◆第2話 「殺人依頼ー1」
●殺人依頼
私が自分を殺す依頼をしたのは、二月十八日のことだった。
jibundehasinenaihitokawarinianatawokorositeagemasu(じぶんではしねないひとかわりにあなたをころしてあげます).
そのサイトにはそれだけしか表示されていなかった。
普通、そんなの嘘だし、誰も信じない。だけど心臓は早くなっていた。確実に、着実に。
心を襲ってきた。突然、起こり、そして気づいた時には止められなくなっていたのだ。鼓動、はやくて、私、おかしい。そう思いながらも、一旦、もしかしたら本物かもって思うと、心臓の動きははやくなるばかりで、スピードは決して落ちていかない。それ以上とめられなかった。
だからその文字に張られたリンクをクリックするのも止められなかったし、そこに表示された入力項目、つまり名前とか住所とか年齢とか性別とか携帯のメアドとか、(どうして殺すのに年齢とか性別が必要なのかなんて疑問も、それがただのあやしい詐欺サイトじゃないかなんて疑念も、全部全部まとめて押し流されちゃって)あっさり入力してしまって、送信ボタンを押すのにもためらいはなかった。
マウスを握ったままの手の平が、じっとりと汗ばんでいた。ただパソコンの画面だけが、私を照らしている。小さく震えるそのディスプレイの明滅が、私の鼓動のように感じられた。
窓もドアもカーテンも長い間、閉めきったままだ。窓を揺らす風の音だけが、閉ざされた世界で、私と外とをつなぐ唯一の存在だった。
目の前に世界につながる道具があるのに。私がそうやって自分の世界の狭さを自嘲めいていると、ふいにパソコンの画面が切り替わった。
「ご依頼ありがとうございます。ご依頼を引き受けることが決定致しましたら、あなたを殺しにうかがいます。」
えっ? 絶対殺してくれる訳じゃないんだ……。 そこに現れたのは、私の望んでいた言葉ではなかった。がっかりした気持ちが、心臓をいつもの憂鬱なテンポに戻す。急激にテンポを引き戻された心臓が、機能をいくつか損なったようで、私は意識が半分飛んで、ぼうっと画面を眺めていた。
窓の外を救急車が通り過ぎる。
赤いランプが、カーテンの隙間をぬって、私の部屋を包んだ。いや、部屋でなく私を包んだんだ。赤い光が、救急車の音が、私を、突き抜ける。目の前を赤く染める光。私はふと我にかえって、何故か急におかしさがこみあげてきた。
私は大声出して笑った。
それからため息をついて泣いた。
もうやだ、こんなの。