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5 夢を叶えるぞ!

「君はどうするつもりだい?」




 みんなの会話に入らず、焚き火の前で珍しく真剣な顔で考え込んでいたアリアンに、美しい長い金髪持った美丈夫が声をかけてきた。




 冒険者認定試験の四日目の午後に行われた異種武器トーナメントで、三番目に対戦した弓使いの男だ。名前はヴァーリ=ウォーレンといい、アリアンより三つ年上。スクルドと同じ十九歳だ。


 彼はなんと神官戦士だった。容姿端麗なだけでなく、冷静沈着で頭も良くて、今回のメンバーのリーダー的存在だった。アリアンにとっても、一番信頼し頼れる兄貴的ポジションの人だ。




「嬢ちゃんが考え事なんて珍しいな」




 ヴァーリの後ろから、巨人のように大きな体格の人物が現れて、片手に持っていたホットミルクの入った木のマグカップをアリアンに手渡した後、彼女の左側に腰を下ろした。




 彼は冒険者認定試験の三日目の体術のトーナメントの初戦の相手だった男で、名前をブラギ=モンドールといった。ごつい体格の割に優しげな顔付きの彼は、アリアンより四つ年上だ。


 彼は癒し系魔法や回復魔法を使う白い魔法使いだった。細身の女の子だと油断したために体術ではアリアンに初戦で敗北したが、本当はかなり強い。あの時本気を出されていたら結果はどうなっていたかわからない、とアリアンは思っている。大剣使いでこちらも強い。要するに彼は気は優しくて力持ちだ。




 ヴァーリとブラギがスタンプラリーに参加すると知った時にはとても驚いた。彼らはかなり優秀な冒険者で、名のあるいくつものパーティーに誘われていたからである。


 最初は、同期の自分達を心配して付いてきてくれたのだと思った。このメンバーには頭脳系戦士や癒し魔法や回復魔法を使える僧侶、あるいは白い魔法使いがいなかったから。その事は嬉しく、もちろん有り難かったが、その反面申し訳なくも思っていたのだが……




 まずヴァーリの問いかけに、アリアンは小さめの声でこう答えた。




「私はもう少しスタンプラリーを続けようと思ってます。スキルアップしたので、今度はこの国にいるもうちょい難易度の高い魔物を狩って、レベルアップしようかと」




「ああ、君はこれまで他の連中とは違って、選り好みせずに貪欲にスタンプ集めてたから、もうほとんどの属性スキルを手に入れたんじゃないのか? そろそろ大物も狙えそうだね」




「それはヴァーリさんも同じじゃないですか。というより、ヴァーリさんとブラギさん、今まで私の為に付き合ってくれていたんですよね? 


 最初は同期みんなの為に参加してくれたんだと思っていたんです。でも違いますよね? お二人とも父に頼まれたんですか?」




 アリアンは疑うというより、完全に確信しているという口調で尋ねた。




「やっぱりばれていたか」




「娘は鈍いから疑われる心配はいらないと伯爵は言ってたけど、それほど酷くはなかったな」




「いくらなんでもそこまで鈍くはないですよ。一年三カ月も一緒にいたんですよ。気付かないわけないじゃないですか。二人とも言葉に時々ルーカンド訛りが出てますよ。


 それに、二人に最初に会った時から既視感があったんです。子供の頃に何処で会っていた気がして・・・」




 アリアンがこう言うと、ブラギが大きなため息をついた。




「駄目じゃんか親父。一流の魔法使いを自認している癖に、記憶をきちんと消してないじやないか!」




「記憶を消す?」




「そんな事は最初から分かっていただろう。アリーはスクルド様との約束を守るために冒険者になったのだから、記憶があるって。まあ、私達の事は忘れていたようだが」




 珍しくヴァーリが少し悔しげに言った。




「やっぱり思いの重さの違いかな? アリーは特にスクルド様と仲が良かったからな。スクルド様のお嫁さんになるって言ってきかなかったし。カラドック様に不敬な事は言ってはいけないと、どんなに叱られてもお構いなしだったよな」




 ブラギの言葉にアリアンはぎょっとした。




 お嫁さん・・・?


 不敬・・・って事はつまり・・・




「スクルド・・・様って、もしかしてアーノルド王子殿下の事ですか?」




 アーノルド殿下は、国王と平民出身で元宮廷の女官だった側室との間に生まれた第三王子。


 三年前ドラゴンの襲撃の際は討伐隊の司令官として前線で指揮をとり、撃退した英雄。それなのに皇后陛下の怨み、嫉みを買って城の地下牢に投獄されたという噂の人物だ。




 三カ月前に母国に戻ってきて色々な噂を耳にした。国民の王室及び国に対する不満はかなり大きくなっている。そしてここ数年病にふせっている国王に代わって、第三王子の即位待望論が起きているようだ。




 王妃の生んだ第一王子である王太子は、美貌の王妃に似て容姿だけは良かったが、軟弱で国の治める能力には問題有りと誰もが思う人物。




 そして第一側室が生んだ第二王子は、可もなく不可もなくとにかく平凡。




 そして第三王子は、輝く銀髪にエメラルドの瞳の眉目秀麗な王子で、頭脳明晰、質実剛健、その上強大な魔力を持つ、大変優れた青年だという・・・・・


 そんな噂を聞いて、アーノルド王子がスクルドではないかと疑惑を抱くようになるのは至極当然の事だった。容姿がそのまま当てはまっていたのだから。それに自分はよく王城へ行っていたのだから・・・




「スクルド殿下とアリー、そしてブラギと私は幼馴染みで、鍛錬仲間だった。スクルド殿下はご自身の身を守るため、ブラギと私は殿下をお守り出来るように。


 まぁお前も殿下は自分が守ってみせるといつも大見得を切っていたな。だけど、四人とも本当は城なんか捨てて冒険者になりたいと思ってた」




 ヴァーリが空を見上げた。真っ暗な闇の中に星が奇麗に小さく、明るく散りばめらていた。


 そしてその中のギザギザに七つ光っている星を見つめた。スクルド殿下がもっとも好きだった明るい未来を導くという七つ星だ。




「不思議だな。四人中三人がその夢を叶えたなんてさ」




 ブラギの言葉に他の二人も唇を噛んだ。そしてわざわざ口に出さずとも同じ事を考えていた。




『スクルド様を探し出そう。たとえそれが一緒に冒険の旅へでかけるためのものではなく、彼を城主としてそこへとどませることになろうとも』


 このままスタンプラリーを続ける事にしたアリアンとヴァーリとブラギは、翌朝、フレイヤ王国に帰る友人達に別れを告げた。


 そして次の目的地の古城を目指して歩きながら、アリアンは失っていた自分の記憶を二人から聞かされる事になったのだった。


 

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