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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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作れ! カレー ~刃の章~

「あの……悠斗君?」

「ん? 何? 麗華さん?」

「その、さっきのブラック……」

「? ブラック?」

「……なんでもない」


いきなりで申し訳ないが、上記は俺と麗華さんの会話である。

文字面だけ見ると淡白だが、結構思いつめた様子で聞いてきたので少し気になった。


『さっきのブラック』とは一体……?


「……仕方ないですねぇ」

そんな俺たちを見て、若干呆れたように賢崎さん。

「では、とりあえず晩御飯にしましょうか?」

そして、夕食の提案をしてくれた。


少し早い時間だが、確かに腹は減っている。

そういえば、昼飯を食った記憶がない。


「ポテチ食ったからなぁ」

「俺らは食ってないんだよ」

と、三村に怒られた。

「……すまん」

どうも、俺のせいらしい。


しかし……。


「この辺、飲食店なんかあったか?」

と峰が言うとおり、俺もここに来る途中、それらしきものを見た記憶がない。

「駅の近くにコンビニはあったけどな」

と三村が言うが、駅自体が結構遠い。歩いて30分くらいはかかる。

「出前を取るという手はあると思いますけど……」

と賢崎さんが言うような手段もあるが。


せっかくのお泊まり会だしなぁ。


だめもとで冷蔵庫を開けてみるか。

城守さんのことだから、何か入れてくれているかもしれない。


ということで、冷蔵庫を開けてみる。


が。


「…………」

なんだろ、これ?


「どうした、す……」

と、後ろから覗きこんできた三村も黙る。


電源は入っていたが、冷蔵庫の中身は少なかった。

ポケットには、飲み物。これは助かる。

そして、棚には。


「人参、玉ねぎ、ジャガイモ、肉……」

それから、市販のカレールーが何種類か。

どうみても、カレーの材料である。

そして、それ以外には何もない。


「……さすが城守さん」

イケメンの考えることは分からん。

これみよがしにカレールーまで冷蔵庫の中に入れていることも含めて。


「カレー……。作るンですカ?」

覗きこんできたエリカが言う。

まぁ、あえて、この冷蔵庫に背を向けてピザを発注するという手もあるが。

さすがにそれは、城守さんに悪いだろう。


「作るか……」

玉ねぎを手に呟く。

カレーは、『飲食店でバイトしていたが、実際には料理などさせてもらえなかった』俺が唯一作れるメニュー。

これなら、なんとか……。


「ん? いや……待てよ」

と、きょとんとこちらを見上げてくる金髪碧眼の美少女を見る。

ソード・ナックル両ウエポンがチート過ぎるだけで、この子も反則級の美少女である。

……いや、そうではなく。


「エリカ……に、カレー作ってもらっていいかな」

提案してみる。

思い出すのは、先日の体育祭での重箱弁当。

そう。

エリカは……。いや、エリカ先生は、金髪碧眼なだけではなく、料理が凄まじく上手いのだ。


カレーぐらいなら誰が作っても変わらないかもしれないが、もしエリカのカレーがとんでもなくうまいのであれば、学習してうちで作れば麗華さんも喜ぶ。


「? いいデスけど……?」

と、俺から玉ねぎを受け取るエリカ先生。

その仕草がすでにプロっぽい(※ように見える)。


と。


「なぁ、澄空」

三村が不安げに声をかけてくる。


「なんだ、三村?」

「ピーラーがないぞ」

「はっ……」

俺は、三村二等兵を嘲笑う。


今から誰が料理をすると思っている?


