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◆第4話 「優ー1」

◆優



 高橋君はちょっと変わってる。私が彼みたいなタイプの人間に会うのは、生まれてから初めてだった。そして、たぶん最後。彼のどこが変わっているか簡単には表現できない。だけど、あえて言うなら、彼は複雑だった。


 彼は一人きりを好んでいた。それなのに誰とでもすぐ仲良くなれるから、いつも友達に囲まれていた。


 だけどやっぱりすごく孤独で、寂しくて、でも人望もあるから彼のまわりはいつもにぎやかで、彼自身もみんなといる時間をすごく大事にしていた。


 けど、それでもやっぱり彼はひとりぼっちに思えた。


 こんな矛盾した文章、小学生でも書かない。でも、それが私が感じた彼の印象だった。


 だけど高橋君にほとんどそのまんま言ったのはさすがにミスった。二年生にあがって間もない、そう、まだ一年の頃からのメンツでクラスが色分けされている頃だった。


 みんな新しくなった空気にとまどいを見せていて、用もないのに放課後、いつものメンバーで何気なく固まって話をしていた。そんな時に話す内容なんてそんなになくて、十分もすると、いつの間にか空白が私たちをとりまいていた。


 だから亜由子が、「ね、心理ゲームやろう」って言っても反対する人はいなかった。むしろその時、みんなの間でそういったゲームを出しあいっこするのがちょっとだけ流行っていたから、その提案はみんなに歓迎された。それにその時は空白をうめる手段があれば、別になんでもよかったんだ。


「じゃあ、次、優が答える番ね」


 ゲームをはじめてまもなく、すぐに私の番はまわってきた。私は「なんでもないゲームでしょ?」なんて顔をしながら、内心は少しだけ緊張をしていた。だってさっき、武彦がとんでもない浮気性って結果が出た時、亜由子、ギロリと武彦のことにらんでた。これで問題が友情を試すような問題で、うっかり嫌いな人に亜由子を入れてしまったら、ギロリじゃ絶対終わらない。


 思わずつばを飲み込む。そんな私の気持ちを知らずに、亜由子は自前の本をちらりと見ながら、いつもの軽い調子で問題を出し始めた。


「生まれ変わるとしたら、どれが一番いい?

 ①めちゃくちゃ美人だけど、手のつけられないバカ

 ②とんでもなく頭はいいけど、どうしようもないブス

 ③どっちも人並み」


 えっ、何それ? 問題を聞いた瞬間、私は答えを言うのをとどまった。


 その時、私は答えをどれにしようかで迷っていたわけではなかった。そうじゃなくて、答えがひとつしかなくって、それを答えていいものかどうか迷っていた。だって、私、そんなに頭はよくないけど、バカはやっぱりいやだし、かといってどうしようもないブスってのもちょっとお断りしたい。


 どう考えても、誰が選んだって③しか答えはないように思えた。でも、こういうので即答する答えが出るって、大体よくない結果が待っている。


「ほら、考えちゃだめだよ。パッと答えて」


 せかす亜由子を少しだけにらみながら、どうか、友情の問題でありませんように。そう願いながら、私はおずおずと「③……」と答えた。


「ふうん」


 ちょっとだけ語尾があがった亜由子の「ふうん」が怖かった。亜由子の表情が読み取れない。亜由子はそれから私をちらりと横目で見ると、みんなの方に向き直った。


「優は、ズバリ三角関係に陥りやすいタイプ。どっちにもいい顔をして、ずるずると泥沼にはまっていってしまうでしょう、だって」


 本当だったら友情の問題じゃなくてほっとしているところなのに、それを聞いた瞬間、そんなものすっとばしてちょっとだけ怒っていた。何それ? そもそも、私、好きな人だっていないし、全然、当たってない。


 ね、ってみんなを見ると、何故かみんな妙に納得した顔をしていた。あれ、そう思われてたんだ……。なんて、ガックリしたけど、そのあと、みんなが答えるのを聞いた時には、みんな妙に当たっているのに、本人だけ否定していて、そのあわてっぷりが楽しかった。


 みんなお互いの答えを聞いて笑っていたし、無事に空白の時間を埋めることにも成功をしていた。亜由子の何気ない思いつきは、まずまずの成果をおさめていた。でも、所詮、心理ゲームなんて十分も場を持たせる力はなくて……。


 きっとみんなもさっきまでの空気がそれなりに楽しかったんだと思う。だからそれがいつの間にか行き過ぎちゃって、みんなでそれぞれどんな人柄か、言いあてっこするなんてことになっても、誰も止める人はいなかった。


 くじを引いて、「先生くじ」を引いた人が精神科医役、「患者くじ」を引いた人が精神科医を訪ねて来た人役。


 誰が言い出したかも、誰が賛成したかもあんまり覚えていない。ただ冷静に考えれば、それは誰も得をしないゲームだった。いや、もうゲームじゃなかった。だって、他人が自分のことをどう思っているかって、みんな知りたがっているけど、実際に知ったらそんなに気分のいいもんじゃない。


 けど、その時にはみんなバカだったから、さっきまでのおもしろかった空気が続くって信じていたし、なんか精神科医きどって、妙に乗り気になっちゃって、それに亜由子が「優先生どうぞ」なんて言うから、私もまんざらでもなくって、だから私も言っちゃったんだ。


「高橋君はねえ……」、なんて感じで。


 言ったらみんなきょとんとしてた。


 ああ、間違えちゃったってすぐに分かった。だって、きょとんとしたあと何人かは、私を明らかに非難している目で見ていたから。


 みんなそんな風には思ってなかったんだ。


 場にちょっとおかしな雰囲気が流れ始めそうになった時、高橋君が大笑いを始めた。


「優は精神科医にはならない方がいいよ」


 笑いをこらえながらそう言う。


 場は一瞬静まりかえったあと、逆にそれがなんだかおかしく感じられちゃって、みんなもつられて笑い始めた。私は「ひどいこと言うなあ」なんて怒ったふりをしながら、氷ついた空気から解放されて、内心、助かったと思ってほっとしていた。


 でも、私が高橋君について言ったこと。


 一体、どこが間違っていたのだろう?

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