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自己紹介


 クラスで女に染まっていない五人の漢たちが揃った。

 今日は入学式のみなので帰っていく生徒達も多い。

 そんな中、空き教室を見つけて中に入った彼らは今後の方針について語り合うことになった。


 司会進行はメンバーを集めた大雅(たいが)が担うことになる。生き残った漢たちを探したのは天満(てんま)だが、彼に人をまとめる知能がないので大雅(たいが)がかって出たのだ。


「皆よく集まってくれた。俺が皆を集めた理由は既に分かっていることだと思う。名門男子校で有名だった武刀高校から男が消えた訳、女装野郎で溢れた理由を探っていきたい」


 議題について板書する天満(てんま)の字は汚いが今はどうでも良いことだった。皆が一つの謎の答えを知りたがっている。

 しかし大雅(たいが)がまとめることには納得できない人間がいた。金髪で目つきの悪い御手洗光輝(みたらしこうき)である。上下関係はハッキリさせたいようで大きな舌打ちをして不満をぶつけてきた。


「なんでテメェが仕切ってんだよ? 偉そうにッ! つーかテメェ、ドコチューだァ?」


「で、でたぁ。不良特有の出身校マウントぉ! 何を答えても殴られるオチですよこれ」


 一樹(いつき)が眼鏡の位置を調整しながらツッコミを入れる。「あ?」と光輝(こうき)が猛獣のような眼光で一睨みすると一樹は()(さや)の背後に隠れてしまった。当の真鞘は光輝(こうき)の威嚇にまるで動じていない様子である。


「まぁ、何処の中学かはともかく、自己紹介はあってもいいだろう。親睦を深める意味を込めて互いを知っておいた方が良い。安河内(やすこうち)、教壇に立つお前から見本を見せてくれ」


 自己紹介は当然の流れだ。皆を集めた者として模範的な行動を示さなければならない。皆の視線が一気に向けられるこの瞬間は慣れないが、最初が肝心だと大雅(たいが)は覚悟を決めた。


「俺は安河内(やすこうち)大雅(たいが)。特技はシューティングゲームとか早撃ちだな。出身校は神開(しんかい)中学だ」


「カイチュー出身だとッ!? 県内で五指に入る高偏差値のインテリ校じゃねーか!? まさか武刀に進学してくるとは……。チッ、まとめ役はテメェに譲ってやるよォ」


「不良なのにマウント基準が偏差値なんですね」


「うっせーよボケ。ところで安河内(やすこうち)がカイチューならそっちの字が汚ねェアホもか?」


 間違えた板書を黒板消しで訂正する天満(てんま)は自分が馬鹿にされたことに気づいて分かりやすく怒りを表現した。


「字が汚いって言うな! もちろんオレもカイチュー出身者だゾ! 名前は矢神天満(やがみてんま)! 九九全部覚えてるんだ! おハジキの計算だってできるっ! 恐れ入ったか!」


 おハジキとは「速さ」「時間」「距離」でお馴染の算術である。

自信満々にPRするポイントが小学生の範囲でしかないのだが、あまりのアホさに呆然とした一同は咄嗟に突っ込むことができなかった。


「すまん、コイツはカイチュー始まって以来のアホなんだ。ペーパーテスト以外ならそこそこいけるんだが……。基本馬鹿だと考えてくれていい」


「オレの扱いひどくねっ!?」


 抗議する天満(てんま)を適当にあやしていると眼鏡の少年が立ち上がった。馬鹿の次ならば相対的に自分も賢く見えるという打算が見え隠れするタイミングである。


「ボクは美音ヶ(みねがおか)中学校出身、首藤一樹(すどういつき)です。特技……という程ではありませんが中学時代少しギターをやってました」


「美音ヶ(みねがおか)? あそこは中高一貫校のはずだ。なぜ武刀に編入したのだ?」


 真鞘(まさや)の厳しい追及に一樹は目を泳がせた。滝のように汗を流した彼は「深い意味はありませんよ」とお茶を濁した。美音ヶ岡は元女子校で最近共学化した学校であるためまだ生徒は女性比率が高い。きっと男子校の方が過ごしやすいと思って武刀へ編入したのだろうと大雅(たいが)は深くは気にしなかった。

 残る二人に視線を送る。真鞘(まさや)が動こうとしなかったので必然的に光輝(こうき)が先行となった。


「チッ、俺は修門(しゅうもん)中出身の御手洗光輝(みたらしこうき)だ。喧嘩なら負けねぇぜ。果たし状には全部応じてきたからなァ!」


 修門(しゅうもん)中学校の名前を聞いた大雅(たいが)たちは戦慄した。そこは不良中学として有名な学校だったのだ。数十年前は「朝来たら窓ガラスが全て割れていた」とか「無免許バイクで生徒が校庭を走っていた」などと悪名が絶えない中学校だった。


