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ー特別な者ー

① 「ドンッッッッ!」

 鈍い音と共に投げ捨てられた物干し竿が地面に転がった。

僕の右半身はまだジンジンと疼きながらも他の事を考えていた。

 人間その場から逃げたくなると現実逃避をしがちだ。

僕もその多勢の中の一人で今のこの現状から逃げたくて脳みそが働きっぱなしだ。


「あー明日の一限目体育かぁ。面倒くさいなぁ」

「雲が多いから明日天気悪いのかなぁ?」

「帰ったら今日の夜飯なんだろう」


「おい。てめえ話聞いてんのかよ?このぶら下がってるピアス引きちぎるぞ?」


そうそう。今日はおしゃれをしていて、いつもなら普通のスタッドピアスを付けているのだが

この日に限って女の子が付けていそうなチェーンピアスの先を触りながら。


さっきから僕に絡んでくるのは地元でも悪名名高い「藤間」という男だ。

噂ではシンナーやガスパン遊びをしている低俗な奴だ。

藤間とはタメで中学の頃は仲良くしていたが高校生になり会う機会は減っていた。


「とりあえずここじゃ人目に付くからウチ来いよ」

そういって胸ぐらをつかまれ藤間の家まで引っ張られた。

藤間は淡々と話しだした。


「お前なんで呼ばれたかわかる?」

僕はジンジンする右腕をさすりながら虫のような声で

「わかりません」とだけ答えた。

そいつはおもむろに台所の方に歩き出した。

早く帰りたい。この場から逃げ出したい。

そんな感情があふれて泣き出しそうになる。


 台所から戻った藤間の手にはアイスピックが握りしめられていた。

「これ刺したらどうなる?」ニヤニヤしながら問いかけてくる。

ここで僕はまた現実的ではない問題を頭で思い浮かべていた。


「あー。ここの畳古そうだけど全然張り替えてないのかな?」

「親御さんは一緒に住んでるのかなぁ?」

「あー喉乾いた…」


現実では首元にアイスピックをあてがわれながらそんなことを考える。

冷たいアイスピックの先はより僕の冷汗を加速させた。

 藤間が首にアイスピックをあてがいながら笑っている。

「お前最近高校で調子に乗ってるらしいじゃん。だから呼んだんだよ」

「なんか女の子にチヤホヤされてんだろ~?」

「いいよなぁ~俺も高校行ってみてぇなぁ~」

「んで?これからどうする?刺しちゃう?」

僕は口より先に体が動き土下座の形を取っていた。

「すみませんでした。調子に乗っていたかもしれません。許してください…」


人間には二つの「と・う・そ・う」がある。


 闘争と逃走だ。

僕は後者の”逃走”をいつも選んでしまう。

例えばバイトや仕事。

人間関係などが面倒ならば話し合うよりその場から自分を逃がしてしまう。

人によれば話し合って解決したりする人もいるが僕にはできない、面倒臭いのだ。


「土下座なんてしてんじゃねーよ顔上げろ。」と言い髪の毛を捕まれる。

「今日は脅かしただけだよ。あんま調子に乗るなよ?」


こちらからしたら調子に乗ってるのはお前だろと首元まで言葉が出かけたがやめておいた。


そのあとはシンナーが切れたかガスが切れたのか分からないが

少し落ち着きを取り戻し家に帰ってもいいことになった。


 家に帰ると再婚した義母がかた焼きそばのあんかけを作っているところだった。

とんでもない安心感からひざから落ち「ただいま」と告げた。


「どうした?拓海?大丈夫?顔色悪いよ?」


そう僕の名前は 「佐藤 拓海」だ。



 ②ここで僕の自己紹介でもしておこう。

高1になったばかりの僕はバキバキの童貞でまだSEXなんてしたことはない。

部活は面倒くさくてどこにも属していなかった。帰宅部である。

中学時代は少し太っていたせいか女の子にもモテるってこともなかった。

だが高校デビューをしたかった僕は高校に入るまでにダイエットなるものをして(ただ長風呂に入っていただけ)デブというカテゴリーから抜け出せた気がしていた。


デブはモテない。自己管理が出来ない奴がデブだとずっと思い続けていた。

男も女もそうだ。だから僕はデブが嫌いだ。

だがしかしデブは優しいやつが多いのだ。完璧には嫌いになれない(あくまで持論)

 そうだなぁ。うん。デブは彼女には嫌だなぁくらいか。


そうそう。自己紹介から脱線してしまったが、家族構成は、うん。両親は離婚をしている。

今の時代それが珍しいとは思わないがうちは親が離婚をしている。

周りの仲のいい友人達の親も離婚してるところが多かった。さほど気にすることでは

ない気がする。

 俺の人生ではないのだ。親の人生なのだ。親父とお袋が嫌なら別れればいいだけの話だ。

っと冷めたガキだった。可愛げがない。



「ほらー早く風呂入って来ちゃいなー!」

再婚した義理の母が俺に風呂に入るよう催促していた。

「うん。今入るよ」


 シャワーを流しながら叩かれた右腕を見てみると真紫色と言ったらいいだろうか?

