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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
123/336

賢崎さんが気になること

冷たい炎のような麗華さんの怒りも収まり。

三村が反社会的行為に及ぶこともなく。

全員風呂に入った後での、小野vs賢崎さんの麻雀頂上決算で盛り上がり(※麗華さんもメチャクチャ強かった)。

微妙なところに隠すように置いてあったお菓子類でそれなりに盛り上がり(※三村が時々、電話しに席を外すのが気になったが)。

俺たちは眠ることにした。


三村が起きていれば、寝るまでに男子トークで盛り上がったのかもしれないが、よほど疲れていたのか早々に寝てしまった(※小野が言うには、今日の『麗華さん×賢崎さん』のトラブルをほとんど一人で解決してきたかららしい。お疲れさま三村)。

なので、俺も普通に和室で雑魚寝していたんだが……。


「喉渇いたな……」

ということで、起き出してきた。


冷蔵庫からジュースを取り出して、飲んで、軽くうがいをして寝る。

……つもりだったんだけど。


ダイニングに電気が付いている。

そして、そこには……。


「賢崎さん……?」

「あら、澄空さん。奇遇ですね」

と、ワイングラスをプラプラさせる賢崎さん。

その脇には、妙に高そうなワインボトル。


……ちょっと待てい。


「け、賢崎さん? ホンの数時間前に、結構心温まるイベントがあったと思うんだけど……」

あれ全部無視ですか?

というか、賢崎さんがお酒飲むキャラだったなら、あの話、丸ごと意味がないと思うんだが……。


「ご心配なく。私は、こう見えても32歳です」

「!!」

!!??


「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……冗談ですよ?」

「わ、分かっちょりもす」

噛んだ。


「私が32歳なら、ショックでした?」

「い、いや、ショックという訳ではないですが……」

心臓止まるかと思いました。


「ちなみに、これはぶどうジュースです」

と、無駄に優雅な仕草でぶどうジュースを飲む御令嬢様。

「でも、そのボトルは?」

「中身詰め替えました」

「……何のために?」

「ビックリするかと思いまして」

「…………」

確かにしました。

ほんとにビックリした。

というか、最近、この人のキャラが全く分からなくなってきたんだが。


「いえ、私を『驚かせる』のは簡単でないことを伝えておこうと思いまして」


「え?」

それって、体育祭の時の……?

「もう、その気がない。というのなら、いいんですけど?」

「いや、もともと、その気はないんだけど……」

もちろん、体育祭昼食時の『賢崎さんを倒す』件についての話だ。

皆は、冗談ということで納得してくれてたと思ってたけど……。


「で、そそのかしたのは誰なんでしょう? 良ければ、教えてくれます?」

……ウエポンクラスに嘘は通じないってことか。

まして、賢崎さんには。


「そそのかされたって訳じゃないけど……。保健医のミーシャ先生が、『あまり貴方に良い感情を持ってない』とか『利害が一致しないと分かると、即座に敵に回る可能性がある』とか。でも、『基本的には、賢崎藍華は貴方の味方』とか。色々思わせぶりなセリフを……」

どうせバレてるんだろうし、隠すこともないと思い、洗いざらい話す。


が。


「……ミーシャ先生……。ですか?」

「? そうだけど」

「…………」

賢崎さんが何やら考え込んでいる。

ひょっとして、予想外だったのか?

てっきり、全部お見通しだと思ってたんだけど。


「賢崎さん?」

「あ、いえ。良く考えれば、それほど予想外と言う訳ではありませんね」

「はぁ」

「……むしろ、予想できなかった方が不思議です……」

珍しいこともあるもんだ。

賢崎さんが首を捻っている。


というか。


「予想できるの、この話?」

思わず、聞く。

ミーシャ先生がどんな深遠な野望を持っているのか、それともただ単に思わせぶりなキャラなのか、といったことは分からないが、そもそも俺と賢崎さんが敵対する可能性があるのか?


「ふむ」

と、賢崎さんが人差し指を立てる。

「ここに、スイッチがあります」

その指で、テーブルに十円玉くらいのスイッチを描く。


「このスイッチを押すと、人が10人死にます」

「!?」

な、なに、突然!?


「その替わり、1000人の人が助かります」

「え?」

疑問符を浮かべる俺。

賢崎さんは、そんな俺の反応を確かめるように、空想のボタンを押す寸前で指を引っ込める仕草を繰り返す。


「私にはどちらも『確実に』分かるんですけど、澄空さんには『10人死ぬ』ことしか分かりません」

「…………」

「いいんですか? 押しちゃいますよ?」

「え、と」

俺は賢崎さんの指と空想のボタンの間に、手のひらを差し入れる。


「私を仲間にしたこと、後悔しました?」

俺の手のひらを押したまま、賢崎さんが言う。

「そんなことはないけど」

大変だな、とは思う。


すると、賢崎さんは、少し表情を和らげ。

「大丈夫ですよ。そこまで分かりやすく対立しないといけないような状況は、あまりありませんから」

と言うので。

「そ、そうだよな。1000人も10人も助かるような選択肢だって、中にはあるよな」

俺も少し安心する。


「いえ。残念ながら、それはありません」


「え?」

思わず聞き返す俺。

「999人と9人が助かる選択肢なら、あるかもしれませんけど」

何かを諦めたようにも聞こえる、どちらかというと賢崎さんらしくない声色で言う。


「ないの?」

「はい」


簡潔な、しかし、容赦のない返答。

あらゆる可能性を想定できる彼女がそう言うのなら。

『絶対に誰かが犠牲にならないといけない』という状況があり得る、ということだろう。

ある意味では当たり前だけど……。


「……そんなのは……嫌だな」


思わず呟く。

賢崎さんに反感を抱いたとか、特に何か伝えたかったことがあった訳ではなく。

本当に『思わず』呟いた。


「嫌ですか?」

「まぁ……。嫌だ」

賢崎さんと議論ができるほどの確固たる信念も理想もない。

でも……『嫌』だ。


「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……私達、少し似てますね」

「はい?」

唐突に、何を?

