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呪われ王子と転生歴女  作者: ももも
第2章
14/21

徐々に



『ノエミー!!』


『お嬢様ー!!』



二人は固く抱き合った。



よく晴れた昼下がり、旅立ってから一週間経ったその日ノエミはようやく帰ってきた。



クラウスの部屋は感涙にむせぶ二人の世界へと変わった。



『自分達は一体何を見せられてるんでしょうねえ』


『さあ』



見えてないけど、とクラウスは付け足した。



『お嬢様、一週間もお側を離れてしまい申し訳ありませんでした』


『ノエミ以外にはお願い出来ない事だったもの。仕方ないわ』



謝るノエミにエリナは優しく首をふった。



『お嬢様……』


『あのお兄様(シスコン)とまともに話せるのはノエミだけだわ。本当にありがとう』



エリナはノエミの手を握ると心からお礼を言った。



『お兄様と書いてシスコンと読んだ気がする…』


『自分もそう感じましたよ〜』


『そこ!私とノエミの感動の再開を邪魔しないで下さい!』



茶々を入れる男子二人に文句を言うエリナを見てノエミは驚いた。



『随分仲良くなられましたね』


『うん。たくさんお話したから』



ノエミが帰ってくるまで色々な話をした他に三人は時折子供達の部屋に赴き、事件の聞き込みや文字の読み書きを教えたりと楽しく過ごしたのだった。



『私のいない間にそのデカい男に何か良くない事を吹き込まれやしませんでしたか?』



やはりイーゴンには一抹の不安を感じでいたようだ。

ノエミは辛辣な口調でエリナに尋ねる。



『とても楽しかったわ。ねえ、イーゴンさんってすごいのよ!王宮の剣術大会で優勝した事があるんですって。流石は殿下の側近につくだけあるわよね!』



無邪気にイーゴンの凄さを伝えるエリナにイーゴンが慌てる。

ノエミの眼光が段々と鋭くなっていくのが分かるからだ。

彼女にとって強さは誇りである。主人が他の強者を褒めるのは面白くないだろう。



『あとね、お酒も強いんですって。シェリーと、ジンにウィスキーが好きなんて大人よね!』



エリナはその三つの酒が飲み方によっては夜の誘いを意味するものだとは露も知らずノエミにイーゴンの良さを知って欲しい一心で続けた。



『あああ〜。その大会は主が出てなかったからたまたま優勝出来ただけですから〜。……お願いだからその汚い物を見る目を止めて〜』


『貴方とお酒を飲むことは一生ないでしょうね…』


『あれ?』



エリナは思っていた反応を得られず首を傾げた。



『君知らずに人に恨まれてそうだね』



クラウスはボソリと呟いたがエリナは首を傾げたままだった。



『ともあれ殿下、ついでにイーゴンさん。この度はお嬢様をお預かり頂き大変ありがとうございました』



(なんだかペットのような言われようだけど…)



