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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
119/336

お酒が飲める年齢まで

「さて、このままいつまでも待っていてもキリがないので、私が聞くことにしますね」

食後。

エリカの淹れてくれた(※なぜか俺が淹れたものより格段に美味い)コーヒーを飲んでいる時に、突然賢崎さんがそう言った。


「ナ、ナックルウエポン?」

「こういうことは単刀直入な方がいいんですよ、ソードウエポン」

「そ、そうなの……?」

麗華さんと賢崎さんの会話。

一体、何の話だ?


「と、言う訳で単刀直入に聞きます、澄空さん」

「は、はい」

「あの『ブラックフェアリー』。どこで手に入れたんですか?」

「?」

は?

ブラックフェアリー?

何それ?


「? あー……。えっと。黒い蝶を模った髪飾りです。高価そうな」

「! ど、どうして、それを!」

俺は驚愕する。

俺ですら、今日発見したキーアイテム(※っぽいアイテム)なのに!


「秘密というものは、本人が思っているほど秘密になっていないものなんですよ」

「はー」

さすが、賢崎さん。

周りのみんなが凄い気まずそうな顔をしているのは気になるけど。


ま、いいや。


「ちょっと取ってくるよ」


◇◆


という訳でちょっと取って来て、賢崎さんに見せることにした。


賢崎さんは、まるで本物の美術品を扱うかのように、慎重に、かつ丁寧に鑑定している。

三村言うところの『スキル上限なき美少女』であるからして、賢崎さんに鑑定スキルくらいあっても驚かないけど、あの真剣な表情は気になる。


そうやって、俺たちが固唾をのんで見守る中。

賢崎さんは、『ブラックフェアリー』なる髪飾りを箱に戻して、長い息を吐く。

鑑定が終わったのだ。


「間違いありません。本物のブラックフェアリーです」

と言われても、俺には何がなんだか。


「そのブラックフェアリーってのは、高級品なの?」

「………そうですね。まったくお勧めはしませんが、売る気があるのなら、私が買い取ります。今すぐBMPハンターを辞めても、残りの人生、遊んで暮らせるかと」

「「ま、マジで……?」」

俺と三村がハモる。


「生産数は200個なんですが、ほとんど現存していません。実は、私も、今日初めて国内にもあることを知りました」

「こ……国内に、これ一個……?」

思わず呟く。

そんな超レアアイテムが、何故、我が家に?


「それだけじゃありません。このブラックフェアリーに打たれた刻印ナンバーなんですが……」

「う、うん」

「『187』番なんです」

「「「「「「……………………」」」」」」

俺たちは、そろって絶句する。


「200個生産されたので、『187』があってもおかしくはないんですが、どうして、それが『BMP187』澄空悠斗の手元にあるのか?」

「………………」

「三村さんは、このブラックフェアリーは、とても裕福な方から特別にプレゼントされたものだと言いました。私も同意見です。しかし……」

「し、しかし……?」

「高価なプレゼントにも程度があります。しかも、悠斗さんのBMPと同じ刻印が打たれた、国内に、いえ、世界に一つだけの特別な品……。それこそ将来を誓い合った人にでもなければ渡しません」

