思い出探しと結婚活動 ~気乗りのしない首謀者~
◇◆澄空悠斗帰省一日目深夜。とある通話記録。
『と、ところで、お嬢様。明日はどうされるおつもりですかな?』
「特に決めてはいませんが。澄空さんに付いて行くつもりです。一応、護衛ですので」
『そ、それでは、澄空様次第ということですな。いやぁ、どちらへ行かれるのでしょうか? どこに行くにしても、アシは必要でしょうなぁ』
「……本家にも困ったものですね。佐藤社長を、いつまで丁稚扱いする気なのでしょうか?」
『い、いえ。それほど冷遇されているわけではないのですが……』
「で。明日の車の用意をしてくれるという話ですよね」
『……平たく言えば、そうです……』
「ついでに、澄空さんに会わせたい人が居ると」
『返す言葉もありません』
「車三台で三人、というところでしょうか?」
『重ねて返す言葉もありません……』
「ちなみに、どなたですか?」
『それは、本当に聞いておりません。武田様がノリ気だというのは、風の便りで聞きましたが……』
「武田さんですか? なら、ひょっとして、上杉さんも?」
『可能性はあります。あと、鈴木様も、ひょっとすると』
「実力者そろい踏みじゃないですか? 澄空さんの評価は、そんなに高くなっているんですか?」
『お嬢様が認めた勇者。という噂が本家内部で爆発的に広がっておりまして』
「原因は私ですか……。まぁ、ある程度、予想はしてましたが」
『で、では、とりあえず、明日。ということで……』
「待ってください」
『は、はい!』
「さすがに、春香は……来ませんよね」
『……私は、人選に一切関与しておりませんので』
通話記録、終わり。
◇◆
◇◆◇◆◇◆◇
「デ、今日ハ、どちらニ行くんデスか?」
帰省二日目。
エリカ調理の、俺とは根本的にレベルの違うブレックファーストを食べながら、今日の予定について話しあう。
ちなみに、席は。
お誕生日席:俺。
俺の左側(近くから順に):麗華さん、エリカ、三村。
俺の右側(近くから順に):賢崎さん、小野、峰。
である(※ちょっと嫌になって来たが、今さら変えられない)。
「そうだなぁ」
と、スクランブルエッグをもぐもぐしながら考える。
過去探しとは名ばかりの、要は休暇なので、基本的にはゴロゴロするつもりだったのだが。
6人もの友達が来てくれているのだから、麻雀大会の続きをして一日過ごすというのももったいない。
「一応、記憶探しをしてみよう。何か思い出しそうな所を適当に回る」
という設定で、適当にスポットを回る。
古今東西の記憶喪失系主人公の方々には申し訳ないが、イマイチ緊急性と重要性を感じないんだよなぁ。記憶。
と。
「ではアシが必要ですね私もあまりこちらには詳しくないのですがそこそこ調べをした案内人を用意しました3台ほど呼んだので分乗して回りましょう」
と、とても有難い提案をしてくれる賢崎さん。
「あ、ありがとう」
と答えてはみるが。
……なんで、そんなに棒読みなんだろう?
まぁ、それはともかく。
「やっぱり凄いね、ナックルウエポン。良くそこまで気が付くね」
未来を先読みしたとしか思えない(※実際に先読みしたのかもしれないが)賢崎さんの準備の良さに、麗華さんが素直に感心している。
昨日は、一時的に険悪(※「とても軽めの言葉で表現してな」by三村)な状態になったが、基本的にこの二人はお互いを認め合う間柄らしい(※と信じたい)。
と。
「それでですね……」
賢崎さんが切りだす。
「条件……という訳でもないのですが、できれば分乗の仕方は私に決めさせて欲しいんですが」
「それは……構わないけど?」
俺は返事する。
ここまでやってくれたんだから、それくらいの権利は当然だと思うけど。
何か意味があるのかな?
