危険な女、デクシア。
アスフォデルスに来てから、早くも半年が経とうとしている。
トレーニングのおかげで体は丈夫になり、ステータス全開放してもバフ抜きで体に負荷が出る事は無くなった。
まぁ、ようやくスタートラインと言ったところではある。
戦いに関しても、遠くを見る事が出来たり投擲や弓の命中率を上げるスキル『イーグルアイ(鷲の目)』と、物などの詳細が分かるスキル『鑑定』を覚えたが、スキル『第三の眼』『イーグルアイ』『鑑定』の3つが合わさりスキル『すべてを見通す者』になってしまった。
それに以外にも、弓の扱いを覚えたり、実践的な戦闘経験もした。まぁ主に相手はアリステラだったけど。
そして、ヴォルフガンドことヴォルは、様々な事を覚えていき、さらに先を行かれてしまった感じがする。
アリステラはと言うと、ヴォルの面倒を見たり元に戻れるように色々試したりしたけど結局ロリエルフ娘のまま。
俺は当初の目的を達成したので、アスフォデルスを出ようと思っていた。
「アリステラ、俺はアスフォデルスを出ようと思う。」
「なんとなく、わかってた。で、どこか行く当てあるの?」
「いや、特には考えてない。」
「だろうと、思った。だったら、ヘイローにでも会いに行ったら。うちの王様の、物作りライバル、名工ヘイローに。」
ヘイローと言えば、ヒュドリアの王都で鍛冶屋をやっているゲイルの師。
「ヘイローは、その人物にあった武器を作るのが得意だけど、簡単には作ってはくれない。ドワーフ特有の、面倒な性格。本来なら、レアな鉱石ある所にヘイローの影ありって言われてたけど、ヘイローのお眼鏡に適う人物が現れない事から、国のドワルヌスに帰って王都で調理器具作ってるらしい。」
確か無能な勇者が2人もいた世界だから、作る側が素晴らしい物を作っても、扱える者がいなければ意味がない。
ある意味ヘイローにとっては、やりがいがない世界なのかもしれない。
「ドワルヌスの王都だと、ヒュドリアから行くと馬車で1カ月か……。」
「え?2日で着くけど。アスフォデルスの転移魔法陣を甘く見てるね、バイス。」
言われて思い出したけど、俺の記憶を消したアリステラは、元々アスフォデルスに続く転移魔法陣が使える場所を探す旅をしていたんだった。
「忘れてた。」
「ボクも、伊達に苦行をやってはいなかったさ。あ、一応王様に言って置かないと面倒になる。」
「父様、只今帰りました。」
丁度いいタイミングで、ヴォルが帰ってきた。
「ヴォル、王様に会いに行くから、帰って早々だけど出かけるよ。」
「はい?ドクサ王様なら、さっきそこの道歩いていました。」
この国の王様は、神出鬼没でいつ何処で現れるか分からないが、王座の間に行くとなぜか直ぐに何処からか現れる。
「王様は、王座の所に行けば出てくるから……。」
「何?余に用か?余の剣よ。」
ホントに、神出鬼没で困る。
「我が王、突然湧いて出ないでいただきたい。」
アリステラは、ドクサ王の前ではちゃんとした口調に変わる。
「大体の事は、察しがついておる。腑抜けたヘイローに、会いに行くのだろう。あの腑抜けに、バイスの武器とヴォルフガンドの武器も作らせるのであろう?なら、あの腑抜けに、これを持って行くといい。」
ドクサ王は、マジックストレージとは違いどこかの空間と空間を繋げ合わせて、大きな鉱石をいくつか取り出した。
「妖魔鉱石、メテオライト、オリハルコン。この3つを、腑抜けに土産として持って行くといい。」
ドクサ王はさらっと出したが、貴重な鉱石である妖魔鉱石、メテオライト。さらには保有しているのがステータスになるレベルの鉱石、オリハルコンが出てきた。
「あの腑抜けの事だ、まともな鉱石も持っておらん筈だ。今、ドワルヌスで不可解な事が頻発しておる。この意味が、余の剣なら分かるな。」
これは、ドクサ王が他国の不可解な事を解決して来いと言っているのだろうか?
