『主義主張』について
「ナックルウエポン。あの状態で、悠斗君に私達のことを話さなかったなんて、私には信じられない」
「仕方ありません。澄空さんは、寝てましたし」
駅構内。
結局目的地まで着いてしまった新幹線を降りたところで、超絶美少女二人が見つめ合っている。
というか、にらみ合っている。
「寝てない。明らかに話をしていた。私にだって、読唇術の真似事くらいできる」
「なら分かりますよね。澄空さんは『寝てた』んです。私もまさか本当に起きないとは思わなかったもので。次は、あなたが起こしてあげてくれませんか、ソードウエポン?」
どちらも美人(※しかもクール系)で高身長。
そして、歴代2位と3位の超高BMP能力(※しかも、戦闘系)。
おまけに(※あまり関係ないかもしれないが)お嬢様。
まぁ、一言で言えばとんでもない迫力である。
大声で怒鳴ったりとかが一切ないところが、さらに。
とこで、一般常識として、高BMP能力者同士の喧嘩はシャレにならない。
BMP能力を開放して闘うのは論外として(※というか、この二人がそんなことすると、駅ごと吹っ飛ぶ)、抑えているプレッシャーを開放するだけでも、明日の新聞の一面は決まりだろう。
というか、BMP能力もプレッシャーも開放しなくても、徐々に人だかりが増えつつある。
……澄空悠斗は、気付かず行ってしまっているが。
「と、ところで、お二人さん? 澄空、行ってしまいそうだけど、大丈夫?」
と、あえて空気を読まずに仲裁に入る男前は、三村。
実際、新幹線の次は、列車で橋を渡らなければならないのだ。
「そうだった。今は、とりあえず追わないと」
「そうですね。見失う訳にはいきませんから」
さすがは、大財閥の次期総帥候補と言うべきか。
二人の美少女は、即座に矛を収めた。
周りで見ていた全然関係ないお客さん達も、皆、一様に胸を撫で下ろす。
ぶっちゃけ怖かったらしい。
「やるな……三村」
そんな光景を見て、峰が見直す。
「いや、僕も驚いた。さすが、えーと、『魔人の下側』?」
少しいたずらっぽく、小野が言う。
「凄いデス、三村さん。私ジャ、とてモ声をかけられまセンでしタ」
エリカが純粋に感動している。
「いや、俺も怖かった。正直、だんたん、澄空のことが羨ましくなくなってきたよ……」
そして、男前の癖にビビりな三村の本音が出た。
そんな4人を尻目に、いつの間にか生まれそうな確執をひとまず抑えた、意外に大人な二人の少女が走り出す。
「急ごう。悠斗君は、指定席を用意していたはず。売り切れると困る」
「大丈夫ですよ。ソードウエポン。私が、6人分用意しておきました。澄空さんと海が見えるベストポジションです」
「そ、そう。さすがはナックルウエポン。準備がいいんだ。なぜ悠斗君の座る席を知らないはずのナックルウエポンが席を用意できるのか不思議だけど」
「いえいえこれくらいは普通ですよ」
「…………」
「ところでどうします。次は、ソードウエポンが膝枕しますか?」
「やらない……! そもそも列車乗る度に膝枕なんか、する必要ない……!」
…………。
訂正。
意外に子供っぽい。
◇◆
「あいつ、今日ほんとによく寝るよな」
橋を渡る列車の中。
澄空悠斗と海が見えるベストポジションの席で、三村が呟く。
「疲れてるんだろう」
そんな三村に真面目に返すのは、峰。
「しかし、これだけ気がつかれないと、ちょっと寂しくなってくるね」
呑気なのは、小野。
「寂しいくらいならいいけどな。こんな大人数の素人集団にやすやすと尾行されて、あいつ、ほんとにBMPハンターとしてやっていけるのか?」
という三村の心配も的外れではない。
幻影獣が必ず正面から挑んでくるとは限らないし。
……そもそも、BMPハンターの敵は、幻影獣だけとも限らない。
「確かに、そうですね。大事な体ですし。そのうち、BMP能力を使える身辺警護のスペシャリストでも雇った方がいいかもしれません。私に、何人か心当たりが……」
「わ、私もある!」
三村の言を受けて真面目に対応策を考えだした藍華のセリフを、麗華が遮る。
「ソードウエポン?」
「あ、……ええと。そういうことであれば、凄く優秀な人を知ってる」
いぶかしがる藍華に、まるで身内を自慢するかのような少し子供っぽい表情で麗華が答える。
「ええと、とー……」
「…………?」
「とー…………」
「とー?」
「……ごめん、なんでもない。もし、本当にそういう人が必要になったら、ナックルウエポンの紹介を頼りたい。それまでは、できる限り私が近くについている」
「?」
何らかの葛藤が終わったのか、若干気まずそうな顔で話を打ち切った麗華に、全員が疑問符を浮かべる。
それはともかく。
「しかし、その『BMP能力によるプレッシャーを抑えるスキル』ってやつ。本当に凄いよな」
いきなり、三村が話題を変える。
「そうですか?」
ナックルの方が答える。
「あぁ。BMP160越えで公共交通機関に平気で乗れるなんて、俺には想像もできないな」
「ま、このスキルは押さえておかないと、僕ら、そもそも生活できないからねぇ」
峰のセリフに、アックスの方が答える。
「うん。私も一番最初に覚えさせられた。今考えると、これが一番、大変だった」
ソードの方が、少し嫌そうな顔をした。
と、ここまで感想が揃ったところで。
「「……」」
皆の視線が、テイマーの方に向く。
「で、あいつはどうなっているんだろう?」
三村が、皆の疑問を代弁する。
「私モ、凄ク疑問に思ってマシた」
エリカが力強くうなずく。
「緋色先生は『控えめなのが悠斗君のいいところよね』と言っていたが」
「そういう問題ではないよねぇ」
峰と小野が頷き合う。
と。
「いえ、その言い方。あながち、間違いという訳でもないんですよ」
賢崎藍華が言う。
「賢崎さん、どういうこと?」
という三村の問いに。
「プレッシャーの感じられない高BMP能力者は、大まかに分けて2タイプです」
と、眼鏡の位置を直しながら藍華。
「まず一つ目は、『そもそも感情の起伏がない』タイプ」
「? それはないだろう」
峰のセリフに、全員が頷く。
「激情家って訳じゃないけど、その辺はめちゃくちゃ普通だぞ。とても、感情がないようには見えないけど」
「そう見えるだけかもしれません。まぁ、このタイプの人は高BMP能力を発現することがほとんどありませんが」
三村の疑問に、予備校の教師のような口調で藍華が答える。
「もう一つハ、何ですカ?」
「『主義主張の載せ方を知らない』タイプです」
エリカの質問に藍華が答える。
「載せ方を知らない……? どういう意味だ?」
峰の質問。
「一般のBMP能力者は、BMP能力に主義主張を『載せない』ように苦労するんですが……。それとはまったく逆に、意識しなくても主義主張が載らない。いえ、載せ方を知らない。……そういうタイプです」
「そんなことあるのか?」
どっちかというと主義主張の強そうな三村が質問する。
「多数派という訳ではないですが、珍しいと言うほどでもないです。結構居るんですよ。強い意志を持っていても、それを誰かに伝えようと思わない。分かってもらおうと思わない。……そういう人は」
と、澄空悠斗の方を向くナックルウエポン。
「ひょっとして。澄空さんは、普段、誰かに伝えたいような想いがないのかもしれませんね」