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迫真錬金術部・国一番のアトリエを目指す先輩達 Part29

旅行から帰って来たので初投稿です

【人に歴史あり】


1999年 日本 咲原市 市街地 フェイルノート社


国会と地方議会での根回しを終えたブラックタスク社は速やかに咲原市へと進発し、第二、第九中隊が到着、速やかに展開し攻勢に出た。

フェイルノート社はブラックタスクの移動が自分への攻撃だと想定し、速やかに私兵部隊を搔き集めて防衛陣を築こうとする。

彼らの予想は的中し、咲原市は戦禍にみまわれた。

フェイルノート本社は第九中隊が担当し、本命の研究施設のある郊外は第二中隊が担当となる。


本社ビルのある咲原市は朝の勤務時間帯頃、突如として平和な街にやってきたM113装甲兵員輸送車の群れがビルへとなだれ込む。

ガラスとコンクリートをブチ破り侵入口を確保したM113達は、ハッチを開くと中から黒塗りの装甲服を着用した集団が飛び出し、フェイルノート社の私兵達をM60やM16A3などで黙らせ始めた。

セキリティを示す青い制服に軍用アーマー一式+小銃と武装していた私兵達だが、練度と装備が違う。

悪魔召喚プログラムも利用して各自仲魔を携えながら次から次へと血祭りにあげていく。


突入して二分もしない内に正面ロビーを制圧する第九中隊とヘフナー。


『あっけなかったな。こんなものかよ』


自分達が作り上げた死体の数々を見ながらも警戒を怠らずにヘフナーが周囲を見渡す。

しかし、そんな事を言った瞬間に空間が"ズレ"る気配を感じ取った。


『お前達本番だ。ビルが異界になったぞ、悪魔が狩り放題だ!』


ヘフナーが感じ取ったように、フェイルノートは最終手段としての異界化に手を出した。これで万が一襲撃を乗り切ったとしても日常に戻るのは困難だろう。

MG3のマガジンを交換しながら舌なめずりするかのように宣言する。


『骨のあるやつがいるか楽しみになって来た』


レオナルド・ヘフナーは戦いを好んで生きている。戦場に憑りつかれていると言ってもいい。

だが規律を守る程度には理性があったから今の職に就いた。彼にとってはこの職場は天国だろう。


『第九中隊!気合を入れていけ!』


ロビー奥の通路からは悪魔の軍勢が押し寄せて来た。第九中隊は彼の抜剣した長剣が炎を帯びて薄暗く輝く様と共に進撃を開始した。


天使、妖鳥、妖魔、天女、妖精、魔獣、地霊、龍王、堕天使、妖鬼、鬼女、夜魔。

とにかく強ければよしと言わんばかりに無作為に呼び出された悪魔達は主にブラックタスクを狙って攻撃を仕掛けて来た。

逆に言うとそれ以外の方向性を与えられる余裕が無かったためにその襲撃は無軌道で散発的である。

リーダーとなる悪魔もいない為に軍勢としての力は無く、弱点を突き穴を穿てば容易く戦線は崩壊した。

成果は捕虜数十名と内部資料が一部。やはりここには研究に関するものは余り置いていないようだ。社長室に期待するしかないだろう。


『それなりだったが、雑魚ばかりではな』


レオナルドが長剣に着いた残滓を払って鞘に納めると、一言ぼそりと愚痴を言った。

異界としての事前準備も投資もされていない此処では、管理され強化され続けているブラックタスク本社管理異界と比べるとやはり見劣りするのは仕方がない。


『社長室前まで確保してあります中隊長』


『よくやった。突入するぞ、最後位楽しませてくれよ?』


扉を蹴り開けると、社長室の中には壮年の男が一人"神原拓海"がデスクの向こう側に座っているだけだった。


「とうとう来たなブラックタスクめ。おのれ・・・どこから情報が漏れた」


『教えてやるほど親切に見えるか?』


「そんな殊勝な連中なら此処まで押しかけたりせんよ」


他のオフィサーを片手で制しながらレオナルドが長剣を抜いた。その刀身からは暗い炎が立ち昇っている。

どうやら中隊長は最後にサシで殺し合いたいようだ。


神原もそれを察したのか、背後に飾ってある刀を持ちだして立ち上がると、重い木製のデスクを左へと蹴り飛ばし抜刀の構えを取った。


「狂犬が・・・。お前達如きにやられてたまるか!」


