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呪われ王子と転生歴女  作者: ももも
第3章
19/21

厄介な呪い


それは婚約を取り決めて一刻も経たないエリナの客室で起こった。



当初は目を疑う程の数の呪いも今では、あと一日二日で全て外す事が出来るだろうと言う段階だった。

移動するのも面倒なので今日の解呪はエリナの部屋で行われていた。



『いたっ』


『大丈夫ですか?すみません…!』


『大丈夫…』



いつものように呪いの取り外し作業をしていたところ、珍しくクラウスが痛みを訴えたのだ。



ナイフの呪いを外す際も無言で耐えていた彼が声を発する程だ。相当痛かったに違いない。



残りはサングラスの呪いだけとなった今では取り外しに痛みが伴う事は無いはずなのだ。先程何個か外した時は確かになんともなかった。



(どうして痛みがあるのかしら?…ん?)



エリナは首をひねりながらサングラスを観察した。すると、ある驚くべき事に気がついた。



『なんて事するのかしら!サングラスが顔に縫い付けてあるわ!』


『『『ええっ!?』』』



怒りの声を上げるエリナに三人は声を揃えた。



『何それ。縫い付けてあるってどう言う事?』



クラウスは訳が分からないと言い、説明を求めた。



『そのままの意味です…。糸で顔に縫い付けてあります。悔しい事に私よりもはるかに上手ですね…。これは糸を切って外すしかないかしら…』


『サングラスってガラス製だよね。糸は何製なんだろう』



呪い慣れしたクラウスはこんな事態でもすぐに冷静さを取り戻し、疑問を口にする。



『糸は普通の刺繍糸みたいですね』


『へえ。不思議』



そして同じく呪い慣れしたエリナも平気な顔で質問に答えている。



『なんか主、最近エリナ嬢に似てきましたね〜』


『何それ。図太くなったって事?』



クラウスは失礼な、と息をついた。



『…婚約解消しようかしらね』


『まあまあ、お嬢様。反論の余地がありませんもの。それよりもこちらで糸は切れそうですか?』



ノエミが差し出したのは刃先の小さな糸切りばさみだった。



『ありがとう。ノエミ。これなら大丈夫そうよ。……私の手元さえ狂わなければ』



神妙な面持ちで鋏を受け取ったエリナは不穏な事を口にする。



『待って。聞き捨てならないんだけど』



クラウスはすぐさま反応した。



『大丈夫ですよ…!前世で友達のピアスとか開けたことあるし…』


『何の保証にもなってないよ…!穴開ける気!?』


『だ、だ大丈夫ですよ…。けど靄があって見づらくて…』



と、言いつつ震える手を伸ばし糸目を一つ切ってみようとするが震えの余り照準がさだまらず具現化されたサングラスに刃先がぶつかった。



カツンッと目元から音がして、クラウスは戦慄する。

サングラスが無ければ尖った鋏が眼球を直撃するところだ。



『『『……………!!』』』



ノエミとイーゴンも息を止めて見守るが、段々と顔が青ざめていく。当の本人も顔面蒼白で固まっていた。



『あの〜。…エリナ嬢の裁縫の腕前って…』


『…ふう…。仕方がありませんね。…これを見せてあげましょう。私の宝物です』



冷や汗混じりにイーゴンが問えばノエミがお仕着せのポケットから綺麗に畳まれたハンカチを取り出した。



手渡されたイーゴンは施された刺繍を見てゾッとする。

恐らくだが四足歩行の生物が黒い糸で形どられ、赤い糸で焦点の定まらない目と不気味な弧を描いた口が付けられている。糸目が不安定なせいか真っ赤な口には牙が生えているように見えた。実に禍々しい。



『なんですか…?このグロい生物』


『ウサギです。私がウサギが好きだと言ったのを覚えていらしてお嬢様が刺繍して私に下さったのです。技術の方は高いとは言えませんが可愛らしいでしょう?』


『…ウサギ…』



主人に対して盲目的な侍女にはこの人肉が好きそうな生き物が可愛らしいウサギに見えるらしく、ノエミは心温まるエピソードを語ったが、イーゴンはいつに無く無表情で呟いた。



『ノエミったらいつも持ってくれているの?嬉しいわ!』


『お嬢様の真心がこもった物ですから。肌身離さず持ち歩いてますわ』


『まあ。ノエミったら!』



二人の世界に入ってしまった女子二人にイーゴンが待ったをかける。



『いや、ほっこりしてる場合じゃないって!しかもこれ血痕付いてません!?』


『指を刺しちゃって…』


『お嬢様…。私などのために…』



またしてもキラキラとした二人の世界に突入しようとする二人を引き戻す。



『だからほっこり出来ないんですってば!血痕も相俟って何人か食い殺したように見えるんですよ!このウサギ!』


『彼女は優しいウサギです!草しか食べません!』


『…こいつメスなの!?』



ノエミの叫びにイーゴンはまた驚愕する。



『お前達うるさい。…とりあえず自分が未だかつて無い危機に面していると言う事だけは分かったよ…』



イーゴンとノエミを手で制止したクラウスは絶望のこもった声で言うと、ため息をついた。



イーゴンも流石に何も言わない。いや、言えなかった。



『…殿下。すみません…。実は私、不器用すぎて刺繍の先生を二人程泣かせてます…』


『……色々と言いたい事はあるけど…。頑張ってとしか今は言えない』



白状するエリナにクラウスは覚悟を決める。



(たとえ失明したとしても今と同じ事だ…)