「俺なら、ピーラーがなければ敵前逃亡確実だが、エリカ先生なら、じゃがいもごとき包丁で楽勝だ」

「いや……、それがな澄空……」

「なんだよ、峰」

峰上等兵まで不安げな顔をしている。


エリカ先生がいらっしゃるというのに、一体何が不安……。


「包丁もない」


「……」

「……」

「…………」

「…………は?」

思わず聞き返す。


「色々探してみたんだが、包丁が一本もない」

「…………」

さすが城守さん。


マジパネェぜ。



☆☆☆☆☆☆☆



「悠斗君達……。そろそろ夕食かなぁ」

BMP管理局本局オフィス。

BMP管理局の誇る最強腐女子……ではなく敏腕オペレーター・志藤美琴が呟く。

「そうね。悠斗君たち、お昼食べてなかったから」

と答える眼鏡をかけた小柄な女性は、雛鳥結城。

複合電算シミュレータの称号を持つBMP能力者にして、美琴の同僚である。


「せっかく悠斗君が唯一作れるカレーを用意したもんね。使ってくれるといいなぁ」

「たぶん、大丈夫だと思うわよ」

眼鏡の位置を直しながら答える結城。

その間にも、物凄い早さでパソコン入力している。


「エロイベント起こるかなぁ……」

「さすがに無理かと」

言いながらも、手は休めない。


志藤美琴も優秀な女性ではあるが。

結城の方が3倍は早い。

なので、一緒に帰れるようになるまで、次々と美琴の仕事を奪い続ける。


「うぅ。早く帰りたいなぁ。女子会しながら、三村君の報告を待ちたい」

「なら、仕事する」

呆れたように言い。


少しパソコンから離れる。


「ところで、美琴ちゃん」

「ん? なになに結城ちゃん?」

「この『美琴ちゃんが悠斗君達のために発注した一覧』を見て、少し気になったんだけど」

「うんうん」


「包丁、買った?」


「……」

「…………」

「……スプーンと、フォークとお箸は買った」

「包丁は?」

「まな板と、ボウルとお皿とコップと、鍋とやかんとお玉と。あと、ちょっと見つかりにくいところにサプライズでサラダ用の野菜も!」

「包丁は?」

「……私、普段料理とかしないから……」


ダメダメである。



☆☆☆☆☆☆☆



「駄目だ……」

ちょっと見つかりにくいところにサプライズでサラダがあったが、包丁がない。

これはもう出前しかないかもしれん。と思っていると。


「あノ……悠斗さん?」

と、エリカが近寄ってくる。


その手には……?


「ナイフ……?」

のようなものが握られている。


もちろん普通のナイフじゃない。


半透明で、まるでクリスタルのように輝く。

両刃で。

しかも、柄がない。


「こ……これは?」

豪華絢爛ロイヤルエッジヲ加工してみまシタ」

胸を張って言うエリカ。

ただし、持ち方が非常に危なっかしい(柄がないんだから、当たり前だが)。


にしても。

豪華絢爛ロイヤルエッジは、本来、空間に不可視の刃を固着するBMP能力。

一度布陣した刃は、消すしかなかったはずだが。

まさか、持ち歩けるタイプを新たに創り出していたとは……。


「棒倒しの時といい、最近凄いなエリカ」

「ありがとうございマス!」

峰の賞賛に心からの笑みで答えるエリカ。

俺も、棒倒しでの活躍は後で聞いた。

そして、このクリスタルナイフも凄い技術だと思う。

ただ、今これを幻創した理由が凄い気になる。


……まさか、と思うんだが。


「デ、ですネ。これデ、料理ヲ……」

「「駄目に決まっている!!」」

俺と三村の声がハモる。


「でデモ……こうヤッテ持てバ……」

と、凄まじく危なっかしい持ち方を披露するエリカ。


「無理無理無理。絶対、手、切るって!」

三村が本気で心配している。

確かに、あれは危なっかしい。

というより、あのナイフで料理をするのに必要なのは、たぶん料理スキルじゃないと思う。

暗殺スキルに近い何かだ。


「で、デモ……。私ガ料理しないト、みなさんノ晩御飯ガ……!」

「俺達がパシる! パシるから、絶対それで料理はするなよ! いいな! 絶対だぞ!」

と、真剣な表情で三村がエリカに詰め寄る。

「は、ハイ……」

エリカも素直に頷く。

三村は元がいいから、こういう真剣な顔をすると普通に格好いい。


イケメンは得だなぁ……。

と、若干ひがみながらも三村と共にパシろうとしていると。


「ひょいっと」

「ハイ?」

エリカの手から、クリスタルナイフが奪われる。


奪ったのは……。


「け、賢崎さん?」

という俺の声に。

「本当に『動かせる刃』なんですね。今までの豪華絢爛ロイヤルエッジの仕様を考えると、この応用力は素晴らしいです」

うっとりとクリスタルナイフを眺めながらの賢崎さん。

前後の文脈を読んでいなければ、普通に危ない人にも見える表情である。


まぁ、それはともかく。


「ご心配なく。私は、こういうの得意です」

と。

苦手なものなんかなさそうなクール美女は、クリスタルナイフを優雅に構えた。

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