ノエミは感謝を述べるとピシリと頭を下げる。

そしてどこか腑に落ちないエリナ。



四人はテーブルへ移動し、ノエミの入れたお茶を飲みながら話を続ける。



『それで、そっちはどうだったの?』


『はい。なんとかこちらに来る事だけは阻止いたしました』




ノエミはクラウスが尋ねると力強く頷く。



『流石ノエミ!ありがとう!ノエミに任せて良かったわ!』



『お嬢様のためですもの。なんとか説き伏せましたわ。何度か手が出そうになりましたが…』



グッと拳を握ったノエミはこの一週間の苦労を思い出したのか眉根を寄せて目を瞑った。



困り果てる叔父の代わりに激昂するオスカーを抑え、話し合いに持ち込むのに四日かかったそうだ。

そして説得するのに三日。ようやく話し合いが終わり急いで帰って来たのだとノエミは話す。



壮絶な一週間を過ごさせてしまった。エリナはノエミに何か特別手当を送ろうと思った。



けれどその甲斐あって一月後まで会うのは待つそうだ。一ヶ月後に叔父の邸でパーティを開くのでそれに必ず参加するようにとの事だった。



『お兄様にしては寛容ね。一月も待ってくれるだなんて』


『ええ。事情を話す訳にもいきませんし、最終手段を取らせて頂きました』


『そう…。今回ばかりは仕方ないわね』



エリナとノエミの話にイーゴンが挙手をして質問を挟む。



『最終手段ってなんですか〜?』


『…一言言えばいいのです。「お嬢様に嫌われますよ」と。オスカー様の命に関わるので多用はしないようにルナール家では取り決められているのですが…』


『命ですか…!?』


『オスカー様はそれを想像しただけで呼吸が乱れ、手足も震え、最悪死にます』


『大丈夫ですか!?エリナ嬢のお兄さん!』



サラリと説明するノエミとは首を振ってとても残念そうに眉を下げ話を続けた。



『あらゆる意味で大丈夫ではありません。今回も呼吸困難になりかけておられました』


『まあ…。お兄様ったら大げさなんだから』



エリナは慣れたようにため息をついた。

優しくていい兄なのだが、面倒極まりない。



クラウスとイーゴンはもはや言葉も無かった。



『とにかく、パーティに参加するなら色々と準備しなくてはね』


『そうですわね。ドレスやアクセサリーは事前にあちらに運んでありますので心配いりませんが…』



ノエミは続きを言い淀んだ。



『……問題は俺だね』



引き継ぐようにクラウスが言う。



『そうですね〜。エリナ嬢から離れらんないから』



イーゴンが言うと、エリナはあっけらかんと笑った。



『そうでしたね』


『笑ってる場合じゃないんだけど』



クラウスはため息をつかんばかりに言うとこう続けた。



『君の叔父のオルティス侯爵にはどう説明するか、とか色々考える事があるだろ』


『確かに理由もなく王子様をお連れする訳にもいきませんね』



言われてみればそうだとエリナも納得した。



『また女装するのはどうです?』


『…………やむを得ない場合を除いては絶対したくない。

それこそ最終手段だと思って欲しい』



残念ながらエリナの提案は丁重に断られる。



『似合ってるのに〜』


『……減給』


『私も見てみたかったです。殿下の女装姿』



呪いの靄と凶器せいで女装姿を眺める余裕もなかったし、サングラスでエリナは彼の瞳の色さえ知らないままなのだ。



『………………………』



その言葉を聞きクラウスは葛藤していた。エリナには世話になりっぱなしで彼女の望みは出来るだけ叶えたいと思ってはいる。だがしかし嫌なものは嫌なのだ。



しかし、しかし、しかし...彼は近々さらにエリナに迷惑をかけるだろうと予想していた。



当初は呪いが外れればエリナは一先ず御役御免となるはずだったが、クラウスが二十四時間呪われ王子だと判明した今、魔除け効果のあるエリナに付いていて貰わなければならない。

呪いをかけている犯人を捕まえ、事件を解決するまでそれが続くのだ。



エリナは自ら判断してアカデミーに既に休学届を出しており、この一件が終わるまでクラウスに協力するつもりでいた。

しかもクラウスがこれを聞いたのはつい昨日の事。



あまりにも事も無げに告げたエリナに気絶するかと思った。



それだけでもクラウスにとっては血を吐く程に申し訳なく、

感謝しようもないのだが、エリナは相変わらずの無欲で謝礼も要らないと言うばかりだ。



それなのに、それなのにさらにエリナに迷惑をかけ、それを伝えなければならないと思うと断腸の思いであった。

この苦悶を少しでも軽減させるには、エリナが女装姿を見たいと言うなら従う他ないのだと真面目な王子は思った。



(……もう女装の一つや二つじゃ足りない)



クラウスは人に借りを作るのは好きでは無かったし、王子と言う立場上、負担をかけられる事はあっても人の負担になるような事には慣れていなかった。



『…あの、無理を言ってしまって申し訳ありません』



急に無言になったクラウスに気を遣ったエリナは元日本人らしく謝罪する。



(いくら似合っていても女装は嫌よね)



前世の飲み会でメイドのコスプレをしろなどと冗談で言ってきた上司に辟易したのを思い出し、エリナは反省する。



『...怒ってるんじゃないよ。考え事をしていただけ』


『そうなんですか?ですけど贅沢を言ってしまいましたね』



エリナはどうしても見たい訳ではないので気にしないで欲しいと付け足した。



『...もっと言うといいよ』



君にはその権利があるとクラウスに言われ、彼はエリナの休学の事を気にしているのだろうかと思い至る。



『う〜ん...』



(殿下はきっと休学の事を気に病んでいるのよね。ここは何か実現可能なお願いをした方がいいかしら?)



『あ、では殿下のサングラスの呪いが全て外れるまで目の色は秘密にしておいて下さい。楽しみが増えますので!』



エリナは思い切ってお願いしたが、クラウスは額を押さえてため息をついている。



『はあ〜〜〜〜〜...』


『えっ。いけませんでしたか?』


『いや、いいよ。いいんだ』



(はあ〜〜...。願いがささやか過ぎる...)



クラウスは無性にエリナを抱きしめたくなった。

なんだその意地らしい願いは。



『はあ〜〜〜〜。守りたいこの笑顔』



ノエミに抱きしめられたエリナは訳が分からず疑問符を頭の上に浮かべている。



『なんか自分心が洗われたような気がします』


『消滅しなくて良かったですね』


『そんな穢れの塊みたいに言わなくても〜』


『語弊はないかと』



そんなやり取りをするイーゴンとノエミの声も届かない男が一名、額に手を当てたまま黙りこくっている。



(これはなんだ...?)



心臓が握りつぶされているような感覚だった。しかしながら不快と言う訳でもなく体がふわふわとする。

クラウスは自身の変化を感じつつも()()に気付いていないのだ。



(…………不整脈?)



クラウスは大変真面目で堅物な王子だったので妙な所に着地してしまった事に気付かず、健康に気をつけようとあらぬ方向に落ち着いてしまったのだった。




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