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3 スキルアップするぞ!

 銀色に輝く冒険者パスポートを見て、ロナンとフノスは口をポカンと開けた。トップ合格者だけが持てるという伝説のパスポートだ。まさか手にとって見る事が出来るとは!


 アリアンは自分が敵う相手ではなかった。対抗するのをさっさと諦めて正解だった、とロナンはしみじみ思った。


 そしてパーティーを組むのならいざ知らず、女の子がたった一人で冒険するなんて絶対にやめさせようと思っていたフノスも、もう余計な心配はよそうと思った。それでも彼女は親友にこう尋ねた。




「やっぱり一人で冒険するつもりなの?」




「一緒に受験者した人達と仲良くなって、みんなからパーティーメンバーにならないかって誘われたの。でね、最初は幼馴染みと組む約束してあるからって断ったんだ。そうしたらメンバーじゃなくてもいいから、必要がある時だけでもサポーターとして手伝ってって言われたのよ。それで私も最初から一人じゃ手順がわからないし、暫くはみんなと行動しようと思ってる」




 アリアンの言葉にフノスはホッとして、それがいいわと言った。すると、アリアンはこう言葉を続けた。




「それでね、冒険に慣れたら、そのうちルーカンド王国へ行こうと思ってる」




「それは幼馴染みを探すために?」




「まあ、それもあるんだけど、試験官の元英雄冒険者様に言われたの。パーティーを組まない一人旅はやはり厳しいだろうって。依頼人もあまりつかないだろうから、ランク上げも難しいって」




「そりゃそうだ。ゴブリン討伐だって、見張りをとっ捕まえる奴、仲間をおびき出す奴、突撃する奴と、みんなで連携しなきゃやっつけられないだろう。それに、怪我した時治療してくれる癒し系魔法使いがいないと、命がいくらあったって足りないよ」




 ロナンの言葉にフノスは震えて、不安そうにアリアンを見た。




「そうなのよね。だから、元英雄様に一人で戦ってもランクアップ出来る方法を教えてもらったのよ。ルーカンド王国の依頼を受けて成功したら次々にスキルが手に入るって」




「ルーカンド王国が冒険者ギルドにどんな依頼をしたんだ?」




「二年ほど前から各地に魔物が増えてきて、人間を襲うようになってきたんだって。自国の騎士だけでは間に合わなくなって、冒険者ギルドに依頼してきたみたい」




「二年前? 変ね。確か三年くらい前にドラゴンが大量発生した時は、レベル十クラスの攻撃魔法使いのルーカンド王国の王子様が、総司令官になってドラゴン退治をした筈よね。そんな凄い王子様がいる国なのに、何故魔物をやっつけられないの?」




 フノスが怪訝そうな顔をした。ロナンもそれに同意した。




「自国の騎士でやっつけられないなんて情けないな。今、あの国の王城がゴタゴタしているっていうあの噂は本当らしいな」




「ゴタゴタ?」




「ああ、下らない覇権争いってやつ。国民が魔物に襲われて困っているっていうのに、誰が王家の実権を握るかで揉めてるそうだぜ。


 何でもドラゴンを退治して国民から人気が出た第三王子の事を快く思わなかった王妃が、城の地下牢獄へ幽閉したっていう話だぜ。国王は長い事床についていて役に立たないっていうしさ」




「酷い! 危険なドラゴン退治に駆り出しておいて、いざ成果を上げて人気者になったら幽閉だなんて」




「国民がその王子にまた魔物退治をして欲しいってお願いしているらしいけど、さすがに王妃も図々し過ぎて頼めないじゃないの。平民出身の側室の子だからって散々虐めてきたらしいから」




 ロナンの話にアリアンは驚愕した。自国の王宮の話なのに、しかもいくらまだ幼かったとはいえ、いつも父と一緒に登城していた自分より、ロナンの方がこんなにルーカンド王国の裏事情に詳しいなんて。