このチートとハイスペックが服を着ているような美人さんと、俺に、一体どんな近似値が?


と、俺が顔面に『?』を浮かべていると。

賢崎さんは、それが不満だったのか。

「クール系はお嫌いですか?」

「? いや、別に嫌いだなんて言ってない」

少なくとも、口に出しては。

まぁ、実際、苦手かもしれないけど。


「ところで、ソードウエポンは可愛い女性ですね?」

「はい?」

話がポンポン飛びまくる。

この人、頭の回転が速すぎるんじゃないだろうか?

まぁ、なんとか付いて行くしかない


「可愛いと言うか……。麗華さんはどっちかというと綺麗系だと思うぞ」

そして、怒ると台風より怖い。

が。


「いえ、可愛いですよ」


「え?」

確信に満ちた口調に、思わず聞き返す俺。

「澄空さん。ソードウエポンが体育祭前にやっていた『特訓』。内容は知ってますか?」

「え?」

予想外の話題が出てきた。

「い、いや。結局、麗華さん、教えてくれなかったんだけど……。ひょっとして、賢崎さん、内容知ってるの?」

「知ってます。ちなみに、澄空さんは、どんな内容だと思ってました?」

「俺?」

いや、実は色々考えてはみてたんだけど。

いくら考えても、あれだけ完璧なスペックを持つBMP能力者が『特別訓練』をしないといけない理由が分から……。

「『連携戦闘』らしいですよ」

「え?」

連携……戦闘?

「相手と状況を変えながら、何回も。誰とやっても完璧にこなす代わりに、一人で闘った方が効率が良かった。というのは皮肉ですが」

「…………」

それってまさか。

クラブとの戦闘の時のことを気にして……?

「誰のための訓練だったか。聞きたいですか?」

「いや……。大丈夫」

さすがに、ここは間違えない。

しかし……。


「特訓の内容を、その『誰か』に伝えてないのは……。うまくこなすのが目的ではなく、万が一にもその『誰か』を傷つけないのが目的だからでしょうね」

「…………」

「可愛くないですか?」

「ま、まぁ、確かに」

それも抜群に。

まぁ、あのクラスの美少女になれば、綺麗系と可愛い系を併発していても問題はあるまいて。


「襲ってきてもいいんですよ?」

襲いません。

「大丈夫。エリカさんは、私が確保します」

……手段を問題にしているわけではありません。

「草食ですねぇ……。あんなに可愛いのに。……そんなに嫌われるのが怖いですか?」

「そりゃ、そうだろ」

可愛いからこそ、嫌われるのが怖い。ってこともあると思う。

……あと、怒ると、期末テストより怖い。

「まぁ、いいですけど」

と、賢崎さんは、ワイン(※じゃなかった、ぶどうジュースだ)をクイッと飲む。

異常にサマになっているのは、この際、気にしないでおこう。


「では、そんな可愛い麗華さんのいる澄空さんに質問です」

「はぁ」

また、賢崎さんの雰囲気が変わった。

ほんとにコロコロコロコロ、良くここまで空気を変えれるもんだと思う。

社長さんとしてのスキルかな?


と。


「麗華さんが死んでも、澄空さんは闘えますか?」


……!!

…………!?


「…………」

「…………」

「……え……?」

心臓を握りつぶすかのような一言に。

俺は、何とか声を絞り出して返答する。


「ああ。少し、言い方が悪かったですか」

と、眼鏡を直しながら賢崎さん。

口調は少し柔らかくなったが、背中まで貫通するかのようなプレッシャーは少しも和らがない。


「そんな状況でも闘い続ける澄空さんを……。澄空さんは、愚かだと思います?」


「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……お、愚かだとは思わないけど……」

想像したくもない。

のが、本音だ。


「じゃあ、逆に。どんな澄空さんなら、そんな状況でも闘えますか?」


三度の問い。

プレッシャーはそのままだけど。

まるで、何かに縋っているようにも聞こえる不思議な問い。


「い、いや……」

でも、俺には答えがない。

「……時が癒してくれるとか……。それ以上に大事なものができた、時……か?」

言いながらも、これはないなと思う。

ああ、これはない。


と。


「変なことを聞いてしまいましたね」

グラスを持って、賢崎さんが席を立つ。


「そろそろ私は寝ます。澄空さんも、長旅で疲れているでしょうから、お早めに」

言い残して、去っていく。


明らかに賢崎さんの求める答えを言えなかったのは分かったが。


そもそも、彼女が何を求めていたのかすら、俺には分からなかった。

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