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人間の姫は俺様獣人王子に恋をする  作者: 彩女莉瑠
七、獣人国主催のパーティー
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七、獣人国主催のパーティー⑤

 そんな二人の元へ、いつの間にか人間国と獣人国の両国王がやって来ていた。更に(そば)にはヴァンも一緒にいる。


「これはこれは! 思わぬめでたさに出くわせましたな!」

「全くだ! ヴェルデ王、私の娘をよろしく頼みますよ!」


 両国王の会話はどこか芝居がかっている。そんな二人の様子を傍で見ていたヴァンは思った。


(……仕組んだな?)


 そうなのだ。このプロポーズは、ヴァンの王位継承を祝うパーティーを企画した後、両国王によって仕組まれたことだったのだ。

 始まりはゼールからのヴェルデ王への言葉だった。それは、


『人間国の姫、シェルを嫁にしたい』


 そんなシンプルなものだ。この頃はシェルの人間国での活動が獣人国にも届いており、(いけ)(にえ)としてやって来た頃のシェルから成長していたことをゼールもヴェルデ王も感じていた。そのため、ゼールからのこの申し出にヴェルデ王は異議を唱えるどころかすぐに、人間国国王へと話をしたのだ。

 話を持ち込まれた人間国国王はこの話を手放しで喜んだ。元々シェルを獣人国王子であるゼールに嫁がせたいと考えていたのだから、願ったり(かな)ったりである。

 そうして両国王はヴァンの王位継承を祝うとともに、このプロポーズを計画したのだ。


 この話はシェル以外の関係者には伝えられていた。もちろん、シェルの侍女にも伝えられていたのだ。だからこそ、侍女は朝から張り切ってシェルの身支度を調えてくれたのだ。


「めでたいことが重なった! いやぁ、全く、今日は本当に良い日だ!」

「まこと、良き日である!」


 両国王は心底喜んでいるようだ。


(失敗していたらどうしてくれてたんだ)


 ゼールは手放しで喜ぶ国王二人に内心で毒づいてしまう。


「シェル、おめでとう」


 そんな両国王の間からヴァンがシェルに歩み寄り、笑顔で祝ってくれる。その笑顔は少し切なげだったが、言葉は心からのものだった。


「ありがとう、ヴァンちゃん……」


 シェルは鼻をすすり上げながらそう言うのが精一杯だった。


「さぁさぁ! 今夜のパーティーを皆さん! 全力で楽しんでください!」


 ヴェルデ王のこの言葉に、シェルの周りからはおめでとう、と言う言葉がシャワーのように降りかかってきた。夢の中にいるような感覚の中、パーティーは進んで行くのだった。


 翌朝、シェルは来賓用の部屋で目を覚ました。

 昨夜の出来事は夢だったのではないかと思ってしまったが、自分の左手薬指の重さに気付いて、そこにはめられた指環を目にし、やはり現実だったと確認できた。


(まさか、あのゼール様に選んでいただけるなんて……)


 思い出しただけでも、再び目頭が熱くなってしまう。そんなシェルの元へ侍女が朝食の用意を持ってきてくれる。


「おはようございます、シェル姫様」


 シェルは慌てて目元を拭うと、ベッドの上に上体を起こした。それからしっかりとした声でおはよう、と挨拶を返す。


「シェル姫様、おめでとうございます!」


 侍女は次の瞬間そう言ってくれる。人間国にいた頃、シェルが時折ゼールのことを思ってため息をついていたことをこの侍女は知っている。だからこそ、今回のゼールのサプライズプロポーズが成功したと言っても過言ではないのだ。


「あ、ありがとう……」


 シェルは何だか恥ずかしくなってしまう。


「これから婚約パーティーなども開かれるでしょうし、忙しくなりますね!」

「婚約パーティー?」

「そりゃあ、そうですよ! 今回は(ぜん)(だい)()(もん)の人間国と獣人国の王族同士の婚約ですよ? 大々的にパーティーを行うに決まっているじゃないですか!」


 侍女はなんだか自分のことのように喜んでいる。シェルは侍女に指摘されて初めて、自分たちの婚約が歴史的なことだったのだと気付いた。


「さぁ、国に帰ったらやることがたくさんありますよ! そのためにも、しっかり栄養を()ってくださいね」


 侍女はそう言うと、ベッドサイドに朝食を置いてシェルの(そば)を離れた。シェルはのそのそとベッドから出ると用意された朝食を口にする。

 その後、朝の身支度を終えた頃だった。シェルの部屋をノックする音がした。

 侍女がそのノックに対応する。扉の向こうから聞こえてきた低い声は、シェルを幸せにしてくれる声だった。すぐに侍女がシェルを呼んだ。


「姫様! ゼール王子がいらっしゃってますよ!」


 侍女の(うれ)しそうな声に後押しされ、シェルはゼールが待っている扉へと向かう。


「おはよう」

「お、おはようございます」


 優しく(ほほ)()んでくれるゼールの笑顔に心臓がドキドキしてしまって、シェルの挨拶はぎこちなくなってしまう。そんなシェルを気にした様子を見せず、ゼールは一緒に散歩をしないか、と誘ってくれた。


「喜んで」


 シェルはそう答えると、ゼールの背中を追って一緒に歩き出すのだった。

 二人がやって来たのは、シェルが(いけ)(にえ)としてこの王宮に滞在していたとき、良く来ていた噴水のある中庭だった。穏やかな天気の中庭の花々は、朝つゆを朝日に照らされてキラキラと輝いている。


「昨夜は、突然のことで驚いただろう?」


 ゼールの言葉は昨夜のパーティーのことを指しているようだ。シェルはそんなゼールの顔を見上げ、


「驚きましたけど、とても嬉しかったです」


 そう答えた。ゼールは、そうか、と短く返す。

 シェルは朝日を反射して輝く花々を見つめながら、


「どうして、私を選んでくださったのですか?」


 気付けばそう、質問していた。


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