ホ モ 狩 り 男 根 マ イ ス タ ー .mp09
最近暑くて日課の散歩が辛いけど初投稿です。
【無能とは時として如何なる悪よりも大罪である】
1994年12月 アメリカ合衆国 ミシガン州 デトロイト市 ブラックタスク本社 応接室
東京はブラックタスクの重度の監視により平穏を維持していたが、ユーゴスラビアの戦火は拡大する一方だった。
NATOは劣勢のボシュニャク政権派勢力を支援するために三度目の空爆を行い、
これにキレたセルビア人勢力は少数・軽武装で活動していた国際連合保護軍兵士を人質として拘束するという対抗手段に出る。
そもそもクロアチア人の独立は承認したくせにセルビア人の独立は認めないという、ダブルスタンダードの大統領と国務省の動きはクズ過ぎた。
これではセルビア人が武装蜂起するのも当然だろう。
これがホワイトハウスのウェストウィングを盛り場にした屑の外交手腕だと言わんばかりの惨状だ。
勿論クレイグはそれに対して強い怒りを覚えている。只でさえ民族問題で発火しやすいバルカン半島にダイナマイトを投げ込んだ事にである。
合衆国にとって何の利益にもなりえないにも関わらず無為に空爆を行い税金と死人を撒き散らしているからだ。
それは目の前の交渉相手に対して非常に強く表れていた。
「お前達は余りにも無能過ぎる、こんなところまで来る暇があるならば辞職する事をお勧めしよう」
国務省からやって来た欧州重視派閥の官僚に放った第一声がこれである。
これで交渉が決裂しても構わないという強い意志だ。面倒事は持ってくるな。
当然事務官達が怒気を帯びて立ち上がった。そのまま帰れと言わんばかりである。
しかし次官が一人怒りを抑えつつもゆっくりと語りだした。
「我々にとっても此処までの拡大は想定外です、それ以上の批判はやめてもらいたい」
「今回持って来た依頼は国際連合保護軍兵士の救出です。報酬は500万$、いかがですかな?」
クレイグは勿論そんなみみっちい金額で動くつもりはない。
そもそもブラックタスクは悪魔問題を筆頭にしたアメリカ国内問題を主軸としたPMCで、単にそれ故此処まで強くなっただけである。
国外問題、対人戦、アメリカの利益にならないと三重苦の仕事なら依頼額もそれ相応に跳ね上がる。普段のレートの10倍には。
「論外だ。ステイツにとって何の利益にもならないその仕事なら10倍を要求する」
「どうせ他の特殊部隊には全て実現できないと言われたのだろう。無理もない、それは当然だ」
「5000万$。それ以下を言うなら帰ってくれ」
硬い口調でクレイグが言い放った。
言われたように米軍の特殊部隊やイギリスのSASにも断られたのだろう。進退窮まった風な顔になっている。
沈黙が数分応接室に垂れ込めるが、遂に折れたのだろう。次官が頷いた。
「分かったその金額で頼む」
「交渉成立だな。リリアン君、書類を」
秘書が持って来た契約書類に双方がサインを行い契約が成立した。
これが万が一違えられた場合、連邦準備銀行に何者かが強盗に入り5000万$相当の金塊が強奪されるだろう。
自身の霊格を高めてレベルを上げた軍人達が適切な装備と魔法による支援を受けたならば大抵の事は上手くこなせる。
人質たちの救出は決定的になった。
◇
1995年 アメリカ合衆国ワシントンD.C.ペンシルベニア通り935番 ジョン・エドガー・フーヴァービルディング
FBIの本部では連続で起きる凶悪殺人事件を追っていた。
その事件の不思議な所は、犯人の目撃情報は有ってなおかつ容疑者が絞り込めているのにも関わらず、
犯行時刻では該当容疑者に必ず他の場所での目撃情報がある事だ。
まるで犯人が瓜二つの双子の様だが、容疑者に戸籍上も遺伝子上も双子などいない。
犯人はまるでドッペルゲンガーか何かの様に化けているとしか言い表せない不可思議な事件である。そしてそれは今も続いていた。
そんな中、連邦捜査局本部に黒塗りの高級車がやってきて、三人の男達が降りて来た。
彼らは受付を通し案内を受け、連続殺人事件の担当グループの所までやってくると、
そのスーツ寄りも軍服が似合う体格でなんとか通り抜け担当者との会談にまで持ち込む。
アポイントメントこそあったモノの、国家保安部からの来客にしては物々しい。
担当捜査官は疑念こそ抱いたが、正式な案件であったので捜査内容を開示し、現在までの情報をコピーして渡した。
相手のスーツの男達三人は感謝を述べて今までの捜査を讃えた。その上で握手を交わし帰っていく。
結局彼らがどこの何に属しているのか、それについては深く詮索できなかった。
表向きは国家保安部の外局の一つとなっていたが、真実は闇の中である。
◇
メリーランド州 ワシントンD.C近郊 夜
最近は連続殺人事件が起きておりこの辺りでも殺人が起きて、殆どの住民は夜は早めに寝るようになった。
しかしそれでも深夜に外出するものはいる者である。そんな深夜の住宅街に悲鳴が上がった。
すわまた殺人事件かと周囲の起きていた住民が911へと電話を掛ける。
そんな中、悲鳴を上げた女が走ってアパートメントの路地を必死に逃げ回っていた。
その恰好は原色が強調された下品な格好ではあるものの表情に張り付いた恐怖は本物である。
若い女を追っているのもまた若い女であり、しかしその手には何も握られておらず、手自体が細身の剣の様に変化していた。
どう見ても真っ当な人間ではない。そもそも人間であるのかさえ不明である。
路地を高速で駆けながら女を追いかける表情は全くの無表情であり筋肉の動きが止まっているようにしか見えない。
必死にバッグを揺らしながら逃げる女が次の角を曲がり消えた所で、追う女もまた駆けながら追髄すると、
銃弾の大きな発射音と共に半ば異形の女が吹き飛ばされ、角のトラッシュボックスへと叩き込まれた。
「元気に走り回ってるじゃないか糞悪魔。俺達も仲間に入れてくれよ」
曲がり角から歩み出てきたのはブラックタスクのオフィサー四人である。
連続殺人鬼の犯行をFBIの捜査資料と記録から次の犯行予測を立てて薄く広く展開していたのだ。
今回該当する悪魔は外道:シェイプシフター、レベルも戦闘力も低いながら、
偽装能力に長けている為通常のエネミーセンサーでは引っかからないのでこのような遠回しな捜査手順になっている。
ちなみに被害者の女は既に気絶させて転がしていた。
M870のコッキング音と共に艶消しされた装甲服の集団がシェイプシフターに襲い掛かる。
銃弾がダウンしている悪魔に降り注ぎ瞬く間にその存在を塵へと返した。
「此方イプシロン目標撃破、合流地点へと向かう」
『了解した。全ユニットに通達、作戦終了帰投せよ』
こうして今夜もまた悪魔事件の解決にブラックタスク社のスペシャルオフィサーは駆け回るのである。
被害者の女性も時期に来るであろう警察に保護されるはずだ。
この世に悪は尽きないが、決して人はそれに無抵抗などではない。