「用件だけ済ませ、直ぐに戻ります。」
むしろ、関わらないようにしろ、だった。
「余の剣、盾は手から滑り落ちた。」
「!?」
ドクサ王の言葉に、アリステラ驚いていた。
ドクサ王は、何事も無かったように帰っていく。
「姉様?」
「ん?ヴォル、ごめん。ちょっと考え事してた。」
多分、アリステラは最後にドクサ王が言った、「盾は手から滑り落ちた」について考えているのだろう。
「鉱石は、バイスが持っててくれるかな?」
「あぁ。」
俺はマジックストレージに、3つの大きな鉱石をしまった。
「はぁ、話したい事があるから、2人とも聞いてくれるかな?」
深刻な表情で、アリステラに余裕はない感じだ。
「姉様、お水です。」
ヴォルは人数分の水を、コップに入れてテーブルに置いた。
アリステラは、ヴォルから水の入ったコップを受け取ると、水を一気に飲み干した。
「ドワルヌスに、この3人で行くのは問題ないんだけど。王様は、ボクの事を剣って呼んでるけど、実は盾もいるんだ。」
盾もいる。
つまり、盾が裏切ったとか死んだとかの話なのかもしれない。
「その盾、デクシア・アスピダがドワルヌスいるかもしれない。」
「姉様、その方はどのような方なのですか?」
ヴォルの問に、アリステラの目が泳ぐ。
「自分の理想の相手を探し求める、激流の様な人かな。世界的災害になるから、アスフォデルスで隔離してたんだけど、どうやら脱走したみたい。今の趣味が枯れ専で、それでドワルヌスで不可解な事が起こってるんだと思う。王様的には、バイス気を付けろって事だと思う。」
あまり想像したくないが、デクシアは人間版台風の様な災害が起きると言う事なのだろう。
「バイス。デクシアにあったら、5秒以上目を見ちゃダメだからね。チャーム持ちだから、物凄く面倒くさい事になるから。」
チャームと言う事は、相手を魅了すると言う事。
「相手を魅了するだけなら、問題がないんじゃないじゃ?」
「あまい。自分の為に争わせたり、取り巻きの様にするから手に負えない。対抗できるのは、ボクか王様ぐらいだし。ボクに至っては、小さくなっちゃったから手に負えないよ。」
あ!!
いやな事が、分かってしまったかもしれない。
「アリステラ。君が小さくなったのは、いつぐらい?」
「何を急に?確かバイスと別れてから10年経ったぐらいだから、40年前。」
エルフにとって、10年単位はあっという間。
「多分だけど、小さくなった原因デクシアにあると思う。」
「なんで?」
「捕まえる事が出来るのが、王様とアリステラの2人しかいない。そのうち、1人は国に居なければいけない。もう1人は、常に自由に行動できる。だとしたら、自由に動ける方を弱らせてしまえばいい。」
「なるほど、デクシアはボクを小さくして、その様子を見ていたのか。自分の脅威かどうか。そして、脅威ではないと思って、ボクがヒュドリアに行ったタイミングで抜け出して、それがバレない様に偽装までしていたと。」
俺が、アスフォデルスに来た時にはデクシアは脱走済みで、この半年間バレなかったのが不思議だ。
「幻惑とチャームの重ね技で、気付くのが遅れたんだろうね。色々と、対策立てないといけないな。」
アリステラはそう言いながら椅子から立ち上がり、夕食の準備をしにキッチンに消えた。
俺は、放置状態だったヴォルの頭を撫でる。
「ヴォ……わたしも、姉様の手伝いしてきます。」
最近、ヴォルが一人称をヴォルからわたしに変えようと努力中。
たまに、普通にヴォルと言ってしまって、恥ずかしがるヴォルがとてもかわいい。
