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配達依存症!運び屋と化した先輩!part.11

締め切りに間に合ったので初投稿です

【つかの間の一時とニューヨークの短い夜】


1993年 神奈川県 キャンプ座間 ブラックタスク社 支局応接室 


夕刻、そこにはOD色のタンクトップとズボン姿の男二人がソファ二つで対面しながら書類を確認している。

金髪の鋭い眼光をしている方がクレイグ、短く刈り込まれた頭部と厚い唇をしている方がドミニクだ。

二人は先日行った混沌勢過激派襲撃の最終報告書を読んでいる途中らしい。


「なぁクレイグ」


「どうした」


コーヒーを飲みながら書類に目を通していたドミニクが話を切り出した。


「今回全体の期間計画は事前説明だとそろそろ終わりだが、帰還はいつぐらいになりそうだ?

 中隊を動かしているから弾も飯も消費が激しい」


彼は今回の中隊長として日本に来ている。部下達のヘルスチェックの問題もあって長期の滞在には懸念があるようだ。

なにせ今回のキリスト教内部粛清は元々の依頼だったが、混沌勢襲撃は追加業務だ。あまり望ましくない。

物資には余裕を持たせて順次輸送しているが、あと一回大規模戦闘があれば弾薬類が払底しそうになっているのが現状だ。


「俺としても混沌勢襲撃はやりたくはなかったが必要だった。日本でのパワーバランスが崩れたまま帰るのも具合が悪い」


肘掛けに腕を乗せ脚を組むと、頭を傾けたクレイグは続きを話す。


「正直内部粛清で大幅にキリスト教が弱体化するとは思っていなかった。これは俺のミスだな」


「だから敵対勢力も適度に潰しておく必要があったと?面倒だなそりゃ」


ドミニクが茶菓子代わりのドーナツを頬張りながら書類を捲る。

そこには日本でのキリスト教騎士団達の粛清リストが大量に記載されていた。騎士団全体で言うと約半数にも上る。

武力担当の半分もシンパになっていた過激派の勢力の強さが伺えた。そしてそれらを一斉に粛清したブラックタスクの異常さも。


ヘンリット司教が到着するまで主導権を奪われていた穏健主流派の組織力の低さが伺える。

旗頭になる人望ある人物はいても、それを組織化して指導力を発揮する事が出来ていなかったのだろう。

今回の血の粛清はそんな彼らの怠慢が原因といっても当然だ。


「所でよ、うちの基本方針はステイツ中心になる予定だよな?元々そうだったしよ」


ドミニクが今回の遠征で、合衆国の外での積極活動が増えるのではないかと言う懸念を上げる。

あくまでも心情的には合衆国の為に戦うというのがオフィサー達のモチベーションに繋がっているからだ。


「そのつもりだ。国外に支局を置くことはあるだろうがな」


「それを聞いて安心したぜ。だったら今の内にとんかつを喰いだめて置かないとな!」


此方での食事で何やら気に入ったものがあったらしい。クレイグは肩を竦めてコーヒーを啜りながら書類確認に戻った。



1994年 アメリカ合衆国 ニューヨーク セント・パトリック大聖堂 深夜


夜のニューヨークには様々な後ろ暗い者たちが蔓延る。

単なる犯罪者から悪魔崇拝者、麻薬を取り扱う組織に"特殊な連中"枚挙にいとまがない。

今夜もそんな連中とブラックタスク社との間の抗争が始まろうとしていた。


大聖堂の中で、普段は仲の悪いプロテスタント・カトリックの神父とシスター達が会合している。


「冷戦終結からの霊的防御の緩みは顕著だ。もういがみ合う余裕すらお互いにない」


「然り、もはや我々だけでは連中の跳梁を止める事は出来なくなってきた」


議題の内容は裏社会におけるキリスト教の糾合と最近とみに跋扈している連中の対策の為だ。


「此処に至っては是非もありませぬ、この異常が収まるまではお互い協力しようではありませんか」


「それでは同盟関係の締結を此処に宣言いたします。つきましては、早速連中にぶつける戦力についてお話いたしましょう」


同盟が成った直後、プロテスタント側の司祭の一人が手を上げて発言の許可を求めた。


「ヘザー司祭、発言をどうぞ」


普通ならここから相手の戦力をより持ち出したいが為の議論が始まるところだが、彼が投げた言葉はその真逆だった。


「"やぶ蚊"共の拠点の一つに傭兵集団をぶつけております。それの結果次第ではありますが、彼らを積極採用してはいかがかと」


カトリック側の司祭がまさかとは思いながらも続きを促した。


「それで、その集団の名は?」


「"ブラックタスク"」


急速に勢力と戦力を拡大させつつある裏業界のヤベー奴らの名前がハッキリと語られる。



ニューヨーク マンハッタン島 ブラックタスク社第二中隊第一小隊


一般的な倉庫といった外装の建物内では血の饗宴が行われていた。

ビジネスマンの服装をした吸血鬼どもが豪華な内装が整えられた倉庫内で、血を捧げる眷属どもから嬌声と快楽の叫びと共に血を啜り貪っている。

倉庫自体が防音仕様となっている為、思う存分繋がり、絡み合い、そして血を啜れる一つの食卓になっていた。


そんな倉庫に近づく48人一個小隊の黒い影。

彼らは、外周を警備している眷属どもを音も無く暗殺し、するりするりと倉庫を包囲するように展開していく。

配置についたところで、彼らの内幾人かは利き腕の逆側に着いたデバイスを操作し、次々と仲魔を召喚し始める。

天使:パワー 妖精:ジャックランタン 鬼女:リャナンシーなど物理役・異能役・回復役に分かれているようだ。

未だ悪魔召喚プログラムは冗長性に富んでいるわけでは無く、扱うには適正と人格的な噛み合いが必要らしい。


『3カウントで突入する。3...2...1...GO!』


そうして準備を整えた小隊は小隊長の無線で突入タイミングを合わせ、扉、窓、天井から飛び込んで行った。


『全て殺せ!我々以外は生きて返すな!』


飛び込んだ先に見える味方以外の人影は全て射殺対象。

銃声が連続し重ねて聞こえ、更には天使の浄化魔法が飛び交い、妖精の炎が撒き散らされ、鬼女の吹雪が吸血鬼を襲う。

血の眷属どもが銃弾で殺され、仲魔達の魔法が吸血鬼に深刻な被害を与えていく。

これは戦いではない、只の屠殺である。

事前に相手の弱点を調べ、居場所を暴き、その心臓に白木の杭を突き立てる現代の吸血鬼狩りだ。

違いがあるとすれば、それは吸血鬼に抗う余地があるかどうかといった程度でしかない。


銃弾と魔法の雨に曝されて血塗れ・灰塗れになり倒れた吸血鬼達。その初めは整っていたであろう服装も全てズタボロであり、汚れ切っている。

そんな瀕死の彼らの最後の視界に与えられたのは真っ黒な装甲服の軍靴だった。


『状況終了。所定の合流地点まで急いで移動するぞ』


完全に死ぬことで灰へと変わっていく吸血鬼の死骸を見もせずに小隊長は全体へと命令を出す。

ニューヨーク市内で派手に銃撃戦を行ったのだ。警察が大慌てですっ飛んでくる事だろう。

教会側が手回しする事で事後処理はすんなりと"ギャング同士の抗争"にすり替えられる手筈だ。

ブラックタスク社第21小隊のオフィサー達は素早く夜の街へと消えていく。

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