と。
「あの、賢崎さん。何か、俺、凄く嫌な予感がするんですけど……」
三村がいきなり訳の分からないことを言い出す。
「素晴らしいです。三村さん。的確な読みですね」
と、どこか投げ遣りな口調で応じる賢崎さん。
……というか。
「え? 何か、まずいことがあるの?」
「……いえ。澄空さんにとっては、悪い話では……」
と、麗華さんの方を見て。
「まぁ、少し面倒な話かもしれません……」
「???」
俺の頭に疑問符が浮かびまくる。
何か、賢崎さんの態度がはっきりしない。
三村だけが何かを感じている、というのも不気味だし。
が。
「まぁ、大した話ではありません。……春香さえ来なければ」
……春香って誰?
◇◆
賢崎さんが指定していた時間きっちりに三台の車が、俺の家の前にやってきた。
リムジンみたいなのがやって来たら、ご近所さんにどう説明しようか(※そういや、まだ見たことないな、ご近所さん)と考えていたが、意外に普通のコンパクトカーだった。
目立たないようにとの配慮なのかな?
「大丈夫です。防弾性能は標準以上ですよ」
と賢崎さんが説明してくれるが。
最初からそんな心配はしてないし、むしろ不安になるだけなので、その情報はできれば伏せておいて欲しかった。
で、まずは一台目。
軽やかなドアの開閉音と共に、城守さんを彷彿とさせる長身細身の男性が運転席から姿を現す。
助手席からは女性。
俺より少し年上なのは間違いないが、落ちついた所作と整いすぎた顔のせいで、イマイチ年齢が分かりにくい。
「上杉時子と申します」
古風で優雅な一礼。
「は、はい。よろしくお願いします」
思わず背筋を正して返事をしてしまう。
麗華さんで鍛えられた(※はずの)俺を照れさせるとは、かなりの美人さんである。
「父の上杉幻夜です。よろしくお願いします」
「は、はい。よろしくお願いします!」
上品な父親の方の挨拶に、さらに緊張してしまう。
しかし、なんだこれ?
案内人って感じの雰囲気と風格じゃないぞ?
そうこうしているうちに二台目のドアが開く。
こちらの運転席から出てきたのは、ハンマーウエポン・臥淵さんを彷彿とさせる偉丈夫。
「父の武田一高です! よろしく!」
凄まれたらダッシュで逃げだす以外に選択肢のない顔に、人当たりの良さそうな表情を浮かべる一高さん。
ただ、父と言われても……。誰の父?
と思っていると。
バタン、と元気のいい音と共に助手席のドアが開く。
「ちょっとちょっと、父さん!? 私が先に挨拶しないと、あなた何者って感じよ!」
「うぉ! しまった!」
俺より少し年下なのは間違いないが、元気いっぱいのテンションとボーイッシュな顔のせいでイマイチ年齢の分かりにくい少女が一高さんを叱る。
そして。
「武田紬です! よろしくお願いします!」
「よ、よろしくお願いします!」
元気いっぱいのノリに押されるように、俺も元気よく返事をする。
ボーイッシュはボーイッシュなんだが、麗華さんで鍛えられた(※んだったらいいなと思う)俺が、微笑みかけられたくらいで思わず赤面してしまうくらいの美少女でもある。
……というか、さっきから、俺しか返事してないのは、なんでだ?
……と、思っていると。
「ナックルウエポン……? これって……?」
「ご想像の通りです、ソードウエポン。ランスウエポン恐るべし、といったところでしょうか?」
「三村が凄いのはどうでもいいけど。……少し、急過ぎない?」
「ですね。なにせ、私も昨晩初めて聞きましたから」
上記は、麗華さんと賢崎さんの会話。
しかし、なんだ?
何言っているかさっぱり分からないんだけど、嫌な予感だけはヒシヒシと……?
「あ、あの、賢崎さ……」
と、賢崎さんに話を聞こうとすると。
「!」
上杉さんと武田さんが、近くに寄って来ていた。
「あなたが、澄空様ですか?」
「は、はい」
上杉さんの問いに答える俺。
……でも、なんで『様』?
「うわ……。こんなに近づいてもプレッシャーの気配すらしないなんて、どうやってるんですか? 澄空様?」
武田さんが、目をキラキラさせながら聞いてくるが。
……なんで『様』?