最近分かったが、これが親バカと言うやつなのかもしれない。
アリステラとヴォルが作った夕食を3人で食べ、温泉でその日疲れを癒して、ドワルヌスに行く準備をしてから眠りについた。
夜が明け、俺とアリステラとヴォルの3人?でアスフォデルスを後にしてドワルヌス国の王都へやってきた。
ドワルヌスの王都に入る際、ドクサ王から貰ったブローチが早速役に立った。
「こんなにあっさり、王都に入れるとは。」
「それは、役得だから。それに、ヘイローが……。会ってからの楽しみの方がいいか。」
アリステラは、悪い顔で笑う。
「ヴォルまで、あっさり通されてるのも驚きなんだが。」
「それは、ヴォルが神獣フェンリルだからじゃない?」
神獣フェンリル・・・・・。
『神を喰らったとされる獣。正確には、神に近いとされる獣。知能や魔力が高く、過去に存在した個体はいくつもの国を滅ぼした記録があります。その為、フェンリルは脅威の対象であり、なるべく関わりあわないのが一般的となっています。』
最近サポート精霊の解説がなかったから、どうしたのだろうと思っていたが、今回はちゃんと解説してくれた。
転生前の俺がいた世界で、知られているフェンリルとは別物と言う事になる。
全くの別物と言うわけではなく、似た部分は存在する程度なのだろう。
「それにしても、王都にしては静かだな。」
「いつもなら、酔っ払いがそこら辺の道にいるんだけど、これもデクシアの影響だと思いたくないボクがいるよ。さっさと、ヘイローの所に行くのがよさそうだね。」
アリステラの案内で、ヘイローの鍛冶工房へと向かった。
王都にも関わらず人気は無く、嵐の前の静けさだ。
アリステラが言っているデクシアが、どのような人物か分からないが常に警戒をしておいた方が良い。
「はい、ヘイローのオンボロ工房に到着。」
「誰の工房がオンボロだって!!」
アリステラの悪口に、瞬時に反応して工房から1人のエルフが出てきた。
「バイス、これが王様の言ってた腑抜けのヘイロー。」
アリステラは、ヘイローにヘッドロックを掛けられながらも平然としている。
「アリスは、縮んだせいで脳筋具合が上がったんじゃない。それにドクサは、ただの引きこもりでしょうが。」
「ハッハハ。ヘイ姉は、相変わらずだね。王様が引きこもりなのは、否定しないけど。」
「でも、ドクの大切な人を失ったのは、さすがに同情するよ。」
「ヘイ姉、酔ってる?情緒が不安定すぎ。」
アリステラとヘイローの会話に圧倒されてる、俺とヴォル。
「で、何しに来た?」
「あ~。ヘイ姉に、バイスとヴォルの武器を作ってもらいにきた。」
「前も言ったけど、うちの人が亡くなってから武具は作らないって言ったろ。」
アリステラは、ヘイローにヘッドロックを掛けれたまま会話を続けっている。
「ヒュドリア王都のゲイルって、自称名工ヘイロー弟子に最低限の装備を作ってもらったけど、さすがに装備が足りないから追加でヘイ姉に作ってもらおうと思ってね。さっきも言ったけど、バイスとヴォルの装備ね。」
「ゲイル?あ~、あの鼻タレのゲイルか。旦那の気まぐれで、鍛冶屋のすべて叩き込んだ鼻タレか。で、鼻タレが作ったの見せてくれるかい?」
ヘイローはアリステラを放すと、俺に手を差し出してきた。
俺は身に着けている手甲とナイフを、ヘイローに渡した。
「メテオライトを素材に、防具とナイフね。」
ヘイローは腰に下げていた小さいハンマーで、手甲とナイフを軽く叩いてる。
