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その十七、私が地味な女の子だから?

 殺されたと思っていたアランは死んではいなかった。

 そして私の中のアランへの憧れが完全に死んでいなかったと、私は彼の姿を目にした事で気が付いたのである。


 どうして彼の存在を簡単にないものにしてしまえたのか、も。


 彼を最低な人と簡単に思い込めたのは、彼の殺害現場を見ない振りした自分の罪悪感と、それに、憧れの人が自分以外に色々な女性に声をかけていただけだと知ったのが辛かったのだわ。


 地味なミゼルカが憧れの人に見つけて貰えた。

 それは私にはとっても素敵で宝物な出来事だから、それを汚されたようで嫌だったのよ。

 いいえ。

 やっぱり罪悪感だわ。

 私は彼を助ける事を何もしなかった。


「どうしたの?ちゃんと生きてますよ?」


「あなたを守ることよりも自分を守ることばかりでごめんなさい」


「それが狙いだったからいいのですよ」


 何ていい人!


 アランは私を誘ったあの日のように、キラキラした笑顔ばかりを私に向けてくれているではありませんか。

 そんな天使みたいな彼の頭髪は、なんてことでしょう、罰を受けた様にして刈られているわ。


 天使みたいなキラキラ巻き毛だったアランなのに、今やトゲトゲのハリネズミみたいにツンツンと髪の毛は逆立っているのだ。

 さらに、金色だった髪色が、白っぽい灰色に変化している。


 そうよ、聞いた事がある。

 死んだ人が棺桶の中で目を覚ました時は、髪の毛が真っ白になってしまうって。


「ああ!アラン様!あなたはとっても恐ろしい思いをされたのね!今も囚われていて、恐ろしい男にひどい目にでも遭っていらっしゃるの?」


 アランは一瞬だけ両目を丸くしたが、すぐに人好きのする優しい眼差しに変えると、私を見返してにっこりと笑った。


「僕を思いやってくれるのは君だけですよ。囚人の僕に差し込んだ救いの光だ。これからも僕に会って頂けますか?」


「ええ、ええ!いくらでも、ですわ。あなたは素晴らしいリュート演奏家ですもの。あの素晴らしい音を出せる人が、繊細でないはずはありません。恐ろしいばかりの大男に殺されかけた、いいえ、今もこうして捕らえられているだなんて!!あなたはとっても辛いだろうと思います」


「恐ろしい大男による虜囚!!」


 アランは軽やかに笑い声をあげる。

 あ、なんか牛みたいな唸り声も近くでって、はっ!!

 私こそ自分で語った恐ろしい男に、今現在抱きしめられている状態だった。


 私こそ、虜囚!!


 カートは私と目が合うや、本性を現した。

 無情にも、私を抱いていた両手をぱっと開いたのである。

 勿論私は下へと落下したが、彼から逃げたかったのだから平気だわ。


「あぶない!!」


 ここはカートにお礼を言うべきかしら?

 私はアランによって受け止められ、そのまま床に丁寧に下ろされたのだ。

 ふわっと、とても優雅に。

 まるで王子様がお姫様にするようにしてだわ。


 ええ、ええ、憧れの人、アランに、私はリフトをして頂いたのよ!!


「感謝しま――」

「大事なエバンシュタイン嬢に怪我を負わせたら、次はあなたこそがヘルマン王子に殺されますよ?」


 ヘルマン王子?

 アランのカートへの抗議の言葉によって、私はカートの言葉を思い出していた。


「大事な娘同然の子を汚す前にあいつを始末しろ、とね。俺に命令だ」


 ヘルマン王子は私を娘のように可愛がってくれる人であるが、決して人の死を願うような人では無いはずなのだ。

 いいえ。

 私が彼には娘同然だからそんな恐ろしい命令が出来たの?


「あら、では、アランを殺すように命じたのは、ヘルマン王子でしたの?」


 私の質問にカートはつまらなそうに肩を竦め、アランは反対に楽しそうにしてクスクスと笑い声を立てた。


「アラン様?」


「ごめんね。エバンシュタイン嬢。ヘルマン王子は身分違いの女性に恋をして、その女性が大事にする男性に焼餅を焼いてしまったの。ハハハ。僕が仕事で女装していただけなのにねえ。自分こそ妻帯者だろうに、ふざけやがって」


 豹変した。


 物凄く性格悪そうな口ぶりと笑い方になった、アランさまが。


 私は自分の世界が壊れた気がしていた。

 それで無意識に両手で掴んでいた何かを、ぎゅっと握り潰したのだ。

 オレンジと、嗅いだことがなかったエキゾチックで甘い花々の香りが弾けた。


「この香りが嫌いになりそうだわ。悲しい事ばかり起きる」


「悲しい事?俺が君の婚約者になったのだから、君に悲しい事など起きるはずはないだろう?」


 慰めるつもりなのか、カートは私の肩に腕を回してきた。

 でも、私はその腕を跳ねのけ、サシェをカートに投げつけた。

 もちろん、彼が普通に受け取っただけだけど。

 だからこそ悲しくなって、私は溢れ出てきた涙を右手の甲で拭った。


「イチゴ鳥?」


「あなたは私を揶揄うばかりだわ!」


「揶揄っていないよ?俺は君が気に入っている。だからこそここに連れてきた。今のところは誰にも内緒の、俺の秘密基地に」


 カートは私達の目の前の扉を指し示した。

 アランが出てきたその扉なんか、まるで地獄の入り口みたいにしか私には見えないわよ?

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