タイのハム太郎ガチ勢、反政府デモを起こす
二日間隔が守れないので初投稿です
【平和の為の犠牲がどこまでも積み上がっていく】
それからクレイグ・アイアンズ少佐は陸軍を退役した。
第一機甲師団の参謀長と面会し、神父からの手紙を渡したら話はスムーズに進んだ。
俗な話だが、冷戦も終わり湾岸戦争も終了した現在、大量の将校に士官兵士が余っているのが現状、民間に場を移す人間がいるならそれは軍にとっても有難いことになる。
それと同時にドミニク・サンソン大尉とカーク・マイルディ大尉も退役になった。
これは仲間であるクレイグについていくという事だろう。
三人は陸軍基地を去る時も仲間に惜しまれながら新たな旅路に乗り出した。
早速退役軍人となった三人だが、職の宛はあった。
アメリカのキリスト教ネットワークに挙げられた悪魔討伐である。
教会側も私兵だけではとてもではないが対処しきれない量の悪魔事件の数に猫の手も借りたい状況であり、
慣れない外部委託ではあったが、それでもシステム構築に躍起になった。
洗礼を受けた銃弾や刀剣に浄化用のキャンドルやコインといった小物に至るまでを有償で提供し、依頼として悪魔事件の対処を金で願う。
今までは洗礼詠唱や刀剣限定だった聖別を現代兵器にまで広げる試みは教会内部でも意見が分かれたが、目の前の異常活性への対処が優先された。
クレイグと仲間は全身を霊的に防護された現代装備で固め、時に悪魔召喚儀式を潰しに徹底的な攻撃を加え。
または生まれたエイズ・メアリーを銃弾で殺し、消えるヒッチハイカーをホーリーキャンドルと詠唱で浄化し、
悪魔が生み出した人を喰らうキメラ・ハウスを爆薬で爆破解体し、昔ながらのブラッディ・マリーを鏡を叩き割って黙らせ、
ベッド下の男やルームメイトの死と言った直接的な殺人系悪魔を顔面に聖なる手榴弾を叩き込んでぶっ殺し続けた。
それらを半年以上続けたところで会社を立ち上げるだけの資金が十分に揃う。
創業の拠点となるのはミシガン州デトロイド市、ちょうど日本車の大攻勢にあって自動車産業が美しく死んでしまった街である。
ここは人口密集地でありながら失業率・貧困率共に酷い有様で、ビルの入居率が10%台と最悪。
そのせいで都市中央部が一部スラム化しており治安も悪く、子供の教育率にも悪影響が出ていた。
人間の負の感情が渦巻いており、それは同時に負のエネルギーの高まりで悪魔が湧く異界が発生しやすい条件でもある。
幾らでも湧く多数の異界を長期間マラソンして強制レベリングを行うには最適とも言えた。
次に装備。
これは冷戦の終結により軍の縮小を受けて小火器から重火器、はては一部装甲車まで低価格で譲ってもらえた。
PMCとして登録を行えば譲ってもらえ、あとは教会上層部との伝手のおかげでもある。
次に人員。
此方は兵士相手に人殺しを精神的に拒絶してしまった人物や前線病を患った退役軍人等を積極的に国防総省から譲ってもらった。
国家総力戦の時代が終わり、次の時代へシフトする中適応できない人物というのはどうしても出てしまうものである。
国防総省への貸しにもなる彼らを譲り受け、デトロイト市内で悪魔が自然発生する異界にて戦闘訓練を積ませた。
こうする事で一流の業界人レベルの力量と軍事訓練を長期間受けた本物の兵士が手に入る。
1992年初頭、三人と仲間たちはデトロイト市のビルを丸々一つ買い取り、対悪魔を想定したPMC”ブラックタスク社”を設立した。
しばらくはアメリカ国内で活動していたが、冷戦崩壊による政変が原因の危機はアジアでも起ころうとしていた。
◇
アメリカでの民主党政権の樹立、親中反日派閥の国務省の人事異動、さらには当の日本で55年体制の崩壊が起き、世界の政治情勢が激変した。
1993年、宮澤内閣が倒れ、日本新党・日本社会党・新生党・公明党・民社党・新党さきがけ・社会民主連合・民主改革連合連立とかいう、
それまでになんの政治的外交的経験値も積んでいない素人の寄せ集め内閣が誕生した。
当然それまで日本での護国の為に活動していたオカルト組織は予算を停止させられ活動が極度に低下、裏社会における治安が一気に悪化し始める。
