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呪われ王子と転生歴女  作者: ももも
第1章
4/21

私の力


トランクと毛布を持ってきた男は見張りの男よりも若く上背があり、薄汚れた身なりをしていたが甘い顔立ちだった。



(わあ!イケメン盗賊だわ)



エリナは密かにテンションアップした。

全くもって緊張感の欠片もない令嬢である。



『よくこんなに毛布があったな』



見張りの男は四、五枚はあるだろう大きな毛布を見て驚いた。



『前回の獲物から頂いた品の中に新品があったんで〜』


『新品なら俺らに寄越せよ』


『いや〜。俺らの使ってるのは汚ったないし臭いんで女の子に貸すのは可哀想かな〜と思って』



(親切な人…!口調はちょっとチャラいけど)



そして念の為と言って男達はトランクの中を検める。



中には色とりどりの飴が入ったビンが詰められている。

それを見た男達は頬を引き攣らせた。



『どんだけ食うつもりだよ…』


『いいじゃありませんか。美味しいものはいくらあっても』



まあ食い物しか入ってないならと、男達は鉄格子の戸を少しだけ開けて腕だけを差し込み毛布とトランクを置き、素早く鍵を閉める。



『せっかく久々に見た美少女がこんなじゃ食指ものびないってもんですね〜』



トランクを持ってきた男が苦笑いで言う。



『そんな、び、美少女だなんて…えへへ』



(イケメンに褒められてしまったわ!)



『褒められてはねえぞ。今』


『あれ?そうなんですか?まあいいです。トランクと毛布を持って来て頂いてありがとうございます』



エリナが素直にお礼を言えば二人はの男は驚いたように押黙り顔を見合わせた。



『こちら、良ければ皆さんでどうぞ』



トランクの中から一つ緑色の飴が入ったビンを男達に差し出した。



『……誘拐犯に差し入れなんかするのかよ』


『まあ、ここであったのも何かのご縁ですし。

ひとまず逃げたりはしませんので皆さんも少しお休みになってはどうです?』



鉄格子の隙間から飴のビンを受け取った若い方の男はしげしげとそれを眺めている。



逃げ出すにしても牢屋のカギもない、ここがどこかも分からないのでは仕方ない。考える時間が必要だと判断した。



『なかなかの大物かもしれませんね。このご令嬢』


『気味悪りいぜ』



男二人はそう言うと牢屋の入口から去っていく。

見張りはいいのだろうかと思ったが、エリナの知る所ではなかった。



程なくして大勢の野太い声が石造りの廊下を伝ってエリナの耳に届いた。盗賊達が酒盛りでも始めたのだろうかと予想していると、牢屋の中の暗がりから小さく呻く声が聞こえた。



『……ううん』



騒ぎ声のせいで寝ていた子供の一人が起きたようだ。



(こんなに暗くて寒い場所に閉じ込められて心細いでしょうね…)



寒さを凌ぐためか、子供達はひと塊になって身を寄せあっていた。



『こんにちは。あら?こんばんはかしら?今毛布を頂いたの。あなた達もどうぞ』



エリナは出来るだけ穏やかな声で話しかけ、五枚あるうちの四枚の毛布を子供達に差し出した。



すると一番年長だと思しき少年が前に出てきて毛布を受け取った。子供達は暗闇を嫌ってか蝋燭の灯りの下に集まっていて出入口から入る廊下の光もあり、エリナはなんとか子供達の顔を識別出来た。




