アバランチ部・追想の裏ワザ.chap13-1
二日間隔失敗したので初投稿です
【混迷の始まりと一つの終わり】
1993年 東京都 プロテスタント派教会 朝
その個室は作業用デスクとデスクトップ型PC以外目立つ物が特においていない部屋だ。
しかし、人は一個分隊12人と1人が待機している。
彼らは全身艶消しされた真っ黒な装甲服に身を包み、全員が銃器で武装していた。ブラックタスク社のオフィサーのようだ。
その内一人がPCを操作してなにやらプログラムを立ち上げようとしている。
「よし・・・準備完了です。いつでも行けますよ」
操作していたオフィサーが完了を告げると、傍で監視していたクレイグがGoサインを出す。
「わかった、起動しろ」
命令を受けたオフィサーが素早く実行コードを入力すると、画面上で召喚陣が出力され周囲のエネルギーに高まりが生じた。
同時に二人はその場から飛び退くと、PCの前で何かが小さいヒトガタを模して現れる。
《呼ばれて参上!ピクシーさんだよ!》
それは小さい女性の人型に幻想的な羽が生えた姿をしていた。服装こそ古めかしいが、明らかに人間ではない。
妖精種のピクシーに該当する悪魔が召喚された事にオフィサー達が一斉に銃口を向ける。悪魔は例えどんなにひ弱に見えても人間を簡単に殺せる力を持っているのだ。
《えぇ・・・、ちょっと物々しくない?女の子一人にさぁ~》
警戒の色が濃いオフィサー達の反応は当然だ。それまでの実験で幾度も召喚された悪魔達と激しい戦闘に至っていたからだろう。
その度にプログラムに修正を入れてなんとか悪魔召喚を制御下に収められないかテストを繰り返していたのだ。
そして今、ようやく会話が成立出来るまでに実験と研究の成果が出ている。
遠巻きに囲まれるピクシーに対してクレイグが、硬質な足音を響かせながら近づいて目線を合わせる為に屈んだ。
「失礼を詫びよう、ピクシー。そして頼みがある」
《な、なによ・・・言っとくけど、私はあんまり安い女じゃないんだからね!》
クレイグが視線を合わせつつ続きを話す。
「俺に力を貸してほしい。対価としてミルクとチーズ、それにケーキも付けよう」
《いいわ、あんた中々分かってるじゃない!力になってあげる!私は妖精ピクシーよろしくね!》
悪魔召喚プログラム、古い召喚儀式と今までの業界常識を一掃出来るほどに電子化された悪魔召喚の手順の簡便化の始まりだ。
◇
1993年 東京都 都内某所 深夜
反キリスト教連合の拠点ビル近く、街灯以外の灯りが消えたオフィスビル街にて、ブラックタスクの三個小隊が集まってビルへの侵入を行おうとしている。
裏口から侵入した彼らは一糸乱れぬ統制でビル内へと踏み込み消えていく。
侵入したビル内部は異界という通常次元とは異なる位相としてズレており、内部でどれだけ破壊活動を行おうとも外部に音や光が漏れる事は無い。
そして異界内部では警備として詰めていた業界人の警備兵が早速ブラックタスクのオフィサーと銃撃戦を開始している。
激しい銃声と爆音、怒声と悲鳴。それらが入り混じりビル内は戦場と化していた。
「階段を昇れ!周囲の安全を確保!」
「連中を行かせるな!混沌の意地を見せろ!」
もっとも、被弾して悲鳴と嗚咽を撒き散らすのはカオスの手勢であり、ブラックタスクは市街戦の訓練を十全に受けているので被弾は少なく、
また被弾したとしても装甲服に殆ど弾かれているので傷を負う事も稀だ。
戦況は完全にブラックタスク優勢であり、階段の確保がなされ上層階で会合していたカオスの過激派上層部へと迫っている。
「リロードする!」
「任せろ!」
M16A3の弾倉交換を行うオフィサーのカバーに援護兵がM60E3を代わりに突き出し制圧射撃を開始。
