表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
113/336

ローカル線の旅

首都から新幹線に乗り。

列車に乗り換えて海を渡り。

そうしてたどり着くのが、澄空悠斗の故郷である。


「港が見えるのか……」

それほど大きくはない列車の駅を出たところで、峰が呟く。

「船に乗るノ、久しぶりデス!」

エリカがはしゃぐ。

「乗りませんよ? 乗ったら本土に帰ってしまいます」

藍華が訂正する。

「ん? 島行きも出てるだろ。有名な観光地があるとかだったような……」

そんなところだけネットで調べていた三村が口を挟む。

「どのみち、悠斗君の実家とは関係ない。あそこに見えているローカル線に、乗る」

さらに、ちゃっかり調べていた麗華が締めた。


と。

「ちょっと待って」

小野が言う。

その視線の先には、澄空悠斗が立ち止まっていた。

あまりに尾行しやすいから慎重さが全くなくなっていたが、これ以上近づくと、いくらなんでも見つかる。


「どうしたんだろうか?」

峰が呟く。


列車の駅を出たところに広がる海を望む広場。

港とローカル線の始着駅が見える場所。

そこに立つ、周りに比べて背の高い建物。


「第37支局ですね」

藍華が言う。

「BMP管理局の支局に、何の用があるんだ?」

「ひょっとシテ、悠斗さんノ、思い出ノ場所なのデハ!?」

「澄空、中学校は首都の方なんだろ? こっちに居た時には、まだ支局入ってなかったんじゃないのか?」

「というか、なぜ拝むんだろう?」

とりあえず。

上から、峰・エリカ・三村・小野。

である。



☆☆☆☆☆☆☆



「…………」

俺は、第37支局に向かって手を合わせる。

何かの儀式ではなく、単純に有難いと思っているからである。


実は、昨日の夜、帰省の前に故郷について調べてみたのだ。


そこでたまたま目にした。

海を渡る列車の駅と・港と・ローカル線の始着駅に面したこの広場の名前は、『シーポート』。

会議場やイベント広場などをバンバン設置し、この地方の玄関口となるべく整備されていたが、不景気その他の要因により、稼働率減少。

いわゆる赤字体質施設になってしまったのだ。


それが劇的に変わるのが、数年前。

BMP管理局の支局がまるごと借り上げてくれたのだ。

おまけに、シーポートの中心にある『タワー』は、第37支局の本部として使ってくれている。

安定した賃料収入と稼働率、そしてBMPハンターの拠点があるという安心感。


シーポートは見事な黒字施設として生まれ変わった!