「他国にまでそんな噂話が広がっているようじゃまずいんじゃないの? この機に乗じてルーカンド王国を手に入れようと、我が国や近隣諸国が戦争でも起こしたら・・・」




 泣きそうになったフノスの肩をロナンが抱きしめた。




「不安がらせてごめん。今のところは大丈夫だと思うよ。噂って言っても、うちの家みたいな情報通の一部の商人しかまだ知らないから」




 ロナンの言葉にフノスだけではなく、アリアンもホッとした。正直父を追い出した王宮のことなんてどうなってもいいのだが、戦争が起こるのは嫌だ。もし生まれた国と、育ててもらった国が戦う事にでもなったら耐えられそうにない。


 それに困っている人の役に立ちたくて冒険者になったのに、戦争なんか起きたら、自分では何の役にも立てない。




 アリアンまで珍しく難しい顔をしていたので、ラナンは慌てて話を戻した。




「それでどうしてルーカンド王国の依頼を受けるとスキルが手に入るんだ?」




「ああ、そうそう。


 この国じゃ知られてないかもしれないけど、ルーカンドって、大昔は魔物の国だったのよ。しかも魔物が同族同士で固まって、いくつもの都市国家のようなものを作っていたの。まあ、やがて魔物の国は、同族同士で争ったり、他種族と争ったして次第に衰退していったんだけど。


 その上近隣諸国の騎士や冒険者達に狩られて、魔物の数が激減していったの。そしてその代わりに人間が増えていったんだ。その結果、二百年くらい前に今のルーカンド王国が建国されたってわけ。


 でね、ルーカンドには高い山の上や、川や湖の中に数多くの古城と呼ばれるものがあるんだけど、それって大昔の魔物達の居城の事を言うの」




「「へえー!」」 




「各古城の中心にはその城の魔物の王の爪が置かれてあって、今でもその城を守っていると言われているわ」




「「爪?」」




「魔物の爪には魔力が集中していると言われているの。普通の魔物の爪では死んでしまえば魔力も残らないけど、さすが魔物の王となれば、その巨大な魔力が残るらしいの」




「つまり、それは・・・」




 勘がいいロナンはピンときたらしい。




「そうなの。その爪に触れる事が出来れば、その古城にいた魔物の属性の魔力が得られると言う訳! 例えばアースドラゴンの古城の爪なら地の属性魔力、サラマンダーなら火の属性魔力って感じで」




 アリアンはこともなげにそう言ったが、フノスはまた顔色を悪くした。




「アースドラゴン・・・サラマンダー・・・・」




「大丈夫よ、フノス。古城の城主で現在もそこに住んでいる魔物はそう多くはないから。ただ、さっきも言った通り元城主の爪が残っていて、城の周りには強い魔力が残留しているから、どうしても魔物を引き寄せちゃうんだよね。


 だから、王国では冒険者にその魔物達を退治してもらいたい訳。狩った魔物は冒険者ギルドで売れるし、運よく古城に入れて王の爪に触れる事が出来たら魔力スキルがアップするし、一石二鳥って訳ね」




「それじゃやりたい奴がたくさんいるじゃないのか?」




「そうでもないみたい。依頼料が安いし、スキルアップの必要ないレベルの高い冒険者はやらない。まあ初心者向きだって。それで、ルーカンド王国にしたら思惑が外れてがっかりみたいよ」




「思惑?」




「ほとんど魔物の王はいないってさっき言ったけど、ドラゴン族や数種類の魔王は健在みたい。だからこそ古城スタンプラリーを作って各古城を巡ってもらい、冒険者にスキルとレベルを上げてもらって、最終的にはドラゴンの古城へ行って、ドラゴン族をやっつけてもらいたかったらしいわ。

 でも、そんなのは最高レベルの冒険者じゃなきゃ無理だし、わざわざレベルアップしてまで、ルーカンド王国のためにそこまでやる人なんていないって」




「「・・・・・」」




 二人は暫く沈黙した後で、こう呟いた。




「「図々しい国ね(だな)・・・」」




 


 そして、冒険者パスポートを手に入れた三日後、アリアンは新しい友人となった冒険者仲間達と共に町を出て行った。絶対に無茶はしない。阿呆らしいスタンプラリーの制覇なんかは絶対に目指さないと、親友達と約束して。


 

読んで下さってありがとうございます!

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