんだ? 峰や小野は、逆に上がってるのに……」
「上がっているらしいよ。良かったねー、達哉」
「そもそも、そんなランキングの存在自体が初耳なんだが……」
あまり興味のなさそうな峰。
「だ……だいたい、一高さんもいいんですか? いくらBMP能力が高いからって、どこの馬の骨とも分からない男に、大切な娘さんを渡して……」
「いいも悪いも、俺自身がその馬の骨そのものだからなぁ」
三村の問いに、カラカラと笑いながら答える一高。
「俺も驚いたもんだ。BMPが高いってだけで、武田みたいな名家の御令嬢が求婚して来たんだからなぁ。男前の隣の兄ちゃんも、澄空の旦那と合わせて、チェックされまくってるみたいだぞ」
「いえ、僕は悠斗君一筋ですから」
一高に、意味不明のセリフで返す小野。
「なんて格差社会だ。……そして、俺はなんて中途半端なスペックと立ち位置なんだ。意味わかんねぇ……」
そして、三村が頭を抱えて本気で悩み始める。
「ただなぁ……」
と、一高。
「うちの娘は『BMP能力が高いだけの男とは死んでも結婚しない!』とか言ってたんだがなぁ」
「そうなんですか?」
と、峰。
「ああ。俺が、まさにBMP能力が高いだけの脳筋男だから、うんざりなんだろうなぁ。あっはっは!」
まぁ、笑いごとではない。
◇◆
~2号車:運転手・上杉幻夜~
「いや、娘を紹介しに来て、こんな美しいお嬢さんたちを乗せることになるとは思いませんでした」
真剣な表情で前を見つめながら、爽やかな声で語る美丈夫。
ここまでの引き算で明らかなのだが、2号車は、上杉幻夜・賢崎藍華・剣麗華・本郷エリカ、という乗員になっていた。
3号車とはあまりにも華やかさが違い過ぎである。
「しかし、お嬢様も人が悪い」
「? 何ですか、人聞きが悪いですよ?」
幻夜の声に、助手席に座った藍華が答える。
「一言『相手が悪すぎる』と教えていただければ、こんな無謀な闘いに娘を巻き込むこともなかったのに……」
バックミラーに映る麗華を見ながら、愚痴をこぼす幻夜。
「……ほんとに人聞きが悪いですね。そもそも、本家も貴方がたも、私に一言も相談しなかったじゃないですか。……しかも、春香まで連れてきて」
最後の一言を凄く嫌そうに言う藍華。
「あノ……。春香さんって、何者なんデスか?」
「うん。少し不思議な感じがした」
僅かに身を震わせながら得体のしれないものを語るようなエリカと、平然としながら少し魅力的なアイドルを語るような口調の麗華。
「……あれを『少し不思議』とは……」
「こういう人なんですよ」
「やはり、格が違いますな……」
何やら頷き合う幻夜と藍華。
「どういうこと? ナックルウエポン」
「いえ。貴方が凄い方だという話ですよ」
適当に流すナックルウエポン。
「まぁ、彼女のことはあまり気にしないでください。色々な意味で規格外な女性ですが、基本的に私達と関わることはあまりないはずなので」
「そうナンですか?」
「麗華さんを見れば、さすがに諦めたでしょう」
軽やかな幻夜のセリフに対し。
「? なぜ、私を見れば、諦めるの?」
という麗華のセリフで。
一瞬、車内の空気が凍る。
○幻夜→藍華(アイコンタクト)
(え? ひょっとして、私、間違えました?)
(せっかく、私が昨晩確認したところなのに。なぜ、貴方がたはそうそう先走るんですか?)
(でも、こんな美少女と一つ屋根の下で何もしないなんて、どんな超常現象ですか!?)
(ただの草食ですよ。っと)
○藍華→エリカ(ボディランゲージ)
(こういう時、いつもはどうやってごまかしてるんですか?)
(ソレが……。実ハ、こうイウ質問は、初めテで……)
(なんて、空気を読めるクラスメイト達でしょう。感心します)
(すみまセン。私、口下手で。何とかシテください、賢崎さん)
(……請求は、あとで澄空さんにしますね)
ということで、賢崎藍華がごかますことになった。
「え、とですね。その……。春香も時子さんも……。その……。澄空さんが、貴方のものだと思ったというだけの話です」
○幻夜→藍華(アイコンタクト)
(え? それ、ごまかせてるんですか!?)
○エリカ→藍華(ボディランゲージ)
(ワ、私も、そノ……。そうイウ風にシカ、聞こえまセンでしたガ!?)
○藍華→全体→藍華
(……間違えました)
((間違えないでください!!))
と。
「別に、悠斗君は私のものじゃない」
「「「…………!!」」」
再び、車内が凍りつく。
「悠斗君の結婚相手は、悠斗君が決めればいいと思うよ」
言葉だけは殊勝だが。
車内に冷たい炎の嵐が吹いている様が、幻視できる。
○幻夜→藍華そしてエリカ(アイコンタクト&ボディランゲージ)
(無理無理無理無理です、お嬢様! こんなの相手に、時子にどうしろと!?)
(だから、私が命令したみたいに言わないでください!)
(麗華さん、格好いいデス!! ……デモ……)
と。
「悠斗君が好きな人を選べばいいと思う」
麗華がもう一度呟く。
(デモ……)
エリカは思う。
(まるデ、そんなコトがナイことヲ確信しているかのようニモ聞こえマス)
エリカにも、澄空悠斗が剣麗華以外を選ぶなんてことがあるとは思えないが。
(体育祭の時ト同ジ……)
少しだけ『偏った信頼』を感じる。
聡明な剣麗華の中に、わずかに見える幼い感情。
「…………」
ふと。
エリカの脳裏に、一組の男女の姿が浮かぶ。
麗華達と同じくらい強く。
悠斗達と同じくらい美しく。
二人と同じくらい強い信頼で結ばれていたけど。
片方が失われるまで、それが『偏った信頼』であると気付けなかった二人……。
「エリカさん?」
藍華の言葉も遠く。
エリカはただ、同じ結末が来ないことを祈るばかりだった。