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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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『お約束』の恐怖2 ~逃れ得ぬ運命~

「くっそ……。やっぱり」

小野さん、メチャクチャ強ぇ。


小野があんまり強いんで、とりあえず休憩をして、頭を冷やすことにした。

今、みんなの分のジュースを取りに行くため、一人で台所に向かっている最中である。


それにしても、小野、強い。

もう運だけで何でもどうにでもなるし、特にそれ以外に必要なものはない気すらしてきた。


「…………」

それはともかく。

俺、昔、同じくらい『引き』のメチャクチャ強い人と麻雀したことがあるような気がする。

はっきりとは思い出せないけど、そんなに最近の話じゃない。

……ひょっとして、記憶の失われている小学生時代に……?

いや、いくらなんでも……。


とかなんとか考えながら廊下を歩いていると。


「あの、澄空さん?」

「はい?」

いきなり、扉の向こうから話しかけられた。

賢崎さんの声。


「少し困ったことになったんですが、ちょっといいですか?」

「ん? 何?」

と、扉を開けようとして、ビクッと手を止める。


いや、ちょっと待ってみよう。


俺の記憶が正しければ、これは脱衣所の扉である。

風呂に入る前と入った後に使用する部屋の扉。

基本的に、誰かが中に居る時に外側から開く扉ではなく、もしそうした場合には、タイミングによって、凄くいい……もといまずいものが見れてしまう。


人、それを『お約束』という。


今、凄く危険な気がする。

確認しよう。


「賢崎さん。その『困ったこと』を一緒に解決するためには、ここ開けないとダメなのかな? というか、開けても大丈夫?」

「大丈夫ですよ。開けてください」

「了解」

ほら見ろ。

こうやって確認すれば、人はお約束なんかに屈しない。


ごくごく当たり前の確認をしただけなのだが、まるで運命にでも打ち克ったかのように、俺は誇らしげに脱衣所の扉を開け。

「…………!!」

そして、高速で閉めた。


…………おかしい。

確かに、ちゃんと確認したのに。

とてもいい……もとい不可解なものが見えた。


「なぜ……?」

頭の中に疑問符が乱舞する。


確かに、賢崎さんは『開けても大丈夫』だと言った。

これが幻聴だったのか?

もしくは、今見たものが幻視なのか?

全然関係ないけど、新月学園には、幻視幻聴シャドゥウィスパーというBMP能力の持ち主が居るらしい。

……いや、ほんとに全然関係ないけど。


とにかく、これはマズイ!

幻視でも幻聴でも、あるいはどっちでもなくても、全部マズイ!

良くわからんが、謝るしかない!


「ゴメン! 賢崎さん! 聞き間違いか見間違いしてゴメン! とりあえず、麗華さんかエリカ呼んでくるから、そのまま待ってて!」

慌てて、その場を離れようとする俺。

が。

「その必要はないですよ」

と、急に扉が開き。

中からオープンフィンガーグローブに包まれた手が伸びてくる!


抵抗する間もなく、手を掴まれ。

そのまま脱衣所に引っ張り込まれる。


◇◆


「け、けけけけ、賢崎さん!」

「はい。何か疑問点でもあります?」

ない訳がない。

なんで、その状態で、オープンフィンガーグローブだけは外さないのかとか!

いや、逆だ!


「なんで服を……!」

「ちょっと確認したいことがありまして」

と、後ろ手に扉を締めながら、賢崎さんが俺の顔を覗きこんでくる。

麗華さん級の美形フェイスに加えて、今はその下が凄くヤバイ状態なので、俺の心臓は止まりそうである。


乱暴にならないように振りほどこうとしてみるが、賢崎さんの手はびくともしない。


と。

「ふむ」

俺の顔を覗きこんでいた賢崎さんが、何かに納得したような声を出す。

「澄空さんは……」

「な……なに?」

「異性愛者ですね」

「もっと普通に確認してくれ!」

あんまりなセリフに、思わず怒鳴る俺。

「いえ。『百聞は一見にしかず』とも言いますし。おかげで有意義なことも判明しました」

「何すか、それは!?」

「例えば。澄空さんは、少なくとも体型的には、ソードウエポンや私のようなスタイルが好みの真ん中近い……。とか」

すんませんすんません、ほんとすみません!!


ウエポンクラスに嘘は通じない。

一瞬だけど、しっかり目に焼き付けたのが、完全にバレている!


必死に目をそらしてみても。

漂う香りだけは、どうしようもなく鼻腔をくすぐる。

というか、どうしてこんないい香りのするシャンプーが、10年間も使われていなかった我が家にある!?


「……ふむ? その気になったのなら、今から始めます?」

「いやいやいやいや!」

始めません!!

「お風呂は、大きめかつ清潔で、なのにどこかムーディーな内装ですよ」

「いやいやいやいや!」

そんな場所の仕様を問題にしているわけではなくてですね!!


「まぁ、冗談ですけど」

「いや、分かってるけどね!」

でも、心臓には悪いから、こういう冗談しないで欲しいんですよ!!

というか、賢崎さんって、こういう冗談するタイプだったのか!?


「いえ、一番の理由は。本当にまだソードウエポンとできてないのか、確認したかったんですけどね」

「できてない!」

「ですね。……まぁ、分かってたんですけど」

じゃあ、やらないでくれ!!

……と叫ぼうとしたところで。


「ところで澄空さん?」

少し声のトーンが変わった。


「ソードウエポンも私も、スタイル的には大して変わりませんが。世界を変えたいと思うのなら、私ですよ」

「え?」

と、逸らしていた目線を賢崎さんに戻す。


「~~~~~~!!」

そして、自爆した。

身長が同じくらいなので、顔を突き合わせると、その下までどうしても視界に入る。

肌色だけでなくて、ピンク色のものまで見えた!

これはあかん。


「草食ですねぇ。BMPヴァンガードが女性の裸くらいで動揺してどうするんです?」

「~~~~」

いやいやいやいや。関係ないから。

それ、ヴァンガード全然関係ないから!


もう限界。


俺は右手を掴まれたまま、少々強引に賢崎さんの脇をすり抜け、脱衣所の扉に手をかける。

が。

「待ってください、澄空さん」

賢崎さんに、くいっと引っ張られる。

全然力を入れているようには見えないのに、まるで逆らえない。


「今、出ない方がいいですよ」

「今、出ないと凄くヤバいんだよ!」

大声になり過ぎないように叫ぶ。


「今、出ると良くないことが起こります」

「今、出ないと三村に殺されるんだよ!」

もしくは、麗華さんに壊される。


「どうしても、今、出るんですか?」

「お願いします!」

「……仕方ないですね」

と、オープンフィンガーグローブ装備の手から解放される。


俺は大慌てで扉を開け。

「御武運を」

という賢崎さんの声を聞きながら(※なぜか、五分運と聞こえた)、脱衣所から脱出した。


……。

…………。


「……し、死ぬかと思った」

大きく息を吐く。

心臓が物凄い音を立てている。

ホントにヤバかった。

「ホントに……参った」

もう二度と脱衣所になんか近づくもんか。

でも、無事脱出できて、とりあえずは良か……。


「悠斗君?」

……。

…………良か……。


……。

…………。


声の方を向くのが怖い。

まぁ、実際に見なくても、この声の持ち主を間違えるなんてことはまずないが。


「今、ナックルウエポンが入浴中のはずだけど」

ソードなウエポンが呟く。

同時に、俺は、賢崎さんが『だから言ったのに』とため息をついている姿が幻視できた。


「どうして、悠斗君が脱衣所から出てくるの?」

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