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(更新休止中)村人ジジィですけど、冒険で無双していいですか?  作者: 天霜 莉都
第1章:避ける事の出来ない事とは・・・
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王都に王は住んでない?はい、王は幻想でした。

 港町から王都に向けて走り続けて、気が付けば次の村まで来てしまっていた。

 さすがに疲れていたのもあって宿屋に直行して、直ぐに眠りについてしまった。

 逃げるような形で港町を離れてしまったが、港町にそこまで思い入れはないから助かった。

 そして、よくよく考えると、この村まで来るのに自分のいた村を出てからまだ2日しか経っていない。

 この村は農業メインの村らしいが、最近育ちが悪いと言う事だったので、マジックストレージ内にある骨粉と内臓を熱水処理と加工をして畑に混ぜ込んであげた。転生前に何かで見た事ある知識だが、それが役に立つのかは不明である。

 村の畑全部に特性肥料をまくのに、2日ほどかかってしまった。

 俺が好き好んでやったことだが、村長がお礼にと言って、よく分からない箱と穀物の種を1キロくれた。それをマジックストレージにしまい、村を後にした。

 王都へ向かう途中どうしても、よく分からない箱が気になり、マジックストレージから取り出し眺めてみる。見た目は、ゲームなどでよく見るタイプの木の宝箱。しかし、村長曰く、物理的に破壊は出来ないらしい。ミミックの類も疑われたが、そうでもないとの事だ。鍵穴は無く、重さはとても軽い。その軽さは、例えるなら空の段ボール位だろう。木と鉄が使われている筈なのに、その重さは使用されている材料以下の重さ。魔法が関わっているのは分かるが、開けた瞬間、呪われるとかありそうで困る。

『この箱には、魔法で複数鍵がかけられています。それと重さ軽減の魔法も、かけられています。呪いの類は、検出できませんでした。』

 サポート精霊がそう言うなら呪いは無いのだろうけど、わざわざ複数鍵をかけると言う事は何か重要な物もしくは、良からぬ物が入っているに違いない。

「触らぬ神に祟りなしだな。」

 捨てるのは危険なので、マジックストレージにしまっておくことにする。

 穀物の種は、麦の種らしいが正直今のところ使い道がない。

 王都に向かう途中、いくつか港町に向かう馬車を見かけたが、その逆の港町から王都へ向かう馬車が一向に来ない。

 結局、馬車は来ず、前の村から2日日かけて歩き2つ目の村に着いた。

 この村も農村で昨年の不作で、今年育てる作物の種が少なくて困っているようだったので、前の村で貰った麦の種1キロをあげた。そのお礼に、またしてもよく分からない箱を貰った。見た目も、軽さも、すべて一緒。それと、申し訳なさ程度に鉱石を数個貰った。これは後で、サポート精霊に視てもらおう。

 この村の宿で1泊すると丁度、王都行の馬車が通りかかったので乗せてもらう事にした。

 それから馬車で揺られる事、3日で王都に着いた。

 王都の門で馬車を降ろされ、どうやら王都に入るのに検問が必要なようだ。警備兵に手荷物検査され、水晶でステータスを確認された。

 この世界でステータスを確認出来るのは、6つ数値とレベルぐらいだった。レベルは2桁表示であった為、俺のレベルは05と不思議な表示になっていたが、誤表示と軽く流され、王都に入る事を許可された。少しばかり、検問所の様子を見る事にする。

 俺同様の事をされる人もいれば、警備兵に何かを見せて王都に入っている人もいる。

『冒険者や商人に発行される、ランク認識票やランクカードです。冒険者のランク認識票は、首に下げることの出来る大きさになっています。それとは対照に、商人のランクカードはしっかりとしたカード形状になっている。ランクはブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの順になっています。このランク制は、冒険者と商人同様に行われています。ただし、冒険者はプラチナの上のランクが存在します。冒険者の最上位ランクは、オリハルコンになります。ですが、オリハルコンランクの冒険者は、ごく少数となっています。各検問所は、このランク認識票やランクカードで簡易な検査で通る事が可能になります。』