「………………」

「答える義務も必要もありません。私には、聞く権利もありません。しかし、質問だけはさせてください」

「う、うん……」


「この『ブラックフェアリー』。誰にもらったんですか?」


「……」

「……」

「…………」

「…………」

沈黙。

賢崎さんは、『私には』と言った。


「悠斗君……」

「あ、ああ」

「できたら、私も、聞きたい」

「…………う」

タイミングが良くない。

麗華さんに隠し事なんかするつもりはなく、『ごめん、覚えてないんだ』と言えば(※すくなくとも今は)済む話なのだが。

今は、賢崎さん達が居る。


選択肢は二つ。

①この場は『話したくない』と言い、後で麗華さんに説明する。


…………。

隠すことないか。


「みんな。これから、ちょっとした秘密を話す」

「ゆ……!」

何かに気付いたような顔をして、立ちあがりかける麗華さんに、目配せで合図する。

『大丈夫だ』と。


「俺はともかく、他にも迷惑をかける人がいる話だから、オフレコでお願い」


◇◆


「と、言う訳なんだけど」

ということで俺は語り終えた。


①俺は、元々はBMPが103しかなかったこと。

②小学校の頃、首都橋でクリスタルランスと闘い、俺の身体を案じた緋色瞳さんに記憶を封じられたこと。

③BMP187に耐えられる年齢にまで成長し、クリスタルランスとの闘いも思い出し、アイズオブクリムゾンの呪いも解けたはずなのに。

④なぜか、小学生までの記憶が戻らず、このブラックフェアリーについても思い出せないこと。


全て話した。


「……」

「……」

「…………」

「…………」

沈黙。


「……と、という訳で、そのブラックフェアリーについては正体不明ということで……」

と言ってみるが。

もう、そういう雰囲気ではなかった。

やっぱり、これは結構重い話題らしい。

三村が、『俺を倒してからにしろ』と騒ぎ出すような展開からは程遠い。


……俺自身は、そんなに気にしてないんだけどなぁ。


と。


「なぁ……」

三村が口を開く。

「さっき、冷蔵庫の凄い見つかりにくいところでビールを見つけたんだ」

「?」

はい?


「……飲んでみないか?」


「…………」

これは、話題の転換ということでいいんだろうか。


「あまり固いことは言いたくはないが……。BMPハンターは正しくあるべきだ。ちょっとしたことでも法令違反するのはどうかと思うぞ?」

真意を測りかねるかのように峰が言う。

「いや、でも、国会で飲酒年齢の引き下げが審議されてないか? 『お酒の味も知らずに死ぬのは不憫だ』って」

と言う三村の話は俺も聞き覚えのあるニュースだが。


「その案なら、否決されました」

「可決してても、私達の年齢ではやっぱり飲酒禁止」

両ウエポンは容赦なし。


しかし。


「この中で、ひょっとしたら、飲酒できる頃には生きてない奴がいるかもしれないんだぞ……」


三村のセリフは、全員の心を抉る。

人の命に絶対はない。

今の世の中、誰でも普通に天寿を全うできる訳じゃない。

まして、俺たちはBMPハンター。

最強無敵の麗華さんでさえ、それこそ絶対はない。


「実ハ、私モ……。最近、良ク幻影獣に殺されル夢を見るんデス……」

「え?」

エリカのセリフに、三村が振り向く。

「最近、上手クBMP能力を使えるようニなってきたト思っタラ……。なんダカ、自分ガ戦闘することモ、それカラ死ぬことモ現実味を帯びてきたようナ気がシテ……。これっテ、変デショウカ?」

「…………」

変な訳がない。

とても自然な感覚だ。


どういう化学反応なのか分からないが、俺の話がきっかけで、こんな空気になってしまったのは間違いない。

酒を飲んだくらいでどうにかなる問題ではないけど。

そもそも、酒はこういう時に飲むものであるような気もする。


「どうします、澄空さん?」

賢崎さんが口を開く。

「BMP能力者の守護者を名乗ってはいますが、私もそこまで石頭ではありません。良ければ、共犯になりますよ」

「…………う」

止めてくれると話が早かったんだけど。


「俺も、澄空の判断に従おう。一生に一度くらい、法令破りも一興だ」

「じゃ、僕も」

婚姻届に判を押す寸前のような峰と、妙に軽い小野。

……というか、なぜ俺に判断を委ねる?

「俺も、澄空の判断なら異存ない」

「私モデス」

三村とエリカ。

だから、何で俺が決めるの?


「悠斗君」

「れ、麗華さん」

「どっちでも大丈夫。どちらも間違いじゃないと思う」

「あ、ああ」

そうじゃなくて、『俺が決める』ことになっている空気をなんとかして欲しかったんですが!


