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(更新休止中)村人ジジィですけど、冒険で無双していいですか?  作者: 天霜 莉都
第1章:避ける事の出来ない事とは・・・
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エルフの国、深緑のアスフォデルスへようこそ

 昨日の戦いで相当疲れていたのか、近衛兵に起こされて俺とアリステラは目が覚めた。

 その後、城のお偉いさん感謝され、アリステラは「近々同盟を結ぶ手筈を整える」と約束をされ、2人して城を後にした。

「バイスは、もう少し礼を貰うべきだったと思うよ。」

 俺の手には、大金貨が5枚ある。

 働き的には結構貰ってもいいのだが、後ろめたい事があるからそんなに貰えない。

「でも、驚いたのが、あの大きい白いヘルハウンドが、今は小さな子犬になってるなんてね。」

 俺も正直驚いている。

 寝て起きたら、白いヘルハウンドが俺のローブの中で子犬の姿で寝ていた。

 近衛兵やお偉いさんも、この子犬がヘルハウンドだと言う事に一切気が付いていなかった。

『白のヘルハウンド体内に、複数の魔石が融合し大きな魔石になっている事を、確認出来ました。』

 召喚時、3つの魔石を使って召喚した白いヘルハウンドだったが、俺とアリステラが寝ている時に、未使用の魔石を城内すべて巡って取り込んでいたらしい。その為、魔力量が増え姿を変えることが出来るようになったようだ。

