1 冒険者になるぞ!
【ただ冒険者になりたかっただけなのに、何故王宮へ?〜スタンプラリーは命がけ〜】
の題名を変え、多少編集し直して再度投稿し直します。
最初に投稿して間が空き過ぎてしまったので。
今まで読んで下さった方は申し訳ないのですが、12章から読んで頂ければと思います。
初めての冒険者ものなので、細かい点は見逃して頂けると有り難いです。おおらかな気持ちで読んで頂けると助かります!
「いつか大きくなったら冒険者になって、一緒に魔物退治をしながら世界中を旅をしよう」
アリアンはかつて幼馴染みとそう約束した。彼は美しい銀髪にエメラルドの瞳をした、三歳年上の強くて優しくて天使様の様に奇麗な少年だった。
しかし、ルーカンド王国の宮廷騎士だった父親が突然解雇されて王都を離れる事になり、アリアンは幼馴染みのスクルドとは別れの挨拶も出来なかった。
父カラドックは今後絶対に城、いや王都には近づくなと娘に厳しく命じた。普段とても優しかったのに、その時の父は赤髪を逆立てて、まるで火の国の巨人スルトのように恐ろしい顔をしていた、とアリアンは記憶している。
カラドック=グリームニルは一人娘であるアリアンを連れて大河を小船で渡り、隣国フレイヤ王国へ向かった。そして昔馴染の伝手で商人ギルドの会長兼、ガンダルフ商会長の護衛の職を得た。
父は元々貴族らしくなく、庶民とも身分など関係なく普通に接するような人だったが、伯爵家の出でありながら、商人の護衛になるのはさぞかし辛かったに違いないと、アリアンは思った。
隠していても滲み出る品の良さで、母国で何か悪さをした貴族なんだろうと、カラドックは周りの人々から色々と噂をたてられた。そして娘のアリアンも苛めを受けた。
アリアンは亡くなった母親似で、赤毛の父とは異なり烏の濡れ羽色と呼ばれる艶のあるサラサラの黒髪に、雪のように白い肌をしたお人形のような、おとなしそうな少女だった。
そして鼻の頭の上に小さな黒い点々のような七つの黒子が散らばっていた。
しかし、彼女が虐められていたのは最初のうちだけで、近所の子供達はすぐにアリアンをからかうのをやめた。何故なら彼女にちょっかいを出しては、皆返り討ちにあったからだ。
アリアンはおとなしそうな見た目に反して強かった。彼女は僅かながら魔力を持っていたのだ。もっともそんな力や武器を使わなくても、素手で強かったのだが。しかも身のこなしが素早くて、非常に機敏だった。
その上彼女は明るくさっぱりしていて、虐められても、皮肉られても、いつもニコニコしていたので、その笑顔に周りの子供達の毒気もすっかり失せてしまったのだった。
アリアンは頭も良く、強く、優しい子だったので、次第にいつも子供達の中心にいるようになった。しかし彼女はリーダーというより、みんなの話を良く聞いて、意見をまとめるような、サブ的存在だった。
仲間内のリーダーは、アリアンの父を雇ってくれた大商人ガンダルフ商会の二男のロナンで、典型的なガキ大将だった。
元は親も手を焼く程の腕白者だったが、アリアンにあっという間に負けた後は、彼女には逆らわなくなった。身の程知ったおかげて危ない真似をしなくなった、とアリアンは彼の両親からとても感謝された。
隣国に来て三年ほど経った頃、アリアンは学園の昼休み時間に、ロナンにこう言われた。
「俺、卒業したら親父の手伝いをしながら商売を勉強しようと思うんだ。一人前になったら新しい店を任せてもいいって言われてる」
そう、三か月後にはアリアン達は皆十五歳でこの学園を卒業する。貴族の男子でもなければ進学はしない。
一般的には貴族や金持ちの女性は家庭で花嫁修業をしたり、お稽古事などに通い、庶民は普通に家の手伝いをするか外で働く。
「へえ、凄いね、ロナン。あなたなら旦那様や兄上様に負けない立派な商人になれるわよ!」
アリアンの言葉にロナンは喜んだ。彼女がお世辞やおべっかを言わない事を知っているからだ。彼女が褒めているという事は本当にそう思ってくれているという事なのだ。
ロナンは少し照れながら、こう言葉を続けた。
「でさ、アリアンも俺と一緒に店で働かないか? お前なら仕事にも慣れてて計算も得意だし、変な客も追っ払ってくれるし、助かるんだけど」
「私を用心棒にしたいの?」
アリアンは笑いながら隣に座っている親友のフノスを横目でチラッと見た。彼女はロナンの幼馴染みで、彼の事を好きな事にアリアンは気付いていた。
「店の手伝いが欲しいなら、私よりフノスの方が適任じゃないの? 人当たりがいいし、きれい好きだし、整理整頓得意だし。第一可愛らしくて愛想がいいから看板娘になれるわよ」
「えっ? いや、あの・・・」
ロナンは戸惑ったように言葉を濁した。彼は用心棒も看板娘もいらない。ただアリアンに将来のパートナーになって欲しかっただけなのだが。
「でも、アリアンは仕事はどうするの? あなたならどこでも雇って貰えそうだけど」
フノスはアリアンがやんわりとロナンの申し出を断ってくれて嬉しかったが、それでもやはり彼女の身を心配してそう尋ねた。
アリアンの父カラドックは一年ほど前に冒険者になると言い出して、突然ロナンの家の護衛を辞めて、旅に出てしまった。一人残されたアリアンはロナンの父の温情で、屋敷の使用人部屋に住まわせてもらって、食事も使用人と一緒に取らせてもらっている。
カラドックは元の主人に各国の情報と、獲得した珍しい獲物を優先的に渡す事を条件に、娘の保護を依頼したのである。
つまり、彼女がロナンの商売の手伝いをしないとなると、このまま世話になり続けるのは気まずいだろう。やっぱり、自分は親友の優しさに甘えてはいけないわ、こう思い巡らせてフノスが口を開きかけた時、アリアンが言った。
「二人とも心配してくれてありがとう。でもね、私、子供の頃からずっと叶えたい夢があるの。だから、それに挑戦しようと思っている」
「「夢?」」
「そう。私、小さな頃から冒険者になりたかったの。魔物や害獣や悪党をやっつけて、人の役に立つ冒険者に。そして世界を旅するのが夢なの。
ああ、誤解しないでね、父の傍にいたいからじゃないわ。父が何故急に冒険者になったのかはわからないけど、私の方がずっと昔から冒険者に憧れていたんだから」
アリアンは頬を紅潮させ、熱く夢を語った。
「どこかのパーティーに入るの?」
「いいえ。私、一緒に冒険者になって世界を守ろうと約束した幼馴染みがいるの。その人がいないパーティーに入るつもりはないわ」
「その幼馴染みとは連絡を取り合っているのか?」
今までロナンはそんな幼馴染みの話など聞いた事がなかったので、ショックを受けた。今まで自分が一番親しいと思っていたので。
「三年前に別れてから連絡なんかとってないわ。彼がどこに住んでいるかも知らなかったし。でも、冒険者になってると思うんだ。だって絶対になるってそう言ってたし。だから、冒険の旅をしてたらきっといつか会えると思うんだ」
今までアリアンの事を頭が良くてしっかり者だと思っていたロナンとフノスは、彼女のあまりの天然ぶりに呆気に取られた。
『こんな夢みがちな少女では商売は無理だ。やはりフノスの方が向いている』
そう思ったロナンだった。
読んで下さってありがとうございます!