「メテオライトの純度は高かったけど、加工が甘い。仕込みを組み込んでいるけど、これも甘い。ナイフは、魔鉱石か妖魔鉱石を混ぜるて……。悪い癖が出た。」
「バイス、アレ出して。」
アリステラは、俺の隣に戻る。
俺はアリステラに言われた通り、ドクサ王に貰った鉱石を出した。
「妖魔鉱石、メテオライト、オリハルコン、ドクか……。」
ヘイローは、3つの鉱石を見てため息をつく。
「よりによって、鉱石持ってきたのがあたしの鉈を持ってるとか。ほんと、アリスもドクも、このバイスって人間にお熱。それに、フェンリルに装備作るなんて、今後なさそうだから引き受けてあげようじゃない。誰が読んだか名工ヘイロー・ドワルヌスの本気を見せるかね。」
「ヘイ姉、よろしく。」
アリステラは、軽々しく頼む。
「姉様、ドワルヌスって。」
「ヘイ姉は、2代前の国王の嫁さんだね。今の国王は、ヘイ姉夫婦が養子にした子の息子だから、孫。ヘイ姉夫婦は、王様とかやってるよりも物作りしてる方が好きで、息子に王様任せて城ぐらいをすぐに辞めたぐらいだからね。あと、ヘイ姉の惚気話は面倒だから聞かない方がいい。」
アリステラは、どこか疲れた顔をしている。
「何の話してるか知らないけど、ヴォル?だっけ。」
「はい?」
「両手出して。」
「はい。」
「なるほど。ヴォルは、どちらの姿で暮らしていきたい?」
「父様や姉様と手を繋げる、この姿で居続けたいと思ってます。」
ヘイローは、ヴォルの手を丹念に調べる。
「ヴォル、ありがとう。」
そう言ってて、ヘイローはヴォルの頭を撫でる。
ヴォルはヘイローに頭を撫でられ、嬉しそうに尻尾を振っている。
「バイス、君は剣を2つと胸当て、手甲だと名前の通り手の甲しか守れないから、籠手で上腕部から手の甲までの守りにしよう。あとは動きの妨げにならない様に、脛当を作るから少しばかり体に触らせてもらうよ。」
「バイス。ヘイ姉は、触れば基本的にぴったりサイズの防具作れるから。」
アリステラに促され、ヘイローに手、腕、胸、脛の順に触られた。
「うん、ありがとう。すぐに装備は出来るから、工房の隅で待てて。」
ヘイローに案内されて、アリステラとヴォルと一緒に工房内入る。
工房と呼ばれる場所は、ただ広く何も物が置かれていない場所だった。
「ドワーフが、トンカンやる工房思い浮かべてたでしょ。昔はそれで作ってたけど、あたしが一番やりやすいようにしたら、これが一番楽でね。」
ヘイローに指定された位置で、アリステラとヴォルと一緒に椅子に座る。
先ほど渡した鉱石は、どこからか現れたゴーレムがヘイローの所へ運んでいく。
「先に言っておくと、今座ってる椅子から絶対動かない事。そこから動いたら、何が起きても一切保証は出来ないから。」
鉱石を運び終わったゴーレムが、俺達の元に来て自らの体で目安程度の壁を作った。
ヘイローは、深く深呼吸をする。
「装備全部完成するまで、ヘイ姉には声が一切届かなくなったから。」
ヘイローの足元が輝き始める。
「ヘイ姉が名工と言われるのは、武具の出来の良さと、完成までの時間の短さ。」
ヘイローは何かをつぶやいているが、俺達のいる所までその声は届かない。
地面に置かれていた3つの鉱石が宙に浮き、ヘイローの周りを回り始める。
ヘイローは、手をゆっくりと5回叩く。
「手を叩いたのは、その回数分の武具を作る合図。今回だと、5種類の武具を作る合図だね。」
ヘイローは小さなハンマーを手に取り、3つの鉱石を一度叩く。
「今のは、使用する素材の選択だね。」