「中々、器用な事をする子だね。」

 スキル『テイマー』のおかげなのか、白いヘルハウンドは子犬の姿で付かず離れず、俺の隣を歩いている。

 すれ違う王都の人々からは、「かわいい」とか「賢い」と、王都の人々から見ても、ただの白い子犬に見えているようだ。

「バイスは、これからどうするの?ボクは報告しないといけないから、国に帰るけど。」

「特に予定はない。」

 それを聞くと、ニカッと不敵な笑みを浮かべるアリステラ。

「1名と1匹を、エルフの国にご案内。」

 どうやら、エルフの国『深緑のアスフォデルス』に行くことが決定した。

 アスフォデルスに行くには、アリステラ曰く転移魔法陣で行くとの事だが、ライが激走して港町に行ったあの山まで行く必要があると言う。

 アリステラが港町から俺の事を見ていた理由が、丁度転移魔法陣の近い町で見つけたからと言う事になる。

 何たる偶然、むしろ必然なのかもしれない。

 王都に滞在する事3日で、王都を離れる事になった。

 そこから、5日間馬車に揺られ、俺の暮らしていた村の隣村に戻ってきた。

「まさか、馬車を勝手に持つ山盛りで、隣村に戻ってくるとは思ってなかった。」

「エルフは基本、引きこもり系種族だから、外界の物って物珍しいから重宝するんだよね。この荷物の大半は、頼まれ物だし。」

「でも、本当に俺がアスフォデルスに行って平気なのか?」

 アリステラはケラケラと笑いながら、俺の問に答える。

「本来は、よそ者絶対殺すマンだけど、今回の事の協力者だから大丈夫。それに前もって、行く連絡は飛ばしてあるから。それに何かあっても、ボクが守るから大丈夫。」

 アリステラは見た目ロリエルフ娘だけど、城での戦いでその強さは計り知れないものがある。

「村に寄らず、直行するけどいいよね。」

「かまわない。」

 それから、1日掛けて1つ目の山を越え、1つ目と2つ目の山の間の渓谷から森に入っていく。舗装されていない獣道を半ば強引に通り、木々の少ない少し開けた場所に出た。

 アリステラは馬車を止めると、近くの木に登り周囲を確認し始めた。

「ちゃんと人除けが効いてるから、周囲に人影なし。あ、バイスはそのまま馬車に乗ってて。」

 アリステラが木から飛び降りると、馬車の周りを地面に円を描くように回り始めた。

「範囲指定、ヨシ。」

 確認等を終えてアリステラが馬車に戻ると、アリステラは自分のマジックストレージから、弓と変わった形の矢を取り出した。

「我が名はアリステラ・サイフォス。我が名において、深緑へと繋がる門を開け。」

 そう言うとアリステラは、弓を引き頭上高く矢は放った。

 放たれた矢は、空中で弾け、アリステラの引いた丸い線内の馬車をまばゆい光で包んだ。


「はい、到着。」

 まばゆい光が消えるとそこは、木々が生い茂るエルフの国、新緑のアスフォデルスだった。

 そして、囲まれていた。

「アリス姉さま、アレ買ってきていただけましたか。」

「アリステラ、うまい酒は見つかったか?」

「アーねぇねぇ、キラキラあった?」

「アー姉さま、かわいい洋服はありましたか?」

「サイフォス、珍しい調味料あったか?」

 どうやら、アリステラが馬車に山盛り積んでいた荷物待ちのエルフ達だったので、少し安心した。

「みんな、同時に喋らないで。ボク耳は良いけど、王様がきっと目が血走りながら待ってるから早く行かないと。」

 アリステラが、そう答えると。

「「「「「それは早く行った方がいい。」」」」」

 と集まってるエルフ達が、全員同意見だった。

「一応、どれが誰のかは名前書いて入れてあるから、自分のだけ持って行って。自分の以外持っていったら、宙吊りだから。」

 そう言ってアリステラは馬車から降りて、俺をエルフの王の元へ案内してくれる。

「我が王、アリステラ・サイフォス。只今、戻りました。」

「よく戻った、余の剣。それで、クソ魔族共をぶち殺してきたか?」

 アリステラが言ってた通り、エルフの王の目はかなり血走っていた。

「王よ、本音駄々洩れです。」

 王の側近が、必死に静止する。

「はい、きっちりと始末してきました。正直、物足りないレベルの雑魚でしたが。」

「そうか。」

 アリステラとエルフの王は、お互い不気味に笑う。

「王、それに剣殿、客人をお忘れですよ。」

 ナイス、側近。俺もこの状況は、正直居心地悪かった。

「これは、すまない。余は、この国の王。ドクサ・アスフォデルス・バシレウスだ。」

 アリステラが隣にきて、俺に耳打ちする。

「名前に、国名が入っているのは、その人がエルフの王である事を意味してるの。」

 なるほどと思いつつ、俺が屈んでいないのに、アリステラが普通に耳打ちしてきた事に驚いてアリステラの足元を見ると、白いヘルハウンドが土台代わりに背中を貸していた。

「お、これが物珍しい白いヘルハウンドか。透き通るような白、良い毛並みだ。」

 エルフの王は我慢できず、白いヘルハウンドを触りに行こうとすると、側近によって止められた。

「王よ、これは変わってはいますが、ヘルハウンドですので控えてください。」

 まぁ、見た目が変わっても火吐くし、危険なのは同じ。

「おぉ、蒼い炎を吐くのか。なるほど、普通のヘルハウンドより高火力だな。」

 エルフの王は目を輝かせながら、白いヘルハウンドを見ている。

「我が王、話を戻しても?」

「よいぞ。」

 アリステラは、白いヘルハウンドから降りて話始める。

「魔族を始末した後、城内を見て回った際に、人間の王を城の地下にて発見し、簡易的に弔ってまいりました。きっと今頃、人間の国では丁重に人間の王の葬儀が、行われている筈です。」

「そうか、死に顔はどうであった。」

「人間の王は、安らかで祈るように亡くなってました。」

「惜しい男を亡くした。結構イケメンで優しくて、気遣い上手で、時折逞しい男だったのに。」

「王よ、また本音駄々洩れています。」

 これはもう、漫才とかお笑いなのではと思ってきた。

「それで、アリステラ。この者が、お前の推しか?」

「バイスは、推しではなく。その……。」

 何だろう?このエルフの国、何処となく腐のにおいがする。

「そうか、この後ゆっくりしていくといい。」

「そ、そのつもりです。それと、我が王、コレを。」

 アリステラが、小箱を自分のマジックストレージ取り出しエルフの王に直接渡す。

 エルフの王は、箱の中身を見て嬉しそうにしている。

「丁度、新しい物を取り寄せようと、していたところだったのだ。さすがは、余の剣。」

「王よ、最後ぐらい王らしいことしてください。」

 小箱を見ながらニヤついているエルフの王を、側近が一喝する。

「バイス・リム、余の剣と共に良き働きをした。好きなだけ、余の国に居るといい。」

 これで俺はエルフの国、深緑のアスフォデルスに滞在する事を許された。

「後は、任せる。」

 そう言ってエルフの王は、スキップしながら奥に姿を消した。

「バイス殿、こちらをお持ちください。それは、この国一員である証。例え、この国を出た後も、様々な国境などはそれを見せる事によって素通り出来ます。」

 側近はそう言って、小さな小箱を開けて俺に見せた。

 小箱には、大きな宝石があしらわれたブローチが入っていた。

「あ、ボクのと同じやつだね。」

 そう言ってアリステラが、自分のローブに着けているブローチを俺に見せてきた。

「バイス殿。この国以外では、ブローチはなるべく見えない場所に着けてください。エルフ以外がこのブローチを身に着けているのは、非常に珍しいので悪目立ちいたしますので。」

