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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
115/336

『フルボッコ』の恐怖

チャイムの音が響く。


「ん?」

俺は、少し驚いた。


この家は、もう十年近く使われていないはず。

来客など、あるとは思えないんだが……。


「あ、いや」

そうでもないか。

ずっと城守さんが管理してくれてたんだ。

その関係者の可能性が高い。清掃関係とか。


「ほんとにありがたいよな」

やっぱり新月を卒業したらBMP管理局本局付けになるかな、と考えながら、受話器を取る。


「はい、もしもし」

「も……もしもし?」

エライ可愛い声だな。

そして、なぜ疑問形?


「どちら様ですか?」

「つ……剣麗華です」

「…………?」

なんて可憐な名前の清掃会社だ。


◇◆


玄関まで出迎えた俺を待っていたのは、清掃会社ではなく、美少女の方の剣麗華さんだった。

あと、5人ほど俺のクラスメイトが一緒にいた。


とりあえず、1階のダイニングに案内する。

やたらとデカいテーブルがあったので、7人全員が座ることができた。


配置的には↓


お誕生日席:俺。

俺の左側(近くから順に):麗華さん、エリカ、三村。

俺の右側(近くから順に):賢崎さん、小野、峰。


という感じだ。


それはともかく。


「え、と。麗華さん? 今日……」

「それはね悠斗君悠斗君が部屋を出た後急にスケジュールを勘違いしていたことに気付きせめて見送りくらいはしないといけないと思って慌てて駅に向かったんだけどそこでナックルウエポン達と偶然出くわして悠斗君皆にもメール送ってたんだそこでもたもたしているうちに声をかけそこなってせっかく来たのにこれじゃ残念だと思ってちょうど体育祭後休暇中だしみんなで悠斗君の実家に旅行に行こうということになったの迷惑だった?」

「…………」

とりあえず。

我が国の言葉は、句読点がないと凄まじく聞き取りにくい。

そして、麗華さんは長文が好きじゃない印象があったので、ちょっとびっくりだ。

しかも、普段の抑揚の少ない口調でやるもんだから、棒読み感が半端ではない。


「…………」

どうしよう?


普段の俺なら、ただひたすら混乱しまくっているシチュエーションなのに、麗華さんの眼を見た瞬間、なんとなく事情が分かってしまった。

むしろ分からないほうが良かった。

が、分かってしまったものは仕方がない。


上手く返答しないと麗華さんに恥をかかせることになりかねない。

俺は嘘が苦手だからなぁ(※倫理的にじゃなくスキル的に)。

だが、やるしかない。


自然に。

自然に……。

自然に!


「そっか。いや、もちろん迷惑なんてことはないよ。見ての通り、今この家、俺しか居ないし」

噛みもせず、キョドりもせず。

ほぼ完璧に俺は返答した(※と思う)。


が。


「悠斗君の……いじわる……」

「!」

めちゃくちゃ可愛く拗ねられた!

何故!?

ほぼ完璧な返答だった(※と思う)のに!!


と。

つんつん、と右側の人から突かれる。


「賢崎さん?」

「良い機会……という訳でもないですが。せっかくなので、ウエポンテイマーとして知っておいた方が良い知識を教えます」

な……なんですか?


「ウエポンクラスには、嘘が通じにくいんです」


「…………はい?」

「正確には『幻影耐性』と言って、幻覚とか精神攻撃とか『欺こうとするもの全て』に対する耐性なんですけどね。ウエポンクラスの固有スキルです」

「…………」

「もちろん個人差はありますが。とりあえず、ソードウエポンには下手な嘘は通じないと思っておいた方が安全です」

「…………」

なんすか、その素敵なパッシブスキルは?


やばくないか?

俺、今まで、麗華さんに変(かつ下手)な嘘ついたことないだろうな?


「…………」

いや、とりあえず問題は今だ。


どうしよう?

「もう。しょうがないんだからぁ、寂しかったんだよね(はぁと)麗華さん」的な回答の方が良かったのか?