一方で。
「あの二人。見たことある」
「上杉幻夜と武田一高です。まぁ、それなりに有名ですから」
「それなりというか、賢崎でも相当の名家だったと思うんだけど。悠斗君の評価は、そんなに高いの?」
「さっきも言ったように、本当に私にも分からないんです。まぁ、本家は昔から何を考えているのか分かりませんけど」
という麗華さんと賢崎さんの会話。
何言っているかさっぱり分からないけど、何が起こっているのかはもっと分からない。
なんで、俺の故郷を回るだけで、こんな美しい女の子たちの案内が必要になる?
「でも驚いた。二人とも意外に乗り気に見える」
「賢崎一族ですからね。BMP能力が高いというのは、ほぼ絶対的なアドバンテージです。……なので、その……。あまり怒らないでくださいソードウエポン。あくまで本家の顔を立てているだけですから……」
「? なんで私が怒るの?」
「……プレッシャーがなぁ。なんというか……。怖いな、これは」
「デモ、そんな麗華さんモ、一番ステキデス♪」
「…………」
「だから、宗一君。超加速はダメだって」
という、俺の仲間たちの会話。
ほんとに、何を言ってるのか分からないんですけど?
と。
「ところで、三人目は? やはり、鈴木さんですか?」
「だと思いますが。なぜ、出て来ないんでしょう?」
賢崎さんの問いに答える上杉幻夜さん。
なんか、三台目。中が見えにくいんだよな。
……と思っていると。
「起こす時は、もっと情熱的に起こしなさい、雪風。出るタイミング逃したじゃないの」
意味不明のセリフと共に三台目の助手席のドアが開く。
そして。
「式家の……春香?」
武田一高さんが呟く。
ドアを開いて現れたのは、豊満な胸の、先二名に劣らず美しい女性。
ただ。
違和感がある。
ボキャ貧のため、うまく言えないが。
あえて言うなら、一般的な幻影獣に感じる印象。
存在すること自体に無理があるような。
あるべきでないものが存在しているような。
まさしく違和感。
なんなんだ、あの人?
「あ、お嬢様ぁ? お久しぶりです。お互い卵子だった時以来でしょうか?」
「あなたは何カ月卵子だったんですか……」
手を振りながら話しかけてくる豊満な胸の女性に、疲れた様子で賢崎さんが回答する。
なんか、賢崎さんも苦手っぽい。
と。
「で、悠斗様はどちらですか?」
振り向いて言う女性。
なんで『様』。とか、言う状況じゃない。
この人、普通にしてても、言動全てに妙な違和感が付きまとう。
一言で言うと、なんかヤバイ。
「あなたですか?」
「お、俺?」
言われて驚いたのは、三村。
「はいー。大草原を駆け抜ける風のような、自由で、しかし強靭な意志。ソウルキャストしなくても分かります。とても強い『風』ですねぇ」
「は、え、あ、いや」
何言っているのか、さっぱり分からない。
三村にあるまじく、美人に話しかけられているというのに気のきいたセリフが言えてないことからも、相当混乱しているのが分かる。
が。
「い、いえ、澄空悠斗はあちらです。マドモアゼル」
自分のナンパ属性(弱)を思い出したのか、凄まじく無理のある単語を使いながら俺を指し示す三村。
だが、その勇気には敬意を表したい。
とかなんとか、俺も現実逃避しようとしていると。
「あなたが……?」
大きく目を見開いて驚いた表情をする女性。
「は、はい」
と俺が返事をすると。
俺の眼から眼を逸らさずに、女性がすぐ近くまで来る。
そして。
「あの。触ってもいいでしょうか?」
「は、はい? ……えと。ど、どうぞ?」
良く分からないまま返答すると。
いきなり右手を両手で握りしめられた。
「…………」
そのまま胸の高さまで持ち上げて、何かを吟味するかのような表情。
「あ、あの……」
「信じられない……」
俺の問いかけに、呆然とした表情で答える女性。
「実際に触っても分からないほどの属性なのに。これで187ものBMPを操り、Aランク幻影獣を退けたんですか?」
「は、はぁ」
何か良く分からないけど。
「すみません」
とりあえず、謝っておく。
「いえ、落胆したんじゃありません」
と、俺の手を放す。
「失礼な言い方かもしれませんが、とても興味が湧いてきました」
わずかに俺と距離を取り。
一礼。
「改めてよろしくお願いします。私は、式春香。あなたの嫁候補の一人です。……大穴ですけどね♪」