 側近が、わざわざそんな事を言うのだから余程の事なのだろう。

 側近からブローチの入った小箱を受け取り、アリステラとその場を後にした。

「あの感じだと、王様きっと自室に戻って漫画描いてるだろうな。あ!?それお前のじゃないだろ!!」

 アリステラが急に声を荒げので、何かと思ったら、乗ってきた馬車から荷物を取り出すエルフがいる。

「結構遠いのに、よく見えるな。」

「エルフは目がいいからね。人間でいうイーグルアイとかってやつかな。」

 確か、昔やったゲームで鷲の目っていうスキルがあり、それだとアーチャーの射程距離を広げると言う効果だったと思う。

 この世界に、鷲がいるのかは知らないが、転生者の入り知恵だろう。

「目のピントを合わせるだけ。って、あいつボク言われても持っていく気か。」

 アリステラは、マジックストレージから弓矢を取り出して素早く射る。

「全く、後でちゃんと確認しないといけないな。」

 ため息をつきながらアリステラは、マジックストレージに弓矢をしまった。

「あ、ちゃんと矢は当たらないようにしたから、安心して。」

「それなら、よかった。」

 エルフの弓の腕を疑っているわけではないが、アリステラなら当ててもおかしくはないと思えてしまう。

「とりあえず、ボクの家行こうか。ゆっくり落ち着いて、話したいし。」

 アリステラに案内されるまま、アリステラの家に着いた。

「そこまで、大きくない家けど。」

 アリステラは謙遜しているが、俺が1人で住んでいた家より大きいから、十分大きい家だと思う。

「さぁ、座って。今、水持ってくるから。」

 この部屋に置いてある、テーブルや椅子は、丸太を加工して作られていて、棚は木そのものが棚の形をしている。

「本当はお茶とか出したいけど、数日家を空けるから冷やしたお茶とか作ってなくってね。」

 そう言いながら、アリステラは綺麗なガラスコップに水を入れて持ってきてくれた。白いヘルハウンド用に、深めの皿に水を入れたのも用意してあった。

「世間知らずのジジィなバイスには、水飲みながらボクの話を聞いてくれるかい?」

 俺が世間知らずなのは、事実だから仕方ない。

 俺は、軽くうなずく。

「まず初めに、魔力について話すね。生き物の生命力を変換して、魔法や魔術に使うのが本来の魔力。そして、自然界に満ち溢れている魔法的、魔術的エネルギーをマナと本来は呼んでいる。まぁ、魔法的、魔術的エネルギーだから、魔素と呼ばれていた事もあったね。でも、言葉で説明するのが大変だと考えたある人が、生き物の生命力を変換した魔力と自然界のエネルギーのマナをまとめて魔力と呼ぶことにしたんだ。今ではそれで統一されてるから、ボク達みたいに長寿な種族とかは、いまだに昔の言い方だったりするけどね。」

 サポート精霊が魔晶石とかの説明した時、あまり気にしてはいなかったが、昔ならマナと呼ばれていた部分が説明ではすべて魔力にきちんと統一されていた。そこはさすがサポート精霊と言ったところか。

「次に、魔物について。魔物に分類されるのは、心臓が魔石である生物のみ。例えばバイスが食べたシーサーペントは、水棲種ドラゴン系生物だから魔物ではないかな。魔物のメジャーな奴は、スライム系、ハウンド系、死霊系。ゴブリンやオークは、言葉を理解して話せるから、魔物じゃなくて魔族になるね。ついでだから、魔族に関しても説明するね。魔族は元々、ゴブリン系、オーク系、獣人系など魔王の配下とされ言葉を話すことの出来る者達つけられた名称だった。今だと、魔族領に住んでいて、魔王推しなら魔族認定される感じかな。」

 これもサポート精霊が教えてくれたと事と、大体が同じだ。

「後は国かな、エルフの王が治める国がアスフォデルス。人間の王が治める国がヒュドリア。ドワーフの王が治める国がドワルヌス。魔王からの独立をした獣人の王が治める国、ビスリア。魔王が治める国が、ベルバイラ。主にこの5つの国だけど、あまり政治的にも武力的にも、一切干渉してこない国がいくつかあるけど、それは必要になったら説明するね。」

 自分が住んでた国の名前、今初めて知った。

 ジジィの俺、本当に何も知らな過ぎて困るわ。

「とりあえず、必要な事はこれぐらいかな。何か、気になる事ある?」

 アリステラ先生が、質疑応答をしてくれるようだ。

「漫画とか推しとかってなんだ?」

 知ってはいるけど、もしかしたらこの世界での漫画と推しなどの言葉は、思っているのと違うものかもしれない。

「その昔、「デュフ、オデは異世界転移者だ。」とか言う人間が、どっからか湧いて出たから宙吊りにしてたら、「オデは偉大な漫画家様だど」とか言い始めて、常に訳の分からない事を言ってるから追い出そうとしたら、王様が面白がって知ってる情報を全部言わせて時に、オタク用語って言う独自の言葉と、漫画と言う沢山の絵と言葉を使って描かれた物語を聞き出してからその男を追い出したんだけど、王様が漫画描いたりオタク用語を気に入って使ってるから、国中流行っちゃったんだよね。」

 エルフの国に、漫画とオタク用語を広めた男。彼のその後どうなったかは、分からない。

「あ、ちなみにその男は「ケモミミ娘最高」とか言って、獣人の女に迂闊に近づいて獣人の男に殺されてたな。」

 転移者の男は、俺TUEEEではなかったのと、異世界ハーレムでも夢見た結果、残念な死に方をしたようだ。

「他に気になる事、ある?」

「ない……。いや、俺の記憶を消した理由が知りたい。」

 俺の言葉に、アリステラは少し気まずそうな顔をした。

「そうだよね。うん、分かった。話すよ。」

 何とも、歯切れの悪い返事をするアリステラ。

「まずは、ボクとバイスの出会いから話さないとだよね。あれは……。


 あれは、約50年前の事。

 ボクがアスフォデルス出て、色々な所を旅していた時の事。

 当時のアスフォデルスは、転移魔法陣が少なくそれに適した大地を探す事が主なボクの役目だった。

 マナ(魔力)が濃い場所が、転移魔法陣を作るのに適している為、その場所を実際に目で見て適した場所か確認してまわっていたんだ。

 そして、その時の一つが、今回ボク達が使用した場所。

 当時のバイスは木こりもしてたから、森でボク達は偶然鉢合わせてしまった。

 アスフォデルスに今後繋がる事になる場所を見られたボクは、バイスを始末しようとした。でも、バイスはボクの攻撃をすべて躱しながら、切り倒した木の枝を落としてた。

 当時のボクには、衝撃的だったね。アスフォデルスで弓に長けていたボクの矢を、躱しながら自分の作業をしているバイスはとんでもない脅威に感じた。この時、食料が尽きてしまって、数日食べずにボクは行動していた。その為、頭も回っていなかったしスタミナもギリギリで、ボクはバイスに矢を放ち続けた。その結果、ボクはスタミナが尽きて意識を失って倒れてしまった。

