表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/34

逃げる男子部たち


 散開した《男子部》は何とか追手を撒いて各々校内に身を隠していた。

 天満(てんま)は体育創庫の跳び箱の中に逃げ込んだらしい。一樹(いつき)は使用禁止中のトイレの個室に立てこもっていた。()(さや)は堂々と気配を消して隠れ場所を逐一変えているようだ。光輝(こうき)は屋上の塔屋の上に体を伏せる形で身を隠したらしい。大雅(たいが)はロッカーの中からメッセージアプリで仲間達の状況報告に目を通していた。

 互いの位置を報告し合った今、次の議題はこれからどうするかである。


大雅(たいが))『あんなおっかねぇ連中と戦えるか!』


()(さや))『四天王は強い。悔しいが私達が挑んだところで秒殺されるだろう』


天満(てんま))『フクカイチョーだけでも強いもんな! 逃げられたのは運が良かったぜ!』


一樹(いつき))『日を改めましょう。今日はやり過ごして早朝に副会長だけを狙うんです!』


光輝(こうき))『賛成だ。問題は五人の目を盗んで学校を脱出する方法だが……』


 全校生徒が【神聖(しんせい)(ほう)(けい)】という訳ではないのだろうが、影響力の強い四大部活の生徒達は全て彼らの手助けをしかねない。各部長以外も副部長などの側近レベルになると実力者揃いだ。光輝(こうき)()(さや)も彼らにすら及ばなかったのだ。だからこそ四天王配下に遭遇しないように身を隠すことを徹底したのである。


大雅(たいが))『よし! 生徒達が帰る波に乗って校外へ脱出だ』


天満(てんま))『かくれんぼか? わくわくするな!』


一樹(いつき))『ちょっと待ってください。下校生徒の誰が四大部へ所属してるかわからないんですよ!』


光輝(こうき))『最悪、その場で喧嘩になりかねねーぞ。揉めたら四天王が出張ってくる!』


()(さや))『恐れていても仕方あるまい。生徒数が少なくなればタイミングを逸するぞ』


 《男子部》が脱出を躊躇っている間に『ピンポンパンポーン』と放送部の告知チャイムが校舎中に鳴り響いた。


『放送部から全校生徒へ連絡です。生徒会副会長・央黄竜水(おうぎたつみ)さんの発案によりこれからゲリライベントを開催します。内容は狩猟ゲームです☆ 《男子部》五人を探して捕まえてください! 参加は自由ですが一人確保した生徒及び協力者には豪華賞品を贈呈します。不参加の生徒は巻き込まれないように直ちに下校してくださーい☆』


 生徒会より登録された生徒達のメールアドレスに《男子部》五名の顔写真とプロフィールが送られてくる。メールを受け取った生徒達は「私、参加しようかしら」「面白そう!」と乗り気である。メールに記載された賞品に釣られた者も多いが、多くは生徒会役員が主催したゲリライベントという非日常感溢れる催しに心惹かれたのである。


学校中がお祭り騒ぎとなって《男子部》の探索を始めてしまった。

 今まで【神聖(しんせい)(ほう)(けい)】対《男子部》という構図だったのが【全校生徒】対《男子部》に様変わりしてしまったのである。大雅(たいが)たちは四面楚歌の状況に頭を抱えた。


大雅(たいが))『くそっ! 全校生徒を巻きこみやがった!』


光輝(こうき))『生徒会長が【神聖宝敬】に隷属されてるのは周知の事実だったが――』


()(さや))「まさか《放送部》まで陥落済みだったとは!」


一樹(いつき))『どうするんですかコレェ!? 捕まったら再洗脳されますよ!』


天満(てんま))『かくれんぼじゃなくて鬼ごっこになるのかぁ?』


 生徒会室では【神聖(しんせい)(ほう)(けい)】教祖と四天王が座して待っている。

 慌てる《男子部》を想像した武季(むつき)が扇子を広げて笑いをこらえていた。


「かんにんな。ウチら《重音楽部》と《放送部》は同盟関係にあります。校内における自作曲の放送権を認める代わりにウチらの望むときには全面協力する手筈になってるんどす」