ヘイローは小さなハンマーを腰に下げている工具入れに戻し、俺の手甲とナイフを何処からか取り出し、宙に放り投げる。さらに5つのクリスタルも、ヘイローは同様に宙に放り投げる。
「今投げたクリスタルは、魔晶石だね。魔法的な炉……、魔導炉を作るところだね。」
アリステラが、隣で丁寧に説明をしてくれている。そして、アリステラの言う通り俺の手甲とナイフに魔晶石5つで、宙に魔導炉が完成した。
ヘイローは完成した魔導炉に、妖魔鉱石、メテオライト、オリハルコンの3つの鉱石を見えない手の様な物で入れる。
「あの魔導炉は、普通の炉よりかなり高温。温度は、ヘイ姉が体感で調整してる。」
ヘイローは、鉱石の1つを取り出し素早くいくつかの塊に分ける。それを、残りの2つも同様に行った。
『ヘイローが使っているのは、スキル『マジカルハンド』と同様のものです。一つ違いがあるとしたら、武具を作るのに特化したものだと言う事です。』
ヘイローは、見えない手を自在に操り短時間で5種類の装備を作り上げた。
「疲れた……。本来ならハンマーで叩いた方がいいのだけど、混ぜる金属によっては爆ぜるから安全で精密に作業できるコレの方が少しは楽かな。」
そう言いながら、ヘイローは装備を手に取る。
「まずは、ヴォルの。人の姿と獣の姿でも使える鉤爪。前腕で防御出来るように籠手一体化型の鉤爪にしてある。身に着けた時、少し大きく感じるかもしれないけれど、体にぴったり合うよう作ってるから大丈夫。あたしにしか出来ない方法で、体格に合う装備を提供してるから。」
ヴォルはヘイローから大き目な鉤爪を手渡され、アリステラに手伝ってもらって両手に身に着けてみる。
すると、ヘイローの言う通り大き目な鉤爪は、ヴォルの体格にぴったり合うサイズに変化した。
「バイスの胸当て、籠手、脛当も体に合う様になってるから、動きの妨げにならない。」
ヘイローは、俺に胸当て、籠手、脛当の順で着けていく。
防具は、元々の大きさでも支障がなかったが、体に合った大きさになる事によって、体を動かした時に妙な締め付け感や、グラつきと言ったもの一切なくなり無理なく動きやすくなっている。
「剣は、仕上げないとだから。」
ヘイローは、少し大き目なハンマーを片手に持ち、薄く長い剣を火箸で挟み、魔導炉で再加熱し、 金床とハンマーで叩き始める。剣を過熱しては叩きを返しながら、何かを口遊んでいる。
ヘイローは、剣を鍛え終わったのか、真っ赤な剣を空に掲げ、軽く息を吹きかけた。
すると剣は、真っ赤な色からゆっくりと青く紫にして輝いていた。
同様の方法で、ヘイローは残りの剣も仕上げた。
ヘイローは、魔導炉を消す。壁になっていたゴーレムが動き始め片付けを始める。
「すまないね、待たせた。ずっと作りたいと思ってたものだから、つい熱が入ってしまったよ。」
そう言ってヘイローが俺に差し出してきた2振の剣は、まさかの刀だった。
「昔、聞いて作ってみたかったけど、扱える人物が居なかったから作れなかった。サムライブレードこと、刀。」
情報元は、転移者のオデなのは間違いない。
「ん?俺の戦闘スタイルを知らないヘイローが、なぜ刀が最適だと思ったんだ?」
「それは、アリスが……。」
ヘイローが何か言いかけると、アリステラは激しく動揺し始めた。
「あぁ、とある人物が教えてくれたのさ。叩き切る剣ではなく、切り裂く剣が向いてる男がいるって。それで、刀にした。で、こっちが烈火。」
ヘイローは、鞘と柄に赤が所々使われている刀を指差した。
