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五、レイガー⑤

 甘美なシェルとの口づけにゼールの理性が溶けていく。ドロドロになっていく理性の中、気付けばゼールは鋭い爪でシェルのドレスを引き裂いていた。


「あっ……」


 普段のゼールとは違う、乱暴な様子にシェルは驚きのあまり声が出ない。そのまま()()()()ソファへと押し倒される形となったシェルは、上に乗るゼールの荒い呼吸を感じる。


「お前が、たきつけたんだ……。後悔するなよ?」


 荒い呼吸の中でゼールはそう言うと、そのまま乱暴にシェルの唇を奪う。


「んっ!」


 (むさぼ)りつくような口づけに、シェルの息も上がっていく。

 その間も、引き裂かれたドレスからあらわになったシェルの胸を(わし)(づか)みにしながらゼールはシェルを味わっていく。


(ヤバイ……、これ……!)


 シェルは激しい口づけに脳みそがとろけてしまうのではないかという錯覚に陥る。乱暴にされていると言うのに、相手がゼールだからイヤではない。

 甘美とはほど遠い(あい)()の中、シェルの理性が限界を迎える。意識を保っているのもやっとの状況だったシェルは、ゼールの(あい)()の中、気を失ってしまうのだった。


(ん……、ここ、は……?)


 気付いた時、シェルは自室ではない部屋で横になっていた。ゆっくりと上体を起こして辺りを見回した時、その場所がゼールの私室であることに気付く。ゼールの私室でベッドの上に寝かされていたのだと気付いたシェルは、ふと自分の身体に目をやった。何も着ていない。


(やっ、やだっ! 裸っ?)


 慌ててシーツを引き寄せ、自分の身体を隠した後に、枕元に新しい服が用意されていることに気付いた。どうやら気絶したシェルをここまでゼールが運んでくれたようだ。そこまで考えが至ったシェルは、


(あ……、私、なんて大胆なことをしてしまったの……?)


 自分からゼールに口づけをしてしまったことを思い出し、首まで真っ赤になった。

 とにかく服を着よう。

 シェルはそう思うと急いで用意されていた服を着るのだった。

 それからゼールの私室を出ようと扉を開けたとき、部屋の外でうたた寝をしているゼールを見つけた。ゼールはシェルが目覚めるまで部屋の外で待っていてくれたようだ。


(ゼール様……)


 その寝顔は美しく穏やかで、先程までの乱暴さは影を潜めている。シェルの胸にはそんなゼールへの(いと)しさが込み上がってくるのだった。


「ん……、あ、起きたか? シェル」

「あ、はい……」


 寝起きで(かす)れた声を出すゼールにドキドキしながら、シェルは返事をする。ゼールはそれを聞いて、んーっと一気に伸びをする。


「悪かったな」


 それからゼールはシェルの方を見ずにぶっきらぼうにそう言うと、そのまま逃げるように自室へと戻ってしまうのだった。

 自室に戻ったゼールは再び襲ってくるレイガーの衝動に耐えていた。それと同時に思い起こすのは、乱暴にシェルを襲ったときの快感だった。途中でシェルが気絶したから良かったものの、あのままでは本当に最後までシェルを食べていたに違いない。


(くそっ! 自分の本能さえも自分で抑えられないのかっ? このままではただの獣と成り下がるだけじゃないか……!)


 ゼールは悔しそうに唇を()みしめるのだった。

 一方、新しいドレスに身を包んで自室へと戻ってきたシェルは、一人の部屋で赤面していた。


(まさか、気絶しちゃうなんて……)


 しかも身体を触られていたとはいえ、キスだけで、だ。

 そこまで考えて、先に自分からキスしたことを思い出す。確かにゼールの苦しんでいる姿を見たくない一心だったとは言え、本当に大胆なことをしてしまった。


(それに、あの後……)


 胸をまさぐられて、そのまま気絶してしまったとは言え、乱暴にされていたにも関わらず、


(私、イヤじゃなかった……)


 その事実がまた、羞恥心となってシェルを襲う。

 頭の中で何度振り払おうとしても、あの時の荒い息づかいをしていた熱っぽいゼールの表情が脳裏をよぎる。


(色っぽかったな……)


 その表情を思い起こすだけで、シェルの顔からは火が噴き出しそうだ。自分でもどうしてこんなにも恥ずかしいのか分からなかったが、ただ一つ確かなことは、自分がゼールに何をされてもイヤではなかったということ。


(それどころかむしろ、私、ゼール様を求めてる……?)


 そう、もっと触って欲しかった。もっと触れていたかった。シェルはそう思ってしまっていたのだった。


(私、ホントは(すご)く、いやらしい子なのかも……)


 そこまで考えて、シェルは我慢出来ずにソファに置いてあるクッションに顔を埋めることになるのだった。


 翌日。

 朝を迎えたシェルは(ゆう)(うつ)な気分だった。昨日の今日で、一体どういった顔でゼールの(そば)で世話係をしたら良いのか、全く分からなかったからだ。だからといって役目を勝手に休むわけにもいかない。


(よしっ!)


 シェルはなんとか気合いを入れると、憂鬱な気分を吹き飛ばすように肩を回した。それからゼールの待つ執務室へと向かうのだった。

 しかし執務室に来たシェルは拍子抜けすることとなる。肝心のゼールの姿がいつもの執務机になかったのだ。シェルはそのことに驚きはしたものの、そっと(あん)()の息を漏らす。


(こう言っては失礼ですけど、ゼール様が休んでくれて本当に良かった……)


 シェルが安堵の息を漏らしているとき、荒い足音が執務室の外の廊下から聞こえてきた。何事だろうと顔を巡らせると、勢いよく執務室のドアが開く。そこに立っていたのは、怒りをあらわにしたフォイだった。


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