42 顔合わせをするぞ!
前章に続き、王族の人間関係がわかります! ドロドロです!
そしてついに腐ったルーカンド王国を解体するための狼煙が上がります!
この国の王族の結婚式は、二日間に渡って催される。
初日にまず両家の顔合わせが行われ、その後会食を伴う舞踏会が催されて親交を深め合う。そして、二日目に神殿の前で新郎新婦は天に誓いを立てて、書類にサインをして終わる。
この結婚式の日程を指定してきたのフレイヤ王国だった。多忙な国王にはこの日しか空いておらず、別の日にしたければ数年後だと言われれば、異議を申し立てる事が出来なかった。
ルーカンド王国としても少しでも早く、フレイヤ王国からの援助を欲していたからである。
とは言え、正直出来れば月を、いやせめて週を変更してもらいたかったというのが本音だった。というのも結婚式の初日は、例の反乱軍が蜂起した日だったからである。
曰くのある日なので、結婚式にはそぐわないと思うのですが、と一応ルーカンド王国側が提案してみた。しかしフレイヤ王国側はこう言った。
反乱軍を制圧して獅子身中の虫を追放出来たのですから、寧ろめでたい縁起の良い日ではないですか、何の問題があるのですか? と。
まさか、自分達の方が反乱軍だったともいえなかった。確かに自分達が政権を獲得出来たのだから、何も後ろめたさを感じる事はないのかもしれないが、さすがに自分達のせいで国が傾いたという自覚はあり、縁起が悪く思ってしまうのだった。
優秀な人材を放出してしまっていたルーカンド王国の宮廷では、それこそてんやわんやの大騒ぎで結婚式の準備を進めていた。その為に大局的に物事を見れる者が存在しなかった。
もし一人でも冷静に状況を見られる者がいれば……いや、今更どうしようもなかったか……
王都には結婚式の二日前までには、続々と各国からの招待客が集まっていた。しかし、よく彼らを観察すればわかった筈だ。
いくら御婦人達が最先端の流行のドレスを身に付けたがるとは言え、国が違えばデザインにもっとお国柄が出るだろう、という事に。
そしてその御婦人達が皆若い女性だという事に。
男性が皆立派な体格をしている事に。
王城の周辺の公園に整然と止められた馬車が、各国の賓客を乗せてきたという割には地味というか頑強な作りのものが多かった事に。
そしていよいよ結婚式の初日となった。あの六年前と同じ、雲一つない青空が広がっていた。
城内の大広間には各国の来賓達が既に集まっていて、そんな彼らをルーカンド王国の貴族達が接待していた。
そして王城の貴賓室ではルーカンド王国の王族と、フレイヤ王国の王族が顔合わせの為に席に着いた。
「この度は遠路はるばるお越し頂いてありがとうございます。元々兄弟国である貴国と、再びを結べる事を心より感謝します」
まずルーカンド国王が謝辞を述べると、フレイヤ王国もそれに答えた。
「我が国も貴国の申し込みには正直驚きを隠せませんでした。しかし、熟慮を重ねた結果、両国及び近隣諸国の平和と安全を考えると、良い申込みだという結論に達しました。
両国の橋渡しをしてくれた多くの者達に感謝し、彼らの為にも今後の両国の未来が明るいものとなりますように、我が国も尽力したいと思っています」
「そのご決断に深く感謝します」
両国の王が立ち上がって固い握手を結んだ。
「それにしても、国王陛下は長らく療養なさっていたと聞いておりましたが、ずいぶんとお元気に成られたようで安心しましたよ。私よりずっとお若いのだから、もっと現役でお働きにならないと皆が困るでしょう?」
「ええ、息子には私の代わりに重責を負わせてしまい、申し訳ないと思っています。しかし、リハビリを続けた結果、大分以前の健康体に近づいてきましたので、息子には暫くゆっくりとハネムーンを楽しんで貰おうと思っているんですよ」
「それはいいですな。そのハネムーン先には我が国を推薦させてもらいますよ。ご子息はまだ我が国にいらした事はないですよね?」
フレイヤ国王はルーカンド国王の顔だけを見ながら会話をしていたが、花婿である第一王子がそこに口を挟んだ。
「フレイヤ国王陛下、素敵な申込みをありがとうございます。是非ご訪問させて頂きたいです。妻の国へハネムーンに行って、互いの国を理解しあえれば、夫婦の絆も更に深められるでしょう。そうお思いになりませんか、姫君」
はしゃいだ王子にこう尋ねられ、花嫁となる姫も頷いた。ベールで顔を隠されているので表情は見えなかったが、金色の美しい錦糸のような髪がサラッと揺れた。
それを見た王子は姫の素顔が早く見たいとばかりに、じっとりとした目で彼女を見つめていた。
するとフレイヤ国王は視線を第一王子に向けて、低い声でこう言った。
「悪いが、私は君を招待したつもりはないんだがね。私はルーカンド国王の重責を果たしていた王子を招待すると言ったのだが……」
「ですから、それは私ですが…」
第一王子は困惑した顔になってこう言った。
「君? 君はこの国のために何をしたんだい? 国にとって一番大切な国民や商人や騎士達を我が国や周辺国家に放出させておきながら」
「「「えっ?」」」
今度は第一王子だけでなく、達二王子や彼らの母親、同室していた宰相や外務大臣まで、驚きの声を上げた。
その時である。出入りの扉付近にいた近衛隊の隊士が突然外へ出て、すぐにまたその扉を閉めた。そしてその直後、物凄い爆発音が続け様に三度鳴った。
「「「きゃー!!!」」」
貴賓室のみならず大広間からも多くの女性の悲鳴と、男達の怒声が聞こえてきたのだった。
そして今度は建物の内外からも耳をつんざくするよな大勢の悲鳴が鳴った。
「なんなの? 何が起きたの?」
正妃が震える声で金切り声を上げた。すると今度は側妃が言った。
「反乱軍よ。きっと六年前の生き残りが起こした復讐よ!」
「ええっ? 僕達どうなるんだ? 僕は助かるよな? だって僕はあの反乱軍には関係ないもの。みんなとは違って。そう。アーノルドと僕は何の関係もないんだから、助かるよな」
弟の言葉に兄が怒鳴った。
「お前だけ罪から免れようとする気なのか?
お前だってあの計画は知っていたし、その後の恩恵を受けているのだから、アーノルドとは違って俺達と同罪だ!」
「それに、ドラゴン征伐隊の陣頭指揮者にアーノルドがいいと最初に言い出したのはお前だったじゃないか! 今更アーノルドにいい顔をするな!」
「僕じゃない! 母上だ! アーノルドを正々堂々と始末出来る案を出せば、正妃様に喜ばれるからって!」
「なんて事を言っているの! そうした方が、あの時は国民の王室の評判が最悪だったから、英雄を作り上げるためにもアーノルド殿下が必要だと宰相が提言してきたら仕方なかったじゃない!」
「「私は関係ありません!」」
側妃の言葉の後で、正妃と宰相が同時に叫んだ。
さながら貴賓室は阿鼻叫喚と化した。
それをルーカンド国王とアーノルド王子、そしてフレイヤ国王と姫、それに彼らのお付きの者達が、冷めた目で見ていた。
そしてそれから間もなくして貴賓室の扉が開いて、先程外へ飛び出して行った近衛隊の隊士が戻ってきてこう叫んだ。
「大変です。城の上空がドラゴン族に覆われています。その為に城の内外が真っ暗になっています!」
ここまで読んで下さってありがとうございました!