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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
120/336

『お約束』の恐怖 ~ミッションインポッシブル~

「ツモ!」

和室に響く声。

アガったのは、小野である。


「またかよ……」

と、三村が言うとおり。

小野さん、無茶苦茶強えぇ。

俺達三人とも30分前に三村に麻雀を教わったばかりなので、技術的には大差ないのだが。

『引き』というのだろうか?

良い牌ばっかり持って来る。


「望むものを引き付ける引力。これこそ、アックスウエポンの名の由来」


いや、それはアックス関係ない。

「というか、小野。実は、そのネタ気に入ってるだろ?」

と三村の言うとおりなんだと、俺も思う。


まぁ、見ての通り。

今、俺達男性陣4人は、一階の和室で麻雀をしています。


何故かと言うと。

男性陣は1階の和室で寝ることになったので布団を敷いていたのだが、その時、なぜか年季の入った麻雀セットが見つかったのだ。

『これはひょっとして、俺の記憶のヒントになるかも』と色々いじくり回してみたが、もちろん何の効果もなく。

『ま、そうだよな』と片づけようとしたところで、三村が『麻雀しようぜ』と言いだしたという訳だ。


実際にプレーしたところで何も思い出しはしなかったが、とりあえず、これが凄まじく面白いゲームだということは分かった。

ただ、小野が強すぎる。

運だけではだめだが、とりあえず運がないと話にならないのは、まるで現実みたいだ。


「えーと……。ドラも付くから、跳満ってやつかな?」

小野が言う。

「跳満か」

点棒を数える。

今、俺が親なのでみんなの倍払わなければならない。

……ということは。


「……点棒がなくなった」

「ハコか?」

「ああ」

三村の問いに答える俺。

三村によると、点棒がなくなることを『ハコる』と言うらしい。

これで、小野以外の全員が『ハコった』ことになる。


「ま、今までで一番長く続いたな」

と、一番最初に倍満というのを小野に振り込ん(※小野のアガリ牌を捨てた)でハコった峰が言う。

「三回やって、一回も半荘最後まで行けないなんて、どうなってんだよ」

と、2回目に幸先良く小野を直撃(※小野の捨てた牌で上がる)したものの、直後に三倍満とやらを小野に放銃(※自分の捨て牌でアガられる。……用語多いな)してハコった三村が言う。


「そう言えば、悠斗君は一回も振り込んでないよね?」

「オリるのが早いんだよ」

小野の問いに、三村が答える。

ちなみに『オリる』というのは、自分がアガることを諦めて、相手がアガってしまう牌を捨てないようにすることらしい。


「4回に1回上がればいいんだし。振り込まない方が重要だろ?」

と思う。

振り込むと、一人で全点支払わなければならないからだ。

実際、今回は負けたが、1回目と2回目は俺が2位だ。


「ったく、賢崎さんじゃないけど、草食だよなぁ」

「いや、三村。たぶん、澄空が正解だ。ついつい毎回アガりたくなってしまうが、ツキがない時には防御も重要。……実戦にも通じるものがあるな」

「いや、時には危険を承知でツッパらないといけないこともあるんだよ、峰。澄空の捨て牌を見てみろ。あんなに早くオリなきゃ、今回は小野より先にアガってたはずだ」

「……まるで人生みたいだねぇ」

感慨深げに小野が締める。


俺は自分の捨て牌を見てる。

なるほど。

確かに頑張れば今回は俺がアガれたもしれない。

……これは、奥が深い。


「っしゃ、もう1回……!」

「いや、ちょっと待て」

「?」

牌をジャラジャラ掻き混ぜて次のゲームの準備をしようとしていた俺たちを、三村が止める。


「もう、おまえらには期待してないから、俺が言うんだが」

と、何やら深刻そうな顔で話し始める三村。


「まさか、このまま麻雀をし続ける気じゃないだろうな?」

「?」

俺は疑問符を浮かべる。

確かに、城守さんが用意してくれたと思しきゲームらしきものが他にもあったが。


「女子も風呂に入っているし、麻雀でいいんじゃないか? 面白いよ、麻雀」

「誰もゲームの種類を問題にはしてないよ! というか、今、答え言っただろ、澄空!」

「?」

なんですと?

答え?