 普通なら、自分を攻撃してきた相手を放って置くのに、バイスは仕事を放ってボクを連れて帰り、空腹のボクに食事をご馳走してくれた。

 驚いたのは、エルフの女を抱きたい連中は多いのに、バイスは意識のないボクに一切手を出さなかった。なぜ手を出さなかったかバイスに聞いたら、「興味ない。俺は生きていけるだけで、十分だ。」って。

 ボクは、バイスの事を何とも欲がない人だと思った。それと同時に、バイスに興味が湧いてしまった。

 ボクは役目を忘れて、バイスと共に過ごした。

 バイスと過ごした時間は、ボクにとっては僅かな時間だったけどアスフォデルスにいた時よりとても充実していた。

 そんなある日、家畜の面倒を見ている時に王様から連絡が来てしまった。早く、役目を果たせと。

 ボクは、愛用していた鉈をバイスにプレゼントした。

 きっと一生の別れになるのだと、その時は思ったから。

 バイスに、鉈をプレゼントした夜。バイスが眠ったのを見届け、ボクはバイスの中にあるボクに関する記憶をすべて消した。

 理由は簡単。

 アスフォデルスに繋がる場所を、知られるわけにはいかなかったから。

 バイスに鉈をプレゼントしたのは、そこにボクがいた証を残したかったから。

 まさか、バイスが出て行ったボクを待ち続けるなんて思ってもいなかったよ。

 でも、今ならその理由が分かる。

 バイスがボク対して言った言葉「誰かと共に、この村で生きるのも悪くない。」、それが一番の理由だったんだと。


 それが一番の理由だったんだと。」

 なるほど、ジジィの俺の消された記憶は、アリステラと過ごしたもの。

 アスフォデルスの脅威になる可能性があったから、アリステラに出会った事や共に過ごした記憶を消した。記憶を消されたジジィの俺は、アリステラからプレゼントされた鉈をずっと使い続けていた。記憶は無くても、それがとても大切なものだったから。

「今言う事ではないのだけど、あの当時のボクはバイスの事……好きだったんだと思う。」

 俺も、そんな気はしてた。

 アリステラが、俺の消した記憶の話をしてる時、恋する乙女の顔をしていた。

 それにしても20代の俺は、アリステラの矢を躱しながら木こりの作業していたとか、畜産とか木こりしてる場合じゃなかったのでは?と思ってしまう。

 まぁ、元々飢える事のない生活を望んだわけだから、普通に暮らしてればそれが叶うのだから、危険な事をする必要性は無いので、ジジィの俺は冒険に出ようとはしなかったのだろう。

「そ、そう言えば、天然温泉って言うあったかい水が湧き出てる所があるんだけど、傷を癒す効果もあるから入ってみる?も、もちろん、ちゃんと男女別になってるから安心して。」

 アスフォデルスで、まさかの温泉に入れるとは……。たぶん温泉って言葉や施設も、名の知らないハーレムに失敗した通称オデのおかげかもしれない。

 アリステラは、恥ずかしさを紛らわす為か、座っていた俺を無理やり立たせて、手を引いて天然温泉施設に連れて行ってくれた。

「こっちのシンプルな造りが温泉だけ、もう片方の大きい建物が健康ランド。」

 け、健康ランド!?

 複数の浴槽があり、マッサージや食事など色々と出来る健康ランドだと。

 オデ、お前一体どれだけ情報引き出されてるんだ。

「俺は、温泉だけでいいかな。」

 そもそも、転生した俺のこの体は風呂に入った事は……ないな。

 冷たい井戸水で体拭くとか、頭から水をかけるとかそのレベルしかしていない。

「青の扉は男で、赤は女。絶対に、間違えないでね。」

 さすがに、文字で男女分けではなく、色で分ける方法のようだ。シンプルだが、分かりやすいように作られている。

「入ると段差があって、そこで靴を脱いであがって。棚に服を入れる用のカゴがあるから、そのカゴに服を入れて元の場所に戻して、棚に戻したカゴの下の隙間に靴を入れるスペースがあるから、そこに靴を入れる。一糸纏わぬ姿で次の部屋に行くと、そこが温泉。」

 アリステラが言っている事を聞いていると、造り的には銭湯の様な感じになっているのだろう。

「アリステラ、説明ありがとう。」

 アリステラと別れて、温泉へ向かう。

 造りはアリステラの言っていた通りで、銭湯な造りになってる。

 服を入れるカゴには、体を拭くバスタオルが入っている。周りを見渡すと、使用後のバスタオルを入れる場所もしっかり用意されていて、さらには魔法石を使用したドライヤーまで置いてある。

 アリステラに言われた通り、服を脱ぎカゴに入れて棚に戻す。靴も、カゴと同じ棚に入れる。

 何も持たず、温泉の部屋に入る。入ってすぐの所に、体洗いタオルがあり、その隣には回収場所も用意されている。洗い場には、備え付けのシャンプーとボディーソープ。それらを洗い流す、シャワーヘッドまである。

