デート当日
――そして迎えた週末。
大雅は約束の時間の三十分前に待ち合わせ場所についた。ちょうど同じタイミングで幸一郎も到着した。二人共時間には正確なタイプだったため、偶然にも互いに着いた時間が同じだったのである。
「早いな、山田。時間通りに来たお前に『今来たところだ』って返そうと思ってたんだが」
「あはは、私も同じこと考えてた。気が合うねっ」
幸一郎は今日のために気合の入ったコーデを選んできたのは明らかだった。
一見するとシンプルなカジュアルワンピースであるが、着用者の素材を十分に活かしている。胸の辺りがゆったりしたデザインなので男の娘が唯一女性に勝てない胸の厚みを上手く誤魔化している。自己主張をし過ぎない細めのリボンが彼の純朴さを引き立たせる良いスパイスになっていた。髪型はストレート故に手入れが行き届いている様子を間近でも確認できる。そして頭に被ったハットが実年齢より落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
(か、可愛いじゃねーか。クソッ、本物の女の子なら迷わず婚姻届けにサインするレベルなのに! 天は二物を与えずとはこのことか! 寧ろ股間の一物を取ってくれぇ!)
その辺の女子より余程輝いて見える。気の利いた褒め言葉を言えればよかったのだがまともに恋愛経験皆無の大雅は初デートにガチガチに緊張してしまっていた。
幸一郎は特にコーデの感想を催促することはなく、大雅の表情から中々の高評価を察して機嫌をよくした。男の気持ちを理解できるのは彼が男の娘に他ならないからであろう。
「……行こうか」
「うんっ」
初々しい高校生カップルのデートが始まった。
すれ違う週末ソロプレイヤーたちが羨望の目を向けてくる。少し優越感に浸る大雅だったが腕を組む恋人が男だと思いだして複雑な気分になった。
(ホントは早く別れるべきなんだが……山田は旨い朝飯を作ってくれたし、俺の顔を立ててくれたからな。今日くらいは恋人らしいことをしてやらねーと)
大雅はさり気なく幸一郎の手を取った。意表を突かれた彼は一瞬驚いた様子だったが、すぐに手を握り返してきた。柔らかく小さな手はとても男性とは思えない。
「山田、どこか行きたいところあるか?」
「安河内君と一緒ならどこへでも……」
大雅は場所を調べる風を装い、自身のスマホにまとめていたデートプランをカンニングした。《男子部》メンバーが麻雀の片手間で提案したクソプランが殆どだが大雅の眼から見て使えそうな案を再厳選している。恋人を満足させる程度の内容にはなっているはずだ。
(男、安河内大雅。初デートはしっかりリードさせてもらうぜ)
◆矢神天満のデート企画案【食べ放題満腹コース】
腹を満たせば満足するだろうという天満の小学生並の思考回路が見え隠れするが、単純に食べ歩きという案自体は悪くなかった。元々は駄菓子屋デートとして提案されていたが高校生デートには合わなかったために大雅の独断で対象年齢を引き上げて再編成したものだ。駅前を散歩しながら女の子の好きそうな店をそれとなく勧めていく。
「山田、クレープ屋さんがあるぞ。何か奢ろうか?」
「いいの? じゃあスタンダードクレープで」
「一番安いやつじゃねーか。俺に遠慮すんなって。食いたいもん言え」
躊躇いながらも幸一郎はスペシャルクレープを指さした。値段がスタンダードクレープの二倍近く違うものだが、フルーツがてんこ盛りでインスタ映えのするソレはとても物量があった。店員から手渡されたクレープを見て幸一郎の目が輝いた。笑顔で頬張る幸一郎の幸せそうな顔を見ていると十分元が取れている。それからもタイ焼やタピオカなど小食を堪能しながら町を散策する。話題は食べ物の感想や家族、友人のことが中心だった。
「私、親が共働きでねー、兄弟も多いから自然と家事を覚えるようになって……」
「へー、だから料理上手なんだなぁ。将来良い嫁さんになると思うぜ?」
素直な関心半分とリップサービス半分でそう褒めたのだが、彼氏から称賛された幸一郎は頬を赤らめてうっとりしてしまった。
「お嫁さんだなんて……でも、いつか好きな人の子供は産みたいな……」
(いったいどこで孕むつもりだよ!?)