瞬く間に弾幕によって相手が障害物に身体を引っ込めることになる
「フラグアウト!」
頭が出せなくなったカオスの手勢に対してM67手榴弾が投げ込まれ炸裂、破片手榴弾の威力が遺憾なく発揮され障害物に隠れていた混沌勢は殺傷された。
ビル内部の半数の区画は既に制圧され、カオス上層部は逃げる場所を失っている。
退路を確保しようとした手勢たちも全て殺され死体となってビル内部に野晒しとなっており、彼らの行く末は暗い。
遂にはビル上層までブラックタスクの兵士たちが突入して来た。
会合に使われている会議室のすぐそこにまで銃声と悲鳴が聞こえてくる。
そして遂には会議室の扉が蹴り開けられた。それと同時に銃口が向けられ無作為に発砲される。
「サイコシールド!」
しかしそれらの銃弾はOL風の女性が両手を突き出して言葉と共に力を籠めると一斉に反射された。
弾丸の内幾らかはオフィサー達の装甲服へと突き刺さり彼らをたじろがせる。
「ふぉっふぉ、ワシも続くぞ。強炎熱波!」
それに続いて和服を着た老人が片手を振るうと、何もない中空に突如として高熱の火炎熱波が発生しオフィサー達の装甲を炙った。
これにはたまらずオフィサー達も壁を背に一旦退避する。
「糞ッ!情報通り異能者だ!プランBに切り替えろ!」
「させぬ!」
オフィサー達が銃弾と武装を切り替えて再度突入しようとした瞬間。
彼らが背にしていた壁の一部が砕け散りそこから人が飛び出して来た。
如何にも無頼漢といった風体の大男が小隊指揮官に対して組みつき、階段まで投げ飛ばした。
「ゴハァッ!」
「小隊長!」
受け身も取れずに投げ飛ばされた小隊長はそのまま気絶し、次席指揮官が指揮を引き継ぎながら大男と交戦を開始する。
しかし大男は銃弾を受けても大きな痛痒には至っていないようで、次々と拳と脚撃でオフィサー達を弾き飛ばしていく。
「そこまでだ」
部隊が半壊しかけていた所に階段を昇って来たクレイグが到着し、腰に下げていた大した装飾の無い剣を抜いた。
抜き放たれた剣は灼熱を思わせる程黄金色に輝き、真横に振るわれた一閃は大男の両腕を両断、ついで高速の逆袈裟切りで胴体を切断、
更には唐竹割りで縦にも切り裂かれ6つに分割される。
「踏み込むぞ」
僅かな間で巨漢がブロック肉に変換されると、クレイグを先頭にオフィサー達が再度会議室へと踏み込んだ。
「来させるものですか!」
「ほれ、いくぞぉ!」
混沌の幹部達も力を奉じる者らしく、自らの異能を振りかざしてクレイグを排除しようとする。
炎を、吹雪を、疾風を、雷撃を、様々な力でもって彼らに死を与えようとするが、その全てがオフィサー達の攻撃によって相殺され、クレイグという死を到達させるために舗装された。
剛剣が一閃され、OL風の幹部の首が飛ぶ。
致命傷故切断面からは大量の出血が飛び散り死体は崩れ落ちる。
「ひ、ひぃ!」
一撃で同胞が死亡したのを見て老人が顔に死相を浮かべながら必死に決死の異能を放つ。
至近距離故にそのまま直撃した巨大火球だったが、再度の一閃を受けると火球が縦に両断された。
「なぜだ!確かに直撃した筈じゃ!」
炎を両断したクレイグはそのまま再加速を行い老人の首を一閃。そのまま肉体も切り刻みバラバラにした。
戦闘が終わり剣を血払いすると飾り気のない鞘に納め独り言を呟く。
「当たり前だ。強力な悪魔の一撃に比べれば軽いからに決まっている」
単純な実力不足だと老人の最後の言葉を否定した。
「建物内部を掃討するぞ、分隊単位で行動しろ。情報と金目の物は全て回収だ」
「「「了解!」」」
混沌勢過激派の勢力は今夜一度壊滅する事になった。