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呪われ王子と転生歴女  作者: ももも
第2章
12/21

魔除け令嬢


『………………………』


『………………………』



エリナとクラウスはソファに沈み込み項垂れていた。



『……疲れましたね』


『……そうだね…』



エリナの弱々しい声にクラウスも頷く。



『お茶をお入れしました。今日はこれくらいにしてお休みになってはいかがですか?』


『ありがとう。ノエミ』



ルナール家から持ってきたエリナお気に入りのティーセットで入れられたお茶を飲みながら二人は解呪について話し合う事にした。



あの後さっそく「呪い」の取り外しにかかったエリナだったが、小一時間もしないうちに作業は止まってしまった。



足枷や腰に着いていた「呪い」は牢屋にいた時同様に適当な鍵を回せばすぐに外す事ができた。



「呪い」をかけた犯人がざっくばらんな性格なのか、指定の鍵が必要になるほど複雑な「呪い」をかける技術や力が無かったのかはまだ判断がつかない。



サングラスに関しては驚く事に一つ外しても下にはまだまだサングラスがかかっていて幾重にも「呪い」が重なっていた。



問題なのはクラウスの全身に執拗に刺さりまくった異様な数のナイフだった。



ナイフを引き抜くのにも相応の痛みが生じるらしく、クラウスにかかる負荷は計り知れなかった。

さらに「呪い」を一つ外すごとに互いの体力が著しく削られる事も分かった。



『君の見立てでこのペースだとどれくらいかかりそう?』


『そうですねえ。ナイフは一日に五、六本がお互い限界かと思いますし、サングラスの方もゆっくり外していったほうが安全かと』



眼科の知識はないが目を慣らしながら外していくのがベターだとエリナは判断した。



『んー。ナイフの数が多すぎるので半月からひと月はかかると思います』


『百本以上はナイフが刺さってる事になるね』


『そうなりますね。所狭しと刺さってますから』


『…君にはあまり負担をかけたくなかったんだけどね』



留学の事も気になっているんだろう。

エリナには表情は分からないがその声に苦悩が滲んでいるように感じた。



『過分な謝礼を頂く約束もしてますし、気になさらないで下さい。乗りかかった船ですから』


『…気にするなと言われても』


『体力には自信はありませんけど、「能力」で作った体力の飴がありますので、そちらも活用していきましょう』


『そんな物もあるんだね』


『はい。父がよく使ってましたが多様すると回復力…と言うか免疫力が下がるみたいなので、一日にそう何度も使えないんですけどね』



以前父のアデルモが書類仕事が立て込んで徹夜続きの時に使った手だったが、仕事が片付いた後で風邪で寝込んでしい、禁じ手とされてしまったのだ。



『あれはお父様が入れた体力分の栄養を摂らなかったからいけなかったんだと思うんです。私も自分に「入れる」事が出来たら研究中に使うんですけど』


『可能だったとしても私が許しません…!絶対に研究に夢中で寝食を忘れるに決まっています』



食べるのは大好きなエリナだったが研究中はつい夢中になって食事を摂らない事が多い。

ノエミにピシャリと言われエリナが小さくなる。



(返す言葉もないわ)



『ノエミさん強え〜』



イーゴンさんは感心したように笑う。



『主は俺の心配なんてお構い無しに好き勝手するもんな〜』


『それはうちも同じです。研究中のお嬢様はどんなに口酸っぱく言ってもご自分を顧みませんから』


『仕事中の主もそんな感じですよ』



主人の不健康すぎる生活態度を肴に従者二人が愚痴トークで盛り上がりはじめる。



『…本人のいない所で話なよ』


『まあ、二人がそれで仲良くなるならいいんじゃないでしょうか』


『本当にお人好しだよね。君』


『そんな事はないと思いますけど…』



クラウスはすっかり無駄話をしてしまったと言って、脱線した話を元に戻しこれからすべき事を話し合い、今日のところは解散となった。



それからエリナは子供達の部屋を訪ね、元気そうにするワルト達を見て一安心した。

まだまだ痩せすぎてはいるが、ひとまず血色は良くなったと今朝イーゴンにも聞いていたが自分の目で確かめたかったのだ。



エリナがやって来た事を子供達は大いに喜んだ。

子供達も牢屋から走り去ってしまったエリナを心配していたそうで、お互いの無事を確認し合った。



そして昼食を一緒にとる事になり、せっかくなので宿の近くの公園の野原でのびのびとお弁当を食べようという話になった。



よく晴れた空の下で輪になって食べる食事はとても美味しく、

子供達は楽しげにサンドウィッチを頬張っている。



『今日お昼ご飯を食べたら皆でお洋服を買いに行かない?

私から皆にプレゼントしたいの』



唐突ではあったがエリナは子供達に提案してみた。



子供達を引き取ってくれる孤児院が決まりそうだとクラウスから話を聞いたのだ。新しい環境に入る前に新しい服が必要だと思った。




今子供達が身に付けているのはイーゴンが適当にダース買いして来た大人用のシャツだった。一番大きなワルトでさえ袖が余っているのだから他の小さな子供達はワンピースのような状態だった。