悲壮な決意だった。



そしてしばらくの間、覚束ない手つきでサングラスと目元の皮膚を繋ぐ糸を一つ一つ切っていく。安全をきす為かなりのスローペースだった。



(体勢がきつい…)



一人掛けのソファに座るクラウスに覆い被さるように作業しているエリナの腰が悲鳴を上げ始めた。



二人は窓際の長椅子に移動して作業を再開するも、隣に腰掛けての作業はやはり腰や腕がすぐに痛くなった。



疲れて手元が狂うたびに前髪が少しずつ切れてしまう。

このままではクラウスの前髪がオン眉パッツンカットになるのは時間の問題である。



(う〜ん…。もう腕が上がらない…。あ!そうだわ!)



腕が痺れ出したエリナはとある効率的な方法を考えついた。



『殿下、ちょっと失礼しますね』



エリナはクラウスから少し離れて座り直し、彼の上体を引っ張り自身の方に傾けた。



『…!?…なに…?何なのこれ』


『お嫌でしょうけど少し我慢して下さいね』


『今膝枕されてる…?』


『これだと腕も疲れませんし、前髪を切る事もありません』



クラウスは頭に感じる柔らかな感触とほのかな石鹸のような香りにどぎまぎしたが、それ以上にエリナが鋏をシャキンシャキンと鳴らす音が恐ろしかった。



『君のやる事は予想がつかなくて困る…。まあ、いいか。君が重くないなら』


『すみません…。頑張りますね』



エリナはクラウスがこの体勢に納得してくれた事に安堵すると続きを始めるのだった。



午前中が過ぎた頃には半分程の糸を外す事ができ、昼食を挟んで休憩する事にした。



昼食を終えお茶を飲んだ後作業を再開すると、エリナは信じられない光景を目にしてぎょっとした。



自身の膝に頭を乗せているクラウスに恐る恐る尋ねてみる。



『あの…殿下?…目元がチクチクしませんか?』


『…するね』


『…呪いが再生しているみたいなんです』


『呪いが再生?』


『…はい』



魔除け効果のあるエリナと共にいれば新たに呪われる事はないはずだった。だとしたら今かけられている呪いが再生しているとしか考えられない。



『なるほどね…』



エリナの言わんとする事を早々に理解したクラウスは現状を確認し始める。



『どれくらい再生してる?』


『さっき半分くらい取ったはずなんですけど取った部分が半分戻ってしまってます』


『休憩時間は約二時間くらいだったからそれほど再生速度は速い訳ではなさそうだね。……問題は半分外すのに五時間かかった事かな』


『おかしいとは思っていたんです。いくら頑張ってもなかなか進まないし…。再生していたとは…』



悔しげな声で言うエリナは自分の手の遅さを恨んだ。



『一気に外してしまうしかないかな。体力は大丈夫そう?』


『なんとかなるかと…』



呪いを外すのには結構な体力と気力を要するので、双方覚悟を決める。



『寝てしまったら起こして下さいね!』


『…無理はしなくていいから』


『はい!』

エリナは気合いを入れて鋏に手を伸ばすのだった。



それから日が暮れるまで手を休める事無く呪いを外し続け、なんとかサングラスのブリッジまでたどり着いた頃には二人共へとへとになっていた。



『お二人ともお顔が疲れきってらっしゃいますよ。お食事だけでもお取り下さい』


『ありがとう…。ノエミ』



心配そうにサンドウィッチが乗った皿を差し出すノエミにエリナはよぼよぼとした笑みを向けた。



『主〜。報告終わりましたよ。進捗どうですか?』



城からの遣いに報告事項を伝えるため部屋を離れていたイーゴンも戻って来ると二人の疲れきった様子に苦笑いを浮かべる。



『なんとか半分くらいです…』


『それにしても厄介な呪いかけてくれますねぇ。犯人とっ捕まえたらどうしてやりましょうかね〜』


『どんな手を使っても見つけ出して生まれて来た事を後悔させる…』



クラウスが憎しみを込めて言うとノエミも頷く。



『針のむしろに座らせて尋問しましょう』


『いいですね〜。指も詰めちゃいましょう』



朝から働きづめの従者二人は拷問トークに花を咲かせる。

呪いの事はまだ国王にすら伝えていないため、クラウスの仕事は変わらず山のようにある。それをクラウスの指示のもと肩代わりしているのはイーゴンなのだ。



ノエミもエリナの身の回りの世話に、エリナの代わりに婚約に関しての手紙をルナール家やオスカーにも書かなければならず、ほとんど休んでいなかった。

特にオスカーへの手紙は神経をすり減らした。



犯人への苛立ちが最高潮に達しているのだ。



四人は犯人を許さない。改めて心に誓った。




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