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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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作れ! カレー2 ~炎の章~

実際。

彼女にとっては、危険でもなんでもなかった。



タタタタタタタタン、という小気味のいい音が響く。

人差し指と中指で刃を挟む、という危険極まりないスタイルなのに、ガチで包丁を使っている時の俺の3倍は早い。

信じられん。



「デ、出来る人ハ、何やってモ凄いんですネ……」

「天は二物を与えずというが、例外もあるか」

「だねぇ」

「スキル制限とかないんだなぁ、この人」

最後が三村だというのは分かると思うが。

とりあえず、上からエリカ・峰・小野である。


しかし、ほんとに凄いなぁ。


「どうです、澄空さん?」

「え?」

「私も意外と家事スキル高いと思いませんか?」

「そ、そうだな……」

と答えてしまう俺。

『どっちかと言うと暗殺スキルが高いように見える』とは口が裂けても言えない。



まぁ、俺の料理の参考には全くならないが、とりあえず、今日の晩飯は大丈夫そうだ。



と胸を撫で下ろしていると。



「なぁ、澄空」

不安そうな三村二等兵の声が聞こえる。

同時に、俺も凄まじく不安になる。


「……なんだ、三村」

嫌々ながらも聞く俺。


コンロのあたりで何やらガチャガチャやっていた三村は、やがて何かを諦めたかのように俺の方を振り返り。



「ガスもない」





弁当男子プチクッキングって言うのは、どうかしら?」

さっきまで何やらうんうん悩んでいた志藤美琴が、突然顔を上げて妙なことを言い出した。


「なんの話? 美琴ちゃん?」

「いやほら。新月学園って、BMP能力者の巣窟でしょ? そういうBMP能力を持っている子が居てもおかしくないと思うの。なんと、包丁がなくても料理ができるスキルよ!」

「それを悠斗君が複写してると?」

「うん」

「その弁当男子プチクッキングでピンチを脱する、と?」

「うん。しかもエロイベントフラグになる」

「……という展開で漫画を描くのね」

「うん!! しかも、悠斗×峰」

「……そこあんまり重要ないよ?」

「いいの! 今、私がそこ描きたいの!」

とても良い笑顔の志藤美琴。

どうやら、投げたらしい。



が。



「まぁ、それはいいわ」

「い、いいの?」



「それより気になることがあるのよ」

と、眼鏡の位置を直しながら言う雛鳥結城。

率直に言って、今から誰かを糾弾しようとしているようにしか見えない。


「……な、なに? 結城ちゃん……?」

「この『美琴ちゃんが悠斗君達のためにしてあげた♪ こと一覧』を見てたんだけど」

「う……うん」



「ガスは通した?」



「……」

「……」

「……電気と水道と電話とインターネットは通したよ……?」

「カセットコンロとか、IHとかでもないのね?」

「布団はちゃんと七組用意したし! エアコンも最新式のエコでマイナスイオンもバンバン出る奴だし! 各種カードゲームと麻雀……は元からあったから用意してないけど、ゲーム機とかも多人数で盛り上がるやつ用意したし! お風呂は、いつ始まってもいいように大きめかつ清潔で、なのにどこかムーディーな内装でまとめたし!! シャンプーだって、一番悠斗君の好みにあってそうな奴をだいたいの予想で選んだし!!」

「で、ガスは?」

「……私、普段料理とかしないから」

ダメダメである。





「駄目だな、これは」

俺は断定した。


俺の目の前にあるのは、どこからどう見ても、ガスがなければ燃え上がらないガスコンロである。

カセットコンロでも、卓上IHでもない。

もちろん、オール電化でもない。

ただ、お風呂は電気温水器らしい。

いや、それはともかく。


「せっかく賢崎さんが野菜切ってくれたけど、やっぱりここは、ピザでも取るしか……」

「ちょっと待って」

「?」

横合いから声を挟まれて止まる。


声をかけてきたのは、麗華さんだった。


「麗華さん?」

「ここは、私の出番みたい」

……いや、麗華さんの出番ではないと思うんですが。


「悠斗君? 何か不満なの?」

「あ、いや、不満ではないんだけど……」

と、どう答えたものか迷っている俺の前で。


「つんつん」

三村が麗華さんをつついていた。



「何? 三村?」

「剣、それじゃだめだ。こういう時は『こういう時は麗華にお任せ♪』と言わないと」

親指を立てながら、とてもいい笑顔で言う三村。



「…………」

……なんでこいつは二枚目のくせに、無理に残念属性を付与したがるのか分からない。



と思っていると。



「こういう時は、麗華におまかせ」



「!」

言っちまった!!

