◆第8話 「殺人依頼ー3」
●殺人依頼
最初のメールが来てから、数日間、何もなかった。拍子抜けするほど何も。誰も私にナイフを向けたりしないし、ビルの屋上にスナイパーが待ち受けていることもなかった。
ふと、街中でいきなりナイフをつきつけられるのと、遠くから狙撃されるのとどっちがいいかを考える。
きっと、普通なら遠くから狙撃される方がいいと考えるのかもしれない。だって、いきなり目の前でナイフをつきつけられたら、きっと怖いし、びくっとするし、たぶんスロー再生かなんかされちゃって、ナイフが取り出されてから体をつらぬくまで、痛い時間が引き延ばされる。それよりも遠くから狙撃されていつの間にか死んじゃっている方が、きっと幸せに死ねる。
それでも、私は街中でナイフをつきつけられる方がいい。いつの間にか誰に殺されるか分からないよりも、それがたとえ知らない人だったとしても、その人を見ながら死にたい。
そんなことを考えて街をうろついていたのは失敗だった。
亜由子に会った。よりによって亜由子と。
「まだ……、生きてたんだ」
私を見るなり、亜由子はさげずむようにそう言った。
私は顔をそむけて走り出した。
最悪だ、最悪だ、最悪だ。
逃げ込むように、近くにあったデパートのトイレに閉じこもった。ふるえながら、携帯を開く。
早く、早く、早く。
必死で祈る。握りしめる。携帯。壊れそうなぐらい。手がにじんできた。
早く、早く、早く。
心が変になって、気持ち悪くなってきた。私は地面にひざまずいて、便器に顔を近づけた。
吐いた。
助けて、誰か。助けて。泣きそうだった。そのとき、携帯からピピッて音が聞こえた。その音を聞くと、急に心が弱くなった。かすんだ目でメッセージを確認する。
「4」
数字が一個減っていた。