 なるほど、検問所での検査が簡略化されるのは便利ではある。

『冒険者ランク認識票は、討伐した魔物などが記録される機能が付いているので要注意です。』

 サポート精霊が忠告していると言う事は、やめておいた方がいいのかもしれない。

 検問所を観察するのはこれぐらいにして、王都を見て回ることにしよう。

 とは思ったけど、特に見たいものないので、適当に徘徊する事にする。

 王都と言うだけあって、服、アクセサリー、鍛冶屋、武具屋、肉や魚などの食材の店、食堂や飲み屋などの食べ飲み系のお店など様々な店ある。

『いくつかの装備を整える事を提案いたします。』

 サポート精霊からの提案は、聞いておいた方がよさそうだ。

『全身を覆う、フード付きローブ。腕を守る、手甲。この2つを、提案します。』

 ローブと手甲か……。

 ローブは仕立ててもらうより、出来合いのものでサイズの合うものでいいだろう。

 丁度近場にローブを扱っている店があったので、そこでフード付きローブを1つ購入して身に着ける。

 あとは、手甲。

 武具屋に取り扱いもあるし、それでいいかもしれない。

『この王都には、ドワーフが営んでいる鍛冶屋が存在しています。』

 ドワーフの鍛冶屋。

 ファンタジー要素で、絶対に外せない要素の1つではないか。

『ドワーフの鍛冶屋に、案内を開始します。』

 サポート精霊に案内されて、ドワーフの鍛冶屋に向かう。

 ドワーフの鍛冶屋には、いくつかの剣が飾ってあった。どれも素晴らしい作りだが、見ていて何かが引っかかる。

「ん?ジジィの客とは珍しいな。」

 ドワーフが、カウンターの奥に座っている。

「わしも、ジジィだがな、バッハハハ。」

 どこかの誰かと、何か似たものを感じるドワーフだ。

「で、人間のジジィが、わしの店に何かようか?」

 いきなり門前払いされなくて良かったと安心しつつ、ドワーフに問いかける。

「ここは、武器だけなのかい?」

「金次第だな。」

「なるほど。」

 ジジィ達の長続きしない話。

『貰った鉱石を、ドワーフに提示する事をお勧めします。』

 サポート精霊に言われた通り、いかにも物を取り出す動作をしつつ、ローブで隠しながらマジックストレージから貰った鉱石をすべて取り出し、カウンターに鉱石を置く。

 ドワーフは、カウンターに置かれた鉱石を調べ始める。

「ん?こいつは、メテオライトか。純度は……、高いな。それと、腰の鉈も見せてもらえないか?」

 ドワーフに言われるがまま、腰に携えている鉈を取り出し手渡す。

「この鉈、やはりそうか。」

 俺には分からないが、ドワーフは何かを理解したらしい。

「何が欲しい。」

 どうやら、俺に装備を作ってくれるらしい。

「何で、作ってくれる気になったんだ?」

「それは、この鉈が理由だ。」

「鉈?」

「なんだ、知らずに持っていたのか。これはわしの師で、名工ヘイローの作った鉈だ。この鉈には、魔鉱石の中でも希少な、妖魔鉱石がわずかに使われている。師の遊びで作られた一品。遊びとは言え、名工ヘイローが妖魔鉱石を混ぜ込んで作った業物。」

「なるほど……。」

『魔鉱石と妖魔鉱石について説明いたしますか?』

 サポート精霊、分かりやすくお願いしたい。

『魔鉱石は、魔法と相性の良い鉱石。魔鉱石の多くは、自然の魔力が多いところで見つかります。硬度は鋼より高く、柔軟な金属になります。妖魔鉱石は、魔鉱石よりかなり希少で、高度は魔鉱石より高く、とても柔軟な金属になります。』

 なるほど。

「それで、このメテオライトを使って何を作る。」

「手甲っていう、腕に着ける防具がほしい。」

「うむ、分かった。」

「それで、代金はいくらぐらいかな?」

 ドワーフは、自分のひげを触りながら答える。

「いらん。久しぶりに、師の品見せて貰った礼に作ってやる。あと、腰のナイフも置いて行け。明日までに、仕立ててやる。」

 ドワーフから鉈を受け取り、代わりにナイフを渡す。

「師には劣るが、わしの仕事を見せてやるわ。」

 そう言えば、すっかり名乗るのを忘れていたことに今更気付いた。

「俺はバイス・リムだ。」

「わしは、名工ヘイローの弟子で鍛冶屋のゲイル・インデス。」

 ゲイルに、最後に気になっていた事を聞いてみる。

「ゲイル、ここに置いてある剣って。」

「鋭いな、バイスよ。そうだ、簡易な量産品だ。ドワーフと言うネームバリューで、武器を欲しがる馬鹿者がいいから、その対策で置いている。それを欲しがる馬鹿者には、何も作ってやる気はない。こっちにも、客を選ぶ権利はあるからな。」