「烈火には、メテオライトと妖魔鉱石を使ってある。魔力を烈火に込める事によって刀が炎を纏う仕様になってる。もう1振は張り切りすぎてしまった影響で、少し厄介な刀。」
ヘイローは、少し気まずそうだ。
「その……、空間も斬れる刀になってしまって。一応、二段階の制限封印をしてあるから、現状では空間を斬る事は出来ないから、安心して使ってほしい。一段階目は魔力を込める事で開放できる。二段階目は使用者以外の魔力が必要。作ったあたしが言うのも何だけど、かなり未知数な刀になってる。それで刀の名前、綺羅星。オリハルコンとメテオライトをメインに妖魔鉱石が少し使ってある刀。烈火同様、炎を纏わせる事が出来るけど、それと同時に一段階目の制限封印が解除されるから、実質使えないと思って。切れ味は、烈火以上。使い所を、選んで使ってほしい刀。」
烈火と綺羅星の2振の刀は、試してからじゃないと使うのが怖いかもしれない。
「よし、バイスとヴォルの装備揃ったから、一旦アスフォデルスに帰ろうか。」
「アリス、シアの事を放っておかれると困る。元王族としても、今の国の現状は良くない。」
「はぁ~、そうですよね。」
「今のアリス1人だと解決できないから、2人を連れてきた。とりあえず、今日はうちで休んでいきな。試し切りも出来る場所あるから、バイスはそこで烈火と綺羅星の扱いを覚えな。」
デクシアの居場所がよく分からない現状では、ヘイローの鍛冶工房は唯一安全な場所なのかもしれない。
「ヘイロー、名前。」
ヴォルは、自分の鉤爪をヘイローに差し出す。
どうやら、俺の刀に烈火と綺羅星と言う名があるのが羨ましいのだろう。
「ヴォルの鉤爪?それは、流星だね。」
ヘイローはそう言いながら、ヴォルの頭を撫でる。
「ヴォルには、試し切りしながら色々教えてあげよう。ゴーレム達は、アリスの手伝い。」
「初孫に、甘いおばあちゃん。」
「あたしは、アリスのお母さんじゃない。これでもまだ……。」
ヘイローはなぜか、俺の方を見て言葉を詰まらせた。
「エルフの年齢は、人間とかと比べ物ならないからね。」
アリステラは、クスクスと笑う。
どうやら、ヘイローは自分の年齢を言おうとして、俺がその年齢が若いのか分からないのを考慮してか言うのをやめたのだろう。そういえば、アリステラもいくつぐらいなのか教えてもらったことは無い。
「さぁ、ゴーレム達、夕食作るから手伝って。」
そう言ってアリステラは、ゴーレムを連れて鍛冶工房の奥へ消えていった。
「その、うちは鍛冶工房兼家なんだ。元王族特権で、無駄に広い土地があるから、試し切り用の修練場や、客人用の部屋もあるから、今日はゆっくりして行くといい。」
もう少しで、夕方と言うぐらいの時間になっていた事に今更気付いた。
ヘイローに案内されて、試し切りが出来る修練場にきた。
ヘイローは、ヴォルに鉤爪の使い方を丁寧に教えている。
俺は2人と少し離れた場所で、木人を相手にステータスを調整して、鉈、烈火、綺羅星の順で振るった。
そして、どれだけの時間が経ったのだろう。
「相変わらず、すごい集中力だね。」
気付いたら、後ろにアリステラが立っていた。
「うわ、いつの間に?ジジィだから、心臓に悪い。」
「数分前から声掛けてるけど、刀降るのに集中してて声聞こえてないから待ってた。」
アリステラに呆れられながら、修練場を後にした。
アリステラの作った夕食は、野菜、肉など様々な料理が並んでいてとても豪華だった。
ヘイローは晩酌しながら料理を楽しんで、アリステラはヴォルの面倒を見ながらヴォルと共に食事を楽しんでいた。