「女子が風呂に入っているんだぞ! なのに、男4人が顔突き合わせて麻雀って、なんだよ!」

「男子が入っている時は、女3人が顔突き合わせて何かやると思うけど……」

華やかさは天地の違いがあるが、それは俺たちのせいではない。


「そうじゃなくて……。魅力的な女の子が、一つ屋根の下で風呂に入ってたら、他にやることあるだろ?」

「…………。まさか……?」

「け、賢崎さんも言ってたろ、『草食系を否定はしませんが、時と場合によりますよ。身近にいる魅力的な異性には、とりあえず声をかけるのが礼儀です』って」

「…………それ、絶対に意味が違う」

そして、そんなセリフにだけ超記憶力を発揮する三村が、俺は若干心配だ。


「三村……。一応、言っておくが、覗きは犯罪だ。人に迷惑かける分、飲酒よりずっとタチが悪い」

真面目な峰さん、普通に止める。

「というか、捕まる前に殺されると思うけどねぇ……」

容赦ない小野さんが、ほんとに容赦ない。


まぁ、美少女とはいえ、あのメンツだからなぁ。


「止めておけよ、三村。いくら犯罪者とは言え、クラスメイトに俺の実家で死んで欲しくない」

「まだ犯罪者になってないんだが……。とりあえず、まずはお前に聞いておきたいことがある」

三村を止めようとして、逆に質問される。


「おまえ、剣の裸とか見たことあるのか?」

「!!」


「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……あるんだな?」

三村が言う。

なんという観察力。

ひょっとして、これもウエポンクラスの『幻影耐性』ってやつか(※残念属性が強すぎて忘れがちだが、一応三村もウエポンです)?


「い、いや……。麗華さん、脱衣所に着替えがないと、バスタオル一枚で取りに出て来るんだよ……」

「お前が持って行けよ!! なんで、悠長に鑑賞してんだよ!!!」

三村さんが怒る。

「い、いや……! 俺もそう言ったんだ。俺が持っていくから、服着るまで出て来ないでくれって」

「ほ……ほー。じ、じゃあ、それ以降は、もうないんだな……!?」

三村の眼が凄くヤバイ。


「い、いや、それが……。麗華さん、脱衣所に出てきて着替え受け取るんだよ……」

しかも、バスタオルなしで……。


と。

峰と小野が三村の両腕を掴む。


「放してくれ二人とも。俺は今、とても澄空悠斗を殺したい」

「「落ちつけ」」

むしろ静かでさえある処刑宣告を、峰と小野がたしなめる。


《呪われてんなぁ……》

「呪われてますねぇ……」

思わず呟く俺。

フルネームで処刑宣告されたからなぁ。


「捕まってもいい。俺は覗く。……もしもの時は、エリカのことを頼む」

峰と小野に両腕を掴まれたままの三村が、異常に格好いい。

つか、なんでエリカ?


……まぁ、何はともあれ、まだ三村に死んで欲しくはない。


「なぁ、三村。ホントにヤバイって。麗華さん怒らせたら、本気で世界が終わるくらい怖いんだぞ……」

実感を込めて言う。経験から。

「……それは、俺も分かるけど……」

三村は、そこは意外にあっさり認めた。


「というかさ、剣って、覗かれたらホントに怒るのか?」

「?」

何言ってるんだ、三村君?

「いや、澄空は、それだけ剣のHイベントに遭遇しても首飛んでないだろ? 断層剣で。剣って、覗かれても怒らないのかな、と……」

「…………うーん」

『大丈夫』の基準が、首が飛んでいるかどうか、ってのはさすがに麗華さんクオリティだけど……。

どうだろうなぁ?

確かに、裸見られたからと言って怒られたことはないけど、俺に悪気がなかったからなぁ。

でも、案外大丈夫な気も……。


「……ひょっとして、ホンキで大丈夫なのか?」

「………………。いや、やめておいた方がいい。確かに怒らないかもしれないけど、怒った時に三村が死ぬだけじゃなく、俺の実家が吹っ飛ぶ。是非、やめてくれ」

俺は懇願した。

「……確かに、澄空のご実家を吹き飛ばすのはヤバイな……」

意外に話の分かる三村は、ひとまず矛を収めてくれた。

峰と小野も、三村の両腕を放す。


「なら、賢崎さんはどうだ?」


諦めない男・三村が言う。

しかし。

……賢崎さんねぇ?


「「「「…………うーん……」」」」

四人で頭を捻って考える。

実に反応が読みにくい。


①「元気なことはいいですね。やはり、男の人は肉食でなくては」(BY三村)

②「何も言わずに仕留められる」(BY俺)

③「普通に説教されるんじゃないだろうか」(BY峰)


……どれもありそうだなぁ。

と、思っていると。


「たぶん、僕なら大丈夫だと思うよ」

「「「!」」」

小野が、まるで痛いイケメンのような、衝撃的なセリフを言った。


「お……」

「そして、悠斗君なら喜ばれる」

「?」

はい?