現代では流石に改善はされているが不良が駆逐された訳ではない。寧ろ偏差値が上がったことで学内派閥間で高度な頭脳戦が繰り広げられるインテリヤンキーの巣窟となっていたのだ。県内不良校ではトップの進学率を誇っている。


修門(しゅうもん)中学生がついに武刀まで進出しましたか。随分レベルが上がって――ん? 待ってください。その金髪と獅子のような眼光! まさか貴方はモンチューの『金獅子』!?」


「何だメガネ? 俺を知ってるのか?」


「知ってるも何も、中学時代ボクをカツアゲしてきた不良連中が『金獅子』の舎弟だと名乗ってたんですよ! 集めてたアイドルの握手券を奴らに全部強奪されたんですから!」


「偏差値高いだけあって首藤(すどう)のトコの不良はやることが小さいな……。つーか御手洗(みたらし)、舎弟が悪さしたんなら首藤(すどう)に謝っとけよ」


「あ? ミネチューに舎弟なんていねーよ。大方俺の名前使って首藤(すどう)をビビらせたかったんだろうよ。獅子の威を借る狐ってかァ?」


「じゃあ連中が話していた『金獅子』の伝説も嘘ですか!? 逆らう女子を力づくで彼女にしたとか、他校に殴り込みに行って教師までボコボコにしたとか、色々聞いてますよ!」


 一樹(いつき)の口から飛び出た伝説の数々に真鞘(まさや)以外のメンバーはドン引き状態だった。

 本気で引き攣った顔をしている同級生を前に彼は慌てて釈明する。


「噂に尾ヒレがついてんだよ。女子の件はなァ、性欲丸出しで転校生の女を口説きにかかるクソ野郎がいたから転校生を俺の女ってことにして追っ払っただけだ。他校に殴りこんだのも理由がある。苛めで修門(うち)に喧嘩売るように強要された生徒がいやがったんだ。だからソイツを舎弟にして苛めの主犯と黙認してた教師を病院送りにしたんだよ」


 掘り下げれば中々熱いエピソードが出てきた。他にも中卒就職者の多かった修門(しゅうもん)中学校を彼の世代で全員進学させるようにしたことや、後輩指導勉強会を習慣化するなど偏差値向上に貢献していたようだ。当時の様子がよくわかる写真もスマホで見せてもらったことで誤解は解けた。物的証拠を持参するあたりがインテリヤンキーらしかった。


「ゴホン、御手洗(みたらし)の話は素晴らしいが……そろそろ私も、いいだろうか?」


「ああ、悪ぃ! 剣崎(けんざき)。お前の自己紹介も頼む」


 大きく頷いた彼は礼儀正しく一礼してから口を開いた。


「私は剣崎真鞘(けんざきまさや)。出身は桜宮(さくらみや)中だ。幼い頃より剣道を嗜んでいる。階級は二段だ。中学生大会ではそれなりの成績を出していた」


 彼の気迫は中々のものだ。剣の腕を無闇に見せないことも風格を感じる。数々の伝説を持ち喧嘩慣れした光輝(こうき)の睨みにも動じないことをみると、彼と同程度の実力はあるようだ。


「最後に自己PRを見せよう!」


 そう言うと彼は服を脱ぎ始めた。剣道で鍛え抜かれた肉体美でも晒すのかと考えていたが、彼はズボンまで脱ぎ捨ててしまった。スレンダー体系だった真鞘(まさや)だが着痩せするタイプのようで非常に引き締まった筋肉が見える。しかしそれよりも注目すべきは彼の下着だった。股間を隠す白い布は、かつて全ての日本男児が着用していた(ふんどし)だったのである。


「いきなり何を見せるんですか!」


(ふんどし)は全てを語る、というのは敬愛する祖父の言だ。私は幼少期よりこれを着用してきた。日々汗で黄ばむまで鍛錬し、その後、白さを取り戻すまで自分で手洗いしている!」


「おいおい、まさか漂白剤を使わずにその白さなのか!?」


 純白の輝きに魅了された光輝(こうき)のつぶやきに真鞘(まさや)は力強く首肯する。


「無論。武道において技は心を写すというが(ふんどし)もまた同じだ。この白さこそが私の心を写す鏡! 私の(ふんどし)が黒ずむことがあれば心が淀んでしまった証といえよう」


「何言ってるかさっぱりわからん! タイガ! 解説してくれっ!」


「俺にもわからん。熱意だけは伝わってくるが……」


「馬鹿かテメェら! 剣崎(けんざき)(ふんどし)エピソードから奴の家事スキルの高さ、勤勉さ、そして清潔感が伝わってくるじゃねェか! まさに自己PRだと言っていい!」


 喧嘩と武道、体を使う者同士通じるものがあったようだ。

 二人は固い握手を交わしていた。


「どうでもいいけど早く服着ろよ。風邪ひくぞ」


 仲間達の紹介話でした。

 天満君意外みんな出身中学が違います。

 お気に入りのキャラができましたら幸いです。


 自己紹介を終えた彼らは本題について議論していきます。


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