 なるほど、感じていた違和感は、ゲイルが簡易に作った物だからだったのだろう。

「それじゃ、明日また伺うよ。」

「おぅ、楽しみにしてな。」

 ゲイルと別れ、今日の宿屋を探す事にする。

 宿屋もピンからキリまであるから、慎重に選ばないといけない。財布の中身は心許無いので、安い宿に泊まる事にする。

 金策をしないと旅が続けられないので、何かしらの仕事を探さなければいけない。

 ベッドに横たわりながら、妙案が浮かばないか考えてみるが、知識不足で何も浮かばない。

『ローブに、エンチャントをしておく事をお勧めします。』

 サポート精霊の声に、俺はベッドから飛び起きる。

 エンチャント。

 確か、鉈に施されている付与魔法。

 でも、やった事がないからよく分からない。普通の魔法やバフと、違うとぐらいしか分からない。

『エンチャントに関しては、適任な人物がいます。そろそろ、現れる頃です。』

 ん?

 どういう事?

「やっほー、ジジィになったバイス。」

 窓から堂々と侵入してくる、ローブ姿のロリ娘。しかも、ここ2階。

「どちら様?」

「あ、そっか。忘却魔法で、ボクの記憶消したんだっけ。」

 俺の記憶の靄の原因が、どうやら来たらしい。

「ほんとは、もっと早く会いに行きたかったんだけど、色々あって若返っちゃって。」

 話が、一切読めない。

「記憶は無いのに、その歳になるまで、ボクをあの村でずっと待っててくれたんだよね。」

「申し訳ない、話が読めないので簡潔に話してくれないか。」

 ローブ姿のロリ娘は、被っていたフード部分をめくり素顔を見せる。

「簡潔に言うと。バイス、王様にならない?」

 はい??

「どう言う事?」

「簡潔に、言い過ぎたね。この国の王は、既にいない。正確には、王宮は乗っ取られていて、王は存命と思わされている。しかし、王は暗殺されて既にいない。君達の王様と、ボクの所の王様は、密かに盟約を交わしていた。もし自分が死んだら、同盟を結んでほしいと。」

 ん??

 俺の所の王様、暗殺されたの?

「そしたら、ボクの所の王様は、愛しのバイスに会いに行こうとしてるボクをとっ捕まえて、君達の国に頭突っ込んで来いって言うし。確かにボクは、外界をよく知るエルフだけど、もっと適任がいたと思うんだよね。あの、くそ王め。」

 ん?

 最後、自分の国の王様に暴言はいてなかったか?

 それに、今の話でいくつかの事が分かった。

 俺の住んでいるこの国の王様は、暗殺された。それが口外されていないと言う事は、王宮内部の犯行である可能性が高いと言う事。

 それと、目の前にいるロリ娘はエルフで、俺の想い人?