俺は食事をしながら、烈火と綺羅星を少し使えるようになったのを喜びつつアリステラの料理を楽しんだ。
夕食の後は、アリステラは何処かに行き、ヘイローはヴォルと風呂に入ったのち就寝。
俺は、烈火を戦闘で扱えるレベルにする為、修練場にひたすら刀を振り続けた。
そして、気が付いたら、俺はそのまま修練場で寝落ちしてしまっていた。
爆発音と共に、俺は飛び起きた。
爆発の影響か、辺りは土煙で視界が悪くなっている。
マジックストレージからローブを取り出し、身に着けローブで鼻と口を覆った。
腰に携えている綺羅星を、居合切りの様に振り抜き収める。綺羅星に魔力を込めて風を起こし、土煙だけを建物の外へと追い出す。
外にほんのりと、明かりが差し込み始めるのが見えた。
寝落ちするまで烈火を振り続けていた為、戦闘でなければ綺羅星を振っても力の加減はきちんと出来るまでになっていた。
いくら体を鍛え直したと言っても、多数相手にする可能性を考えると分が悪いので、辺りを警戒しつつアリステラ達を探す。
部屋の所々に、ドワーフ兵が倒れている。
どうやら、俺達は強襲にあっているようだ。
倒れているドワーフ兵には、鎧を避けて矢が刺さっている。
ドワーフ兵は死んでいるのではなく、矢に塗られた薬によって深い眠りに落ちているようだ。
アリステラが弓で戦っているとしたら、建物内は遮蔽物が多く不利。
俺は咄嗟に、外へと走り出した。
外へ出ると、辺りにはドワーフ兵がかなりの人数倒れている。
金属同士が、ぶつかり合う音が聞こえる。
音のする方に目を向けると、倒れているドワーフ兵を避けながら、アリステラが同じ背丈の人物と戦っているのが見えた。
アリステラの手には弓ではなく、ナイフを両手に持ちヒットアンドアウェーの様に攻撃と回避や後退を繰り返している。
相手は、アリステラの攻撃を軽々といなしている。
闇が、日の光によって明けていく。
アリステラの戦っている相手の姿が、はっきりと見え始める。
アリステラの様な耳、ミルクチョコレートの様な褐色の肌。後ろに束ねられたシルバーに近いピンクブロンドの髪。背丈に合わない、大きい盾。
その時、理解した。
彼女が、デクシア・アスピダなのだと。
デクシアの口元は、笑っている。その笑いは、余裕からの微笑なのか。それとも、アリステラとの再会への喜びなのか分からない。
「やっぱり、戦いは楽しい。」
どうやら、デクシアは戦いが好きなようだ。
「何で、お前まで縮んでるんだ。」
「何で?って、バレにくいだろ。」
アリステラがナイフで斬りかかるが、デクシアは盾でアリステラごと弾き飛ばす。
アリステラは空中で体勢を立て直し、弓に持ち替え矢を放つ。
デクシアは盾で、アリステラの放った矢を防ぐ。
アリステラは地面に着地すると、同時にナイフに持ち替えてデクシアの背後に向かうも矢を受けきったデクシアは盾を投げ阻止する。
アリステラは、その盾を後ろに飛び退き回避するが、デクシアの大剣がアリステラに向けて振り下ろされる。
振り下ろされたデクシアの大剣を、アリステラは空中でナイフを使い受け流しながら、体をひねり大剣の平らな側面を蹴り回避する。
「相変わらず、すごい戦いぶり。」
いつの間にか、ヘイローがヴォルを抱きかかえて隣に立っていた。
「バイス、周りをよく見てごらん。」
日が昇り、辺りの様子がはっきりと見えるようになった。
辺りには思った以上に、多くのドワーフ兵を含むドワーフが倒れていた。
「このドワーフ全部眠らせながら、アリステラはデクシアと戦っていた。……でも、それとこれは別。アリス!!シア!!」
