2 冒険者認定試験を受けるぞ!
冒険者ギルドに登録する為には冒険者認定試験に合格する必要があった。そしてその試験は三ヶ月に一回、年に四回受験の機会がある。運良く学園の卒業式の翌日が試験日だった。
アリアンは親友二人の応援を受けて、意気揚々と町外れにある冒険者ギルドへ向かった。そして冒険者登録する為の試験を五日間かけて受けた。
一日目はペーパーテスト。
冒険者は世界中をどこでも自由に旅が出来る特権を持つ。だからこそ、各国の一般的な法律や常識を持っていなければ、その国に暮す人々に迷惑をかけてしまう。
故に、まずこの一般常識の試験にパスしないと実技試験に挑めない。冒険者は脳筋ではなれないのだ。
そしてこの試験に一度合格しておけば、たとえ実技試験に落ちたとしても、次からはこの一般常識試験は受けなくても済む。
アリアンは元々体を鍛える事だけではなく、知識欲旺盛で読書や勉強が好きだった。幼い頃から家庭教師について学んでいたし、八歳の頃には冒険者になろうと決めていたので、ずっとそれに向かって準備をしてきた。そのおかげでペーパーテストは楽勝だった。
全て丸のついた解答用紙を返却される時、驚いた顔をした試験官から一次試験合格と告げられた。どうやら全問正解者はこの会場初の快挙だったらしい。
二日目は基礎体力テスト。
瞬発力や、機敏さ、身のこなしなどをチェックするためにスタートダッシュをさせられた後、五十メートル走、百メートル走、千メートル走のスピードを計った。
次にかなり形状の違う木や岩を三タイプずつ登り、それに成功した者だけが近くの岩山での絶壁登りに挑戦させられた。
そして最後に近くの湖での遠泳と急流な川での川渡り。
多くの受験者が脱落していく中で、アリアンはどうにか全てをこなしてなんとか合格出来た。基礎体力テストは魔力を使うのが厳禁だったので、魔力を得意とする者達には不利だったかも知れない。魔力試験が先だったら、魔力量があまり多くない自分は即アウトだったかも、とアリアンは思った。
三日目は体術のトーナメント対戦。
対戦はくじ引きで決められる。アリアンの初戦相手はまるで巨人を思わせる程大きな男だった。アリアンを見てラッキーという顔をしたその相手のすきをついて、彼女は一瞬のうちに彼を放り投げた。
それを見ていた他の対戦相手は、見かけで相手を判断するのを止め、全員真剣勝負で挑んだが、アリアンの前で敗れ去った。
四日目の午前中は剣術のトーナメント対戦。
アリアンは三回戦で、大剣使いの筋肉隆々の二十歳前後と見られる男に惜しくも負けた。そして試合終了後に、審判員の中年の品のある男性からこう声を掛けられた。
「残念だったね。今は無理でももう少し成長してもっと筋力が付いたら、長剣か大剣を変えた方がいいかもね」
親切に声をかけてもらい、アリアンは嬉しくなって笑みを浮かべ、頭を下げながらこう言った。
「ありがとうございます。出来ればそうしたいのですが、女の私ではもうこれ以上は成長しないと思いますので、自分の機敏さを活かす為には細剣のままでいこうと思います」
この言葉で審判員や他の受験者達は初めてアリアンが女性だと知った。
アリアンは受験する前に髪の毛をショートにカットしていたし、湖や川で泳いだ時も着衣水泳だった。冒険者は獲物に勝つか負けるかが最重要な事なので、男女の区別は必要ない。故にあえて性別チェックはないので、誰も気付かなかったのだ。
その場にいたほとんどの者達が、アリアンの言葉に瞠目して言葉を失った。
四日目の午後は異種武器による総当たり戦。
40X20メートル四方の囲いの会場で、各々好きな武器で戦う。武器の自己申請は不要だ。受験者の安全の為に、レベル十を超えている伝説の英雄クラスの元冒険者達が、受験者の全身に防御シールドを張ってくれているので、思い切り戦う事ができる。そして審判員によってその勝敗が決まる。
アリアンの最初の対戦相手はそれ程巨体ではなかったが、午前中に敗れた男に似た筋肉ムキムキで、大斧使いだった。相手はアリアンのすばしっこさは分かっているので、なるべく早く接近戦をしかけようと中央に向かって、彼なりに早足で歩を進めた。
アリアンは落ち着いてそれを見てから、自分の武器の入っている大きな鞄の中から小型の弓を取り出して、それを構え、矢を放った。そして、それだけで勝敗は決まった。
二人目は長剣使い。細身の長身で身軽そうだった。盾を持って素早く前進してきた。アリアンは長槍を持って相手に突進し、長槍を棒高跳びのポール代わりにして跳躍すると、高く舞い上がって相手を飛び越え、その背を足蹴りした。相手が前のめりに膝を付いたところに、彼女が長槍を向けたところで終了の笛が鳴らされた。
三人目は弓使い。岩山に身を隠しながら、次々と弓を放ってくる。アリアンは盾で身を隠しながらゆっくりと前進して、中央線より相手陣地に少し踏み入れた所で足を止め、三回程大きな深呼吸をして息を止めた。そしてパンツの後ろ側に差し込んでいた吹矢を右手で取り出して口にくわえた。
相手が放った矢を盾で防いだ瞬間、アリアンは左手で持っていた盾を離し、右手だけで握っていた吹矢の口元近くを握った。そして思い切り息を吐いた。そこで勝負はついた。
こんな感じでアリアンは相手によって武器を変えては次々と勝ち続けて、午後は全勝で終了した。
最終日の五日目の午前中は魔術戦。
アリアンは初戦で早々と敗れた。これは魔力がなければで数秒で決着がつく。アリアンのようにたとえ多少持っていたとしても、自分より少しでも強い者と当たれば、即負けである。
それでも、魔法使いには色々な属性があるので、違う属性の者達の戦いは白熱して中々勝負がつかずに白熱した。アリアンも夢中になってそれらの試合を観戦した。
最後に勝利したのは、レベル七クラスの『火の玉』を使った、アリアンの父親と同じような赤毛の細身で長身の男だった。
昼食後に試験結果が発表になった。実技試験の結果、新たな冒険者となったのは、受験者のうちの四分の一程だった。
合格者は一人一人名前を呼ばれて試験官から冒険者パスポートを渡された。アリアンは銀色に輝くパスポートを手渡された時こう言われた。
「アリアン=グリームニル、君が今回の試験のトップ合格者だよ。よって、最初からレベルが二になっている。これから頑張ってくれたまえ」
「ありがとうございます。一生懸命頑張ります」
アリアンは長年の夢へ、ようやく一歩踏み出したのだった。
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