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重音楽部


 男の娘化調査のために潜入部活動をしているというのに次々と《男子部》のメンバーたちが感化されてしまう始末。「深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいているのだ」とは言われているが、あまりにも情けない結末である。.そんな部員達の体たらくを見て一樹(いつき)が立ち上がった。


「だらしないですね、皆さん。次の潜入部体験でボクがこの空気を変えてあげますよ」


「はぁ~……四番手は首藤(すどう)か。まぁテキトーに頑張れ」


「ちょっと待ってください! ボクの扱い雑すぎませんか!? 今までの皆さんと態度が違いすぎるんですけど!? もっと激励の言葉があってもいいんじゃないです!?」


「どうせお前も男の娘堕ちだろ? もう分かってんだよそのパターン」


 大雅(たいが)は完全にやさぐれていた。今のところ《男子部》の功績はあまりにも少ない。同じ漢として信頼していた部員達が男の娘化してしまったのだからその胸中は察するに余りある。特に最大戦力と目されていた光輝(こうき)と真鞘の男の娘堕ちは大雅(たいが)のモチベーションを大きく落としていた。部内の空気を払拭すべく一樹(いつき)が前に出る。


安河内(やすこうち)君、ボクはね、中学時代黒歴史そのものでした。最初の自己紹介で出遅れて気づいたらボク以外のコミュニティが出来上がっていたんですよ。恋人なんて贅沢は言いません! ただ……一緒に馬鹿をできる親友が欲しかったんです」


「勝手に語りだしたよコイツ……」


「短い中学生活、待っていても始まらない。だから自分を変えようとギターを始めました。でも大きな失敗をして一気にスクールカースト最下位に落ちてしまいました」


「イツキの大きな失敗ってなんだぁ?」


「全校生徒の前で好きな女子への想いを乗せたオリジナルソングを熱唱しました」


「うわぁ……きっつ……」


「チッ、その度胸を別のことに活かせなかったのかよ……」


「……友人すら失ったボクは音楽をやめ勉強に打ち込みました。名門に入学して高校デビューしてやろうと!」


 仲間達は彼のスピーチから並々ならぬ覚悟を感じ取った。高校デビューを目指していた彼に取って周囲の生徒が男の娘デビューを果たしていた入学式は衝撃的だっただろう。故にこそ正しい男子校ライフを取り戻そうと奮起しているのだ。


「テメェのやる気は分かった。で、どの部に潜入するつもりだァ?」


「よくぞ聞いてくれました。一応音楽経験者なので《重音楽部》にしようかと」


「じゅうおんがく? いつき、名前間違ってるゾ! 《軽音楽》じゃないのかぁ?」


 騒ぐ天満(てんま)の頭を掴んで()(さや)は思い出したことを証言してくれた。


「私も《重音楽部》の名前は聞いたことがある。東青(とうじょう)先輩と《重音楽部》の部長さんが友人関係らしくてな。春休みは一緒に京都旅行に出かけたとか」


「部長の交友関係はどうでもいいんだよ! 活動内容を知りたいんだ。音楽に関する部活であることは確かだろうが……。首藤(すどう)、その辺を含めて男の娘化の原因を探ってみてくれ」


「おおせのままに」


 《重音楽部》の活動区画はおおよそ想像できる。音楽に関わる部活なら耳を澄ませば活動範囲を絞ることができる。部室から出て音色を辿っていくと、早くも音楽室で吹奏楽の演奏する生徒達が見えた。音色に合わせてリズムを取っていた一樹(いつき)は演奏が終わったタイミングで扉をノックした。


「すみません、こちらが《重音楽部》でしょうか?」


「《重音楽部》には違いないけど、私達はその中の《吹奏楽支部》ですよ? 入部希望者ですか? 《重音楽部》は支部によって毛色が全く違いますから入部は慎重にご検討ください。貴方の専行を教えていただければご紹介できますよ」


 フルートを持つ細目で長髪の男の娘は《吹奏楽支部》を束ねる支部長だという。察するに《重音楽部》は《傭兵部》並に大規模組織のようだ。


「専行って大仰な……。部長さんから説明を受けたいのですが……今はどちらに?」


「うーん、北玄(ほくげん)さんは忙しいからね。いつもは《軽音楽支部》にいる時間だけど……」


「ありがとうございます! では《軽音楽支部》とやらに足を運んでみます!」


 一樹(いつき)は場所だけ聞いて先を急いだ。武刀高校は非常に広大なので移動だけで時間がかかる。最初から目的地が決まっていれば問題ないが、移動する特定の人物を探すには不向きすぎるのだ。


一樹(いつき)は体力測定でも見せたことのない動きで《軽音楽支部》が活動する一階の空き教室前へ滑りこんだ。既に心地いい伴奏が聞こえている。休憩を兼ねて伴奏に耳を傾けると聞いたこともない歌だった。オリジナル曲の練習に励んでいるようだ。


高校生《軽音楽部》の中でも非常にレベルの高いものだと分かる。乗ってきた一樹(いつき)はリズムに合わせてエアギターを始めてしまう。これも音楽経験者の悪い癖かもしれない。アウトロまで聞き終わる頃にはエアギターを終えて拍手で称賛した。


「拍手ありがとう。キミは見学者かな?」


「見学には違いありませんが、今《重音楽部》の部長さんを探しているのです。ここに来ていると伺ったのですが」


「あぁ、むっちゃんかー。今日の打ち合わせ早く終わったから他の支部に視察に行ったよ。《ダンス支部》――は今日は休みだから《オーケストラ支部》に行ってると思うよ」


「オーケストラ……そんなものまであるんですか!?」


 一樹(いつき)は入学案内で貰った冊子を確認してみた。《オーケストラ支部》が講堂で練習しているという記載を見つけてすぐに講堂に走った。途中で生徒会の(ひそか)竜水(たつみ)に出会って近道を教えてもらえたが、それでも道のりは遠かった。