「達哉は当落線上。宗一君は……、残念ながら制裁だね」

「おい!」

無慈悲な一言に、三村が文句を言う。

いや、誰だって言うと思うけど。


もちろん、そもそも覗きは立派な犯罪だが。

『俺:喜ばれる。小野:許される。峰:微妙。三村:死亡』

って、一体、何の基準……。

…………ん?


「……BMP能力値の順?」

「そうだよ」

俺の問いに、あっさり答える小野。


「賢崎一族っていうのは、身も蓋もない言い方をすると、ある意味、ブリーダーみたいなところがあってね」

「ブリーダー?」

「『人類とBMP能力者の守護者』って言うだけあって、賢崎が最も力を入れているのは、BMP能力者の支援なんだよ。ただ、そもそも支援するためには、強力なBMP能力者が居ないといけない」

という小野の話を聞きながら、俺は、初めて小野と会った時の会話を思い出していた。

『賢崎藍華は澄空悠斗に一族の優秀な女性達を紹介するつもり』というアレのことだ。


「もちろん、最終的に本人達の意向を無視することはないけどね。賢崎の人達は、元々、『優秀なBMP能力者を生むことは最高の名誉であり、必要なことだ』って考えてるところがあるからねぇ」

「…………」

というか、なんで、小野がそんなこと知ってるの?

「悠斗君が、賢崎さんを覗いたりしたら、逆に襲われちゃうかもしれないよ?」

「いや、それはない」

俺は断言する。

二重の意味で、それはない。


と。


「そこまでだ!」

三村が一喝する。

……って、何が『そこまで』?


「もう、これ以上、今後予定されている『澄空が不自然にモテ始める展開』のための、設定とか理由とか言いわけなんて、まっぴらだ……」

「「「………………」」」

そないなこと言われても……。と、俺達三人は思う。


ま、いい。


「じゃあ、とりあえず、この話題はここまでで。俺たちは、健全に賭けない麻雀を心行くまで楽し……」

「まだだ!」

危険なミッションを遂行前に終了させようとした俺の言葉が、三村によって遮られる。


「剣は、家を破壊するかもしれないからダメ。賢崎さんは、俺の命が危険だからダメ。……なら」

「な、なら?」


「……エリカ……は、どうだ?」

「…………!!」

ずざざざー、という感じで三村から距離を取る俺達三人。


「み、三村……」

「宗一君……」

「三村……」

三人で身を寄せ合いながら、かつての友の名を呼ぶ。


「あ……。ち、ちょっと待った。今のは……」

という三村のセリフを遮るように。

「確かに、彼女なら家を破壊することはないだろうけど……」

峰が戦慄する。

「仕留められることも、たぶんないけど……」

俺は恐怖する。


「泣かれたら、どうするの?」

そして、小野が断罪する。


……そうなのだ。

安牌そうに見えて、実は一番、それもぶっちぎりで危険な所なのだ。

さすが、三村さん。

マジパネェぜ。


「ま、待て! ちょっと待て! ごめん! 今のなし! 今のなしだから!」

と、三村が言っているが。

俺たちは止まらない。


「責任とか取らないといけないのか? こういう場合」

硬派な峰らしい意見。

「その前に、エリカって、彼氏とかいないのかな?」

俺が現実的な所を気にする。

「居なかったとしても。……ねぇ」

という小野の声にで、俺達三人は三村の顔をじっと見つめる。


確かに、イケメンではある。

残念補正を除いて見れば、外見だけなら、エリカと並んでも遜色ないくらいの美形ではある。

だが。

エリカの美点は、どちらかというと外見より内面に多いからなぁ。


結論:『ちょっと厳しい』


「すまん、三村。やっぱり、ただの犯罪と言うことになった」

俺達三人を代表して、峰が評決を下す。


「ああもう! 分かったよ! 俺が悪かった! 覗かない! 覗きは犯罪! さ、やるぞ、麻雀! 意地でも小野をハコるぞ!」

自分でもかなりマズいことを言っていた自覚はあるのか、三村が顔を真っ赤にして叫ぶ。


ま、何はともあれよかった。

俺のクラスメイトがインポッシブルなミッションに挑むことにならなくて。

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