その十一、迷子なメイドさんの受難
カートの秘密を探ろうとメイドの変装をして行動を起こしてしまったばっかりに、今の私は絶体絶命の状態にある。
私が居る場所は私が一人で動けないホテルのどこかの廊下であり、今の私の姿は、ホテルメイドの制服を着ているという怪しい人間そのものなのだ。
ホテルメイド姿ならばメイドの振りして部屋に戻れるでしょう、と?
変装中のこの姿を誰かに見つかったら、どうしてこんなことをしているのか説明しなければいけないのよ。
言えますか?
殺人者の部屋を探りに出たそこで迷子になりました、なんて!!
だから私は頼みの綱となっている男の腕を両手で掴んでいた。
その男こそ、私が探ろうとしていた殺人者本人ですけれど!!
「俺と別れがたくなった、のかな」
「し、新人で不確かですの。え、ええと、き、貴婦人方がお泊りになっている部屋がある棟にはここからどう行けば良いのかしら?お、教えてくださる?」
「あれ?一番近くの出入り口で良かったのではなかったのかな」
「そ、そうでした。でも、思っていた場所では無かったようですの」
「普通にそこいらにいる同僚に聞いたら?」
ええと、カートは今の私をミゼルカでは無いと、本気でそう思い込んでいるのかしら?
私はまじまじとカートを見つめる。
だがしかし、カートのにやけた顔が歪んで圧しかかるだけだった。
キリアから拝借した老眼鏡のせいで、私の視界が歪んでしまっているのだ。
私はカートに何かを言い返すどころか、馬車酔いのような立ち眩みに襲われた。
「うぷ」
「ぷぷ。気分が悪そうだね。メガネが合わないのかな?」
私の肩にカートの右手が触れる。
気遣う様にそっと左肩を撫でてきた指先は、母にされた時とは違って私をビクッと震えさせる何かを持っていた。
驚いた私はぱっと両手をカートの左腕から離し、ぴょんと後ろへと後退った。
あら、カートこそ驚いた顔を私に向けている。
「どうした?」
カートの顔が本気で心配している人が作る表情となっている?
だからかしら、私はカートに触れられたところを右手で触れながら、彼に素直に答えてしまっていたのよ。
「ち、小さな雷がここに落ちたみたいなの」
カートは口元を平べったい真一文字にすると、さっと私から顔を背けた。
物凄く肩が揺れているということは、彼は必死で笑いを堪えているようだ。
私は再びカートの左腕に縋りつく。
「笑ってないで教えてくださいな。ここはどこなんですの?」
「ハハハ。だから、そこらへんにいる誰かに聞きなさいって」
「ええと、そうしたら首になりますの。そう、とにかく私はもうお約束に遅れているのですもの。さ、さらに迷子になっていたなんて知られたら大変ですわ」
「迷子は良い言い訳になると思うけどね」
「そんな!!」
カートは私の腕を振り払う。
けれど、自由になったその左腕を私の肩に回し、再び私を自分に押し付けた。
そしてすぐに私を連れてまた真っ暗な使用人通路へと潜ったのだ。
うそ、いつの間にか彼の右手に簡易燭台があって、火が付いた蝋燭が乗っているでは無いですか!!
「あの、それを返して頂けたら。たぶん、私は」
「言い訳が必要なんじゃなかったのかな?メイドさん」
「ええと」
「実はね、俺は大事な人をお守りする任務に就いているのですよ。ですから、普通では考えられない行動を取る人間を諫め逮捕したりもする」
それは、アラン・パドゥーを殺害した理由、でございますの?
私はカートの次の言葉を待って彼をじっと見つめたが、彼が私を見返して私に言った言葉はなぜか私には理解できなかった。
君がテロリストかどうか検めさせてくれないかな?
これは理解できる。
でも、これは意味が分からない。
「スカートを持ち上げてくれる?」
「え?どうして、スカートを?」
「女性のテロリストは腿やコルセットに武器を貼り付けるものなんだ」
「私はテロリストじゃありませんわ」
「このホテルの従業員の顔は仕事上全部知っている。君は新顔だ。では、何者だろうか?警察に突き出されるのか、ここで無実を証明して何事も無かったことにするのか、君が決めていいからね」
悪魔だ。
悪魔だわ、この人。
私がミゼルカって告白するか、スカートを上げて腿を彼に見せるか、そんな選択肢を私に突きつけてくるなんて!!