怪しい空気を変えるために大雅は次のデートプランに移行した。
◆首藤一樹のデート企画案【カラオケデート】
デートの定番といえばカラオケ。金銭的な負担は入る時だけでよく、長距離を移動するわけでない。さらには歌の上手さを恋人にアピールできる利点があるということで一樹が提案したプランだ。メモ書きに『ボクもそんなデートがしたかった』と見つけたときは「テメェの願望じゃねーか!」と突っ込んでしまったが、プラン自体は王道的といえる。
大雅は予めあたりをつけていたチェーン店へと幸一郎の手を引いた。
「~~~~♪ ~~~~♪♪」
大雅の選曲は人気の男性ボーカルグループの曲が中心だった。熱唱している間、幸一郎は笑顔でタンバリンを鳴らしてリズムを取ってくれる。曲が終わると予め用意していた水を差しだして「上手だったね」と褒めてくれた。歌い終われば相手との交代を繰り返すということで既に幸一郎の選曲したイントロが流れてきた。慌ててマイクを持って前に出る。
「ホントの私だけを見て~♪ 愛してるから~♪」
彼の選曲は主にアイドルソングが多かった。TKY48などの女性グループの曲から《重音楽部》が売り出している男の娘アイドルの曲など音域の高い歌が得意のようだ。恋愛ソングが多めなのは彼なりのアピールなのかもしれない。小指を立てて腕を振って歌って最後はウィンクまで披露している。完全にアイドルになりきっていた。
「安河内君、最後は一緒に歌おう!」
「たくっ、しょうがねーなぁ」
男女のユニット曲をそれぞれのパートに分かれてのデュエット。なんだかんだで二時間目一杯カラオケデートを楽しんでしまった。
このまま波に乗って次のプランに移行する。
◆御手洗光輝のデート企画案【お洒落ファッションデート】
インテリヤンキーらしく御手洗光輝は堅実な企画を立案していた。女性の魅力を引き立たせる洋服屋へ誘導して試着してもらい、とにかく褒める作戦である。彼曰く「似合っている、綺麗だというのは当たり前でコーデごとに真面目に品評しろ」とのことだった。そして最後は一着をプレゼントするようにとメモ書きが添えられていた。「次のデートを考えて自分の好みの服を選ぶも良し、相手の好みを優先して器量のデカさを見せつけるも良し」という訳らしい。
「山田、服を見に行かねぇか? 今日の服も素敵だが色んな恰好のお前を見てみたい」
「うんっ! 安河内君がそう言うならっ」
ショッピングモールに店舗を構える広い服屋が『初心者彼氏厳選デートプラン』に紹介されていた。そこそこ品揃えがよくてお買い得らしい。幸一郎は上機嫌で服を選び始めた。どの服がよいかと迷う姿はその辺の女子高生と変わらない。しかし、恋人を待たせるのも悪いと思ったらしくチラチラと横目で大雅を気にしている。
「焦んなくていいぞ。ゆっくり好きなだけ選べ。俺もカラオケで歌い過ぎて疲れてるし」
「分かったよ。ありがと。じゃあちょっとだけ待ってね」
幸一郎は明らかに種類の違う服を見繕って試着室へ移動した。どうやら選んだ服の中から大雅の好みに合いそうな服を大別してそこから細かく決めていくつもりのようである。
最初に披露したのはパンツルックのボーイッシュスタイルである。元々が男の子なのでボーイッシュというのもおかしな話だが、カッコよく背伸びした女子のように見えるコーデだった。肩ひもが覗くTシャツにジーンズ風の短パン、キャップを被った姿はクールにみえる。
「……どうかな?」
「スカート姿ばかり見てたから分かんなかったけど、ズボンも似合うな。普段と違ったカッコいい感じが出てていいと思うぞ」
照れるように悶絶してカーテンを閉めた様子に店員さんが苦笑する。どうせ可愛い彼女だと思われているのだろうが否定する気はおきなかった。幸一郎が次に披露したのはゴスロリ衣装だ。元々肌が白く髪が艶やかなため陶器人形にさえ見える程可愛らしかった。
「人形みたいに綺麗だぜ。とってもかわいいよ」
「~~っ! ありがと。次行くね」
最後に披露したのはカジュアル風のミニスカート衣装だった。ニーソックスとスカート丈が作りだす絶対領域に思わず目を奪われてしまう。
「……いいと思う。俺好きだわ、それ」
「本当? 気に入ってくれて嬉しいっ!」
褒め言葉の引き出しから適当な語録を持ってこようとしていたが大雅の素直な気持ちが出てしまっていた。完全に好みドストライクのコーデだったようである。
絶対にカジュアル風ミニスカ衣装をプレゼントすると決めていた大雅は幸一郎が脱いだ他の服には目もくれずに該当衣装を手にした。そしてぶら下がった値札を見て仰天する。
「女の服ってこんなに高いのか……?」
「うん? まぁこれくらいはするかなぁ」
慌てて財布を確認してみる。ギリギリ買えなくはないが、購入すれば文無しは確定だ。デートを中断せざるをえないだろう。プレゼントしてデートを終わらせるか、購入を断念する代わりに新しいデートプランを始めるか究極の選択が用意された。
そんな大雅の心の葛藤を察した幸一郎は無言で服を元の棚に戻してしまった。
「山田、どうして仕舞うんだ?」
「服はいつでも買えるし、安河内君からの褒め言葉だけで十分だから」
彼は恋人の財布事情すら考慮して相手のプライドを傷つけずに身を引いたのである。そんな美しい心遣いに何も言えなくなった大雅はそのまま幸一郎を抱きしめた。
「えへへ、ちょっと照れるねー。安河内君、次はどこにしようか?」
「任せてくれ。お勧めのスポットがあるんだ」
服のプレゼントを断念したおかげで真鞘の企画を実行できそうだ。大雅はせめて幸一郎をもう少し楽しませてやろうとある場所へ向かった。
なんだかんだとデートを愉しんでいる二人。
幸一郎君が女の子なら大雅は婚姻届け提出まで間違いなくいっていたでしょう。