とにかく紫色になった腕を見ながら顔じゃなくて良かったとしみじみ思っていた。

それと同時にいつまた、藤間から呼び出されるかもしれない。

と、いう不安も脳裏によぎった。

次はもっと酷いことをされるかもしれない。

そんなことを考えながらシャワーを流し、また泣いた。

純粋にもう二度と会いたくない。逃げ出したい。引っ越したいとまで...幼い僕は考えていた。

 

 だが決して逃走ではなく闘争を選ぼうとは思えなかった。僕は非力だ。


「さぁて、出るか」


部屋で髪を乾かしながら、考えていた。

義母には悪いがどうしても今かた焼きそばを食べる気にはなれなかった。


 頭では考えないようにしているがどうも藤間の顔が脳裏にチラつく。

ぶっ殺してやりてぇ。と、まで考えたが

報復も怖くてビビりな俺にはそんな決断は出来なかった。


「魁ん家行ってくるー!夜飯いいやー!」

返事も聞かずに飛び出してきた。

どうしても今日は偽家族で食卓を囲む気にはなれなかった。


丸山 魁 俺の1番信頼できる友達だ。

魁とは中学から一緒でなにをするにも

いつも一緒にいた、言わば相棒だ。


魁の家までチャリンコで15分くらいのところだ。

どうしても今日起きたことを魁に話しておきたかった。

助けてとかそういう話ではなく…

なんだろう。共有したかったのかもしれない。


あっという間に魁の家に着いた。


いつも魁の部屋の窓のカギがいつも空いていて

いつでも入れるようになっている。インターホンがまずなかった。

「魁~!居る~?」

勝手に窓を開け入って行ったが誰も居なかった。

リビングの方から賑やかそうな声色が聞こえてきたので行ってみる。

弱冠16歳でワンカップを片手にスーパーの総菜をパクパク食べてる魁がそこには居た。


「お~い。またお前勝手に入ってきたな~拓~。」

その声を聴きまた泣き出しそうになってしまう。

「夜分遅くにすみません。お邪魔します!」

「拓海!あんたご飯食べてきたん??なんかつまんでくかい!?」

魁のお母さんはいつも気さくで俺にいつも優しくしてくれた。

「まだなんも食べてないっす」

「あんたそこら辺の割りばし勝手に使いな!」

「いつもすみません。いただきます!!」


俺にとっては、家に居るより魁の家に居たほうが心地よかった。


「ってかなんでお前居るんだよ!」

「いやぁ!ちょっと会いたくなっちゃって。(笑)」

「きもちわり~。(笑)まぁ飯くったら俺の部屋行こうぜ。」


魁の家も母親と魁と二人暮らしだ。

父親は小さいうちに離婚してしまったらしい。

共通点が多かった俺らはお互いのことを分かっている気がしていた。


「ご馳走様でした!!!!」

「いつも総菜みたいなので悪いんねぇ!」

「そんなことありません!美味しかったです!いつもありがとうございます!」


高校生の精一杯のお礼を言ってリビングを後にした。

魁は少し酔っぱらっていた。

いつもは無口だがお酒を飲むとよく喋る奴だった。


「お前今日はどうしたんだよ~拓~!」

「16歳にしてパーラメントの紫煙をくぐらせてんじゃねーよ!」

「うるせぇよ!お前も吸えよ!ハッハッハ!」

「そうそう。今日さここに来る前に藤間って知ってる?あいつに呼び出されてさぁ…小突かれたんだよね…」

「まじ?!藤間ってあの最近暴走族入ったって奴??名前は聞いたことあるよ!小突かれたってなにされた?」

「ん…まぁ物干し竿みたいなので叩かれたよ…」

アイスピックを首元に押し付けられた事までは言わなかった。

「ま~じかよ~!!お前も大変だったな~!んでお前がなにしたんだよ!」

「なんか高校で調子乗ってるって…言われた」


魁は高校へは進学せず職人になっていた。

「高校生が調子乗ってるってなんだよなぁ~!まぁ心当たりあるなら目付けられねぇように上手くやれよ~」


そして俺には心当たりが大ありだったのだ…


「実はさぁ高校でさぁ、女三人から連絡先聞かれて、三人共に言い寄られてるんだよ…」

「はぁ?!?!まじで?!お前それ激熱じゃん!激熱!激熱!」

「多分だからそれをいい様に思わない奴が居て藤間にチクったんだよ!うぜぇ…」

「三人から激熱きてんだから、引っぱたかれてもいいだろ~」

「お前他人事だと思って~!」


こいつと話してる間は不安や嫌な事は忘れていた。


「あっ…いけねぇもう0時になっちゃう。話聞いてくれてありがとう!」

「お~う。次来るときは女三人連れてこいよ~」

「うるせーよ!またな!」


こうして不安な気持ちを払拭しまた明日の学校に供える。

不安は完全には消えはしないが魁に話してやっぱり良かった。


「さぁ~て明日も学校めんどいけど頑張るか~」



この時はあいつが死ぬなんて思いもしなかった。









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