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その一、昼下がりの目撃者

お読みいただきありがとうございます。

五話で終わる一万字程度の小説です。

軽く楽しんで頂けたら幸いです。

2023/6/23

一度完結しましたが、やっぱりちょっと続きます。

2024/1/4

結局いつもの十万字越えになってしまいました。

 私のお父様は、エバンシュタイン侯爵様だ。

 彼の娘である私は、侯爵令嬢という事でプリンセスと呼ばれている。

 そんなプリンセスだからなのか、いいえ十六歳になって社交デビューしちゃったからか、私は上流階級のお遊びには必ず母親によって参加させられる身の上になってしまった。


 今回は、温泉街ファルマーにて開催される音楽祭への参加、という名目だ。


「行きたくありません」


「何をおっしゃるの?あなたの成功のための前哨戦です」


 プラチナブロンドの巻き毛をキラキラさせ、お人形みたいなあどけない顔立ちをした美女は、水色の瞳に百戦錬磨の輝きを宿して私を睨んだ。

 私は視線が痛いな、と思いながら美しき母から目を逸らした。


「いいこと?主催者は、ヘルマン王子。あなたを可愛がってくれる大事な大事なはとこで王子様。そこを上手く使うの。何もしなければ、地味なあなたが主戦で他の令嬢達に弾かれる。ここで、王子の加護を受けています、と知らしめることで、あなたは一目置かれ、結婚を望む男性が列を作ることでしょう」


 列を作られても困る。

 私は自分の外見の事はよく知っている。

 茶色の髪に薄茶色の瞳の地味な娘だ。

 父も金髪で青い目なのに、私はひいおじいさまに似たのである。


 男であれば地味な見た目を生かしたひいおじいさまのように傑物を目指せるのに、女は地味な見た目ではひたすらに地味な人生しか約束しない、とは。


「美人しか好きじゃない男がいない世界に行きたい!!」


「何を急におっしゃるの、あなたは!!その自分が美人じゃないって考えが一番悪いの。それがあなたを地味で不細工にしているのよ!!」


「お母様!!私は自分がブスとは言ってません!!」


 ここぞとばかりに泣き真似をして、行きたくもない音楽祭への旅路を取りやめさせようとしたが、人並み以上に美しき母は人並みの心など持ってはいない。

 私が動かないことを良い事に、彼女は旅路の支度を整え、嘘泣きしているだけの私を馬車に放り込んだのである。


「さあ行きますわよ。覚悟なさいな!!カート・ハインリッヒ!!」


「お母様?どなたですの?」


 母はハッとし顔をした後に、扇を口元に当てておほほと笑って誤魔化した。

 私は母のその姿に、そのカート・ハインリッヒを私が狩る事を望まれているのかと思ってがっかりとした。


 もう私のお相手は決まっていたのね、と。


 将来的に侯爵家の一人娘である私が誰かと結婚しなければいけない、と言う事は理解している。

 だけど、せめて、デビューの一年目ぐらいは、誰の思惑も関係ない人に恋心を抱いたりしたいじゃ無いの。


 私はがっかりしながらこの旅の名目である音楽祭のパンフレットを開き、演目を読むことで私だけの音楽の世界に浸ろうと思った。


「まあ、まあ、まあ!お母様!!ヘルマンにキスをしたいわ!!」


 私の敬愛するリュート奏者、アラン・パドゥー様の名前がある!!

 さすが私を可愛がってくださる殿下だわ。



 馬車の中の私はそんな風に考えていました。

 そして、敬愛しすぎるリュート奏者アラン様は、昨夜ホテルに着いたばかりの私達を見つけると挨拶に駆け付けたどころか、そんな私に逢引きを持ちかけてくださりましたのよ。


「君がヘルマン王子が噂していたミゼルカ嬢?噂通りに小さな青い花のように可愛らしい。君に捧げたい一曲があるんだ。明日の昼下がりに僕の部屋に君が来てくれるなら、いいかな?」


「よくってよ」


 ええ、よくってよ。どこにでも行きますわ!!

 金色のフワフワ巻き毛の天使のような神々しいあなたに呼ばれたならば!!


 私は彼の為に花束を作り、私の監視人でもある小間使いの目を盗み、愛する方の部屋に忍んで行ったの。

 彼の部屋までのそのルートだって、彼が私の耳に囁いてくださったものだわ。

 誰にも内緒の私達の恋。


 でも、誰にも知られていないこそ、悪役が勃発してしまう私達の逢引きだったのだと、その時に気が付くべきだった。


 私を待って庭に佇んでいただろうアランが、後ろから忍び寄った黒髪の男性によって殺されたのである。


 私の目の前で。


 私は恐怖と愛する人を一瞬で失った悲しさで全身が緩み、抱えていた花束を落してしまった。

 花束は軽いはずなのに、ぼさっと、大きく感じる音を立てた。

 男は私に気が付き、私の方へと歩いてくる。

 アランを殺したナイフは大柄な男には小さく感じる刃渡りのものだが、大の男が一瞬で息絶えたのだ。

 私なんて、さらに一瞬だろう。


「君は見てしまったのかな?」


 私は脅えながら自分の死神を見上げた。

 逆光になっていようが、黒髪にダークグリーンの瞳のその男は、輝いていた。

 真っ直ぐな鼻梁に秀でた額と、つまり凄い美貌の持ち主ってことだ。

 天使みたいに美しいアランと対極で、対極だからこそ凄みのある男だ。


 私は大きく息を吸い、男を見ているようで見ていない風に瞳の焦点を動かす。


「な、何かございまして?わ、私、時々目が見えなくなるようですわ!!」


 男は笑いを耐えたのかはにかむような顔つきを一瞬したあと、大きな体を私に向けて屈めた。


「ひゃっ!!」


「見えている」


「か、感覚ですわ。まあ、大きな空気が動きましたわ。あなたは、実はとっても大きな人ですのね!!」


「あはは。だめだ」


 ダメ?誤魔化しきれなかった?

 私は殺される?


 男は私に向けて右手を差し出した。

 彼のもう一つの手には、私が落とした花束が握られている。


「美しき人。俺が目の見えないあなたの代わりとなりましょう。さあ、わが手におつかまりを。あなたをあなたのお部屋までお送りいたしましょう」


 逃げられない。

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