新入生への聞き込み調査
「聞きこみだ。それしかない! 皆、今日は入学式だ。まだ校舎にいる新入生に絞って聞きこみをしていくぞ! 遠慮は無用だ!」
今までまともにクラスの男の娘と会話することができなかったが、この際体裁など考えられない。とにかく原因を追求してこの茶番を終わらせたいという想いで一致していた。
――証言①【クラスメイトの可愛い男の娘の場合】
「合格発表の日だったね。お手伝いしないか、って声をかけられたの」
『手伝いってどんな?』
「学校の広報だよ。女性の制服を着て写真撮影を頼まれてね。金払いは良いから小遣い稼ぎになったし、合格したテンションで二つ返事でオーケーしちゃった」
『それでなぜ今も女装を続けている?』
「制服をプレゼントされて、入学式の日もこれで来なさいって言われたんだ。その時には可愛くなるのに嵌っちゃってたから、今日もこの格好で来たんだよー」
どうやら目覚めてしまったらしい。
初めからその気があったのかもしれない。可愛いを突き止めているだけあってナチュラルメイクが凄まじく、美少女らしい男の娘に仕上がっていた。
――証言②【兄弟のいる美人な男の娘の場合】
「親父の母校だし上級生に兄貴がいるからオレもこの学校受験したんだ。んである日、兄貴から呼び出されていきなり女装をさせられたんだ。兄貴も女装してるしで訳わかんねぇ」
『何故抵抗せずに受け入れているのか?』
「入学前に兄貴に連れられて学校を見学させられたんだ。そしたら全校生徒が女の恰好してるんだぜ? んで「男装して入学したら浮くぞ」って言われたから仕方なくさ。でもおかげでクラスには溶け込めたよ。アンタらみたいに浮くのはご免だから」
『…………』
日本人らしい前に倣えの文化が悪い意味で作用したようだ。
しかし彼を責めることはできない。男子部の五人も集まるまでは相当心細かったからだ。
実際彼は男の娘学校に溶け込んでいるようで既に友達と一緒に群れている。
これから遊びに行くという彼らの背中を男子部は少し羨まし気に見送った。
――証言③【今春入寮した寮生の男の娘の場合】
「僕らは地方出身だから一足先に入寮させてもらってたんだ」
『その時には既に女装を?』
「まさか。入寮した時に先輩方に挨拶したんだけど皆女装していてね。正直面食らったよ。でも入学前から武刀高校の寮は上級生に絶対服従がルールだったから女装を受け入れたんだよ」
『それで納得できるのか?』
「うん、昔は暴力が横行してたって話だから身構えていたんだけど、雄姉様方はお優しいし理想的な主従関係なんだ。添い寝中に悪戯してくる雄姉さまもいらっしゃるけどね」
寮のつながりというのは閉鎖的である。
先輩後輩の上下関係故に女装を拒めなかったのだろう。
雄姉様の話をしている彼はうっとりとしている。
既にいろいろ経験済みなのかもしれない。
背筋に寒気を感じた男子部はそれ以上彼を追求しなかった。
――証言④【推薦入学した優等生の男の娘の場合】
「入学前に書類が届いたんです。推薦合格証は受け取っていたのでおかしいと思ったのですが、女子の制服が同封されていて「入学式に着用するように」と書かれていました」
『それで素直に従ったのか?』
「当り前ですよ! 推薦だから滑り止めとか受けてないし、合格取り消しなんてあったら溜まったもんじゃないです! 推薦組の義務と思ってこの恰好で通しました。でも、それが切っ掛けで他学校の推薦組の子とお友達になれました!」
もし女装を拒めば推薦取り消しになるかもしれない。
一生の恥になるよりはと女装に強行してしまったようだ。
推薦組は彼らのような犠牲者ばかりらしい。ただ友達と腕を組む彼の笑顔はまぶしかった。
――証言⑤【遅刻したドジっ子の男の娘の場合】
「いやぁ、入学式早々寝坊しちゃってまずかったよ。急いで登校したら女子たちが武刀高校に入っていくんだもん。ビックリしちゃって、思わず学校名三度見しちゃったよ」
『それでなぜ今女装しているのか?』
「たまたま生徒会長と出会ってね。制服一式用意してくれたんだ。遅刻も見逃してくれたし良い人だよね。化粧の仕方まで教えてもらっちゃったよ」
なんと生徒会長に制服を着せられたという驚きの証言が出た。
遅刻したという後ろめたさもあり拒めなかったようだ。
もし生徒会長と出会わなければ彼は男子部6人目の候補だったかもしれない。
バイトがあるからと足早に去っていく彼の背中を見送った男子部は空き教室へと戻った。
彼らの話をまとめると男の娘に覚醒する経緯はまちまちだった。
秘密の洗脳イベントはなかったがバイトの手伝いで女装させられた子は何人かいたようだ。兄弟、先輩から強いられたという子やその子から情報を仕入れたという者、推薦で直接知らされた者など多岐にわたる。
「聞きこみの結果、誰かに女装するように言われたという証言ばかりだ」
「こっちも同じですね。堂々巡りで出発点が分からなくなってる。誰かが嘘をついていればボク達には見分けがつきません」
「畜生、あの女狐共め……」
「落ちつけ、御手洗。全員男だ」
確かに情報の出どころはハッキリしない。だが気になる点がいくつかあった。一つは推薦組に届いたという女装指示書である。現物のコピーを入手することに成功していた。
そこには確かに『同封の制服で登校するように』と記載がある。ご丁寧にウィッグや化粧の仕方についての説明まである。
「矢神君は推薦組ですよね? 同じもの貰ってませんか?」
「どうだったっけなぁ。そういうのすぐに捨てちまうから分かんねー」
「コイツは昔からこういうヤツだぞ。それに推薦というより補欠合格の方がニュアンスが近い。あんまり充てにしない方がいい」
「そのようですね。では調査を続けましょう」
学校の教師が加担しているとは考えづらい。
だが生徒達の住所を知っているということはかなり情報通の協力者がいるということは想像に難くない。そして先程の聞き込みで気になる人物が出てきた。
武刀高校の現役生徒会長である。
入学式当日の今日はあまり先輩に顔を合わせる機会はないが祝辞を述べた生徒会長は本日も登校している。
そして彼は男の姿を一度見ており、かつ新入生の女装にも協力している。
全校生徒男の娘化について何らかの鍵を握っていると推測できた。
「いきなり生徒会長と相対ですか。緊張しますね」
「彼が黒幕の可能性もある。気を引き締めて行こう。何かあれば私も竹刀で応戦する」
「喧嘩なら俺も敗けねェ」
「みんなピリピリしてるなぁ。タイガ、戦争にでも行くのか?」
「いや、話し合いで解決できるならそれでいいんだけど……」
証言のところは該当インタビュー風をイメージしていただけますと幸いです。
一同は関係がありそうな生徒会へ殴り込みに行きます。