という訳で拝んでいます。

中に入って見学もしたいところだけど、万が一俺が『澄空悠斗』だと知られると、余計な気を使わせるかもしれないからな。

仕事の邪魔になってはよろしくない。


……しかし。

「……新月卒業したら、こっちに帰ってくるって手もあるんだよな」

呟いてみる。

城守さんなんかは本局付になって欲しそうなオーラを発しているのが丸分かりだが、こればっかりは自分で決めないといけない。

……本当にBMPハンターになるかも含めて。


……ま、とにかく。


「もうしばらく、俺の故郷をよろしくお願いします」

深々と頭を下げ。

ローカル線の始着駅に向かうことにした。



☆☆☆☆☆☆☆



「あいつ、ほんっとーに良く寝るよな……」

ローカル線の車内で三村が呟く。


「まさか、二両編成とは思わなかったが……」

「今度こそ、絶対に気付かれると思ったよね」

「というカ、そろソロ気付いて欲しクなってきまシタ……」

峰・小野・エリカも若干疲れ気味である。

一応尾行しているという立場上、眠るわけにはいかないのである。


端の方に座っているとはいえ、となりの車両に座っている仲間達に気付かずグースカ寝ている悠斗が、若干妬ましく思えても仕方あるまい。


「あいつ、実は気付いているとかないよな……?」

という三村の疑問。


「悠斗君は、そんなことしないと思う」

「ええ。澄空さんはそういうタイプには思えませんね」

意見が合ったのに、微妙に視線がぶつかる、微妙な麗華と藍華。

さっきからずっとこんな調子である。


険悪とは言わないが、三村達の胃痛を増やす要因になっているのは間違いない。


そんな三村達の胃痛は知らず、やっぱりグースカ寝続けている悠斗が、とりあえず羨ましい。


「剣の管轄は、本来あいつなのに……」

「まぁ、こんなこともあるだろう」

文句の絶えない三村と、何とか諦めのついた峰。


しかし、悠斗は全く起きる気配がない。


「一体、どんナ夢を見てるンでしょうネ……」



☆☆☆☆☆☆☆

◇◆◇◆◇◆◇

◇◆◇◆◇◆◇



黒い蝶。


僕はそれをずっと見続けている。


いや、正確には、黒い蝶をかたどった髪飾り。

それを見続けている。


髪飾りというからには髪についていて、しかもその主は僕と同じくらいの女の子なんだけど。

僕は髪飾りだけを見続けている。


理由は簡単。

変質者に間違われるのが怖い。


女の子は、見るからにお嬢様(※それもかなり上流の方)で、いつ黒服の人やら取り巻きやらが出てきてもおかしくない。

万が一そういう事態になった時、「いや、僕は、その女の子ではなく、髪飾りを見てました。素晴らしい造形ですね」と言えば、見逃してくれるかもしれない。


……。

…………。


分かってる。

そんな虫のいい話はない。

もし黒服の人が出てきたら、僕なんて、問答無用で一発殴られて終わりだろう。

あんな女の子のことなんか、見ないのが一番だ。


……一番なのに。


僕は彼女の顔を見る。


黒い蝶に浮気をするまで見ていた顔と同じ。

やっぱり人間とは思えなかった。


僕は芸能人という人種が、この世で最も綺麗な人たちだと信じていたけど。

違った。

テレビで見る子役なんか、比べ物にならない。


胸が苦しい。


女の子は、建物の壁にもたれかかって立っていて。

見るからにつまらなそうな顔をしている。

はっきりと機嫌が悪い。


でも、どうしようもなく、僕は女の子を見てしまう。


そもそも僕は、女の子とそれほど仲良くしたいと思っているわけじゃない。

格好つけているわけじゃないよ?

ただ単に無害なだけなんだ。


男の友達にしたって、そこまで多くない。


女の子は、男の子より仲良くするのが難しい。

向こうから仲良くしたいと言って来たら(※そんな子いないけど)ともかく。

まして、機嫌の悪い女の子なんて、近寄ること自体、バカか、えーと、プレイボーイのやることだ。


でも。

どうしても、あの女の子からだけは目が離せない。


見るだけ。

見るだけだよ。


こういう考え方は好きじゃなかったけど。

あの女の子は、僕と、『住む世界』が違う。

接点なんかある訳がないし、できる訳がない。


…………でも、胸が熱い。


ひょっとして、僕はさっきまで死んでたんじゃないかと思うくらい。

あの女の子を目にするまで、生まれてすらなかったんじゃないかと思うくらい。


身体が熱い。


目なんか離せる訳がない。

黒服? 取り巻き? それがどうした?


もう少し。

もう少しだけだ。


もう少し近くで見るだけだ。


あと一歩。

あと一歩近くで顔を見れたら。


今度こそ、満足して、ダッシュで逃げようと思……。


「ねえ?」


……お。

…………思。


…………。


視線が……。

合った。


つまらなさそうに地面を向いていた女の子の視線が急に上を向いて。

髪に止まっている黒い蝶と一緒に上を向いて。


僕と視線が合う。


……身体中に電気が走る。という表現が嘘でないのが分かった。


女の子は不快感を隠そうともせず。

機嫌の悪さをむしろ見せつけるように。


一言。


「あなた。さっきから、何なの?」



◇◆◇◆◇◆◇

◇◆◇◆◇◆◇



「~~~~~~!」

俺は、思いっきり飛び起きた。


文字通り椅子から飛び上がって立ちあがった。


そんなアクロバティックな寝起きをすれば普通は視線を集めるが、さすがにそこはローカル線。

俺が座っている車両には、他に客がいなかった。


まぁ、車窓からは、この車両を撮影してたと思われる観光客がカメラを落としているのが見えたが。

よほどびっくりさせてしまったんだろう。


……それはともかく。


「心臓止まるかと思った……」

あと、Mに目覚めるかと思った。


身を投げ出すように座席に座りながら思う。


ほんとにびっくりした。


「なんだったんだ……。一体……」


小学生くらいだろうか。

見覚えのない女の子の夢。

凄まじい現実感のある夢だった。


そして、しばらく忘れられそうにないくらい強烈な夢。


身体の芯が疼く。

ただの夢と片づけてはいけないような気がする。


「しかしなぁ……」

呟く。


いくらなんでもなぁ……、というのが本音である。


なぜなら。

俺の非日常は、麗華さんと会って、始まったはず。

そういう確信のようなものがあるし、そうじゃないと困る。


正直。


「もう、これ以上のフラグの回収は、無理だぞ……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