お互いが剣と刀の間合い少し外に陣取るとじりじりと接近しながら得物にエネルギーを集中させ始める。

初撃でほぼ決めるとの意志がどちらにも窺えた。


深く構えた抜刀寸前の態勢で神原が突っ込み、それに即座に反応したレオナルドが両手で長剣を握りしめ踏み込んだ。


「シィッ!」


瞬く間の速度で抜刀される刀、突進の速度も追加され内包するエネルギー量は斬鉄をも容易く行えるだろう。

その速さで走った剣閃は防御に差し込まれたレオナルドの長剣で防がれる。

抜けなかった手応えに素早く足捌きを変えて横に通り抜けようとする神原。

防御に回された長剣と足の踏ん張りでは追撃は困難。この判断は正しい筈だった。


『間抜けがぁ!』


しかしレオナルドの行った次の行動でそれは一瞬にして悪手に変わる。

彼は防御を行ったのちに左手を腰に回すとテーザーガンを取り出し神原に向かって発射したのだ。

発射された棘が僅かに足に食い込むとすぐさま高圧電流が流し込まれる。


「ガアァッ!」


体内を直接流れる強力な電撃により神原の身体が一切の動作を受け付けなくなり倒れ伏す。

倒れてもまだ麻痺を続ける体にどうしようもない状態の神原、そこにレオナルドの追撃が入った。


『大人しく寝てな!』


首筋に手刀が入れられて神原の意識が刈り取られ、電流の流入が終わった体の痙攣も止まる。


『まぁまぁ楽しめたぜ・・・。各隊情報捜索に掛かれ、お楽しみが終われば仕事の時間だ』


付き添いの小隊達が家探しの時間だとばかりにそこら中をひっかきまわし始めた。

神原の護送に一個分隊が割り当てられ、一足先に咲原市の拠点へと運ばれるだろう。


ブラックタスクの猟犬達が目当ての資料を嗅ぎ当てるのに大した時間は掛らなかった。

隠し棚の後ろに隠してあったスペースにノートパソコンが隠してあり、恐らくはそれにフェイルノート社の秘密が隠してあるだろう。


レオナルドはノートパソコンを起動しつつ、左腕に設置されている情報端末を操作して仲魔を召喚した。


【SUMON:オロバス】


空中に召喚陣が現れ魔貨と生体エネルギー消費。モザイクがその場に現れるとそこから形作られるように立派な栗毛のクォーターホースが現れた。


《サマナーよ、なんの要件だ》


その馬こそがソロモン七十二柱の一角序列55位オロバスだ。

勿論魔界に居るような本体ではなく、それと直接同期した分霊でもない。

この悪魔は二体の悪魔を素材とした"悪魔合体"によって作られた人工の悪魔なのだ。

ブラックタスク社の悪魔召喚プログラムは、既に悪魔の情報体であるという部分に目を付けそれを意図的に改変し情報量を増やすことで全く別の悪魔を生み出すことに成功しているのである。


『オロバス、この場の過去を順繰りに見て回り、このノートパソコンに打ち込まれたパスワードを教えてくれ』


人工的に生まれた悪魔であっても、悪魔である事には変わらず、情報生命体であり生き方が伝承通りに縛られている。

逆説的に言うと伝承にある能力や特徴もそのまま持っているのだ。

魔界に居る本体ではないのでそれらの権能にも限度があるが、この場においてはオロバスの過去、現在、未来を見通す力は有効である。


ノートパソコンが立ち上がりパスワード認証画面に移行した。


《今確認する。・・・最初のパスワードは"さくら05/22"ほう、娘の名前と誕生日らしい》


『在りがちな話だな、よし。次はメールボックスのロックだ』


メール機能が起動するとまたしても認証画面が出てきてレオナルドが能力行使を頼む。

オロバスがまた少し黙ると口を開いた。


《さくら9/19。今度は娘の命日だ》


『娘が死んで狂ったか、何処までもありがちな不幸だな。それで世界を滅ぼすような研究に身を委ねられてはたまらんよ』


軽快なタイピングによりメール機能の認証が完了し大量のメールがチェックリストに浮かんだ。

それらを流し読みしつつ重要そうなメールと添付された報告書を確認し始めた。


『なんともまぁ、救えんな』


レオナルドの呟きが浮かんでは消えた。

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