「さて、舞台は整いました。しばらくここで待ちましょう」


 ご機嫌の竜水(たつみ)は上級生である四天王たちに高級なお茶を入れて提供する。四天王たちは芳醇な香りと高貴な味をじっくり味わった。


竜水(たつみ)ちゃんはえげつないこと考えるね。おかげで文化部の僕はゆっくり休めるんだけど」


「私はこの祭りに参加させてもらおう。もう一度真()(さや)と戦ってみたい」


「ああ。この高揚感は龍之(りゅうの)(すけ)との喧嘩以来だ。俺も行かせてもらうぜ」


 龍之(りゅうの)(すけ)()太郎(たろう)は生徒会室を飛び出してしまった。一年生で非凡な才能を見せる後輩を他の生徒に譲るつもりはないようだ。


「あらあら、大将自ら出張るなんて~。せっかく開いたこのお祭りもすぐ終わってしまいますわ。運動部は血気盛んすぎてかなわんなぁ」


「早く終わるならそれでいいです。ぼくにとって武刀高校掌握は前哨戦でしかありませんから。この日本全土にマスキュリズムを布教することがぼくの野望です」


「主催者がこう言ってるんだし、僕らは待っていよう。ちょうど次のライブ衣装できたし、武季ちゃんに試着してもらいたいんだ」


「ホンマに? 仕事早いなぁ。おおきに」


四天王の魔の手が迫る中、《男子部》一同は一般生徒を撒くのに四苦八苦していた。

予想外に本気で参加している生徒が多かったのだ。学校内で隠れられそうな場所は限られており、大多数の生徒が虱潰しに探せば簡単に見つかってしまう。そこから逃げだしたところで生徒同士で《男子部》の目撃情報が即座に共有されてしまうのである。一度見つかれば再び身を隠すのも難しい。跳び箱に隠れていた天満(てんま)は《手芸部》の桐生(きりゅう)(よし)(ちか)に見つかっていた。


「逃がさないわよ! 天満(てんま)ちゃん!」


「わー、桐生(きりゅう)先輩まで!? 見逃してよ~!」


「うふふ、景品の新デザイン制服は部長のお手製! 《手芸部》員としては喉から手が出るほど欲しいのよ! 大人しく掴まりなさい! 既に包囲網を強いているわ」


 部長の作品は一流デザイナーの作品と等価値らしい。吉近(よしちか)以外の《手芸部》たちもやる気満々である。運動に秀でている生徒が少ない文化部なので天満(てんま)は辛うじて退けられているが、ワンフロアを貸しきる程の部員数で繰り出される人海戦術の前に徐々に体力が消耗していた。


そんな彼の前方に立ち塞がる《手芸部》の二人は、紅い糸を廊下に張り巡らせて即席の網を作っていた。他の部員と追いかけっこをしている間に準備していたらしい。頭から突っ込んだ天満(てんま)は蜘蛛の巣のように絡めとられてしまった。


「捕まえたよー! じゃじゃ馬一年生! これで景品は《手芸部》のもの!」


「鬼ごっこはタッチされなければセーフなんだぜ!」


 天満(てんま)は紅い網を噛みきって脱出する。野生児のような俊敏さに《手芸部》たちは追いつくことができなかった。


 また、既に武刀高校の各所では《重音楽部》が演奏を開始された。

 イベント参加者を鼓舞し、モチベーションを維持させるためである。音楽室では《吹奏楽部》が美しい音色を奏でる。講堂では《オーケストラ支部》が厳かな演奏が続けられる。


客として聞く分には心が現れるが、聞く気がない者にとっては爆音の演奏は集中力を乱されるだけだ。隠れる場所を転々としていた一樹は音楽室と講堂周辺の隠れ場所を失った。


「耳が痛いです……早く新しい隠れ家を探さないと……」


 だが校庭付近では軽音楽部がライブを開始してしまって人を集めている。外に出れば観客の生徒に発見されかねない。そして校門前では《アイドル支部》所属の各男の娘グループが持ち回りでライブ大会を始めてしまった。他校の生徒をはじめ一般人のファンもわらわらと校門前に集まってくる。これでは校外に脱出することができない。


