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呪われ王子と転生歴女  作者: ももも
第1章
2/21

転生歴女



時は少々遡り、エリナは馬車の中にいた。



隣国へ向けて侍女のノエミと共に車窓を楽しみながらおしゃべりをする。そんな旅を始めてもう三日になる。



『お天気もいいし、旅がこんなに楽しいなんて知らなかったわ!本当に留学を決めて良かった!』



隣国ウィステリアのアカデミーへ留学するため、片道一週間はかかる旅路を進みながらエリナは声を弾ませた。




馬車の窓を開けると爽やかな風がエリナの腰までのびるシルバーブロンドと、すみれ色のシンプルなドレスをはらりと靡かせた。




『ええ。お嬢様はいつも寝食を忘れて研究室に籠りきりですものね。たまには太陽の光を浴びて下さい』



侍女の小言の通り、日の光を浴びる事の少ないエリナの肌は透き通るように白くアメジストの瞳も相まって神秘的にも写るだろう。



『けど、その研究のお陰でこうして留学出来た訳だし』



エリナはため息混じりのノエミに苦笑いで返した。



(あれくらいの不摂生は前世でよくしていたからなんとも思わないのだけど…)



車窓から見える麦畑に視線を移しつつエリナはそんな事を思うのだった。



彼女には世にも珍しい事に前世の記憶がある。

日本と言う国は小さな島国だが文明が発達していて便利な機器に溢れていた。そんな国の片田舎に生まれ、大人になってからはそんな国の首都で歴史研究者として働いていた。



ここはきっと前世でいた世界とは違う世界だとエリナは思った。

いわゆる異世界転生だ。



エリナは前世の記憶を取り戻した時そう直感した。



この世界はエリナの前世の世界で言うところの中世ヨーロッパに似た世界だ。王権国家に貴族社会。かくいう彼女もアストラガルス公国の貴族に生まれた。




エリナに前世の記憶が甦ったのは、それはまだ彼女が五歳の頃だった。



家族でウィステリアに住む叔父を訪ねた時の事。

エリナは唐突に思い出したのだ。急激に脳を犯す前世の記憶を受け入れ切れず、幼いエリナは気を失ってしまったのだ。



目を覚ますとエリナは叔父の家のベッドの中だった。

寝ている間に前世の記憶が「エリナ」に馴染んだような感覚だと五歳児のエリナは思った。

もちろんこれまで生きてきた記憶もある。



(ほほう。これが噂の異世界転生)



前世で研究にばかり明け暮れてるいたエリナでも、物語のジャンルにそんな感じのが有る事くらいは知っている。



なるほどなるほど…、とベッドの中で独り言ちた。



(そんな事よりも……)




そう。エリナには異世界転生した衝撃よりもさらに重要な事があったのだ。




(まだ知らない世界の歴史に触れられるなんて夢みたい…!

ありがとうございます神様仏様!!)




エリナは歓喜した。



前世では駆けだし研究員だった彼女は夢半ばで死んでしまい消化不良だったのだ。異世界転生してしまった驚きを遥かに凌駕する程の喜びだった。




(私はは生涯この世界の歴史を探求します!!)




彼女のこの情熱は十八歳になった今でも変わっていない。



旅先で倒れてからと言うもの、少々様子の違うエリナを両親は温かく見守った。父アデルモはとても柔和な男性で、エリナを大変可愛がっていた。

黙々と歴史を研究する娘にとうとう研究者まで与えた。

母のソランジュはアデルモとは違い女性が歴史研究だなんて、とこの世界ではごく一般的な意見を持っていたがエリナの情熱に絆され、淑女教育さえ疎かにしないのならとエリナの活動を応援するようになっていた。



とりあえずは母国の歴史研究から取りかかったエリナだったが、アルトラガルス公国の歴史は日本史を主に研究していた彼女からすると350年程とあまりにも短い。

と言うか、この世界の歴史自体が前いた世界よりも歴史が浅い気がするのだ。



その割にこの世界の文明の発展は前の世界よりも早いようだった。



エリナはこれを研究テーマに掲げると、母国アルトラガルスの歴史を足がかりに大陸史へと手を伸ばす事にしたのだ。




アルトラガルス、ウィステリアなどの諸国が所属するこのヴァルツ大陸はこの世界で一番大きな大陸とされている。



そしてヴァルツ史の研究論文を父の勧めで発表してみたところ、これが認められて15歳の時博士号を取得したのだった。



この留学も講師兼研究員と言う形で招待されたものだ。




『本当にようございましたね。あのオスカー様を説得するとは流石お嬢様ですわ』



ノエミにそう言われ、エリナは兄の事を思い出した。



オスカーと言うのはエリナの五つ上の兄で、少々いや多少…大分……度を超えたシスコンだ。



『ものすごく泣かれたけどね。毎日手紙を書く約束をして1日でも途絶えたら迎えに来るらしいから絶対に書き忘れのないようにしないと…』


『オスカー様…。色々と心配になりますわね』



ノエミはオスカーのシスコンを拗らせた奇行には慣れてはいるが、呆れたように息をついた。完全に諦めた目をしている。



『まあ、オスカー様がご心配されるのも無理ありません。

お嬢様は歴史研究以外はポンコツですからねぇ』



ノエミの容赦ない言葉にエリナは項垂れた。



はっきり言ってエリナは淑女の才能がない。彼女自身は可愛らしいウサギを刺繍しているつもりだが、他者からしてみるとゾッとするような地球外生物にしか見えないし、レース編みなんて教えていた母が泣き出す始末だった。



ダンスに関してもエリナのポンコツ振りは他の追随を許さない。デビュタントの際ファーストダンスは年頃の近い王子様が勤めるのだが、王子のリードが無ければダンスとして成立すらしていなかっただろう。ソランジュは王子に後日お詫びの品を送ったそうだ。



及第点をつけられるのは普段の所作くらいな物だったがエリナは別段気にしていない。



『言い返す言葉もない…。けど、大丈夫よ!

ノエミが一緒に来てくれたんだもの』



ノエミが付いて行くのならとあのオスカーも渋々首を縦にふったのだ。エリナはノエミに全幅の信頼を寄せていた。



『はあ〜〜〜。守りたい。この笑顔』



無邪気な笑顔を向けられ庇護欲を大いに掻き立てられた侍女は主人をひしと抱きしめた。



ノエミはエリナが七歳の頃からそばに付いて世話をしている一番信頼出来る侍女だった。歳は三つ上で栗色の髪を今日もシニヨンにまとめている。



それにノエミは可愛らしい容姿に反して腕っぷしが自慢でノエミが護衛を兼ねていてくれるお陰で気楽な女の二人旅が出来ている訳なのだ。



エリナはノエミをぎゅっと抱きしめ返すのだった。






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