「……はぁはぁ……《重音楽部》の部長さんは?」


「あー……あなたが噂の新入生ですわね。吹奏楽支部長から聞いていますわ。でも少し来るのが遅かったですわ。北玄(ほくげん)様は既に《アイドル支部》視察に向かわれましたわよ」


 社長令嬢のような男の娘の支部長が携帯電話を掲げて話してくる。共に管楽器を使う支部活同士仲が良いらしく連絡を取り合っているようだ。既に一樹(いつき)が部長に接見を求めていることも伝わっていた。


「分かっていたならどうして引き留めておいてくれなかったんですか!」


「ご冗談を。北玄(ほくげん)様はお忙しい方なのです。新入生一人の相手に貴重なお時間を頂戴できませんもの。さぁ、今屋上へ向かえば《アイドル支部》指導中の北玄(ほくげん)様に会えますわよ」


「嗚呼、この学校の広さが憎い……」


 運動部の走り込みとほぼ同じメニューを強制させられた一樹(いつき)の体力は限界に来ていた。

すれ違いになったら今度こそ《男子部》へ戻ってやろうと考えながら屋上の階段を上っていく。しかし、想像とは逆で屋上からは「部長!」と呼ぶ男の娘の声が聞こえてきた。そっと覗くと丈の短い和服の男の娘の後姿が見えた。可愛いアイドル衣装に身を包む男の娘部員達を正座させて怒鳴っているようだ。彼は扇子をつきつけて怒りを顕わにしていた。


「アンタら、〝あいどる〟舐めてるんちゃうの!? この程度の〝ぱふぉーまんす〟で〝らいぶ〟するなんてよう言うたなぁ! 園児のお遊戯会の方がマシや!」


「ですが部長! 私達は必死にやってるんです!」


「必死なんは皆同じや。アンタ、仮にも支部長の看板背負ってるなら部員のダメな所は素直に指摘せなあかん。仲良いのは結構や。けど慣れ合いになったら技能が死ぬで」


「た、確かに後輩たちは未完成の部分もあります。ですがそれは皆の長所で補い合って完成させます! ライブをするうちに成長できます!」


「生意気言いなさんな。朱音(あかね)は音程が合ってない。(まい)は踊りが他の子とズレとる。ウチの眼は節穴やないで。パッと見ただけで分かるんや。お客さんも気ぃつくやろなぁ」


 不出来を指摘されたと思われる部員は涙目になっている。それでも部長からの駄目だしが続いていく。具体的に細かいところを指摘してくれる師は稀だ。そこを改善すればすぐに成長できる。だが叱られる男の娘の中にはその意味が分からず自分を追い詰めてしまう子がいた。


「部長、わたし辞めます」


辞意表明したのはダンスの不出来を指摘された(まい)という男の娘だった。一緒に活動していた《アイドル支部》の仲間達は「まだ頑張ろうよ」「一緒に続けようよ」と説得に出る。


「わたし、才能ないみたいだから。みんなの足引っ張りたくないし……」


 涙ながらに呟く(まい)にメンバーはかける言葉が見つからないようだ。

しかし部長は彼の頬を思いきり打った。打たれた舞は訳が分からずきょとんとしている。


「アンタ、自分を裏切るんか? 今日まで頑張ってきた自分を見捨てるんか?」


「え……でも、私はダンスが下手で……才能ないから」


「ウチは才能ないなんて言った覚えないで。アンタの駄目な所はいつまでたっても自分に自信がつかず仲間の真似をしようとする所や。せやから他の〝めんばー〟より一歩出遅れとる。自信の無さが踊りに現れとるんや。ええか? よう見とき」


 部長は扇子を腰の帯に仕舞うと音楽を再生する。そしてリズムに合わせてキレのあるダンスを披露した。そのステップはアイドル支部の誰よりもアイドルらしく見えた。先程まで辞めると泣いていた部員すらも魅了されて釘付けになっている。

 一通り終わる頃には拍手喝采になっていた。


「ウチは言葉キツイから誤解しとるかもしれんけど、アンタらのこと気に入ってるねんで。せやから本番で失敗してほしくないねん。恥かくのは一瞬やけど〝とらうま〟は一生残るからね」


「「部長! 私達、もっとレッスンし直します!!」」


「ええ顔になったね。せや。できることをしなはれ。大見えきるんはその後やで~」


 扇子を広げて上品に微笑む部長は踵を返した。

 そして扉の隙間から覗いていた一樹(いつき)と目が合ってしまった。


「ああ。アンタがウチに会いたい言うてはった後輩はんね。話は聞いとるよ。落ち着いて話できる場所に案内しましょうか」


 彼の微笑みは紅いアイシャドウのせいか蠱惑的に見えた。


一樹(いつき)君は中学時代に好きな女の子に全校生徒の眼前で

オリジナルソングで告白し玉砕、スクールカースト最下位に転落しました。

彼が中高一貫のミネチューから武刀へ編入した理由になります。


 彼が潜入した重音楽部は様々な音楽関係の部活が合わさった部活です。

 傘下の部活には支部長が存在しており、彼らを統括する総部長として北玄武季(ほくげんむつき)がいます。

 京風関西弁を話す和風男の娘ですね。

 彼の性別を知らない人は妖艶に見えてしまいます。


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