弟からの手紙
二人の話し合いの翌々日、クラウスから兄王へ宛てられた手紙はつつがなく王城に届けられた。
騎士隊の駐屯地を早馬で経由すれば馬車で五日はかかる道のりも二日に短縮できるのだ。王子から国王への手紙は何よりも優先され、より足の速い馬で運ぶのが暗黙の了解だった。
ウィステリアの王城は高い塀に囲まれ、それを取り囲むように城下には騎士隊や官吏の寮が備えられている。それらをまた囲むように塀がそびえ、東西南北それぞれに出入口の門が構えられていた。
門をくぐれば、王都が広がり人々の往来で賑わっている。
王城の最上部の自室で今日も変わらず平穏な一日を過ごす国民を眺める王の姿があった。
ウィステリア国王、フリッツ グリンデルバルドは慈しむように笑みを浮かべ眼下に広がる景色を楽しんだ。
今日は最高の日だ。久しぶりの何の予定も無い午後を可愛い弟からの手紙を読んで過ごす事が出来るのだから。
フリッツは上機嫌で机に置かれた手紙を手に取った。
クラウスが任務で城を離れてからと言う物、クラウスが取り仕切っていた内務や外交の代行で忙しく働き回っていたフリッツは優秀な弟の有難みを改めて痛感する。
本来それらは全て国王であるフリッツの仕事なのだが、良く言えば優しく、悪く言えば優柔不断なフリッツは王としての厳しい選択や大きな決断をするのが大変苦手だった。
はっきり言って向いていない。悲しい事に自他共に認める事実である。
周囲がおのずとクラウスの成長と共にそちらに判断を仰ぐようになったのは致し方ない事だろうとフリッツは思っていた。
そんな頼りない王をなんとかしようと、クラウスに任務を与えたのはフリッツの妻、女王ビビアナだった。
恐妻ビビアナの思惑通りフリッツは四苦八苦しながら仕事をこなしている。
そんな中もたらされた弟からの手紙は光り輝いて見えると言う物だ。
そもそもクラウスが仕事以外で手紙を寄越すのは初めてだ。今日と言うこの日を末永く祝うため国の祝日に定めるべきかもしれない。フリッツは大真面目に考える。
そしてその考えは手紙を読み進めるうちに決定事項へと変わっていく。
手紙には任務の報告から、誘拐事件のあらまし、そしてこの度婚約します。いいよね?と言った内容が綴られていた。
『クラウスが·····こ··········!』
フリッツは慌ててにやける口元を押さえた。
手紙にはこの事は絶対に他言無用と書かれている。
しっかり者の弟がそう言うのならば何か訳があるのだろう。
『ふふ·····。ふふふ·····!』
だがしかし!言いたい!今すぐ触れ回りたい!可愛い弟の婚約を祝い倒したい!!
自分が不甲斐ないばかりに苦労ばかりかけてきた弟が!あの小さかったクラウスが!婚約とは!
フリッツは小躍りでもしてしまいそうになるのを堪える。
ああ!!やはりこの日を祝日に定める事にしよう!そうしよう!
手紙にはもうすぐ帰るとの一言もあった。
フリッツはその日が来るのを心待ちにするのだった。




