最強の天使が独裁者をアッパーで吹き飛ばして平和な国にするお話。
「僕は星野天使。その名の通り天使です。それ以外の何者でもありません」
コツコツと靴音を鳴らし星野天使が歩を進めていく。
艶やかな茶色の髪、眠たそうな半眼、色白の肌。小柄で華奢な少年の背後には無数の倒れた男たちがいた。
可愛らしい顔立ちながら瞳や表情からは一切の感情を読み取ることもできない。
白いシャツに灰色のズボン、首にはヘッドホンを付けて、背中には白い翼が生えている。
淡々と抑揚のない声で事務的に告げられた台詞に拳銃を突きつけた男たちは怯む。
自分たちも先に倒れされた者たちと同じ未来を辿る。
それが嫌なので機関銃の引き金を引いた。
四方を取り囲んだ状態から放たれる一斉射撃。通常の人間なら原型を留めていない。
咆哮し弾が尽きるまで撃ちまくる。それしか彼らに遺された道はなかった。
やがて煙が晴れ、男たちは無傷の少年の姿を目撃した。
凹んだ無数の弾が地面に散らばっていた。
星野天使と名乗る少年は小さく嘆息して言った。
「人間の武器は僕には一切通用しません。おとなしく降伏してください。あなた方は兵力にモノを言わせ独裁をしています。それでは多くの罪のない人々が困ってしまいますから、僕が来たのです。降伏して、真っ当な生き方をしてください」
「う、うるせぇ!」
「あなた方は拳銃さえあれば何でも支配できると思い込んでいる……その愚かな思い上がりを正しにきました」
弾丸の切れたマシンガンを突きつける兵士のひとりに歩み寄り、銃に触れたかと思うと飴のように捻じ曲げてしまう。
隣にいた兵士のマシンガンも指先で軽く触れただけで跡形もなく破壊されてしまう。
自分たちも胸ほどもない小さな少年の桁違いの力に兵士たちは戦慄し滝のような汗を流す。
この子は化け物だ。同様の考えが兵士たちの脳に駆け巡った。
「独裁をやめて国を平和で人々が笑顔で暮らす国にすると約束しますか?」
「お、俺たちは悪くねぇ。悪いのはルドルフ様だ!」
「それでは彼が天国へ行けば独裁はやめるのですね」
「あ、当たり前だッ! 俺たちだって好きでこんなことをしているんじゃねぇ。
怖くて誰も逆らえねぇんだよ!」
「……わかりました。彼をあの世に送ることにします」
星野は瞬間移動でその場から消失し、次に彼が現れたのは独裁者の前だった。
突然来訪してきた少年に独裁者は目を丸くした。
「貴様はスター流の……!」
「ご存じでしたか。星野天使です」
「いいいいいい今すぐ出ていけ。ここはワシの国だ!」
「あなたの者ではありません。この国は国を愛する全ての人々のものです」
「黙れ。この……堕天使が!」
あまりの恐怖に口走ってしまった言葉に、独裁者は慌てて口を覆う。
だが、手遅れだった。
無表情な星野の瞳から透明なしずくが流れる。泣いているのだ。
星野天使が泣く姿を見た者は例外なくこの世と別れることになる――
支配層の間で語られてきた噂だが、恐るべき真実味で立ちはだかる。
「今の言葉、もう一度言ってください」
「ぐ……!」
「もう一度言ってください」
「何度でも言ってやるわい! この、堕天使が!」
「天使のアッパアアアアアアッ」
それが、独裁者の聞いた最期の言葉だった。
完璧に命中したアッパーは独裁者の身体を吹き飛ばしていく。
天井を突き抜け、高く高く舞い上がっていく。
大気圏まで飛ばされて爆発。
独裁者は無事に天国まで送られたのだ。
青い空を見上げた星野はポツリと呟いた。
「自業自得です」
こうして星野はまたひとつ、平和な国を生み出した。
おしまい。