ヘイローは、大きな声でアリステラとデクシアを一喝する。
「「はい。」」
アリステラとデクシアは、その場に直立不動になる。
「どっちが、うちの家に穴開けた。」
まったく気にしていなかったが、気になり後ろを振り返るとヘイローの鍛冶工房兼家の壁にいくつかの大穴があいていた。
「あ、穴をあけたのはアリステラです。」
デクシアは素直に答えた。
「なるほど。じゃあ、アリスは何で壁に穴をあけた?」
「デクシアがヘイ姉達の所に、チャームしたドワーフ達を向かわせたから、それに対処する為に見通しをよくする目的で穴をあけました。」
アリステラも素直に答えた。
「シアは、チャームをかけた人達を開放しなさい。アリスは眠らせたドワーフ達を起こす。」
アリステラは渋々、ドワーフ達に刺さっている矢を回収し始めた。
「それは、出来ない。」
「シア、それはどういう事?」
「チャームを解けば、ドワルヌスと言う国はきっとなくなる。」
デクシアの言葉がよく分からない。
「あと数日で、魔王軍がこのドワルヌスの王都に来る。」
「なるほど、それで……。」
ヘイローは、デクシアの言葉から何かを悟った。
「シアは、アリス達をドワルヌスの王都に呼び寄せたかった。アリス達が、あたしの所に装備を作りに来たのは、偶然。つまりドワルヌスの王都で騒ぎを起こし、自分がいる事をアリスにアピールした。その理由は、自分な好きな場所が無くなるから。いくら、シアのチャームで底上げしたドワーフ兵やドワーフ達の力では、進行してきた魔王軍には敵わない。なら、アスフォデルスを抜け出す為に、実験台にしたアリスを呼び寄せた方がいいと思った。魔王軍がドワルヌスに来るのが分かったのは、最近。シアも、中々部の悪い賭けに出たもんだ。」
「アリステラは、私が騒ぎを起こせば絶対に来るのは分かっていた。絶対に元の姿に戻りたいはずだから。」
デクシアは、そう言って俺を見た。
「相変わらず、シアは素直じゃない。シンプルに手を貸してほしいって言えばいい。」
「それは出来ない、私はアスフォデルスを無断で逃げ出した。」
「そもそも、アスフォデルスを出るなって言われたのは、チャーム使って理想の相手を、より一層理想に近づける為、戦わせまくってたからでしょうが。下手したら、国が亡ぶわ。」
矢をすべて回収してきたアリステラが、デクシアに強烈なツッコミをいれた。
「それに、デクシアが二度と同じことしない様に反省房に入れてたんだし。それなのにボクを実験道具にして、抜け出した挙句自分の好みが多くいるドワルヌスに来て、もしかしたら滅びそうだから助けてって、自分勝手が過ぎる。」
デクシアは、色んな意味で危険な女なのかもしれない。
「アリス、ドワルヌスを見捨てる?」
「ヘイ姉。ボクは、そんな事はしない。それに、ドワルヌスの王都を戦場にもしない。」
「シア、アリスはそう言ってるけどあなたはどうする?」
「私は……。守りたい。」
「そう。ならアリス達と一緒に魔王軍に先手を打ってきなさい。ドワルヌスはあたしに任せなさい。」
その後、デクシアはドワーフ兵やドワーフ達のチャームを解いた。
俺とアリステラ、ヴォル、デクシアの4人は、装備を整えドワルヌスの王都を出て魔王軍へ向かった。
ヘイローは城へ出向き、迫りくる魔王軍からドワルヌスの王都を守る為に現王と共に王都の守りを固め、近隣諸国に魔王軍が侵攻してきている事を知らせた。時間がない為、兵を借りる事は難しく、避難民を受け入れてもらえるように働きかけたのだった。