 完璧なまでの、銭湯スタイル。

 懐かしさを感じながら、俺は久しぶりの風呂を楽しんだ。

 マジックストレージに服を入れておいたから、ついでに着替えも出来た。

 外に出ると、アリステラが待っていた。

 彼女も丁度出てきたのだろう、体と頭から湯気が立ち上っている。

「バイス、タイミングはばっちりだったね。」

 アリステラは、子供の様な無邪気な笑顔で笑った。

 アスフォデルスにいる時のアリステラは、少し気が抜けているようなリラックスした表情をしている。

「王様が、アスフォデルスの魔法は世界一、って言いながら日々新しい道具開発してるってみんなが言ってたよ。最近作ったのが自動で洗濯をしてくれる洗濯機って言うのと、洗濯物を乾かす乾燥機って言うのを作ったって。洗濯機用洗剤って言うのも、作ったって言ってた。ボク、そんな長期間国を離れてなかった筈なんだけどな。」

 アリステラの家に戻りながら、他愛ない話で盛り上がった。

 それにしても、アスフォデルスのドクサ・アスフォデルス・バシレウスと言う王様は、なんでもやる王様みたいだ。

 アリステラの家に戻ると、置いてぼり食らった白いヘルハウンドが不貞腐れて寝ていた。

「あ、君の事、忘れててごめん。美味しいお肉料理作ってあげるから、それで機嫌直してくれないかな。」

 白いヘルハウンドは、ジト目でアリステラを見て軽くため息つき、仕方ないと言わんばかりに伸びをする。

「バイスも、座って待ててくれるかな。記憶を消したボクが言うのも何だけど、懐かしさを感じられるボクお手製の食事をごちそうするよ。待ってる間に、その子に名前つけてあげたら?」

 そう言って、アリステラはキッチンと思われる部屋に消えていった。

 確かにいつまでも白いヘルハウンドと言うのも可哀そうか、名前か……。

『警告、魔物に名付けを行うと、変化、変貌、進化、などが行われる可能性があります。』

 え!?これ以上強くなるという事!?

「あ、アリステラ、魔物に名付けするとパワーアップしたりとかあるのか?」

 とりあえず、アリステラなら何か知っているかもしれない。

「あ~、ボク言って置きながらすっかり忘れてた。うん、進化するよ。名に恥じないような姿になるって、言われてる。まぁ、かわいい名前にしても、名前の意味なんてよく分からないのかメチャメチャ強くなるパターンが多いらしいよ。小さい時に「魔物に無暗に名前つけるな」って、ババァ連中に言われたっけな。」

 アリステラは、別の部屋から声だけで答えてくれた。

 昔から言われているのだから、事実なのだろう。と言う事は、ヘルハウンドから何になるの?犬系だと、頭2個のオルトロスとか頭3個のケルベロスとか……。

「多分だけど、その子はバイスと生涯共に歩む気だと思うよ。だから、名前はあった方がいいと思うけど。それに、呼びにくいし。」

 アリステラの本音は、最後の呼びにくいだろう。

 ヘルハウンドは犬系の筈だけど、賢くあってほしい意味を込めてこの名前を白いヘルハウンドに与えよう。

「ヴォルフガンド、それが君の名前だ。」

「バフゥ。」

『白いヘルハウンドは、体内の魔石と主人であるバイスのMP(魔力)を使い進化します。』

 ヴォルフガンドの体が、まぶしく輝く。

「おぉ、進化の光キター。」

 そう言いながら、包丁片手にアリステラが出てきた。

「ヴォルフガンド呼びにくいから、ヴォルってボクは呼ぼうかな。」

『白いヘルハウンド、ヴォルフガンドの進化が終了しました。』

 ヴォルの体の、まぶしい光が収まった。

 ヴォルの体今までは短めな毛だったが、モフモフな毛で覆われていた。

「あ!?ヴォル、もしかして反転した?」

 顔もどことなく、犬と言うより狼になったかもしれない。

『ヘルハウンドから、フェンリルへと変異しました。』

 つまり、得意が火から氷に切り替わった可能性が高い。

「ヴォルの白い毛並みが、進化した事によってより一層綺麗さが増した感じだね。」

 確かに狼の様に賢さを持ってほしいから、名前に狼の意でヴォルフを入れたけど、フェンリルは行き過ぎではないか?

『変異により、体の大きさを自在に操る事が出来るようになり、ブレスも氷属性を得意としています。さらに、鎖による拘束魔法も使用できます。』

 ヴォルの有能さが増してる。まさかと、思うけどヴォルは氷属性のブレス以外にも使えたりするのだろうか?

『元々の火属性ブレスも使用可能です。魔法の才にも恵まれている為、拘束魔法以外にも属性魔法を覚える事も可能になっています。』

 これは、俺完全敗北なのでは……。

「あ、アリステラ……。ヴォルは、フェンリルになったらしい。」

「なるほど、ヴォルは美人なフェンリルに進化したんだね。ヘルハウンドの時も結構な美人さんだったけど、進化して美人に磨きがかかった感じだね。」

 ん?

 アリステラがさっきから綺麗とか美人とか言ってるが、ヴォル……。

 ま、まさか!?