『お洋服!』



ハンナの顔がパッと輝いた。



女の子だものね。とほっこりしていると『お嬢様もこれくらい興味を示して下さい。淑女として』とダメ出しがとんだ。



一方ワルトや他の男の子達はあまり興味がなさそうだ。



『いいよ。今着てるのだけで充分上等だって』


『もう、ワルトったら。人は見た目だって肝心よ』



どんなに素晴らしい人物だって中身を知ってもらうきっかけはやはり見た目である場合が多いのだとエリナは説明した。



『体に合わない服を着ているだけで皆が誤解されるなんて悲しいの。これから新しい環境に身を投じるんだから、服も気分も新しくして行きましょうよ!』



新学期初日は新しく買ってもらった服を着て学校にいくものだ。と言うのはエリナの前世からの自論だが。



『あ〜。もう分かったよ。安いのにしてくれよ!』



とうとう折れたワルトを嬉しくなったエリナが抱きしめると、他の子供達も集まって一つの塊のようになって抱き合った。



ワルトは怒っていたが、エリナはビンがオレンジ色の飴でいっぱいになる程に心が暖かくなった。



そして翌日の朝。



昨日買い物をした古着屋沢山の切れ端を貰えたので今日は子供達と刺繍や裁縫の練習をしようとノエミと話しながらクラウスの部屋へと向かった。



『おはようございます!失礼しま……』



子供達と楽しい時間を過ごしたエリナは上機嫌でクラウスの部屋を訪れだが、昨日の事も一瞬で霧散するような光景を目にする。



『ええええええええええええ!?』


『何なの。うるさい』


『どうしちゃったんですか殿下!?』


『いや、君がどうしたの』



クラウスは訳が分からない、と説明を求めた。

ノエミに背中を擦られ、すーはーと呼吸を整えたエリナは恐る恐る尋ねた。



『あの、殿下。苦しくありませか?腕は上がりますか?』


『ああ...。やっぱりこれ「呪い」だったんだ。何かに締め付けられてるみたいに骨がミシミシ言ってる』



落ち着きはらった様子のクラウスは淡々と答える。

呪い慣れしすぎている。



『ですよね…』



エリナは青ざめながらクラウスを眺めた。



苦しくないはずがない。

なぜならクラウスの体には見た事も無い大蛇が巻きついて締め付けているのだ。



(アナコンダくらい大きいんじゃないかしら…。

こう言うパターンもあるのね!)



エリナは泣きたくなった。



『俺、今どうなってるの?』


『大蛇に巻き付かれてます…』


『ひんやりすると思ったら蛇か…。苦手なの?』



不思議な体験を立て続けにしたせいかクラウスはもう驚きもしない。変わらず落ち着いた様子でエリナに尋ねた。



『うちの領は田舎ですから蛇には慣れてるんですけど…、

こんなに大きいのは初めてで…少し怖いです…』


『…猥談ですか?』


『イーゴン黙れ』



楽しそうな主従をよそにエリナは臨戦態勢に入っていた。

手首足首を回し準備運動をしながらクラウスに問う。



『殿下、もう外してしまってもよろしいですか?』


『…え、少し怖いんじゃなかったの…?君がいいならお願いするけど…』


『はい。怖いからこそ!』



承諾を得てエリナはクラウスに巻き付く蛇の頭を両手でむんずと掴み取った。



『手掴み…!?』


『うわ〜。デカ!』



蛇が可視化され、イーゴンが声を上げた。



『早く終わらせてしまいたいタイプです!やーー!』


『掛け声相変わらず緊張感無いね…』



言葉を継いだエリナは蛇が巻き付く方向とは逆にクラウスの周りをぐるぐると円を書いて走り、とうとう蛇を外して見せた。



『さ、お嬢様!シーツを拝借致しました。蛇をこちらに!』


『流石ノエミ!やーー!』



機転をきかせたノエミがベッドのシーツを袋状にして待っていたのだ。



○チョウ倶楽部の掛け声よろしく声を上げたエリナは勢いに任せて蛇を袋に突っ込んだ。それは鮮やかな手際だったと後にイーゴンは語った。



モゾモゾ動く袋を固く縛って捕獲完了するとエリナはふ〜、と息をついて床にへたりこんだ。



(「能力」を使いすぎたわ…)



貧血になったように体に力が入らない。



『大丈夫?目には見えてないけど気配や音で君が何をしてるのか大体分かったよ。ありがとう』



クラウスはエリナに手を貸そうと差し伸べた。



『気配で分かるんですか?すごいですね!』


『すごいのは君だよ』



クラウスの手を取り立ち上がったエリナはある事に気付く。



『……?…おかしいですね。「呪い」が増えてます…』



せっかく外したはずの足枷が元に戻っている。



(蛇のインパクトが強すぎて全然気づかなかったわ…!)



『足枷は全て外したはずなんですけどまた一つついてます。いつからか分かりますか?』


『…多分だけど昨日の午後くらいかな。足が少し重いように感じたような…。これまで何個も着けられていたせいか、もう重いとも思わないんだよね』



一つ十キロはあるだろう足枷を五つも六つも着けられていたのだ。確かに今さら一つだけ戻ったところで大した負荷ではない。呪われ王子は計らずも筋トレをさせられ、知らず知らずのうちにパワーアップしていたのだ。



『嫌な慣れですね…。けど昨日の朝は「呪い」は増えてませんでしたよね。なんで急に…』


『昨日と一昨日と違う点があるとすれば君が外出したくらいかな』


『え、私ですか?』


『思うに、君が宿を離れた数時間のうちに「呪い」が増えたと思うんだよね。蛇に巻き付かれた感覚が始まったのも昨日の午後からだったし』


『うーん。私って魔除け効果でもあるんでしょうか?』


『さあ。神の寵児だからかな…』



クラウスも不思議そうに首を傾げた。



『すまないけど、今日は宿から出ないでもらえる?

それで明日の朝「呪い」が増えてなければ君に魔除け効果が有ると言うのが証明されるんじゃないかな』



そう言われ、エリナは宿から出る事なく一日を過ごした。



子供達の部屋を訪れたりアカデミーや叔父、あとは兄にも手紙を書かなくてはならないのでエリナにとってもちょうど良かった。



そして翌日の朝エリナは昨日と同じ姿のクラウスを目にして、めでたく魔除け令嬢の称号を得たのだった。





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