「女性に恥をかかせるようなセリフは、私が許しませんけど」

と言う賢崎さん。

……どないせぇっちゅうねん。


と。


「『最初から剣を誘う』が正解だったに決まっているだろ?」

三村(男前ヴァージョン)が言う。

「そうだな。俺でもそう思う」

「達哉でもそう思うことあるんだ」

峰と小野が続く。

「だいタイ、『退屈だカラ、声が聞きタクなっタ』デ、なんデ三村さんに電話するんデスか? 麗華さんヲ馬鹿にしてルンですカ?」

エリカが珍しく憤慨している。

「草食系を否定はしませんが、時と場合によりますよ。身近にいる魅力的な異性には、とりあえず気がある素振りを見せておくことも必要です」

賢崎さん(結婚カウンセラーヴァージョン)もたたみかけてくる。


《愛されてんなぁ……》


「いやいやいやいや……」

フルボッコじゃないですか。


と。


「ん?」

「どうした、澄空?」

「いや、誰かに話しかけられた気がしたんだが……。気のせいか?」

三村の問いに答える。


いや、まぁ、それはともかく。


「気が利かなくて、すみませんでした」

とりあえず、俺は謝った。


◇◆


「なるほど、そういう視点はなかったなぁ」

麗華さんの得意セリフを呟いたのは俺。


ちなみに『残りのAランク幻影獣が俺を狙う可能性がある』という視点についての話をしています。


「まぁ、そういうことです。ちょっとした行き違いで後をつけることになってしまいましたが、麗華さんの言うことは間違っていません」

確かに賢崎さんの言うとおり。

ガルアが『四聖獣』と名乗っていたから、あと三体居る可能性がある。


「こっちにもBMP管理局の支部はあるけど、悠斗君を護衛できるようなBMPハンターはそんなにいないから」

機嫌が直った麗華さんが言う。

「いや、俺、そんなに強くないと思うんだけどな……」

「経験の有無ではなく、単純に出力の問題です。拳銃をいくら極めても竜を撃ち殺すことができないように」

「え?」

少し強い口調の賢崎さんに、思わず顔を向ける。


「だから拳銃に役割がない、という訳ではありませんけどね。澄空さんにしかできないことがあるという話です。謙虚は美徳ですが、もう少し自分の重要性を認識してください」

「す、すみません」

こういう時の賢崎さんは、単純に怖い。


「という訳で、澄空さんがこっちに滞在する間は、私達も近くに居ますので、何かあれば呼んでください」

と、一転して優しい顔になり、携帯を振る賢崎さん。


「近くって……」

この辺、ホテルなんかあったかな?

「とても近くです」

とドヤ顔の賢崎さんと、なぜか若干顔を伏せる三村達。


しかし、近くに泊まるくらいなら。


「いっそのこと、ここに泊まらないか?」


「エ? いいンですカ?」

「ああ。今、家族もいないしな。もちろん、みんなが良ければだけど」

エリカに答える俺。


「私は、最初からそのつもりだった。元々一緒に住んでいるし」

「だからと言って、ご実家に泊まるのは少し意味が違うと思いますが。……まぁ私も泊まります。」

「もちロン。私モ泊まりマス!」

麗華さん、賢崎さん、エリカが賛成する(※なぜか、エリカが一番うれしそうだった)。


「美少女が3人♪ ここで泊まらないとか言いだす奴は、男じゃないな♪」

「正直、剣と賢崎さんが居れば、俺なんかが戦力になるとは思えないが。居ないよりはましか。泊まらせてもらう」

「そう難しく考えないで、普通に楽しめばいいんだよ、達哉。あ、僕も泊まるね」

男性陣も賛成する(※三村がやばいくらい嬉しそうだった。男が♪なんか使うな。)。


まぁそういう訳で。


お泊まり会することにしました。



☆☆☆☆☆☆☆



一方、その頃。

BMP管理局本局にて。


「志藤君、ちょっといいですか?」

と呼ぶのは、BMP管理局長にして歴代最強の城守蓮。

「はい。なんですか、城守局長?」

答えるのは、(ある意味)BMP管理局最強の志藤美琴。


「念のため、悠斗君が泊まる予定のホテルを聞いておこうと思いまして」

「いえ、ホテルには泊まりませんよ」

「え?」

きょとんとする蓮。

確かに、彼女に、里帰りした澄空悠斗が泊まるホテルの手配を頼んでおいたはずなのだが。


「せっかくの里帰りじゃないですか。ご実家に泊まるのが一番ですよ」

「いえ、しかし……。知っての通り、悠斗君の家は……」

「大丈夫です。電気と水道と固定電話は通しておきました。あ、これ、悠斗君のご実家の電話番号です。携帯があるから大丈夫だとは思いますが、念のため」

「あ、ありがとうございます」

勢いのある志藤に圧倒されながらも、蓮は電話番号の書かれたメモを受け取る。


「しかし、えらく気を利かせるんですね?」

単純に疑問に思う。

「もちろんですよ! 念入りに掃除もしましたし、食料も用意しましたし、お風呂も新調しましたし、ちゃんと、布団も7組用意しました」

「はい?」

最後、変なの混じった。


「7組ですか?」

「7組ですよ?」

「? どうしてですか?」

「? 決まってるじゃないですか?」

と、包帯を巻かれた左手の人差し指を、ちっちっと横に振り。


「麗華さん達が、後を追うからに決まってるじゃないですか?」

「はい?」

「しょうがないですね、城守局長。少しでもラブコメの心得がある人なら、簡単に読める展開ですよ?」

「…………」

まぁ、確かに、蓮にはラブコメの心得はないが。


「あの……。本当に、麗華さん達は、悠斗君の実家に行ったんですか?」

「はい。三村君からの情報だから、間違いありません」

「み、三村君……?」

また、予想外の名前が出てきた。


「やですよ、城守局長。いくらラブコメ心得があったって、事前に人数の確定までできる訳がないじゃないですか?」

「いえ……、そういうことではなく。なぜ、志藤君が三村君から情報をもらうんですか?」

蓮の知る限り、この二人に接点はないはずなのだが。


「私も最初は驚きました。まさか、三村君が我が『くーにゃんズ・ファンタジー』の会員だったとは、思いもしませんでしたから」

「…………」

そりゃ、普通は思わん。

そして、『くーにゃんズ・ファンタジー』が何かを絶対に聞くまいと心に決めた蓮だった。


「見目麗しい高校生の男女が7人。しかも、主人公系・残念系・硬派系・美少年系・天然系・クール系・癒し系と、コンビニ並みの品揃え!」

「…………」

「腐なら萌えなくてどうしますか?」

「どうしますか、と言われても……」

蓮は腐ではない。

ただ、誰がどれなのかは若干気になる。

特に、主人公系ってなんだ?


まぁ、何はともあれ、釘だけは刺しておかなければ。


「盗聴とか盗撮はだめですよ?」

「大丈夫です。ネタ収集方法は三村君の報告のみです。私は部分的に腐っていますが、筋は通します」

「…………」


褒めたものかどうか……。

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