麗華さんが、胸に手を当てながら、無茶苦茶無表情かつ抑揚の乏しい口調で。

凄ぇ!

何か、色々、来る!



「凄ぇ!」

「ああ、凄ぇ!」

三村と共に馬鹿二人で盛り上がる。



まぁ、『ウエポンクラスは幻影耐性があるから嘘が通じにくい』というのはどうもガセらしいのは分かった。



と。



幻想剣イリュージョンソード・炎剣レーヴァテイン」

いきなり、麗華さんがレーヴァテインを召喚した!



「「「「……………………」」」」

未来を見通せる賢崎さんと、伏線(※チャーハン事件のことな)を知っている俺以外のメンツは、あまりの状況にポカーンとしている。


それはそうだろう。


いくらガスが来ていないからって、一般家庭の台所で、地獄の炎剣を召喚する人間がどこにいる!?

まぁ、ここに居るけど!!



「れ、レレレレレ、麗華さん!!」

「大丈夫、悠斗君」

という麗華さんは信じたいが、ビジュアル的にどう見ても大丈夫には見えない。

スプリンクラーは、ないのか反応してないのか、今のところ俺達は水浸しにはなっていないが、もう少し炎剣の炎が大きくなると、台所の壁が発火しそうである。



が。


「ふっ……」

と、麗華さんが息を吐く。

地獄の炎剣に相応しい迫力で燃え盛っていた魔剣の炎が、徐々に小さくなっていく。



そして。



「どう、悠斗君?」

「見事でございます……」

と言うしかない。

炎剣の炎は、今や、まさしくガスコンロの火並みにまで小さくなっていた。


「「……………」」

峰と小野も、ポカーンとしている。


「あ、アノ……。これっテ、やっぱリ凄いんデスか?」

イマイチ実感が湧かないらしいエリカは質問してくるが。



凄いです。



幻想剣使いでない諸兄にも分かりやすいように説明すると、消防車のホースでカクテルを作るようなイメージです。

俺には無理。


ただ。



「いくら貴方でも、その火を料理に使うのは無理だと思いますよ。ソードウエポン?」

賢崎さんが言う通り。

カレーの煮込み時間は、30分とかかかる。


いくら麗華さんでも、その間、この状態を維持するのはまず無理だろう。



が。



「ううん、大丈夫。悠斗君、見て」

と、セットした鍋の下に慎ましい炎を燃やすレーヴァテインを差し込んだかと思うと。



ぱっ、と。

手を離した。



「「「「「「………………」」」」」」

俺たちは揃って絶句する。


なぜなら。

麗華さんが手を離したにも関わらず、レーヴァテインはそれまでと変わらず、ガスコンロ代わりの慎ましやかな火を立て続けていた。



覚醒時衝動状態の俺がやっていたらしいから、可能だとは思っていたけど……。



「幻想剣を手から離した状態で、具現化し続ける……?」

「しかも、ガスコンロ状態維持……?」

峰と三村が呆然としている。



「どう、悠斗君? 幻想状態のロック。あの時の悠斗君以外にこれができる人見たことないから、私だけのオリジナル技だと思うの。発想の勝利かな?」

ちょっとだけ得意そうに話しかけてくる麗華さんだが。


たぶん、全国の幻想剣使いさん達は、これを思いつかない訳ではなく、できないんだと思う。

もちろん、俺も無理。



幻想剣使いでない諸兄にも分かりやすいように説明すると、良く躾けた飼い犬の『お手』で、この文章をタイプするくらいの難易度である。



「人間でも……ここまで極められるものなんだね……」

「レ……麗華さん、格好いいデス……」

小野が悪役的に、エリカが恋する少女的に感動している。


「これだけの超スキルを、良くまぁ、ここまでくだらない用途に使えますね……」

一部の眼鏡っ子には不評のようだが。


なにはともあれ。



どうにか、カレーは食べれそうである。

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