仕方ない。

俺が決めるしかないらしい。


確かに、どちらを選んでも間違いではないかもしれない。

だが、取るに足らない選択肢かどうかはすぐには分からない。


良く。

考えて決めよう。


「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………」

しばしの沈黙。

そして。


「……そうだな」

俺は息を吐く。


「やっぱり、やめよう」

「澄空……」

俺の結論に、非難の色はほとんど含ませずに三村が俺の名前を呼ぶ。


「秩序を取る、ということですか?」

「いや……」

賢崎さんの言葉を否定する。


「生きているうちに酒を飲んでしまうんじゃなくて、胸を張って酒を飲める年齢になるまで、全員生き残る」

「え……?」

と賢崎さん。

「酒を飲める年齢まで生きられないかもしれないのは、俺たちだけじゃない。その人たちのために闘うのが俺たちの仕事なんだったら、俺たちは全員がそろって飲酒できる日まで生き残る」

「……君が言うなら」

と小野。

「無理強いはしない。それが正しいと言うつもりもない。けど、今日はその選択肢を選びたい」

「……国会でも、ほぼ同じ理由で否決されました。『子供たちが死ぬ前にお酒を飲んでもらうのではなく、飲める年齢になるまで守るのが大人の役目だ』と。議員の先生方もきっと喜びますね」

と賢崎さん。

「そっか」

立法者の意図を汲めた、ってやつかな。


「もちろん、エリカだって死なせるつもりはないぞ」

「ハ……イ」

とエリカは少しまなじりに手をやって。

「澄空さん……。私ヲ口説いテモ、いいコトないデスよ……♪」

別に口説いとらん。


「じゃ、じゃあさ、チームを組まないか?」

なぜか三村が慌てたように、突然提案する。


「チームって、BMPハンターチームか?」

「そうだ。実力が違いすぎるのは分かってるけど、新月学園を卒業するくらいまでならいいだろ?」

峰の問いに答える三村。


なるほど。

悪くない提案だ。


が。


「でも、BMPハンターチームって、BMPハンターじゃないと組めないよね。エリカさん、仲間外れにするの?」

がっ!!

どうやってそこをごまかそうか考え始めていた俺の前で、小野がいきなり爆弾投下した!


「いっ! い、え!? あ、あの……! えっ!」

悪くない提案の大穴に気が付いて、三村が顔面蒼白になって慌てだす。

「あ、アノ……気にしないデくだサイ。私ハ、大丈夫デスから……」

というエリカだが。

もちろん大丈夫な訳がない。


「いや、大丈夫だろ。エリカのBMPはもう120は超えてるはずだ。ちゃんと測定してハンター登録すればいい」

冷静な峰が言う。

なるほど、その手があった。

「待っテもらっテ……、いいんデスか?」

「むしろ、全員居ないと意味ないよ」

「……ハイ♪」

当たり前のことを言った俺に、エリカが満面の笑みで返す。


そして、『これでいいよな』的な視線を三村に送る。


「もちろん100パーセントOKだが、俺は今、どうやったらお前と二・三枚目属性を交換できるか考えている」

と三村。

異存はないらしいが、例によって彼が何言っているのか分からん。


「BMPハンターチームとなると、名前が要るよね」

小野が楽しそうに議題を挙げる。


「確かに、チーム名がないと申請できなかったはずだ」

事務的なことが気になる峰。

「名前……。なにがいいかな」

考え始める麗華さん。

「ミスリルソードとかドウデスか?」

「悪くないけど、クリスタルランスを意識してるみたいに見えるかもしれないぞ」

「……ナルホド」

「でも、逆にそれがいいかも。なんせ、こっちには『首都橋の悪魔』が居るからな」

エリカさんと三村君から、『ミスリルソード』出ました。

……でも、首都橋の悪魔、については内密にね。


で。


「賢崎さんは、何か案ある?」

「え? 私も入っていいんですか?」

「え? あ、まずかったかな?」

少し反省する。

確かに、賢崎さんは忙しい人だ。

同じ『超お嬢様系万能美少女』でも、麗華さんとはまた少し立場も違うみたいだしなぁ。


「あ、いえ、そういうことではなく……」

「?」

「……そういう反応をされると……。困りましたね。あまり節操なく口説くのもどうかと思いますよ?」

「なんで!?」

俺、いつ、口説いたの!?


「冗談です」

と、賢崎さんは少し微笑み。


「BMPハンターチームですか。これで、私も皆さんの仲間ということですね」

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