 うちの王様は、密かにエルフの国の王様と盟約を交わしていた。うちの王様は、自分の死後、同盟を結ぶ約束をしていた。それは、常に命の危険を感じていたと言う事になる。

 エルフの国の王様は、盟約によって同盟を結ぶ為に、うちの王様の暗殺を計画し、それを実行した存在達を排除しようとしているのだろう。

 それで選ばれたのが外界をよく知る、目の前にいる色々あって若返ったと言っている、このロリエルフ娘と言う事になる。

「情報量多……。」

「ごめんね、愛しのバイス。」

 そして、念の為、確認しておかなければいけない事がある。

「俺と君は、どういった関係?」

「ボクとバイスの関係は、友人かな。」

 なるほど、愛しと言うから恋愛対象かと思ったけど違って、少しほっとした。

 だとしたら、俺は何であの村でロリエルフ娘を待っていたのだろう。

「む、何かほっとしてるの、むかつくな。まぁ、いいけど。君が気になってるであろう、ボクを村で待ち続けた理由だけど。それは、今は明かせないかな。ごめんね。」

 ロリエルフ娘は、俺からローブを剥ぎ取る。そして、そのローブに手をかざしながら、小声で何かをし始めた。

「はい、これでエンチャント終わり。」

「すまないが、全くこの後が予測できないんだが。」

 ロリエルフ娘は、ニカッと悪そうに笑う。

「君には、共犯になってもらうよ。この国を、救う為のね。」

 あぁ。港町で面倒ごとに巻き込まれるのを回避出来たと思ったら、王都で面倒ごとに巻き込まれる事になるとは。

「そのローブに全属性耐性とステルスに、強度アップしてあるから。」

 あの短時間でエンチャントを盛りまくりローブにされてしまうとは、さすがエルフと言うべきなのだろうが、俺は巻き込まれたから言いたくはない。

「武器になりそうなのは、ボクが置いていった鉈ぐらいだよね。ナイフは、ドワーフの所に置いてきてたし。」

「なんで知ってる?」

「なんでって、港町からずっと見てたから。」

 どうやら、最初から巻き込む気満々だったと言う事か。

「とりあえず、明日ドワーフから防具とナイフ受け取ったら、城に正面突破するからね。ボクは監視してないといけないから、また明日ね。」

 そう言って、名前も告げずロリエルフ娘は窓から飛び出した。

「はぁー。」

 声が出てしまうぐらいの、大きいため息が出てしまった。

「忘れてた、ボクの名前はアリステラ・サイフォス。」

 アリステラはそう言うと、家や建物の屋根伝いに移動しながら夜の闇に消えた。

 明日は何が起こるか分からないから、窓を閉めて俺はベッドに横になり明日に備えた。


 俺は目を覚ますと、ローブを纏い荷物をまとめ宿屋を後にした。

 ゲイルの鍛冶屋に行くと、頼んでおいた手甲が出来上がっていた。

「頼まれていた、メテオライトの手甲と、ナイフだ。」

 俺は、ゲイルにナイフは頼んだ覚えがない。

「預かったナイフなんだが、あれは別の用途に使わせてもらった。その代わりに、余ったメテオライトでナイフを作っておいた。」

 メテオライトのナイフには、丁寧にも専用の皮の鞘に納められていた。

「メテオライトの手甲には、投げナイフ仕込んである。肘側と手の甲側に、それぞれ1つずつ。投げナイフが付いているが、手甲の防御力はわしが保証する。投げナイフは、いざと言う時に身を守るすべとして、付けさせてもらった。」

 ゲイルなりの気遣いに、感謝する。

 俺はその場で手甲をつけて、投げナイフを試しに取り出してみる。投げナイフは、独自の取り出し方でスムーズに取り出せるが、手甲に戻すと簡単には外れなくなる使用になっている。ぱっと見も、手甲に投げナイフが付いているとは分からないで、怪しまれる事はないだろう。