「え、バイスその顔。まさか、ヴォルがメスって気付いてなかったの?」

 性別気にした事はなかったが、まさかのメスだったとは……。

「と…父様……。」

 聞き覚えない少女の声が、何処からか聞こえる。

 でもこの場にいるのは、俺とアリステラとヴォルのみ。

 と言う事は……。

「ヴォル?」

「は…い……。」

『ヴォルフガンドは変異の過程で、魔物、動物、人など、この世界すべての生き物の話す言語を理解出来るようです。一部、話す事も可能です。』

 マジか……。

「父様を驚かすつもりはなかったのですが、父様がどんな話をしているか分かるようになって。もしかしたら、ヴォルも話せるかなと思いまして。」

「ヴォル、ボクは?」

「姉様?」

「っ~。ヴォルは可愛さの化身か。」

 アリステラは手に包丁を持ったままヴォルに抱き着こうとしたので、俺は急いでアリステラを静止する。

「アリステラ、包丁。」

「あ、そうだった。ボク、料理の途中だった。ヴォル、お姉ちゃんがおいしいごはん作ってくるね。」

 アリステラは、包丁片手にスキップでキッチンに戻っていた。

「ヴォル、今出来そうな事とか、やってみたい事はあるか?」

「はい、姿を変える事が、多分……出来ると思います。」

 俺は、ヴォルの頭を優しく撫でる。

「それは、ヴォルがやってみたい事か?」

「うん。」

「それじゃ、やってみようか。」

 ヴォルは、頷く。

 俺は念の為、マジックストレージから綺麗な上着を取り出す。

 ヴォルの体は変異した時同様に、ヴォルの体が輝き始めてゆっくりと体の形を変えていく。

「とりあえず、サラダ系完成したからテーブルに置いておく……ヴォル!?」

 タイミング悪く、アリステラが両手に山盛りの野菜の入ったサラダボールを、2つ持ってきた。

「アリステラ、お静かにお願いします。」

「失礼しました。」

 サラダボールをテーブルに置いて、アリステラはキッチンに戻っていった。

「姿を変えるの……少し難しい……です。」

「焦らなくていい、ゆっくりでいいから。」

「は……い。」

 キッチンから、何かの肉が焼けるいい匂いが漂ってき始める。

 俺は、ヴォルをじっと見守る。

「もう……少し……。」

 ヴォルは、ゆっくり少しずつ変化させている。

 時折、アリステラがテーブルに出来上がった料理を置きに来る。

 ヴォルのなろうとしている姿が、少しずつ分かってくる。

 ヴォルは、人の姿に変わろうとしているようだ。

『ヴォルフガンドの、魔力と体力が尽きようとしています。』

 ヴォルは、限界まで頑張ろうとしている。

「ヴォル、最初から完璧を求めなくていい。ゆっくりで、いいんだ。今日が無理でも、明日また頑張ればいい。」

「父様。」

 ヴォルの体を包んでいた光が収まり、耳としっぽを残し他すべて人の姿に変化した。

「ヴォルは、無茶しすぎた。」

 ヴォルが目指していたのは、成人した大人の姿だったのだろうけど、残念ながらそこまで上手く姿を変えることは出来なかった。

 ヴォルに、俺の上着を着せる。

「肉焼けたよ~。って、ヴォル!?」

「姉様。」

「ヴォルは、すごいね。ボクとあまり変わらないぐらいに、なったんだ。」

「耳としっぽは、残ってしまいました。」

「ヴォル、それかわいいから残しておいて正解だよ。」

 ケモミミロリ娘の爆誕である。

「ヴォル、無茶は駄目だ。分かったか?」

「はい、父様。」

 ヴォルの頭を撫でる。

「とりあえず、ごはん食べよう。ヴォルもバイスも、おなかすいたでしょ。ヴォルは箸とかフォーク使いにくいと思うから、手掴みでいいよ。でも、あったかい物はやけどに気を付けて食べてね。」