「くっ! あれじゃあ下校の邪魔です! 先生方は何故止めないのです!?」


 理由はすぐに分かった。(おおとり)(ひそか)ら生徒会が観客整理を行っていたのだ。《男子部》が脱出しないか見張りつつ、無関係の学校関係者の通行を補佐している。


 しかも校門以外で校外へ脱出できそうな箇所は治安維持部隊の《剣道部》の武装部員で固められていた。これで《男子部》は校外への逃げ場を完全に失ってしまった。


「流石は治安維持部隊……手慣れているな!」


 ()(さや)は《剣道部》の執拗な追跡に追い込まれていた。『初級』の部員からは問題なく逃げられると()(さや)は踏んでいた。彼らもそれを理解して諜報係として役割分担したようだ。


 持ち前の人望で一般参加者たちからタレこみを受けて()(さや)の隠れ場所を潰していっている。その情報を受けて動きだす『達人級』は非常に厄介だった。校舎の屋根を飛び跳ねるなど三次元的な追跡術を見せる。さらに彼ら『達人級』を超える『超人級』が存在するのだ。


「見つけたぞぉ! いっちねんせいっ!」


 辛うじて顔が分かる程度の遠距離から一気に肉薄される。いつぞや縮地の鍛錬を受けていた『超人級』の二年生だ。その手が()(さや)を掴もうと伸ばされる。ここで捕まってなるものか、と()(さや)は脚に全神経を集中させた。


「捕まえた! ってあれ? これ(ふんどし)?」


 彼の手に握られていたのは()(さや)の愛用する褌だった。それを変わり身として逃亡していたのである。首を傾げる二年生の頭に竹刀が叩きこまれた。


「だから踏み込みが甘いと我は叱咤したのだ。おちおちしてると一年坊に追い抜かれるぞ。あやつ、無意識に縮地の片鱗を見せおった」



 一方、光輝(こうき)は《傭兵部》の追跡者を拳で圧倒していた。科学実験室から美術室、そして校庭に至るまでヒット&アウェイで逃走に成功していた。


 おかげで室内の備品は滅茶苦茶に散乱してしまったが気にしている余裕はない。元々多勢に無勢相手の闘いは得意であり喧嘩慣れしていた彼は応援を呼ばれる前に相手を失神させて事なきを得ていた。しかし一人一人は手こずらなくても長時間続けば疲弊してくる。


「ハァハァ……もう百人抜きは達成してるぞ。《傭兵部》は何人いやがるんだ……?」


「安心するネ。何人いても次の対戦者で最後アルヨ」


 空からストンと一人の男の娘が着地する。中華風の制服を着た《傭兵部員》には見覚えがあった。功夫研究会師範・(スン)梓豪(ズーハオ)である。彼は実質《傭兵部》のナンバー2であり一度光輝(こうき)を下した相手だ。ゆっくり構えを取る彼は「次の対戦者で最後」と挑発するほどに自身の勝利を確信している。戦いを避けられない光輝(こうき)はファイティングポーズをとった。



 各《男子部》メンバーが苦戦を強いられている中、大雅(たいが)は未だにロッカーに隠れたままだった。怖気づいていたからではない。単にそこから出られなくなっていたのだ。


「クソッ! 壊れかけのロッカー選んだのはミスったぜ! 内側から開けられねー!」


 扉は昔素行の悪い生徒に蹴られたらしく凹んでおり、入った時に閉めた衝撃で開けられなくなっていた。おかげでイベント参加者の生徒も開けることができず事なきを得ていたが、袋の鼠状態に変わりはなく大雅(たいが)は焦りを感じていた。周囲から生徒の気配がなくなる度に何度か脱出を試みているものの未だに扉は開けられない。そうこうしている間にまた生徒が通り掛かってきた。足音から察するに二人組のようだ。


「ぼく、こっちの教室探してみるねー」


「うん、私はロッカーの中を見てみるー」


 完全に大雅(たいが)の隠れ家をロックオンされていた。「まずい」と思いつつも今は開かずの扉に期待する他ない。生徒も固い扉に苦戦しているようだ。だが何度かのリトライの内に扉に隙間が空いてしまった。あと少し力を入れればフルオープンは必至だ。


(畜生! 俺が力込めても開かなかったのにぃ!)


正面勝負では負け確定の男子部。

逃げる彼らも追い詰められていきます。

我らが主人公は隠れ場所選定をミスっていきなり窮地です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