治安の急速な悪化は裏社会での秩序を崩壊寸前まで持っていき、キリスト教系、非キリスト教系、地元オカルト組織の三竦みが機能しなくなった。
お互いを打倒すれば一国における覇権が確定するとなれば、上層部が落ち着いていても下部組織は色めき立つ。
実際に日本支部のキリスト教組織と非キリスト教組織は抗争を激化させつつあった。
そこで対立の激化を抑えるべく合衆国から穏健派の重鎮を重しとして異動させる事となる。
ブラックタスク社としてここまでは何の関係も無い話だったが、これ以降はガッツリ関係してくる内容になった。
穏健派のヘンリット司教を送るまでは良いのだが、それに付随して送るべき騎士団を調達出来なかったのだ。
合衆国内部でも冷戦終結からの悪魔事件の増大に手一杯どころか手に負えていない現状、強力な手駒が捻出できないのである。
これに対して教会上層部はブラックタスク社に長期契約を持ちかけた。
日本支部へ赴任するヘンリット司教の護衛兼過激派の粛清代行だ。
同じ教会内部で粛清部門があるとはいえ極東くんだりまで長期間兵力を拘束される事を嫌ったためである。
今や世界中で悪魔事件は多発しており、どこの部署も忙しい。教会の外部委託を推し進めると言う方針がより明確になった。
◇
1993年 東京 大田区 プロテスタント派教会 朝
教会に赴任したヘンリット司教とクレイグは教会内の一室で情報交換を行っている。
司教はカソック姿で、クレイグはスーツ姿でテーブルに席をつけて紅茶を助祭から受け取った。
「それで、早まった彼らの説得は順調に進んでいるのか聞いてもよろしいかな?」
50代程の茶色の短髪に眼鏡をしたヘンリット司教は疲れた表情で紅茶を啜り、進捗について尋ねる。
それに対してクレイグは努めて無表情に言葉を返した。
「既に過激派のリーダー達は処理を終えている。後は残党を根こそぎ刈り取る段階だ」
クレイグ率いる約200名一個中隊のオフィサー達は日本に到着して一か月以内に標的全ての抹殺に飛び出し、その全てを終えていた。
何処までも苛烈に、執拗に、徹底的に標的を追い詰めて殺害している。
最初は過激派がヘンリット司教の暗殺を目論んでいたが、そんな事はさせる筈がない。返り討ちの後逆に襲撃を掛けて皆殺しにした。
元々教会内部の情報網で個人情報が筒抜けなのだから仕留め損なう方が難しい、出来て当然という感じである。
「実に結構な事です。現世秩序の崩壊を招きかねない彼らは大人しくなってもらわなければ」
「屑には相応しい結末を与えるべきだ。その点、我々の意見は一致している」
過激派というのはこの場合簡単にいうならば福本モブのような多数と野心塗れの少数、巻き込まれた極小といった分類だ。
勿論二人共巻き込まれた極少数には非常に哀しみを覚えているし、あってはならない犠牲だとも感じているが、それを飲み込んで生きている。
犠牲が重いからこそ涙を明日の希望へと変えるのだ。
「所で話は変わりますが、最近になってパソコン通信で奇妙なプログラムが流れてきているようです」
「なんだそれは、報告には上がっていないが・・・」
ヘンリット司教が懐から一枚のフロッピーディスクを取り出してテーブルに置いた。
「名前を"悪魔召喚プログラム"と呼ぶそうです。まだ検証も行っていないので、是非ともこれの確認と研究をお願いします」
クレイグはそれを持ち上げると、胡散臭そうな表情でスーツケースに収める。
「オフラインで起動して確認しておこう、中身が只の悪戯であればいいが。万一の場合もある」
「よろしくお願いしますね。来月には敵対組織の過激派を説得しに行ってもらう予定ですし」
「それは構わんが、穏健派の懐柔は出来るのだろうな」
クレイグが紅茶を飲み干すと椅子から立ち上がり疑問を呈した。
「この一月繋ぎを作るのに奔走しましたので何とかします」
「ならば此方から言う事は何もない。お互い努力するとしよう」
会合は終わり、教会には一個小隊が常駐するなかクレイグはキャンプ座間へと帰っていった。
流石に教会側で200人もの居住地と訓練施設を用意するのは無理があったので在日米軍の基地の一角を貸してもらっている。
今日もまた平穏の為に死が撒き散らされる。