 テーブルには、サラダとステーキなど様々な料理が並べられていた。

 アリステラは、ヴォルの世話をしてくれている。

 ヴォルは、俺やアリステラの真似をして、箸を使ったりフォークを使ってみたりするけどまだ難しいようだ。

 俺はと言うと、少し懐かしさを感じる味付けに、消えてしまったけどアリステラと過ごした時間があったのを噛み締める。

 そうこうしている内に、食事は終了した。

 食器を片付けて、キッチンからアリステラが戻ってくる。

「バイス、ヴォル温泉に連れて行くから、右奥の部屋にベッドあるから先に寝ててもいいよ。」

「そうか、なら先に休ませてもらうよ。」

「え?父様も一緒ではないのですか?」

「ヴォル。温泉は、男と女は別々に入らないといけないの。」

「わかりました、姉様。」

 アリステラは、ヴォルの頭を撫でる。

「あ、でもヴォルの服を先に買わないとだから……。とりあえず、行ってくるねバイス。」

 アリステラは、ヴォルの手を引いて家を出て行った。

 俺1人の時間が訪れる。

 アリステラに言われた右奥の部屋に行き、ベッドに横になる。

 アスフォデルスに来れたのは、よかった。

 風呂があるのは、最高でしかない。

 それ以外にも、エルフならではの事を学ぶいい機会になりそうだ。

 ここで、バフ無しで動ける体作りをするのもいいかもしれない。

 ヒュドリアの城での、大量のハウンドとデーモンとの戦いは、スキル『デストロイヤー』頼みになってしまったのは反省だ。

 いくらジジィの体だからと言っても、もう少し動けるようにならなければいけない。

 肉体改造系なら、アリステラがアスフォデルスでいい所を知っているかもしれないから、明日起きたら聞いてみよう。

 そんな事を考えながら俺は眠りに落ちた。



 バイスと別れ、ヴォルの手を引いて家を出た。

「姉様、服と言うもの着ないといけませんか?」

 ヴォルの手を引いて服屋に向かう途中で、ヴォルにそんな質問をされた。

「ヴォル。ボクはどんなかっこをしてる?」

「姉様は、服を身に着けています。」

 ボクは、頷く。

「そうそう、人は基本的に服を着て生きている。温泉に入ったり、体を洗ったりする時とかは、服は着てないけど、外を出歩く時は服を着てる物だよ。まぁ、ヴォルも慣れるしかないかな。」

 ヴォルは、少し難しい顔をしてる。

「ヴォル、服屋到着。」

 ヴォルの手を引き、服屋に入る。

「いら……。アー姉さま、どうされたんですかその子。アー姉さまの、隠し子とかですか?」

「違うから。ビィ、この子に会う下着含めた全身用意してくれる。」

 アスフォデルス内の服屋なら、ビィが一番頼りになる。

 なぜって?