『…毛布ありがとう...。お姉ちゃんも攫われたの?』



か細い声でエリナにお礼を言った少女はハンナと名乗った。少女はこの暗がりでも分かるほど擦り切れたボロボロの服を着ている。他の子供達も似たような身なりをしていた。



『そうみたい。けど大丈夫よ』



一日でも手紙を絶やせばオスカーがシスコン上等で迎えに来る事になっているし、一週間くらいの我慢かとエリナは算段をつけている。



ウィステリア滞在中は王都にある叔父の家にご厄介になる事にしているので、叔父には明日には関所に着くと手紙を出して伝えてある。



これでエリナが来なければ叔父も姪に何かあったのかと調べてくれるだろう。




『お姉ちゃんは怖くないの?』



子供達は余りにもあっけらかんとしたエリナを不思議そうに見ていた。



『少しだけ怖いけど、これがあるから大丈夫』



エリナは先程持って来てもらった飴のビンをトランクから取り出して見せた。



『アメ?』


『そうよ。皆んなにもあげるわね』


『くれるの!?』


『ありがとう!お姉ちゃん!』



子供達は大層喜んだ。彼らがどれくらいの期間ここに捕まっているのかはエリナには分からなかったが盗賊達は充分な食事を与えているようには見えない。



オレンジ色の飴を全員に渡せば生気を失ったような表情をしていた顔に笑顔を浮かべている。




『なんだかほっとして元気が出てきた』


『うん。なんだか幸せ』



ハンナ達は口々にお礼を言った。



『喜んでくれて良かったわ』



エリナの名誉のために一つ言いたいのだが、この飴は断じて危ない薬とかではないので安心して欲しい。




これはエリナの「能力」によって作り出した飴なのだ。




彼女の「能力」とは目に見えない物に形を与える力。

つまり「具現化」だった。



例えば痛みや眠気、疲れだったりをこうして飴として形にする事が出来るのだ。



飴の形にしているのは保存がしやすいからで、効果が表れるのは飴の味がしている間だけ。



ちなみにこのオレンジ色の飴はエリナが美味しい物を食べた際に感じた幸福感を具現化したもの。

一口ごとに幸せを感じてしまうものだからオレンジのアメは大量にあるのだ。



「能力」が発現してから自分自身や家族から取り出した物をストックしていて、今では様々な色の飴にしてとってある。



ただ、エリナは自分や他人からこうして「取り出す」事ができるけれど、自分自身には「入れる」事が出来ない。



エリナがこのオレンジ色の飴を食べても幸福感を感じる事はないのだった。

専らただの飴として楽しむばかりである。



それに目に見える怪我や打撲、病気の腫瘍は「具現化」出来ず、痛みや倦怠感しか取り出せない。




便利なようで、自分自身には大したメリットがないのがエリナの「能力」だった。




エリナがこの力に気が付いたのは前世の記憶が戻ってからだった。



ある日、父アデルモが誤って階段から転げ落ちてしまった時の事だった。



(せっかく転生したのに、私は何も出来ない)



苦しんでいる父を少しでも楽にしたいのに、なんの力にもなれず無力感に苛まれ、アデルモの前でエリナは涙を流した。



精神は大人だが最近まで正真正銘の五歳児だったのだから涙腺だって感情の赴くままに弛んでしまうというもの。



『なんて優しい子なんだろう。けど泣かなくていいんだよ』



アデルモは痛みを堪えながら可愛い娘の頭を撫でた。



優しい父にまた涙が溢れる。

そんな時だった。ふと歪んだ視界に何か赤い物が映ったのだ。



それは突然現れた、と言うより「見えるように」なったのかもしれない。アデルモの腰や足に赤い靄がかかっている。



靄がかかった部分を触れば父は苦悶を漏らすので、父を苦しめているこの赤い靄をどうにかして取り払いたくなった。



そう思った途端、赤い靄は消え去り、代わりにエリナの手の中には真っ赤な苺がいくつか握られていたのだ。



父は驚いたようにベッドから飛び起き不思議そうに首を傾げたのをエリナは今でも覚えている。



(突然こんな力が使えるようになるなんて記憶を取り戻したせいかしら?)



そして自身の手に忽然と現れたこの苺はもしかしたら父を苦しめていた「痛み」だったのではないだろうかと考えた。



そんな馬鹿なと普通なら思うところだが、つい最近異世界転生したのだと自覚したエリナは大して不思議に思わなかった。



(いかにも怪しげな苺だけど…美味しそうだし、食べたらどうなるのか凄く気になる…!)



しばらく迷ったものの、知的好奇心には勝てず苺を口に放り込んでみた。



するとそれはただの美味しい苺だった。



(なんだ。「痛み」は普通の苺に変わったのね。)



安心したエリナはアデルモにもこの美味しい苺をすすめてみた。

美味しい物は人と共有したくなるものだ。



アデルモは喜んで苺を口にするも、その瞬間彼はまた腰を押さえてぶっ倒れてしまった。



エリナはすぐさま再び赤い靄が戻った腰に手を当てて苺を取り出したのだった。



苺はエリナが食べる分にはやっぱりただの美味しい苺だった。

いくら時間が経っても腰も足も痛まない。



苺を美味しく食べ終えたエリナは、この世界には本当に神様がいるのかもしれないなあと思った。





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