迫真キノコ部・エリンギ栽培の裏技 前編
難産なので初投稿です
【信仰は自己救済の為の手段である。良かれ悪かれ】
1991年 アメリカ合衆国 テキサス州 フォートブリス基地近郊 プロテスタント教会 夜
道中特に会話もせず淡々と移動し、教会内の誰もいないホールで事情を聞くことになった。
そこでソフィーは自分で語るより責任者がいるからそちらが話した方が分かり易いと降参し、責任者の元へと向かう。
「おや、シスターソフィー。それにアイアンズ少佐ではありませんか、・・・・・・もしかしてやらかしましたね?」
案の定責任者とはこの教会の神父ダニエル・ガスコインだった。
清潔感のあるキャソックに身を包み、男性にしては少し長めのウェーブが掛かった灰色の髪の毛の老年の神父である。
安息日の礼拝では落ち着いた口調の説法で人気の人だ。
「軍人三人と無害なゴースト系悪魔が一体ですか。ソフィー、被害が拡大する前に除霊するのが貴方の役目ですよ」
悪魔という気になるフレーズに怪訝な表情を浮かべた三人だったが、まずは二人の会話を優先させることにした。
まだ若いシスターが赤毛を揺らしながら素直に謝罪をし始める。
「ごめんなさい、私が至らないばっかりに・・・」
「仕方ありません、今年になってから案件が急増しているので追いつかないのも道理です」
短く二人がやり取りをして確認を終わらせたようで、ダニエル神父が少佐たちの方へと向き直った。
「どうぞ中へ、貴方達が遭遇した事象についてお話ししましょう」
質素な部屋へと三人と少年一人が入っていく。
一先ず壁に体重を預けたり適当な椅子に座るなどして話を聞く体制へと移る。神父はそれを確認してから語りだした。
「まずこの世の中には一般的な通称以外として"悪魔"と呼ばれる存在達が居ます」
「彼らは本来別の世界に本体を持ち、此方側には通常やってくることは出来ません。しかし何事にも例外は付き物」
「本体の情報を一部写した分霊と呼ばれる存在を此方に送ったり、此方側で新しい存在が発生してしまう場合があります」
「これが存在を維持する為に人間の持つエネルギーを喰らおうと人を襲ったりします」
「存在の維持に必要なエネルギーを完全自給できない悪魔は、様々な方法で不足分を補います。恐怖・伝承・信仰・人との交わり等です」
「貴方達を襲った悪魔は自然発生した悪魔が恐怖と殺戮でエネルギーを補充しようとしたのでしょう」
「恐らくは、そちらの少年の悪魔を疑似餌にして人々をおびき寄せて」
一通り語った神父は安楽椅子に腰かけると、少佐たちの質問に答えられるよう腕を組んだ。
まずは壁にもたれているドミニクが最初に口を開いた。
「それで、あんた達はその悪魔を狩る悪魔祓いってところか?」
「その通りです。私は一線を退いて連絡役や手続き等を担当していますが、シスターソフィーが主にこの街を管理しています」
満足する回答が得られたのかドミニクはそれで頷き、黙った。
続いて口を開いたのはカークだ、彼も聞きたいことがあるのだろう。
「あくまで興味本位なんだが、その仕事は儲かるのか?」
「悪魔がらみの最近仕事はかなり増えていまして、仕事の単価は安くても数千ドル、高くなれば十万ドルは軽く超えます。道具類や装備はそれに見合ってそこそこしますね」
興味深そうに話を聞いたカークは金勘定を始めた様だ。
30代で大尉とドミニクと同じ真っ当な昇進をしているが、色々と金が入用なのだろう。転職を考えているらしい。
最後にクレイグが質問を投げかけた。鉄の様に硬質な言葉でだ。
「一体どれほどの国民に被害が出ている。分かる範囲でいい教えてくれ」
「テキサス州だけでも今年で1000件を超えている・・・例年より桁1つ超える異常な数字だ。全米では5万件を超えるかもしれない」
「お前達だけでは対処出来ないのだな」
ダニエル神父が目を伏せるように頷いた。今年以前までは何とかなっていたのだろう。
しかし事件数が10倍に増えてしまってはとてもではないが手が回らないのは明白だ。
より声色が硬質になっていくクレイグは続けて質問をする。
「何とかしたい。軍の高官に関係者はいるか?いるなら紹介して欲しい、頼む」
「上層部なら国防総省に伝手はあるでしょうが、私個人ならフォートブリスの第一機甲師団幕僚に知己がいる程度です」
「それで構わない、見過ごせないのだ。そのような不条理を」
強い意志をクレイグから感じたのか、ダニエル神父は手紙を手早くしたためて渡した。
「それを参謀長に渡すといい、手を貸してくれるだろう」
「助かる。この礼は必ず」
手紙を懐に収めたクレイグは礼を言って立ち去ろうとする。
その前に人形を持った少年がクレイグを呼び止めた。
「待っておじさん!」
「これあげる、大事にしてね!」
少年から手渡されたのは古びたコインだ、天使の像が彫り込まれている。魔除けか何かの縁起物だろう。
もう夜も遅くなる頃だ。基地へと戻らないといけない。
「ありがとう。大事にさせてもらう」
少年の頭を軽く撫でてから三人は教会を後にした。
帰りの道中で会話を交わす。
「随分熱心に聞いていたじゃないかクレイグ。お前も転職するか?」
カークが冗談交じりに話を持ち掛けた。
自身は金の為に鞍替えするのも悪くは無いと考えているらしい。別段他人に迷惑をかける仕事でもないのだからだろう。
「あぁ、しかしその為には準備が必要だ」
その返答に驚いたのはドミニクだ。
彼は今の環境に満足しているし、誇りも持っている。確かに悪魔の脅威はあるが、対抗する組織があるなら彼らの仕事だと割り切っていた。
「正気か?同期での出世頭が退役なんて今までのお前らしくも無いぞ」
ドミニクの制止の言葉が真っ当な在り方だが、どうやらクレイグはそれでは満足できないらしい。
「そうだ、虚飾なしに語ると悪魔による理不尽が許せない。それに尽きる」
「だから参謀長への手紙なんか預かったわけか、恐らくだが道は険しいぞ」
「分かっているとも、今まで築いてきたキャリアを捨てる事も、迷惑をかける事も。それでもなお許せんのだ」
呆れたようにドミニクが両手を上げた、降参といった感じだろう。
カークは別段気にしてはいないようだが、今の内に計画でも考えているようだ。
「好きにするといいさ、お前の人生だ。無理にどうこうは言わねーよ」
「俺は俺の目的でついていくから気にするな」
いつの時代も得難いものは理解ある友であるのだろう。