 それは採寸もしてないのに、ぴったりのサイズの洋服とかを用意してくれる、すごい娘だから。

「アー姉さま、何パターン用意します。」

「とりあえず、3パターンと寝る時の服もお願い。」

「ハーイ、直ぐ用意しまーす。」

 ビィはそう言いながら、店内の服を選び始めた。

「アー姉さま、お待たせしました。」

 いつも思うけど、自分の店だけあってビィの服選びは早い。

「とりあえず、試着してみないとサイズあってるか分からないよね。」

「大体は大丈夫だと思うのですが、尻尾用穴開けないといけないですね。」

「姉様?」

「ん?ヴォル、ビィはこわくないから大丈夫。服を着せるのがうまいから任せて大丈夫。」

 ビィに連れられて、ヴォルは試着室に入る。

「見落としてたけど、ヴォル裸足だった。」

 ボクとした事が、少し浮かれていたのかもしれない。

 生まれ育った国だから安心できる場所だけど、気を抜きすぎるのもよくないかもしれない。

「アー姉さま、まずはシンプルに黒のワンピースコーデ。」

 ビィに、服を着せてもらったヴォルが出てきた。

「姉様、どうでしょうか?」

「うん、かわいい。」

 ビィは、しっかり靴下と靴もチョイスしてくれていた。

 その後も、ヴォルのファッションショーは続いた。

「お、思ったより買ってしまった。」

 ヴォルの服とかを、何だかんだ10セットは買ってしまった。

「姉様。」

「ん?あぁ、ボクが好きで買ってあげただけだら、ヴォルは気にしなくていいよ。それにヒュドリアの城で、ヴォルは大活躍だったし、そのお礼も含めてね。」

 ボクはヴォルに買った服を、マジックストレージにしまった。

「次は、温泉。ボクとバイスだけ入ってずるいから。ヴォルも、疲れを癒す為に入らないとね。」

 買った服は、体を綺麗に洗ってから着せてあげたい。

 それにしても、ビィがその場で尻尾用穴作ってくれたから、本当に助かった。その場で、出来る人はなかなかいない。

 よく考えるとヴォルって、数日前にバイスが一か八かで召喚した白いヘルハウンドで、それがまさかのフェンリルに進化してしまうなんて、誰が予想できただろう。

 そう言えば、フェンリルを崇めている獣人達がいるなんて話どこかで聞いた事あるけど、今のヴォルの姿なら、フェンリルとは分からないから大丈夫だと思うけど……。

 もし何かあったら、その時はバイスが何とかするよね。

 いつまでもボクが付いていく事なんて出来るわけないし、許されないだろうから。

「姉様?どうか、されましたか?」

「ん~。ヴォルには教えないといけない事が多いから、どうしようかなってね。」

 明日、バイスにヴォルの事を相談しないといけないな。

「ヴォル、温泉に到着。」

「姉様、温泉と何なのでしょうか?」

「それは、入ってみてからのお楽しみ。」

 とりあえずは、性別から教えないといつか大惨事になるから早急に対策しよう。


 リズミカルに食材切る音と、いい香りに誘われて目を覚ます。

 息を吸い込むと、草木の匂いを感じる。けれど、その匂いは嗅ぎなれたものではなく、少し懐かしさを感じさせる匂いだった。

 昨日入った風呂のおかげか、久しぶりベッドで寝たおかげか、体の節々が痛くなる事なくいい睡眠が出来た。

 ベッドから起き上がり、あくびをしながら、アリステラの家のリビングらしき所の椅子に腰かけた。

「と、父様……。お、おはようございます。」

 声をかけてきたヴォルは、昨日アリステラに買ってもらった服を着ていた。

「ヴォル、おはよう。服も、よく似合っているな。」

 そう言って、俺はヴォルの頭を撫でる。

「あ~。バイス、おはよ。」

 アリステラが、キッチンから顔だけ出して挨拶をしてきた。

「ヴォル、かわいいでしょ。」

「アリステラが、服選んだのか?」

「違います。ビィさんが選んでくれました。」

 ヴォルの言う、ビィとは服屋の人だろう。

 ヴォルの発言を聞いてか、アリステラはゆっくりとキッチンに戻っていった。

「それで、ヴォルはその姿になれたか?」

 コップに入っている水を飲みながら、ヴォルは頷いた。

「はい、朝食セット。」

 そう言って、アリステラは3人それぞれにワンプレートにまとめてある食事を持ってきた。ワンプレートには目玉焼き、サラダ、一口大に切ったチキンステーキがのっていた。

「主食は、パンね。」

 アリステラが持ってきたパンはハード系のパンではなく、ふんわりと柔らかそうなロールパンだった。

「うちの国って特化系の人が多いから、このパンもパン特化の子が今朝焼いたやつだよ。バイスは、硬いやつばっかり食べてたけど、ボクはこっちの方が好き何だよね。」

 別に好き好んで硬いのを食べていた分けではないのだが、物が手に入りにくい村だったから、長期保存に向いてる食材とか食事をしてた。好きかと言われると、「生きる為だけに食べていただけ」と答える。

 ヴォルは目の前の食事に待ちきれない様子で、尻尾を振っている。

「飲み物はヴォルにはミルクで、ボクとバイスにはあったかい紅茶ね。」

 転移者が齎した情報で、アルフォデルスはとても豊かだと感じる。それに、転生前の飲食物に近い物を食べる事も出来る。その点では、感謝かもしれない。

 食べ始めると、アリステラはヴォルにフォークの使い方を身振り手振りで教えている。

「バイス、ヴォルは先日まで魔物だったから、世の中の色々な事を知らない。だから、バイスが良ければ、ヴォルにいろいろ教えてあげたいと思っているんだけど、どうかな?」

 口に運んだパンを手に持ち、俺は少しばかり固まってしまった。

 アリステラの提案に対して、動きを止めたのではなく、家族の様な会話に少しだけ懐かしさと、自分にもあったかもしれない光景に、つい感極まる。

「父様?」

 ヴォルの声に、我に返りいつの間にか流れていた涙を拭った。

「ごめん、食事時にする話じゃなかったね。」

「いや、これは違うんだ。目の前の光景が、懐かしさと愛おしさについ感極まっただけで。ジジィだから、涙腺が緩いのかもしれん。」

 その言葉を聞いて、アリステラは少しほっとしている。

「ヴォルの事は、俺も考えていた。それと同時に、自分の事もどうにかしないといけないとも思ってる。」

 アリステラは、少し不思議そうな顔をしてる。

「それはどういう事?」

「肉体改造と言えばいいのか?ヒュドリアの城で戦った時、俺はかなり厳しい状態だった。だから、この体と鍛えなおしたいと思った。普通のジジィなら、そうは思わないかもしれない。でも、俺は……。」

 少し納得したような顔をする、アリステラ。

「確かにバイスって、能力に比べて体が追い付いていない感じだったから、いいと思うよ。結構スパルタな所、紹介出来るけどどうする?」

 不敵な笑みを浮かべる、アリステラ。その横で、悪戦苦闘しながら食事をするヴォルが、癒しだ。

「なるべく短い期間で何とかしたいから、スパルタでも構わないさ。ヴォルに関しては、俺が自分の事で手一杯になるから、アリステラに任せるよ。」

 3人での食事を終え身支度を整え、アリステラとヴォルに見送られて、アリステラに貰った地図を頼りに目的地に向かう。

 そして、たどり着いた場所は、転生前には使う事がなかった施設。

 ジム。

 正面がガラス張りで、なぜか中身が見える仕様の建物だ。

 転生前に、見た事あるトレーニングマシンが見える。

 それを再現できるこの国のというより、ドクサ王の技術力が恐ろしい。

 帰りたいところだが、自分で決めた事だから意を決して入っていく。

「パワー。」

「ヤー。」

「ハッ。」

 筋肉隆々の3人のエルフが、ポーズをとっている。

 どうやら、来るところを間違えたようだ。

「「「ま、待ってください。ここでバイス殿に帰られたら、アリステラ様に殺されます。」」」

 3人にマッチョエルフは、帰り道に立ち塞がった。

「とりあえず。」

「プロテイン飲んで。」

「落ち着きませんか。」

 物凄く、面倒くさい。

「分かった。半年で戦いに向いた体にしたい。」

「任せてください。」

「段階を経て。」

「パーフェクトボディ作りましょう。」

 わざわざ、三分割にして喋らなくてもいいのに。

「今日の所は、ルームランナーで軽く汗を流しましょうか。」

 置かれているルームランナーは、俺の知っているルームランナーそのものだった。

 マッチョエルフ3人は、1人を俺の所に残し、あとの2人は別の利用者の所へ行った。

 ルームランナーで走りながら周りを見渡すと、思ったより人がいてこのジムは賑わっているようだった。

「バイス殿は70歳と人間としては高齢ですが、かなり体力があるのですね。」

 体力はほぼ底なしの様なモノだから、体力的には余裕だが体的には割と早めに悲鳴を上げ始める。

「体作りは、2日目以降が重要なので、最初は無理せず毎日継続可能なぐらいにしていきましょう。」

 その日は、ルームランナーをやって終了した。

 日に日にやる物を増やし体を作り、バフ無しでステータスをフル開放で動けるようにする。

 それまではひたすらトレーニングに明け暮れる俺だった。

 そして、半年の月日が流れていくのだった。

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