 メテオライトのナイフを腰に携えて、ゲイルに礼を言い鍛冶屋から出た。

「へ~、偏屈ゲイルが随分張り切ったみたいだね。」

 いつの間にか、俺の背後にアリステラがいた。

「さぁ、城行こうか。バイスは、フードを被ってね。」

 アリステラに案内されるがまま王都のメイン、城にやってきてしまった。

「おい、そこの小さいのと年寄り。ここは、貴様らが来るようなところじゃないんだよ。」

 警備兵の乱暴な物言いに、アリステラはびくともしない。

「うちの国からの書状。もちろん、うちの国の王の勅命で。」

 ロール状に巻かれた紙には、リボンとエルフの国の刻印が入っている封蝋してある。

 警備兵の顔色が変わり、城内に案内される。

 俺とアリステラは、城内を近衛兵によって王座の間まで案内された。

 王座の間は、無駄に豪華に造りこまれている。そして、目の前に王座深く腰掛ける亡き王の姿がある。

「人間の王よ、謁見ありがたく存じます。我が王より、書状をお届けに上がりました。」

 そう言いながら、アリステラは片膝をつき書状を差し出す。

 俺はアリステラのまねをして、片膝をつき軽く頭を下げる。

 王の側近がアリステラに近づき、書状をアリステラから受け取り王に渡す。

 王は、書状の封を解き書状を開いた。

 アリステラは、小声で回りに聞こえないように「かかったな、馬鹿が。」と言った。

 王が書状を開くと、2つの魔法陣が出現した。

 1つの魔法陣は王を拘束し、もう一つは城全体を蓋った。

 拘束された王の姿を見ると、そこにはデーモンが立っていた。

「こんな単純な手に騙されるとか、デーモンも落ちぶれてるね。」

「なぜ、森の民であるエルフが、我らの邪魔立てをする。貴様らは外界に、興味がないのではなかったのか。」

「そうだね、基本興味無いよ。けど、人間の王とうちの王の関係をよく調べなかったのは、悪手だったね。あの2人、種族は違えど、同性同士愛し合った仲だったからね。」

 なるほど、うちの王様とエルフの王様同性愛者だったのか。

「おい、お前ら何をしている、エルフとそこの男を殺せ。」

「残念だけど、ここにいる魔族は1匹残らず皆殺しにして来いって、恋人を失ったうちの王様からの勅命だからね。」

 エルフの王様が、相当怒っていらっしゃるのがわかる。

「バイス、今この城にいるのデーモンだけだから、容赦なく殺っちゃっていいよ。責任は全部、うちの王様持ちだから。」

 そうはおっしゃいますが、俺はここから生きて帰る事を考えて戦うことにしよう。

「ぶちぎれたうちの王様特製の魔法障壁だから、この城から誰1人として逃げられないよ。」

 そう言いながら、アリステラは自分のマジックストレージから弓矢を取り出し、偽王の頭と心臓を同時に射貫く。

 この城から誰1人逃げられないと言う事は、俺もその対象である。

 俺は仕方なく、鉈とメテオライトのナイフを手に持ち構える。

「バイス、デーモンは体が崩壊し始めるまで、気を抜いちゃだめだからね。」

 そう言い、アリステラは同時にデーモン3体射貫く。

 さすがに異変に気付いたデーモン達が、続々と王座の間に押し寄せてくる。

 俺はデーモン達の攻撃を躱しながら、1人1人着実に倒していくが、どこから湧いてくるのかデーモン達勢いがなかなか止まらない。しまいには、魔物のハウンドまで出てき始めた。

