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その四十、私こそよしよしされたい、なんて

 私は神様に懺悔しなければいけないだろう。

 確かに私は寝とぼけておりましたが、カートがリュイを抱き上げた時には目覚めていたの。


 リュイが父親にするようにカートに縋り、彼女が故郷の言葉で両親が亡くなられたその時のことを語るのを聞いて、私は起きられなくなったの。

 私が眠っている今だからリュイはカートに縋られたのかしら、と、考えたから。


 それで二人をそっとしてあげたくなったのだわ。

 リュイとカートの姿が、本当の親子のようで、カートによって癒されているリュイの邪魔をしたくなかったから。


 いいえ、真実を言うわ。

 リュイの為にカートは異国の言葉を囁いていたの。

 とっても優しくて甘い声で。

 ええ、ええ、私だってお父様の甘い声で散々に甘やかされて来たわ。

 でも、カートの甘い声は、なぜかきゅんとして爪先がきゅっと丸まるのよ。


 ララ―(よしよし)ララ―(よしよし)って、それだけの言葉なのに、彼のその声が合わさると、なぜかびくびくきゅんと体が痺れてしまうのよ。

 彼は魔法使いか魔物だったのかしら?

 だって私こそリュイみたいにあやされたい、なんて寝たふりを続けながら願ってしまったのだもの。


 でも、実はカートこそ私の狸寝入りには気が付ていたはずよね?

 そのはずよね?

 だって彼は、リュイに囁いた異国の言葉で、リュイには囁かなかった言葉を私に囁いて来たのよ。


 愛している(ジュテーム)って!!


 絶対に絶対に私の狸寝入り気が付いていらっしゃったから、それで私を揶揄っていらっしゃるのよね?

 そうじゃないと、そうじゃないと!!


 私は悲鳴を大きく上げそうだった。

 私の背中にカートの指が刺さったのだ!!

 あ、そうだ。

 彼は私からドレスを脱が、脱がそうとしている?


「きゃあ!!ごめんなさい!!狸寝入りしてました!!」


 ドレスの後ろボタンを外しかけたカートの指はピタッと止まり、しかし、私のボタンを掴む手は微かどころか確実にプルプル震えている。


 怒った?

 怒っている?

 あとで相談してくださいと頼んでおいて寝とぼけた上、狸寝入りして盗み見やら盗み聞いていた私に、お怒り、よね?


「本当にこの子は!!一日に何度俺を笑わせれば気が済むんだ?」


「えと、怒っていらっしゃらない?」


 ゆっくりと振り返れば!!


 怒っていらっしゃった方が良かった。

 私の両足の爪先は指の骨が折れちゃう勢いできゅっと丸まっちゃった。


「あなたって、どうしてそんなに笑顔が素敵なの」


「それは君が俺を幸せにしてくれるからだろう」


「ま……あ」


 その続きは何も言えなくなった。

 だって、頭の中が真っ白よ。

 いいえ、沸騰したヤカンみたいに顔が熱いから、真っ赤と言うべきかしら?


「でも、やっぱり赤じゃなくて白だわ」


 あ、カートが真面目顔に戻っちゃった。

 眉根がぎゅっと寄せられて眉毛が一本になっているのは、ええと、彼が望んだような行動を私が取れなかったから、かしら?


 ええと、カートが望んでいた行動は?

 私はリュイがしたようにカートへとしがみ付き直すと、カートの唇目掛けて自分の唇を突き出した。

 むにゅ。

 私の唇はカートの手の甲にぶちゅっと押し当てられている。


「悪いな。断腸の思いだが、断頭の未来は避けねばならない。ベッドでのキスは結婚後まで封印してくれないか?」


 私は軽く頭を上下させ、カートから離れようと体を動かす。

 動かせない?

 カートの左腕が、私を逃さないようにしっかりと私の体に回されていた。


 そして、私の唇が貼り付いていたカートの右手は、いつの間にか私の顎を支える手となって、私の顔をカートへと向けさせている。


 彼の両目は真っ直ぐに私を見つめている。

 怖いくらいに真面目な視線で。


「あの」


「赤じゃなくて白ってどういう意味だ?暗号か何かをリュイから聞いていた?」


 私は顔が背けられないから、思いっきり視線をカートから背けた。

 お喋りな私の口め。


「……やっぱり、俺には信頼が無いんだな」


 何て残念そうな声!!

 視線を戻せば、うわあ、あのカート様がげそっとしたお顔になってらっしゃる。


「そ、そん、ええと、単なる独り言です。あなただって思わず考え事がお口に出るってあるでしょう。あなたの笑顔で顔が真っ赤になったのに頭が真っ白ってどうしてかしらって、それだけなの。って、きゃああ!」


 私からカートの支えが消え、私はベッドに落とされた、のだ。

 それだけでなく、カートが私に覆い被さっている。

 とっても真面目で、怖いとまで思う表情で。


「怖いわ」


「それでいい。頼むからもう少しだけ警戒心を持とう。良いかな?君は可愛らしすぎる。とっても可愛らしすぎて食べてしまいたくなるんだよ」


「可愛らしすぎて、食べたくなる?キスしたいってことですか?キスなら構いませんことよ。でも、キスはベッドでは駄目ってお話でしたわね。ベッドからおりましょうか?」


 カートはグウかムウか、とにかくくぐもった変な唸り声を出した。

 獣みたいな?

 食べるって、もしかして、本当に食べるって意味、だった?


 ああ!!

 エルンストおじ様が言っていた事、あれは本当だったの?

 船乗りは食料が無くなるとくじ引きでお肉になる人を決めるんだよって、だから悪い船乗りに捕まったらいけないよって、言っていたあれ。


 私は自分を捕まえている英雄で船長だった人を見返し、私を褒める時は小鳥だったり小鹿だったりとお肉になる生き物ばかりだったなと思い出した。


 今すぐ逃げなきゃ、いけない?

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