「建物をなるべく壊すなって言われてるから、加減してるけど埒が明かない。」

 アリステラは、きっとよくない事を考えてるに違いない。

 エルフの王様的には、建物を綺麗な状態にしておきたいのだろう。だけど、囲まれつつある現状で建物の心配などしてはいられない。

『スキル『デストロイヤー』の限定解除をお勧めします。』

 そう言えば、そんな恐ろしいスキル封印していた事を忘れてた。

 サポート精霊、スキル『デストロイヤー』の限定解除を頼む。

『了解しました。スキル『デストロイヤー』の対象を、デーモンとハウンドに限定しました。』

 スキル『デストロイヤー』を限定解除したが、何も起きない。

 そんな中、ハウンドが俺に向かって飛び掛かってくる。それを鉈で切り伏せるが、弱点の魔石を切る事が出来なかった。けれど、ハウンドの体は崩壊して消えた。

 なるほど、俺がデーモンやハウンドに、攻撃を何処にでもいいから当てる事が出来れば、スキル『デストロイヤー』の効果で倒すことが出来ると言う事か。

「バイス、キツかったら言ってね。最悪、この城壊してでも殲滅するから。」

 声をかけてくるアリステラも、自分の事だけで手一杯なのだろう。

「手札を切らせてもらったから、心配するな。」

「そう。」

 アリステラと背中合わせ状態で戦っている為、お互い戦っている姿が見えない。

 昼間に城を訪れて、デーモンとハウンドの相手をしている内に日が暮れ始めた。

 最初はデーモンが多かったが、今では大半がハウンドになっている。

「どっかに、ハウンドを生み出してるやつがいると思うんだけど、王座の間で足止め食らって出れないから元を絶てない。」

 ハウンドを召喚しているデーモンが複数人いるらしく、次々と送り込まれるハウンド達のせいで王座の間から出るタイミングない。

『足元に未使用の魔石があります。』

 サポート精霊の声に、隙を見て自分の足元を見ると立体ひし形の黒い石が3つ落ちていた。

『魔石を使用して、魔物を呼び出す事を提案します。』

 サポート精霊が言うって事は、出来るっていう事。

『緊急時の為、体の一部を魔石に触れた状態で『ヘルハウンド』と呼んでください。』

 ハウンド達の隙を見て、俺は魔石に足を乗せる。

「来い、『ヘルハウンド』!!」

 サポート精霊の言う通りにすると、足元から白い毛色で口から蒼い炎を吐く少し体の大きなヘルハウンドが1匹現れた。

「今、物騒な単語が聞こえたんだけど。」

 白いヘルハウンドは、目の前にいる自分より小さいハウンド達に向けて蒼い炎吐き一掃しまう。

『スキル『テイマー』の効果で、白いヘルハウンドに自在に命令を下すことが出来ます。』

 スキル『デストロイヤー』もそうだが、スキル『テイマー』の事もすっかり忘れていた。

「ヘルハウンド、王座の間に光を灯してくれ。」

 王座の間が暗くなり始めていたので、ヘルハウンドの炎で部屋に光を灯してもらった。

「え?今の白いヘルハウンドを、バイスが呼び出したの?」

 ハウンドの相手で手一杯のアリステラが、背中越しに質問をしてくる。

「運よく足元に魔石があって、試しにヘルハウンド呼んだら成功した。」

「下手すれば、自分が襲われていたのかもしれないのによくやるよ。」

 アリステラの言う通りだが、俺には心強い味方のサポート精霊がいるから出来た。

『ヘルハウンドに命令をして、召喚元のデーモンを倒してもらいましょう。』

 ヘルハウンド頼みもいいが俺的には……。

「ヘルハウンド、アリステラを背中に乗せろ。この部屋を、出るぞ。」

 白いヘルハウンドは、蒼い炎を俺とアリステラの周りに壁となるように吐き、ハウンド達を近寄せないようにしてアリステラを背に乗せた。

「うわ、白いヘルハウンドにボク乗ってるよ。」

 アリステラの顔が、少し引きつっていた。

「でも、これでこの部屋から抜け出せるね。それと、これ持って行って。この部屋出たら、別行動で召喚元のデーモンを叩いて。」

 アリステラは、自分のマジックストレージから、剣を1本取り出し俺に投げ渡した。

「鉈は良いけど、ナイフだとリーチが短いからそれ使っていいよ。」

「ありがたく使わせてもらうよ。ヘルハウンド、アリステラの命令を聞いて行動しろ。」

「バフゥ。」

 白いヘルハウンドの蒼い炎の壁が消えると同時に、俺と白いヘルハンドに跨ったアリステラは、ハウンドを蹴散らしながら王座の間を出て左右に分かれる。それぞれ、ハウンド達が送り込まれて来る方に向かって、ハウンドを倒しながら進んだ。

 別れ際に、アリステラと白いヘルハウンドは、お互いの隙を補う様にハウンドを倒していたので、あちらは問題ないだろう。

 俺はと言うと、剣と鉈でハウンドを倒しながら、時折出てくるデーモンを着実に倒していくただそれだけ。

 ふと気付くと、ハウンドの姿がいつの間にか見えなくなっていた。

 それならとスキル『第三の眼』を使い、デーモンとハウンドの居場所を探りながら城を歩き回った。

「さすがに『第三の眼』でも、見つからなくなったな。」

 剣と鉈を手に持ったまま、城内をうろうろしていると、城に張られていた魔法障壁が解かれた。それと同時に、ヘルハウンドと思われる遠吠えが聞こえる。そう、それはアリステラが俺に、戦いの終わりを知らせる合図だった。

 広い城内を迷いながらも、アリステラと白いヘルハウンドと合流すると少しだけ安心できた。

「ところでバイス、このヘルハウンドどうするつもり?」

 そう言えば後先考えずに、ヘルハウンド呼び出したんだった。

「特には、考えてない。」

 今更ながら、城にいた人全員がまさかデーモンだったなんてゾッとする。

「一応、魔法障壁が消えた後も、人払いの魔法が朝日の昇るまで発動してるから、直ぐに騒ぎになる事は無いよ。王宮勤めの偉い人達には、ボクから既に話はつけてあるから、今後の事も問題ないよ。」

 なるほど昨日の夜、俺の居た宿屋を出てからアリステラはそんな事をしていたのか。

 俺は忘れないうちに、借りていた剣をアリステラに返す。

「とりあえず、疲れたから寝る。」

「それに関しては、賛成かも。」

 そして、俺とアリステラは、城の廊下で倒れこみそのまま眠りについた。

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